完治
手合わせを終えた4人は応接室に戻ってきていた。
「しかし驚いた!あんな事が狙って出来るものなのか?」
興奮冷めやらぬバダックが部屋に入ったと同時に喋り出した。
「まぁ、今回は特別だよ。なんせ剣は振り下ろされると分かってた上での話だしな。そういえば・・・はいコレ。」
すっかり砕けたクラウドがそう返事をしながらバダックに見覚えのある小瓶を渡す。
「うん?何だ?もう二日酔いは治ってるぞ?」
「そっちはエリスさん様だよ。早く飲ませて来てあげなよ。」
「!まさかさっきの二日酔いの薬がエリスにも効くというのか?」
「エリスさんにも効くというより何にでも効くんだよ。状態異常に病気に呪い、何でも来いだ。」
「なっ・・・。そのような薬など聞いたことも無いぞ。」
あまりの効果に驚いている。
「間違いなく上級アイテムですね。」
「いや、状態異常や病気までならともかく、呪いまで祓うなど尋常では無い。おそらくは国宝級だ。」
「な、ト、国宝級!?」
コーランが驚く横で首をかしげるクラウド。
「国宝級?何それ?」
持っていた本人が分かっていなかった。
クラウドは今の世界についてほぼ無知である。それは当面の行動目標がトント村の生活向上であったため、外の世界についての調査を後回しにしていた為であった。
良い機会だと思ったクラウドはバダックに教えてもらおうと考えた。
「なあ、バダックさん。良かったら今の世界の事について何でも良いから教えてくれないか?さっきの話しにあったアイテムのクラスや一般的な兵士、魔法使いの能力とかについてさ。」
何故そんな事を聞くのかと問うバダックにクラウドは素直に「自分が研究所に引きこもっていたので世間のことを知らないからだ」と答えた。
「はっはっは!全ての時間を自己研鑽にのみ費やすとは常識外れなことだ!
だがそのおかげでエリスは助かったとも言える!改めて礼を言いたい。ありがとうクラウド殿!」
「いや自信はあるが、治ってもいないうちから礼を言われてもな・・・」
それもそうだとまた豪快にバダックは笑った。
「では、先にエリスに薬を飲ませて来よう。良ければ2人も来てくれないか?是非ともエリスに紹介したいのだ。」
「ああ、いいよ。」
「は、はい!」
「?どうしたルーク?普通に話して良いってバダックさんが言ってたろう?」
「そ、そうは言ったって。僕は実際は何も出来やしないし。いきなり領主様に向かって・・・
クラウドみたいに喋れないよ・・・」
そう言うルークを見てバダックはどこか寂しそうだ。エリスの病状に心を痛めてくれていたのも見たし、何よりも大恩人であるクラウドの弟だ。まさにエリス共々家族ぐるみで付き合いたいと思っていたが、幼いルークに、ましてや自分は何も出来ずにいたと考えているルークにいきなり恩人だと言ってもこの謙虚な子供は頷くまいと考えた。
この国の馬鹿な貴族達ならば自分に手柄など無くても鬼の首をとったかのように騒ぎ立てるだろうに・・・
「どこかの馬鹿な奴らにもルーク殿の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ・・・」
ため息まじりに呟くバダックの横でコーランもウンウンと頷いている。
それを見ながらクラウドは明るく笑った。
「何を言ってる、ルーク。」
「?」
「前にも言っただろ?世間から隠れて暮らしていた俺をこの世界に引っ張り出したのはお前だと。
だからこそ、俺はここに居るんだよ。俺がした事は全てお前が居なけりゃ起こることはなかったんだぞ?」
「な、何?お前達兄弟じゃ無かったのか?い、いや、それより今のはどういう事だ?
ならばルーク殿が居なければクラウド殿がエリスを診ることは無かったのではないか・・・?」
「うん?そうだよ?あぁそれと、もうクラウドだけでいいぜ?」
顎に手をあて考える仕草をしていたコーランが言う。
「・・・それならばむしろ、ルーク様が一番手柄なのでは?」
コーランが聞き返すがルークは「そんなはずがない」と首を振ろうとした・・・が、
ガシッと頭をヘッドロックに極められるルーク。
「いっ!?痛タタッ!」
「こらぁ!エリスを助ける程の人材を見つけておいて、何もしてないとは言ってくれたな!これからはクラウドのようなさん付けさえ許さん!呼び捨てだ!」
「む、無理言わないでよー!」
そう言うルークに戯れついているバダックを見て、クラウドとコーランが笑いあっている内に一つの扉が見えて来た。
ルークを解放したバダックが扉をノックする。
「エリス、私だ。」
小さな声で「どうぞ」と返事が返ってくる。部屋へと入ったバダックは思わず笑みがこぼれた。今までならベッドに伏したままで辛うじて話しができる程度であったエリスがベッドに腰掛けて迎え入れてくれている。
「どうだ体調は?一晩で随分と良くなったように見えるが。」
「はい、昨日頂いた薬を飲んでから、自分でも驚くほど身体が軽くなりました。」
一目でそれと分かるほどに病状が改善しているエリスが告げる。
「・・そ、そうか。本当に・・良かった・・」
泣き崩れそうな夫を見てエリスが助け舟を出す。
「バダック様、一緒にいらっしゃった方々はどちら様なのです?」
「お、おおっ!紹介しよう!お前の薬を作ってくれた薬師のクラウド殿とルーク殿だ!」
薬師として一括りで紹介されてしまったルークが苦笑いを浮かべている。
「まあっ!この度はお世話になりました!4年以上も寝込んでいたのが噓のように身体の痛みや痺れが取れてきているんです。」
「そりゃあ良かった。それと、これが追加の薬だよ。」
クラウドが薬を渡す。
「これはまた、可愛い小瓶に入った薬なのですね。」
「さあエリス。飲んでみなさい。」
バダックに促されたエリスがその場で薬を飲むと
「嘘っ・・・。身体が・・・」
「身体がどうしたのだエリスッ!?」
エリスの目からは涙が流れ出ている。
「ど・・・どこも痛くないんです。手も動くし・・・足だって!」
その場で立ち上がろうとするエリスの足元がふらついた。
「エリスッ!?」
とっさに手を出し支えたバダックが慌てている
「クラウド殿!治るのではなかったのか!?」
「もう治ってるさ。さっきエリスさんが自分で言ったろ、どこも痛くないと。ふらついたのはただの運動不足だ。4年間も歩いてない人がいきなり走り回れる訳ないだろう?」
ミルトアの街にて領主を任された男バダックの最大ともいえる心配事はこうしてあっという間に解決したのであった。




