カミングアウト
「何だっていうんだい全く。
こっちだって暇じゃないんだよ。」
ロデリックの家にまで来たマーサ婆さんが言う。
「まあそう言うな、マーサ。
ことと次第によってはクラウドには村から出て行ってもらわねばならん。」
「!
どういうつもりだい!本気で言っているのかいロディッ!」
「本気も本気だ。これはトント村の村長としての決定だ。
誰にも異論は許さん。」
何を言っても無駄だとマーサに鋭い視線を向ける。
「~っ!!
一体何がどうしたというんだいっ!
黙っていないでなんとか言いな、クラウドッ!!」
「ありがとマーサさん。
でも村長さんは間違ってないんだよ。
信用のおけない人間が村に居る訳にもいかないだろ?」
「何だってっ!
ロディ!あんたクラウドが信用出来ないってのかいっ!
こいつが村に来てから始めた仕事がどれだけ皆の助けになってると思ってるんだいっ!」
マーサさんがまくし立てる。しかし、それを止めたのはクラウドだった。
「まぁ待ってくれよ、マーサさん。
俺は村長さんからしてみれば、村にふらっとやって来ただけの人間だ。いきなり全てを信用するって訳にもいかないさ。」
「あんたは黙っといでっ!
あたしゃロディの馬鹿に聞いてるんだよっ!」
ふーっと息を吐きロデリックが話す。
「少しは落ち着けマーサ。
何も問答無用で追い出すと言ってる訳ではない。
ついさっき家に来て話しをしていた時、クラウドは普通なら持っているはずのないようなアイテムを持っていた。
おそらくクラウドはただの一般人ではあるまい。マーサ、お前もクラウドの素性を知らんのではないか?」
「確かにあたしはクラウドの昔なんざ知らんさね。
でもそれがどうしたっていうのさ!
昔は知らなくとも、こいつが村に来てからのことならずっと見てきたんだよっ!こいつはもううちの子さねっ!あたしの家族に文句があるっていうのかいロディ!」
マーサが怒りを鎮めようとしない。その横でマーサの言葉を聞きクラウドは静かに泣いていた。
「っ!あ、あんたいきなりなに泣き出してるさね?」
そう言ってクラウドに視線を向けるマーサ婆さん。驚いたことで少し冷静になれたようだ。
「は、はは・・すまねぇ、マーサさん。
人に家族と呼ばれるなんて、いや、呼んでくれるなんて思ってなくてね。
っと、それじゃあ少し俺の話しを聞いてもらおうか。」
涙を拭いクラウドは話し始めた。
自分が今とは違う時代の人間であったこと。
魔法に関するあらゆることを研究していたこと
ルークが殻に閉じ籠っていた自分の心を助け出してくれたこと
それを恩に感じルークの助けとなるべく外に出たこと
それまではひたすら魔法の研究をしていたこと
村に巣食う村役人をちょっと懲らしめたこと
森の猟場を整える為森に入っていたこと
その中でも一番2人を驚かせたのは畑の管理だった。
クラウドは畑の様子を見ながら時には村全体に雨を降らせたと言い、またある時は雲を退けて陽の光を当てていたという。
「あんたってやつは、いきなり何を言い出すさね。」
「ははは、やっぱり信じられないかい?」
「むぅ、いきなり今の話を信じろという方がどうかしておるわ。
で、お前がアイテムを持っていることと今の話がどう繋がるのだ?」
ロデリックがそう問うと、クラウドは笑う。
「はは、何を言ってるのさ村長さん。
つまり俺が持っているものは全部自分で作ったのさ。言っただろ研究していたって。」
あっけらかんとクラウドは答える。
「馬鹿を言うな。魔導具の製作など出来るものが居るはずなかろう。」
この時代、魔導具は遺跡等で遺物として入手するしか方法がないこの時代、自身で作れるなどと聞いてもすぐに信じられるはずがなかった。
「じゃあ、それはまあいいや。
要は村長さんは俺がどうしてこの村にいるかが知りたかったんだろ?なら理由はもう分かったろ?」
「・・ルークのためか。だが、それを言葉だけで信じる訳にはいかんぞ。」
「お堅いこって。
でも他には説明の使用がないぜ。俺がいる理由の証拠なんて見せられないしな。
そこで折中案だ。
俺がこの村にいる理由の証拠は見せられないが、魔法の研究をしていた証拠ならある。2人ともこれから俺が引きこもっていた洞窟に来てくれないか。それを見て貰えあれば少しはさっきの話しに信用性ってやつがでるだろ。」
「・・・なるほどな。
しかし、クラウドよ。一体そこまでする理由は何なのだ?こう言ってはなんだが、何もお前は私たちにそうまでして信じさせる必要など無いのではないか?
