世界の情勢
宴の翌日クラウドとルークは荷造りを終わらせ部屋でくつろいでいた。
昨日は宴が終わった時点でアイリスを家まで送ったクラウドは早々と部屋で寝ていた。
部屋にノックの音が響く。
「失礼しますクラウド様、ルーク様。」
執事のコーランがやって来た。馬車の時間には少し早いと思いながらクラウドが出迎える。
「やぁコーランさん。どうしたの?」
そう聞くクラウドにコーランが真剣な顔で話し始めた。
そもそも今回の一件を王都に知らせるにあたりクラウド達はいくつかの手を打っている。
貴族の紹介状を持ちやって来た以上、その貴族もおそらくは共犯だろう。紹介状という物証を持つジェーンは証人として一番有効だ。そして連絡要員のラックもまた相手貴族の者と直接接触していた為その証言は大きい。
クラウド達はまずこの2人を最優先で目立たないよう既に王都へ送っている。その後数日経ってから、次はクラウドが捕らえた襲撃者達を目立つように王都に護送する手筈である。
異変を感じたベリティス家の者達からすれば、それは目につくだろう。なら襲われるのはまずこの襲撃者達であり、良い囮になると思ったからだ。
コーランが言うには、既に屋敷の周りが相手方に囲まれているようだとのことであった。おそらくはラックの定時連絡が無かったことで相手が何かしらの異変に気付いたのであろう。
「やっぱりあの2人は先に送り出しといて良かったな。」
「はい。残りの者達は予定通り2日後に輸送しますので。い、いや、そうでは無く、このままだとクラウド様達の出発も奴らに見られます。」
「そうか、なら仕方ない。そいつらはこっちでまくよ。」
クラウドはそう言うとコーランに馬車を預けたいと伝えた。
「そうですね。尾行をまくのであれば馬車は邪魔でしょう。折を見てトント村に送りますよ。」
「ありがと。それじゃあもう少ししたら出発するよ。」
コーランが出て行くとクラウドはルークに荷物をアイテムリングに入れる様に言った。用意が終わると2人でバダックに挨拶に向かう。
「それじゃあそろそろ行くわ。」
「そうか、名残惜しいがな。2人には本当に世話になった、ありがとう。またいつでも遊びに来てくれ。」
「クラウドさん、ルークさん。この度は本当にありがとうございました。」
エリスのリハビリの様子を見に来ていたバダックに挨拶を終え、出口に行くとコーラン、バート、ドミニカが待っていた。
「「「ありがとうございました!」」」
3人からのお礼を受けクラウド達も笑顔で返す。
「またな。」
「お世話になりました皆さん。」
バダックの屋敷から出た後、2人は街の門まで来ていた。
「やっぱり一番の褒美は情報だったな。」
「情報?」
呟きにルークが反応する。
クラウドは今日の朝バダックからエリスを治した報酬について聞かれた際にこの世界の情報が欲しいと答えていた。
そんな話なんか世間話だと言いながら説明を受けたものの、クラウドは他に報酬は断固として不要と断っている。
「トント村の薬師としてこの街に来た以上、トント村同様の扱いをして貰わなければ困る」と言い出したクラウド。
村では治療の報酬は金銭では無く各家庭の野菜や肉、日用品を治療代として受け取っているクラウドは昨日の食事とバダックの屋敷で寝泊まりしたことで報酬は受けていると言い張りバダックとコーランを困らせたのであった。
結果、クラウドの薬師としての矜持を感じたバダックは報酬を一切出さなかったが、帰る際に「いつか必ずこの恩を返す」と2人に宣誓したのだった。
バダックからの話によるとこの世界には大きな3つの国があり、その周囲に小国といわれる国々が存在するらしい。
三大国といわれるのがクラウド達が住む「ユーテリア王国」、ユーテリアの東に位置する「レムリア皇国」、ユーテリアとレムリアの北にあるのが世界最大の大国「聖十字国」。
この三大国はそれぞれ小競り合いはあるものの大きな戦争もなく睨み合っている。停戦しているのでは無く両国が争えば力を残した残りの一国に潰されるという理由で拮抗しているからだ。
三大国は周囲の小国との関係もあまり良好では無い。周囲の小国は国力に差があるので歯向かえないだけと言うのが実情のようだ。
ユーテリア王国はバランス良く人材が揃っているらしい。ユーテリア魔術師団という王選魔術師からなる魔術師団があり戦争となればその猛威を振るうが人数はそれほど多くない。後は騎士や兵士の数が多く安定した戦力を有する。
レムリア皇国は近接戦闘に特化した騎士団が最大の強みで、その騎士達の実力と数は三大国でも群を抜く。ただし、国策として剛勇な騎士の育成を進めた為に魔術師の数が極めて少ない。その為、周囲の情報活動や連絡要員としての精霊使いが精々である。
聖十字国は宗教色が強く魔術師の育成が最も進んでいる。遠距離からの一斉照射は戦況を一度でひっくり返す程だ。しかし、前衛を務める兵士や騎士が少ない為に前線維持に不安が残る。
どの国も一長一短であった。
種族としては人族の他、獣人種、ドワーフ種、エルフ種がいるがここ数十年エルフ種と人族に交流は無いらしい。種族には特に差別もなく互いに長所を活かし共生している。
召喚の儀により魔術師となるのは50人に1人くらいで複数属性持ちはそのうち10%ほど。
冒険者や兵士よりもバダックの方が余程腕が上。魔術師もまた距離を詰めればほぼ勝てるが、それまでに魔法を使われると危ないらしい。魔法使いとの戦いはどうやって距離を詰めるかが鍵となるとバダックは言った。
それがバダックからの説明であった。
一通りの説明を受け、次に魔術師が使う魔法や前衛職が使うスキルの話しになるところでクラウドは「もういいよ」と話しを切り上げたのであった。
「落ちたもんだ魔法使いも・・・」
『魔法使いは魔法使いにしか倒せない』
かつてはそれが戦いの不文律であった。しかし、今や騎士にも遅れをとるらしい。寂しさを感じているとルークから声がかかる。
「それでこれからどうするの?もう少ししたら相手の人達に囲まれるんじゃない?」
「あぁ、もう少し人気のない方へ行こう。」
ふと現実に帰ってきたクラウドがルークと2人で街道を外れる。本来は危険極まりない行為であるがクラウドは気にもしていない。
人気がない草原まで来た時にクラウドは少し離れたところから数人がこちらに走ってくる気配に気づいた。
「どうしたのクラウド?」
「ん?あぁ、いや何でもない。」
そう言ってアイテムリングからクラウドは一つのアイテムを取り出した。
「何これ?敷物?」
「さぁ乗った乗った。」
縦2m横3.5m程の上品な絨毯である。
それは誰もが幼い頃に親から聞かされる物語に出てくる代物。
「う、うわわわっ!」
2人が乗るとフワリと中空に浮かび上がる。
あっという間に上空50m程にまで上がった。
「ク、ク、ク、クラウドッ!?これってもしかして!」
「驚いたか?これが世界で最も有名な魔導具、空飛ぶ絨毯さ。」
「ほ、本当にあったんだ・・・」
その後、数分後にやって来た武装した男達15人は目標を見失う。自分達が来ていることに気づき周囲に隠れたと判断しそのまま周囲を探索。
結果、魔物に追いかけ回され8人が命を落とすことになり残りの者達は命からがら逃げ出したのであった。




