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ジェフリーの安堵

 今リリー達一行は南部統括都市グラスフォードに向けて馬車を走らせている。勇者達を捕らえた後、目を覚ましたバダックから同行を頼まれたクラウドも一緒である。


 その馬車の中では


「今回は本当に助かった、クラウド殿。」



「いや、来るのが遅くて悪かったよ。」



「ふっふ、これでエリスに続いて私の命まで助けて貰った事になったな。」



 バダックは言わば叩き上げの騎士である。いくつもの戦場を経験した彼は自分の命を懸けて職務を全うする覚悟が出来ている。

 命を落としかけた彼がその直後にこれほど落ち着いて会話が出来るのはその為であろう。


 対する勇者達は捕まった後に目を覚まし「殺さないで欲しい」とクラウドへと申し出てきた。


 彼らは現在王都まで連行されている。助ける代償として、おそらくは王都が血眼になって集めているであろうドラン連邦国の情報を喋る為である。

 最もバダックとクラウドによって殆どの聞き取りは終えているが、王都でも直接話をさせた方が良いだろうと考えてのことであった。


 彼らがグラスフォードに着いた時、領主のジェフリーが飛び出してきた。王都から北部にて直属の騎士達と領地の巡行をしていたアンドリュー国王の長男と別の都市に滞在していた次女、東部では実母の実家に顔を出していた次男が何者かに攫われたとの報せが来ていたのだ。

 明らかに王族が狙われており、護衛に付いた王国のトップエリートとも言うべき騎士達が為すすべもなく倒されたと言う。


 あと王族の中で地方へ出ているのはリリーのみであり、大至急その所在を掴み安全を確保するよう王都から連絡が来たところだったらしい。



 ジェフリーの屋敷の応接室に通されたバダックとリリーがジェフリーから王都からきた連絡について話しを聞いていた。



「しかし良かった、リリー殿下が無事で。まだ南部までは誘拐犯の手は伸びてなかったか。」



 そう安堵するジェフリーにバダックは残念ながらと説明を始めた。


 襲って来たのはドラン連邦国で召喚された異世界人であったこと。


 レムリア皇国領を経由して多数の魔物をユーテリア王国に流し込み、その混乱に乗じて北部、東部、南部に同時に入り込んだこと。


 ドラン連邦国はレムリア皇国を打ち破りはしたものの、その統治までは人手と資金が足らなかったことで自国の準備が整うまでは人質として捕らえた貴族を使いドランからは人手を出さずに統治しようと考えていること。


 その際、レムリア皇国の戦力は瓦解したままであり他国に攻められればあっという間に領地を奪われると考えたドラン連邦国。そのため隣接するユーテリア王国、聖十字国からドラン連邦国が正式にその領土の所有者であることを外交交渉で認めさせようとしたこと。


 それに合わせて、交渉を有利に進めるために切り札として王族の身柄を攫ったこと。また、ドラン連邦国にはそれを可能とする力があると見せつける意味合いも有ったという話しであった。



「なんという事だ・・・。しかし、それでもリリー殿下は奴らの思い通りにならなかったという訳か。またもやお手柄であったなバダック!しかも今回の手柄は並大抵ではないぞ!リリー殿下を護るだけでは無く、相手を捕えるとはな!間違いなく王都から莫大な褒賞が出よう。」



 自身が統括する領地の貴族が敵の奸計を退けたとジェフリーは喜ぶ。しかし、



「ジェフリー様、リリー殿下をお守りしたのは私ではありません。私は奴らにより死ぬ寸前にまで追いやられました。奴らを捕らえ、私を助けてくれたのは私達の友人です。」



 リリーを見ながらそう話すバダック。リリーが頷き後を続ける。



「ん、クラウドが居なかったら私は攫われてた。」



 その後にバダックも助からなかったと続けるつもりであったが、リリーは当時のバダックの惨状を思い出し泣き出してしまった。



「そ、そうか。ならばその者にも礼を言わねばな。それにそれ程の実力者が仕官もせずに在野に埋もれているのは国の損失だ。直接会って話しをしよう。」



 泣き出したリリーに驚き急いで話しを変えたジェフリーであるが、リリーとバダックは声を揃えて言ったのであった。



「クラウドは仕官なんかしない。」

「彼は仕官など望みますまい。」



 2人の反応に興味を示し、やはり直接会うというジェフリー。呼びつけるのでは無く、自身が馬車を停めている庭先まで出向いた。


 そこでクラウドの実力を褒め称え自分に仕官して欲しいと申し出たのであるが、「申し訳ないが」と即答される。



「良ければ理由を聞いてもいいかい?」



「村を離れたくないだけですよ。自分が守りたい人達はそこに居ますから。」



 そしてジェフリーは知る。


 世の中には名誉や栄光、巨万の富すら掴む事ができるにも関わらず護るべき人の為ならそれら全てを捨てる事が出来る人間がいると。


 最後にと断ったジェフリーはクラウドに「貴族とは何か?」と聞く。その問いにクラウドは「人だよ、ただのね。」と答えたのであった。



 その後3人で応接室に戻って来たのであるが、その道すがらジェフリーはクラウドをこう評した。


「無欲故に貴族が最も扱いにくい人間」


 彼は彼の信念の下でしか動かない為に、大を生かす為に小を見捨てなければならない時でもクラウドの護るべき人が小の中にいれば、彼は簡単に命令違反をするだろうと。


 強力な力を持つ者は言わば切り札。


 その切り札が言う事を聞かないなどあってはいけないというのがジェフリーの考えであった。


 最もクラウドの仕官をすぐ諦めたのは、彼とはバダックが知己を得ていることでいざという時には助力も頼める可能性がある。わざわざ自分が嫌われてその可能性を下げる必要は無いという打算もあってのことであるが。


 何にせよ、クラウドが仕官しなかったことで今まで通りいつでも遊びに行けることに変わりがない事がリリーは嬉しかったようだ。

 バダックを除いた周囲はまだ気づいてないが、彼女の中には新たに1人ヒーローが生まれているようだ。



 その後、バダックが命を落とした騎士の家族への補償とリリー殿下の護衛の補強を申し出てジェフリーはこれを快諾。なおその際「彼がいるのに人手が要るのかい?」と聞いたジェフリーに対し「クラウド殿はあくまでもドランの勇者達の抑止力。それ以外の脅威からリリー殿下を護るのは我々騎士でなくてはいけない。」と騎士の意地を見せたのであった。


 その後、王都までの道中に数回魔物からの襲撃を受けたリリー達であるが、バダックの言葉通り全てが同行するバダックを筆頭に護衛を務める騎士たちにより撃退されることとなる。





 バダックが元気に活躍する姿を見てリリーは人知れず馬車の中で涙を流しているのであった。




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