どこまで本当かは知らんが、少なくともお前は魔法が使えるのは間違いあるまい。ならお前は領主はおろか国にすら特別待遇で士官することが出来る。
この村に恩を売らずとも、いくらでも良い待遇で迎えられる場所はあるだろう?」
「だから言っただろ、折中案だって。
この話しをする代わりに2人に頼みたいことがあるんだよ。」
「「頼み事?」」
2人が声を揃えて聞き返す。
「ああ、俺は今回の旅にルークを同行させたい。
マーサさんも俺の腕が確かなら安心して預けてくれるだろ?」
村長には俺が外に出ている間のマーサさんとタニアちゃんのことを頼みたい。」
「何を言うんだいっ!あんたに心配される程耄碌はしとらんさねっ!」
マーサさんから抗議が飛び出す。
「違うよマーサさん、何も二人の世話をしてくれって言ってるんじゃない。
万が一の話しだが村が盗賊に狙われたり、魔物の襲撃を受けた時の話しさ。
つまり村の防衛力を準備するからそれの管理をして欲しいのさ。」
そう言うとクラウドは左手をアイテムリングに重ねた。
「さっきはリストボードを操作するって言ったけど、合言葉でもだせるんだよ。
クリーチャーカード『騎士』 アウト。」
クラウドの手に現れたのは真っ黒なカードである。それに魔力を僅かに流すとカードの中央部に魔法陣が発現した。
「これはクリーチャーカードって言うんだけどね。簡単に言うと一番最初に魔力を通した者を所有者として認識させて、それ以降は合言葉で中に入ってる魔法生命体を呼び出すんだ。」
そう言うと村長に一枚のカードを渡し、真似をするように言う。ロデリックが僅かに流した魔力にクリーチャーカードは反応し、鮮やかな魔法陣を発現させた。
「それじゃいくよ。
来い、騎士!」
そう言ってカードを前方に弾くとカードから蒸気の様な霧が発生した。2人が気づいた時には目の前には身長3mほどのがっしりとした巨体で真っ黒なフルプレートアーマーを身に纏った騎士が立っていた。手には2mはある大振りなツーハンデッドソードを持っている。兜の部分からは僅かに目の奥が見えそうではあるが、明るい時間にもかかわらず真っ暗で何も見えず、赤黒く輝く瞳だけが確認できる。
「ななな、何だいこれはっ!」
「な、何だとっ!いきなりどこからっ?」
ロデリック村長とマーサ婆さんが取り乱す。
「話し聞いてたかい?こいつは今のカードから出てきたんだよ。
ほら村長さんも試してみてよ。」
そう勧められ、どこか疑いを捨てきれないままのロデリックがカードを弾く。
「こ、来い?な、騎士。」
クラウドの時と同様に真っ黒なフルプレートアーマーを着込んだ騎士が現れた。
「な、なんと・・・」
呆然とするロデリックにクラウドは説明を始める。
曰く、騎士のクリーチャーカードは名前の通り前衛職で魔法は使えないが、その武力はそれほど低くはなく盗賊の一団程度なら一体で軽く壊滅させると言う。
腕前に関しては控えめな説明なのは村から出たことがないため他の騎士や武人と会ったことがなかったクラウドは自分が作った騎士の腕前が今の時代ではどれ程と言えるのかが分からなかったためである。
しかし、実際のところは各国にいる最上位の達人を上回る程の実力を備えており、疲れを知らない魔法生命体は盗賊団はおろか、真正面から戦うなら騎士一体で国の正規軍の五個小隊(約150人)と同程度の実力を有する。
事態の理解に追いつかないロデリックにクラウドはこう提案した。
「まあ外見だけじゃ実力もよく分かんねえか。それじゃ村長さん研究所は後回しにしてこれから森に行かないか?
出かけるにあたってちょっと用事があるんだよ。そこで騎士の腕を見てくれたらいいだろ。」
「あ、あぁ・・・」
混乱の最中にあるロデリックが何とか声を絞り出す。
「し、しかし・・・
話しを聞けば聞くほどお前に得なことは無いのではないか?
私はこの村の村長だ。言われなくとも村は守る。これではお前はただ貴重なアイテムを村に渡しただけではないか?」
「はははっ、何言ってんのさ。そいつは賄賂も兼ねてるんだぜ?」
クラウドの言葉にロデリックが驚く。
「な、何だとっ!!
・・・一体私に何をさせる気だっ!」
賄賂と聞き警戒心が跳ね上がったロデリックにクラウドは笑いながら言った。
「ははははっ、な~に言ってんのさ。約束したろ?
タニアへのフォローの件、よろしく頼んだよ。」
「へ・・・?」
二の句がつげないロデリックであった。




