飽和した悪意
クラウド達が王都について3日目、今だに王城では会議が繰り返されていた。
王子及び王女の奪取、召喚された異世界人への対応、今後の動向を睨んだ交渉と課題は山積しているのだ。
クラウドとバダックは今王城の一室にいる。バダックは今回の件で莫大な褒賞を得ることになった。すでにその目録も受け取っているのだが、一連の当事者であり証言や調書の確認にと度々呼ばれる羽目になっており会議が終わるまでは王都に滞在するよう言われていた。
「全く、早く戻りたいものだ。」
「おっ、バダックさんもかい?」
「当然だ。こんな部屋でする事もなく座っているだけなど・・・」
「つまり早く帰ってエリスさんに甘えたい訳か。」
「な、何を言っておるのかっ、けけ、決して」
「はははっ、慌てなくても知ってるよ。エリスさんの体調が回復してきてからバダックさんも随分と明るくなった。仲が良いんだな。」
「・・・ふふ、そうだな。」
そう笑ったバダック。結婚してから僅か3年で寝たきり同然になったエリスとの時間は今のバダックにとっては非常に大事な時間になっている。
「子供は作らないのかい?」
「うん?いや、欲しいとは思うんだがな。エリスが自分の歳を気にしておってな。もう自分では難しいとな。」
「そんな事ないさ。」
そしてクラウドは妊娠の仕組みについて簡単に説明する。
「ほう、ならばさっきの方法で排卵日とやらの見当をつければ・・・?」
「ああ、エリスさんくらいならまだまだ産めるよ。俺が保証しよう。」
「クラウド殿の保証か!それは心強いな!」
それなら一層早く帰りたくなったと困った顔を見せるバダックを見てクラウドもまた笑うのであった。
なお、クラウドが残っている理由はナオキ達異世界人が暴れたら抑える者が必要と言われたからであるが、ついでにバダックと一緒に空を飛んで帰ろうと思っていたクラウドが彼に合わせているだけである。
「さてと、ちょっと外に出てくるよ。」
遂に飽きてしまったクラウドが王城を出て行くと言い出した。
「ん?王城を出て良いのかクラウド殿?」
「どうせあいつらは暴れやしないよ。それよりせっかくだから何か良い土産がないか見てくるよ。」
自分に興味の無いことには非常に非協力的なのは研究者の性であろうか。堂々と王城の中を歩きながら外へと出て行こうとしているとふいに後ろから声がかかった。
「クラウド殿、どこかへ行かれるのか?」
両手に資料を山程かかえたエリックである。
「ああ、街に行って皆への土産を見てくるよ。」
あっけらかんと伝える。エリックは苦笑いしながら「内緒にしておきますのでなるべく早くお帰りを。」と伝えるのであった。
街へと出たクラウドは雑貨屋などを巡ってルーク達への土産を物色している。途中で武具店を見つけたクラウドは店に入った。
探しているのはルークに合いそうな防具や武器である。最近ルークがクラウドの操る魔法に興味を持ってきていることに気づき近々一緒に森に入ろうかと考えていたのであった。
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クラウドがレインフォードを散策している頃、旧レムリア皇国ではある異変が起こっていた。
それはこの地を攻め取ったドラン連邦国が広大な領土を統治出来るだけの国家態勢を築けていなかったことが原因であった。もともと召喚された異世界人達によって蹂躙されたこの領土はそれ以降人の手による管理がなされていない。生き延びた村落や街の住人たちによって最低限の後始末は行われたが国中には戦渦の爪あとが刻まれている。
弔われること無く野晒しの骸は荒野に横たわり魔物達が食い荒らす。それが日常と化した頃、領内のいたる所にアンデッドが湧き始めたのである。更にはドラン連邦国の手により魔物さえ蔓延る場所となったのだが、その結果として現在この国は魔物とアンデッドが溢れかえる危険地域として変貌をとげている。
戦争において最も激戦区となった場所は国境近くの荒野である。国の領土を侵されたレムリア皇国が国の威信をかけ戦いを仕掛けたのであるが、周囲に人が住む村などが無かったことで人の手による弔いなど皆無であった。
今、そこでは数万を越える魔物が生まれている。骸骨となり人を襲うスケルトンや食屍鬼グール、元は騎馬であったものの成れの果てであるゾンビホースの群れ。魂魄が魔物に取り込まれたダークウィスプ等その種類は様々である。Dランクであるスケルトン、グール、ゾンビホースはともかくダークウィスプはCランクである。
現在確認されている魔物の中でランク分けされている魔物達。人間はその脅威から逃げるためその生息地から居を離した。人間がその活動領域を放棄してまで接触を避けたのは過去何度戦っても勝機さえ掴めなかったという事実のためであるが、その魔物の中には接触不可とされるランクが存在する。
機嫌をそこなえば国さえ滅びるとされ、過去においては数国であるが滅んだ実例もある。それが魔物の中でも別格とされる上位ランク「Sランク」と「Aランク」である。問題は今回レムリア皇国領内では発生したアンデッドの中にAランクのデミリッチが数体存在していたことであろう。
それはアンデッドの中でも強力な魔法を操るリッチの上位種。「人に出会えばその傍らに立ち死を告げる」と言われるアンデッド。その凶悪な力に引き付けられた結果、この地にはアンデッドが集まっている。更に、集まったアンデッドにより瘴気の濃度が増し次々にアンデッドが生まれるという悪循環となっている。
そして今、飽和状態の魔物の大群がついに周囲へと移動を開始することとなる。
国の存亡すら左右するほどの勢力が今、人の世界に流れ込み始める・・・




