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激動する世界情勢

 その日ユーテリア王国の王都レインフォードに夥しい数の知らせが届いていた。それらを送ってきたのは周辺諸国に潜ませている諜報員であった。

 初めのころの知らせは『レムリア王国が軍事行動を開始した。』というもの。以前より軍備を増強していたレムリア皇国が戦争を仕掛けてくる可能性が高いとユーテリア王国アンドリュー国王は既に警戒態勢を築いていた。


 しかし、戦争はするだけでも莫大な費用がかかる。もし戦争となれば資金をかき集めて自分の領土の兵士達をまとめ上げ参戦しなければならない。いつ始まるかも分からない戦争の為の準備であった為、国内の貴族達も国王の戦争準備の通達に対して本腰を入れていなかった。しばらく戦争を経験していない貴族達は初動の大切さを忘れており、相手の出方が分かってから準備を行うことで戦力の維持費を減らそうとしたのであった。



 結果から言えば、彼等貴族の考えは正解であった。レムリア皇国は軍備を整えはしたがユーテリア王国には進軍してこなかったのだ。諜報員がこぞって知らせてくる進軍先。それはレムリア皇国の西にあるユーテリア王国でも北の聖十字国でも無かった。それはレムリア皇国の東に位置する小国の一つ『ドラン連邦国』である。


 戦争は情報操作も重要な作戦となるため進軍先は伏せられていたのだが、まさか隣接する小国へ攻め入るとは思って無かったアンドリュー国王はレムリア皇国の意図が読めずに困っていた。



今現在、レインフォードの王城の一室で国王アンドリュー、宰相エリック・コーラル伯爵、軍務卿ガルド・ジルベスト伯爵が集まっている。



「我らが潜らせた諜報員によると今回のレムリア皇国の軍勢は総力に近いはずだ。そんな戦力で何故今まで従順だった小国の一つに攻め込まねばならん?」



 アンドリューが自らの側近である宰相のエリックに問う。



「今だ彼の国の真意は読めません。何よりも情報が少なすぎます。当面は情報収集でよろしいかと。」



 何せ攻め込まれなかったためにユーテリア王国には時間が出来たのだ。戦いがどうあれ戦後処理までを考えると時間はたっぷりある。情報収集してから方針を決めようというエリックの考えは決して間違ってはいなかった。しかし・・・



 次々に届く知らせの書簡には信じられないことばかりが書いてあった。三大国の一つレムリア皇国がその総力を挙げて攻め入ったというのに、戦況はドラン連邦国が優位だというのだ。しかもその要因が分からないと言う。遠目に見ていたところでは何の変哲もない戦争が始まるが、その激突した兵士達の内レムリア皇国の兵士のみがことごとくドラン連邦国の兵士に崩されるのだと書いてある。



「どういうことだ?レムリア皇国の騎士団の精強さは世界に知れ渡っているほど。なのに何故ドラン連邦国が近接戦で圧倒するのだ?」



「はっ、推察になりますが・・・」



 会議に同席しているガルドによると、


1.レムリア皇国が新しい戦術を試している。その為本気でないレムリアが死に物狂いの敵国に押されている。


2.ドラン連邦国による根回しが出来ており国の中から崩されている。(裏切りや誤情報で撹乱されている。)


3.ドラン連邦国がここ数年で力をため互角以上に渡り合っている。



「む・・・。まあドラン連邦国が力を蓄えていたというのはないだろうが・・・。」


 概ねアンドリュー国王も同意見であったようだ。アンドリュー自身は2番だと思っているが、その確証が取れない。




 そんな膠着状態の中ユーテリア王国、またユーテリア王国同様に情報を集めていた聖十字国に激震が走るニュースが届く。



『レムリア皇国敗北。』



 それも小さなものでは無く、全軍で挑んだ総力戦で一敗地に塗れたのである。


 知らせによると、その時に軍を率いていたアドルフ皇帝自身も戦死してしまい、その勢いのまま帝都を強襲。皇族はほとんどが捕らえられ、多くの帝国貴族も戦死したという信じられないものであった。


 その時帝都で情報を収集していた者が攻め入ってきたドラン連邦国の兵士との接触に成功する。しかし、その諜報員が得た情報は信じがたいものであった。




 ドラン連邦国は古来から独自の文化を形成しておりその中には世界神の信仰がある。世界を作った神を創造神として崇めることでその恩恵を受けようというものであるが、この度ドラン連邦国はその世界神との交信に成功したのだという。そして『圧倒的な実力を持つ勇者を別の世界から召喚する魔法陣』を授けられた結果、30人程の勇者を召喚することに成功したというのだ。


 そしてその諜報員は実際に、たった一人で固く閉ざした帝都の城壁をわずか数発の魔法で打ち破る規格外の魔術師を見たと報告書に書いてあったのであった。



「俄かには信じられぬ。ガルド、我が国の魔術師で同じことをしようとした場合はどうなる?」



「はっ。我が国が誇る王選魔術師1,000人を総動員した場合なら可能かと。しかし、報告書のようにたった一人でそれをなすのは到底不可能です。」



「・・・戦力差は圧倒的か・・」



 ユーテリア王国とほとんど同等の軍事力を持っていたレムリア皇国。それが僅か数か月で国が亡ぶほどの敗戦となれば、あながちその報告書も嘘ではないだろう。しかも、相手の主力の勇者30人は全て存命が確認されているようだ。その後の報告書で次々に尋常ではない実力で相手を圧倒する勇者と思われる者達の報告書が届けられていた。

 あげくにレムリア皇国との戦争が短かったために、ドラン連邦国の疲弊は少ない。少しの休息で再度進軍してくる恐れさえある。



当面は情報収集が主になるものの早急に対抗策を考える必要がある、それがこの日の結論であった。結果、王都の周囲にある全ての統括都市に一連のドラン連邦国の動きが知らされる。統括都市を治める領主達はその余りの知らせに驚愕することになる。









なお、それとほぼ同時期に王都に着いたある一行。この大変な時期に貴族同士で争うどころか、王都でもトップクラスの騎士の妻に毒を盛っていたという知らせであった。


バダックは王国でも非常に大事な戦力である。


戦争に備えるよう貴族全員に知らせていたにもかかわらず、味方の足を引っ張っていた貴族がいたことに国王アンドリューが激怒。

さらに、よりにもよって地方貴族では無く国王のお膝元である王都の貴族が当事者であった事が国王の怒りを倍増させた。


事実関係の確認を徹底するよう当たり散らされたエリック。ユーテリア王国のNo.2である宰相自らが直々に動く程の事態に発展し、揉み消しなど到底不可能となる。


その後バダック・スタドール子爵の言った通りの事実関係が洗い出され、ハンク・ベリティス子爵とその共謀者の貴族達は例外なく爵位剥奪と財産没収という目に合い王都レインフォードから叩き出される羽目となる。


なお、その調査において毒を盛っていた実行犯やベリティス家との連絡員を捕らえて送ってきたバダックの手並みは高く評価され、武力だけでは無くその治政手腕も見直されることになる。

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