ルーク飛翔①
メイソンがクラウドから新居で使うための家具の注文を受けた翌日。彼は取引先を走り回っていた。
「机はこれで。あと椅子はもう少し落ち着いた感じで使いやすそうなアンティーク品へ変えて下さい。それを3セットと調理道具を一そろいです。食器は10人分程を。これらも決して安っぽいものは入れず、来客用の銀食器を始め普段使い用のものには古木から削り上げた最高級の木皿などを見繕って下さい。それから揃えるのは取りあえず10人分でいいですが、今後良さそうな品があれば最優先で確保してください。必ず必要になりますから。それを1週間で揃えて欲しいのです。出来ますか?」
「お、おいおい…。どうしたんだい旦那?。家具や食器でそれなら他の家財を合わせるととんでもない金額になるぜ?まああんたの事だから下手な客に騙されるってこたぁ無いだろうが、払いは大丈夫なのかい?聞いてる限りじゃまるで貴族の引っ越しだぜ?」
心配そうな顔でメイソンを見るのはグラスフォードでも指折りの問屋の主人である。あらゆる商品の仲介をこなす彼もまた一代で財を成した叩き上げの人物であり、そんな彼には街に関係する物流の情報は嫌でも入ってくる。しかし羽振りの良い貴族がやって来るなどという話しは聞こえてきていない。
そんな彼を見てメイソンがにやりと笑みを浮かべた。
「そんな貴族の世話なんかあっても受けませんよ。それに支払いの心配は無用です。」
そう言って差し出したメイソンの手には…
「うえっ!?白金貨じゃねえか!それも5枚だとぉ!?ひっさしぶりに見たぜ…って、おいおい……」
久しぶりに現れた金払いの良い客に顔をほころばせたのもつかの間。彼はメイソンの掌にある5枚の白金貨に混ざって光る硬貨を見て固まってしまった。
通常の金貨とは異なる光沢を放つその硬貨の名は王金貨。しかし彼が固まるのも無理は無い。王族からの信頼が厚い証左である王金貨はそもそも市場に流通しないのだから。
その理由は白金貨100枚分という価値がそもそも市場では大きすぎて使い勝手が悪く、現在は支払いといえば最高でも白金貨で事足りるという理由の他にもう一つ。それは価値が高すぎて受け取った側の使い勝手が悪い事と、また、それに加えて市場に流れた王金貨(王族からの信頼の証)を悪用されないようにという意味もあり流通した王金貨は王家が買い取るという決まりがある。
そのため王金貨を持つ者達は余程の事が無ければそれを使う事は無い。王金貨は自分が王族からの信用を持つ証拠。それを易々と手放す者など居る筈も無い。もし居ればその人物は間違いなく周囲の貴族達から叩かれ家名に傷をつけるだろう。
そのため王金貨はそのほとんどが家宝として受け継がれていくものなのだ。
しかし今ここにその慣例は破られた。家具の買い付けという理由によって。
絶句する問屋の主人を見ながらメイソンは言葉を続ける。
「…そういう事です。つまり貴方がする心配は代金の心配では無くこれほどの資産家の心を掴める品を用意出来るかどうか、その一点なんですよ。」
その日からグラスフォードでも一二を競う卸問屋であるバルダン商会の長い長い一週間が始まるのであった。
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グラスフォードの冒険者ギルド、いや、グラスフォードの街全体では現在それが話題に上がらない日など一日も無い。
颯爽と現れたスーパールーキー率いる冒険者パーティの快進撃
そのパーティが受けた依頼の達成率はまさかの100%。しかも彼らは簡単な依頼ばかりを見繕って受けているのでは無い。何組ものパーティが失敗している高難度の魔物討伐依頼を既に複数成功させているし、更には報酬額が少ないなどの理由によって後回しにされていた貧村からの魔物討伐依頼もこなすなど、困っている人達への配慮も忘れない。
近年稀にみるヒーローパーティの登場に街中が湧きたっていた。
「おいおい見ろよ!ありゃ噂の冒険者パーティじゃねぇか?」
冒険者ギルドで依頼板の前に立っていたある2人の冒険者達が入って来たパーティに視線を向けた。
「ああ、間違いないぜ!何でもこれから南で確認されたロックレックスを狩りに行くって聞いたぜ?」
「なっ、ロックレックスだと!?そいつは確か随分前に幾つかの村を壊滅させた魔獣じゃねえか。あんときゃ冒険者ギルドでも上位のパーティが5つも6つも集まって倒した筈だぜ!?」
魔獣の中でも凶悪と言われる一匹であるロックレックスはB-ランクの強さを持つ二足歩行の魔獣だ。あまりに固い身体を持つせいで付いた名であり、矢など簡単に弾く強靭な皮膚の下は名前通りに引き締まって岩のように固くなった筋肉で覆われている。防御力は魔獣でも随一の強固さを誇り、以前の討伐時も武器での攻撃は早々に諦めて魔術師が致命傷を与えて倒している。
そんなものを相手に自分達のパーティだけで挑もうとする彼らを見て感嘆の声を上げる。そんな2人に気づきもせずに受付嬢の前にそのパーティは立った。
「それじゃあ準備が出来たので話してあった通り依頼を受けます。イリアさん手続きをお願いします。」
笑顔で依頼の受付を済ますのはグラスフォードの冒険者ギルドでも人気上位の受付嬢イリアである。整った顔は美女以外の形容が難しい。しかしそれ以上に冒険者達の心を掴んだのは必要以上に踏み込んでこない事務的な態度である。つまり男と女の関係になれば態度が変わる、所謂ギャップ萌えやツンデレを夢見て人気が集まっているのだ。
しかし冒険者達が彼女の心を掴むことは難しいだろう。その訳は、
「うん!ルーク君達なら大丈夫だって信じてるけど、無理はしないでね?絶対よ?」
いつも隣にいる同僚たちでさえ愛想笑い一つ見た事が無い。
『不愛想』
イリアとはそんな女性であり、彼女自身もまたそう思っていたが黒天と衝突した一件で彼女は気づいた。彼女はただ自分の周りにいる男達に愛想をふりまく必要がなかっただけ。ルークを案じていた彼女は自身の好みを自覚した。
要するにただのショタである。
昔では考えられない程に表情を崩し笑顔を浮かべる同僚を見て、同じ受付嬢のミアは最近ではすっかり癖となった言葉を今日もまた呟く。
「はぁ~、やれやれね全く…」
すいません、結構前の話しに書いてました貨幣の価値を間違えてました。
前:王金貨1枚=白金貨10枚
今:王金貨1枚=白金貨100枚
今後は王金貨1枚=白金貨100枚が正式なものとして話しを続けさせて頂きます。




