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疲労困憊の2人

「あ~あ、結局こうなったか。」


 リリーに頼まれて同行を了承した以上は可能な限り出しゃばらずにいようと考えていたクラウドであったが、遅々として進まない旅路に痺れが切れたのであった。



「クラウド殿、後少しで出発準備が終わりますので。」



 やって来たのはエリックである。戦闘が終わり現在は出発に向けて騎士団も魔術師団も隊列を組みなおす等の準備にかかっている。



「エリック様、クラウド殿。」



 声をかけてきたのは騎士団長のファンク。どうやら相談があるようだ。



「時間がかかり申し訳ない。それとクラウド殿、先程の戦闘について相談があるんだが・・・」



「うん?何だい?」



「分かっていると思うが拾い集めた魔石が膨大な数になっているんだ。出来れば一部を収集を手伝った者達への報酬に使わせてはもらえないだろうか?」



「・・・何?」



 戦闘における取得物には一定のルールがある。基本的な考えは『魔石や素材などのアイテムはその敵を倒した者に所有権がある』というのが大前提である。今までも魔術師団が倒したアンデッド達が落とした魔石は分かる範囲で倒した者が得ていたし、騎士団が倒したアンデッドから手に入った魔石は倒した騎士に所有権がある。最も、騎士団の場合討伐出来ていたのは浄化の力を付与したクラウドのおかげであるため、本来ならクラウドが主張すればある程度の数の魔石を手に入れることは十分可能であったはずである。


 しかし、クラウドから何の話しも出ないことで魔石は全て騎士達のものとなっていた。騎士達の中には貧しい家の者も多く戦場での余禄は非常にありがたいのであるが、そのために出番を取り合う事態になっていた事はエリックからしてみれば頭の痛い話しであっただろう。


 そして問題の今回の戦いであるが、あまりの数に乱戦も相まって戦闘中に魔石など拾う余裕があるはずも無く落ちている魔石が誰の物か分からなくなったのである。そのため全てを一旦エリックが集めて換金してから後日均等に分けようと決まったのであるが、そうなると全員に収入が入るのは良いことだが一人一人の金額は少なくなってしまう。

 騎士達の懐事情を良く知るファンクは今回クラウドの戦闘で彼が倒したアンデッドから得た魔石を僅かでも譲ってもらい少しでも騎士達の受取金額を上げようとしたのであった。


 自分の権利すら主張せず魔石は全て拾った騎士達に渡していたクラウドである。十分に協力してもらえると考えての彼の行動は余りにも的外れだった。その理由は・・・



「・・・もしかしてさっきから時間がかかっていたのって魔石を拾っていたせいか?あの数を?正気かい?」



「な、何?」



 クラウドには魔石など拾うつもりさえ無かった。


『自然発生した下級アンデッドの魔石』


 それはクラウドからしてみれば何の役にも立たないもの。拾うだけ無駄といえるものであった。なぜならば・・・




 そもそも魔石とは魔物の体内で生成されるものである。強力な魔物ほど大きな魔石を持つのだが、その理由は体内の強い魔力が結晶化するというもの。しかし個体差があるため全ての魔物が体内に魔石を持つ訳では無い。戦う魔物が魔石を持っているかどうかは倒した後でないと分からない、魔石とは貴重品なのだ。


 現代において魔導具のエネルギー供給の為に使われる魔石であるが、その入手は殆どが冒険者頼りとなっている。過去の遺跡から出土する魔導具を修理、販売する各国の魔導具職人ギルドにとって魔石の入手は最優先項目と言え、買い取りがストップすることも値崩れが起きることも無い。強力な魔力を秘めた魔石は何よりも高く売れるアイテムであった。




 が、しかし・・・



 クラウドからすれば魔物から入手した魔石を使うということは、料理に置き換えると入手した食材を調理もせずそのまま食べる事と同義。


 現代でも魔石は魔物の魔力が体内で結晶化したものと考えられているがそこから先の思考が無い。



 かつて古代の魔法使い達は入手した魔石をどうすればより効率良く使えるかの研究に励んだ結果、魔石の精製法を編み出した。それは精製前と後では使用可能な魔力量に4倍もの差が出る画期的なものだった。


 魔物の体内で結晶化する魔石には魔力ムラがあることを発見、魔石内を魔力がよりスムーズに流れるよう魔力濃度を均一にすることで余計な魔力を外へと分散させない手法だが、クラウドはその後の1000年の研究で古代の魔法使い達さえ届かなかった域にまで達している。


 彼は自分の魔力を結晶化することに成功したのだ。







 つまりクラウドは魔石を自分で作れるのである。




 それもより濃度が濃いものや薄いもの、自由自在であった。自分で最高の食材を生み出し極上の料理が作れる人間が、外に落ちているしなびた野菜をかじって飢えを凌ぐ必要は無い。


 ファンクの目論見はものの見事に失敗に終わった。むろん良い方向にであるが。



「魔石なんざ全部あげるよ。」



 金に執着がないクラウドにとって下級アンデッドの魔石、それは無用の長物。全て返品されそうになりファンクが焦りだす。



「い、いや、いくらなんでも全部くれとは言ってないぞ!?誤解があったなら悪かったけどっ・・・」



「そうか?じゃあついでに言っとくけど、もし俺に魔石を渡しても捨てて帰るから。」



「「・・・・」」





 その後出発した一行は魔石を馬車に詰めるだけ詰め込んだ結果、居場所が無くなった騎士達が何十人も馬車を降り歩いてついてきている。彼らは皆一様に笑顔であった。なんせ自分達が乗れなくなるほどの魔石が馬車に積み込まれているのだ。


 超がつく程の魔石が手に入り満面の笑顔を浮かべる騎士達と余禄がほとんど手に入らず仏頂面の魔術師達を率いながら、エリックとファンクの顔が晴れることは無い。



「・・・何度思えばいいんでしょうか。」


「・・・うむ、これでは本当に身がもたん・・・」



『身がもたないからクラウドの事で驚くのは辞めよう』



 そう話し合っていた2人であるが実践するのはなかなか難しいようだ。驚きすぎて疲労困憊の2人をよそに馬車は進んでいく。ドラン連邦国はもう目の前であった。





話しの設定考えるのが一番好きです(笑)

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