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妻の意地

 夕方近くなりルークとアイリスはバダックの屋敷の客室でくつろいでいる。

そろそろ帰ろうとクラウド達が言い出した時、遊び足りなかったアイリスが寂しそうに帰ろうとするのを見た2人。エリスの快気祝いの宴にアイリスも参加出来ないものかと相談に帰ったところコーランより「2人が妹と呼ぶ方なら喜んで」と宴への参加を認めてもらったのだった。


 帰った後3人で話しをしていたが、その後宴前にエリスの様子を見てくると言ってクラウドは診察に向かったのだった。




「あ、おかえりクラウド。どうだった?」


 扉が開きクラウドが帰って来た。


「ああ、もう何の心配もいらないよ。後は少しづつ体を動かす練習をしていくだけだな。」


 診察を終えて帰ってきたクラウドがエリスの体調は問題無いと告げる。


「みなさん揃われていますか?そろそろ始まりますので会場の方へどうぞ。」


 ドミニカが3人を呼びに来た。案内されるままについて行くとそこは食堂では無く中庭であった。広い中庭にテーブルと椅子をいくつも並べている。テーブルには沢山の料理や飲み物が所狭しと並んでいる。


「おお、クラウド殿。」


 バダックがクラウドとルークを見つけ挨拶にやって来た。


「こんな場所で申し訳ない。エリスに回復してから何がしたいかと聞いたところ、ずっと部屋の中だったので外に出たいと言うものでな。それならいっそ中庭で宴を開こうという話しになったんだ。」


 そう話すバダックの顔は明るく非常に嬉しそうである。その後も次々に挨拶にやって来るスタドール家の面々にアイリスは早々に逃げ出し料理を頬張っていた。


「ようやく一息つけるか・・・」

「そうだね。疲れた~・・・」


 コーランやバート・ドミニカを始め殆どの家中の人達が挨拶とお礼にきたようで2人も随分と疲れたようだ。


「ははは。結局は2人を疲れさせただけであったな。」


「こればっかりは仕方ありません。今回の件はスタドール家の者は皆知ってますから。」


申し訳無さそうな顔をしながらバートが答える。




賑やかな宴は続く。皆がエリスの回復を心から喜んでいた。


「最初は来る気もなかったが、やはり家族が助かって喜ぶ様は良いもんだな・・・」


ポツリと零したクラウドの言葉にコーランが目を見開いて驚いた。


「ク、クラウド様?来る気も無かったというのは・・・?」


「ふふふ、クラウドは最初『貴族なら診てくれる人は沢山いるだろうが、トント村には自分しか居ない』と言ってここに来るのを断ったんだよ。そうしたら・・・」


隣にいたルークがマーサ婆さんから聞いたと言ってクラウドが出発する経緯を笑い話としてその場に居たコーラン、バートに話した。


「おい、ルーク!お前はそんなに笑ってるけどな、あの時のタニアちゃんは本当に怖かったんだぞ!」


クラウドが誰も助けてくれなかった時の事を思い出して口を挟んできた。


ルークがクラウドをからかうのを横で見ながらコーランとバートは同じ事を考えていた。



「(クラウド様達が来てくれたのはタニア様という方のおかげだったのか。)」

「(ああ、そうらしい。これは後でお礼に出向かなくてはならんぞ。)」

「(当然だ。後でスタドール家を代表する形で私かお前が行かなくてはな!)」



そんな話をしていると、メイドのドミニカがトレイの上に3皿の料理を並べ運んで来た。不思議に思ったコーランが話しかける。


「どうしたドミニカ?料理はもう全て出たはずだが。それにその料理は宴にはあまり似つかわしくないんじゃないのか・・・?」


ドミニカが持っているのは宴の料理というよりはごく普通の家庭料理である。


「作るのが遅れて間に合わなかったの。そもそもこれはバダック様のだから。皆が食べる訳じゃないから、宴に似合わなくても大丈夫よ。」


そう言うととびきりの笑顔を見せて料理を運んで行く。



「ん?その料理はどうしたのだドミニカ?私も随分食べてもう胃には入ら・・・」



バダックの前に無言で置かれた料理。それを見てもう食べられないと断ろうとしたバダックの声が詰まった。しばらくその料理を見た後、俯いたバダックは体を震わせながら泣いている。


それは結婚当初にエリスが良く作ってくれた手料理の品々。まだ十分に動かない身体で人の手を借りながら作ったため時間がかかった挙句に疲れから宴に参加も出来なくなったが、エリスがどうしてもバダックに出したいと言い出した料理であった。


「う・・・美味い・・。美味いぞエリス・・・」


しばらくの間顔を上げることも出来なかったバダックであったが少しずつ食べ始めている。



涙を止めることは出来なかったようだが、参加している者達はそれをからかうほど野暮では無かったようだ。



運んで来たドミニカを始め、その場にいた者達は誰もがその光景を泣きながら見ていたのであった。



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