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一夜明けて

 黒天壊滅の夜が明けてグラスフォードの街には激震が走っていた。


 街に住む多くの関係者は黒天襲撃の報を受けたがグラスフォードでトップに君臨する裏ギルドが負ける筈が無いと考えていた。そのため黒天壊滅という一件が急速に広まる中で秘密裡に依頼を出していた貴族や商人たちはその痕跡を消そうと必死になっている。


 そんな中、当事者である冒険者ギルドもその対応に追われ誰もが徹夜で働いていた。



「しかしまさか攻め入った当日に決着がつくとは思ってもいませんでしたよ。」



 信じられないという風に溜息をつくのはギルドのサブマスターのノビアである。いくら何でも襲撃した当日の僅か数時間で決着がつくとは思わず驚いている。ルークやジン達といった襲撃に参加したものは現在はギルドへ戻って身体を休めている。帰った当初の報告でギルドはてんやわんやの大騒ぎとなった。


 ギルド全体が忙しくバタつく中で扉が開いた。付けられたベルがカランカランと音を立てた。



「おわ?何だこりゃあ?」



 聞きなれた声に振り返る職員たちの視線の先には1人の男が立っていた。180cmはある身長に引き締まった身体。45歳という年齢を感じさせない若々しい佇まいに職員から声が掛かった。



「ロズワルド様!!」



 そう呼ぶ声を聞いてノビアが奥から飛び出してきた。立っていたのはグラスフォードの冒険者ギルドを纏めあげるギルドマスターである。



「ロズ様!」



「ノビアか、一体これはどうした騒ぎだ?俺が王都に行っている間に何があった?」



 少し困った風に笑いながら事情を聞くロズワルドを奥の部屋へと通し事情を説明する。ノビアの説明を聞いたロズワルドは乾いた笑顔を浮かべながら言った。



「今回の一件はうちのギルドが主導で行った作戦の結果として公表する。なるべく新人冒険者の情報は出さないように配慮してくれ。」



 それを聞いてノビアは不思議そうに首を傾げる。自身が仕える男はギルドのメンツを優先して他人の手柄を奪うような男では無かったし、そもそもロズワルド自身がそう言った小細工を好まない性格だった筈だと。


 しかし現時点で可能な限りまとめた書類に目を通したロズワルドは厳しい顔つきを崩さなかった。



「何故ですかロズ様?こう言っては何ですがルーク君は実際大活躍でしたよ?相手の二つ名持ちの内の1人である『双頭蛇』のエディアールを倒したのも彼ですからね。それに今更ギルドの名誉といっても既に何人もの冒険者がそれを知っています。隠すのは難しいかと。」



「それでも可能な限り隠さなきゃならん。俺が何処に行ってたのかは知っているだろう?」



 勿論サブマスターであるノビアはロズワルドがギルドを離れる時に事情を聞いている。いつもはギルドに不干渉であった筈の王都から呼び出されたのだ。普段ならのらりくらりと躱すところであるが、今回は事情が違っていた。必ず面会に来るように書かれた書面にはユーテリア王国のNo2である宰相の署名があったのだ。


 いくら何でも無視するのは難しいと嫌々ながら出発したロズワルドであったが王都へ着いてみれば驚きの連続であった。



「勿論王都でしょう?まあ宰相が直接ロズ様を呼ぶ理由までは分かりませんが。」



「それなんだよ。」



「え?」



 思わず聞き返したノビアの目の前には人差し指を書類へと向けるロズワルドが映っていた。



「今お前が話していた新人冒険者が王都から呼び出しをくった理由だ。」



「え?何でルーク君が?もしかして名のある貴族の血筋とかでしょうか?」



「違う。彼は正真正銘ただの平民だ。まぁ正確にはルークじゃなくその兄貴だな問題は。」



「兄?」



 そう言うノビアはジンから聞いていた報告を思い出す。ルークとその姉にペコペコと頭を下げていたという男。しかし『羅刹』の二つ名を持つライザーを倒したのも彼だと聞いている。腕が立つのは確かだが何ともつかみどころがない男、それがノビアの感想であった。


 そしてロズワルドは王都での出来事を話し始めた。


 王都へ着いてから王城へ到着の報告を入れたところ待つ事も無く城に通されたこと。本来ならば改めて日を決めてから出直すのが当たり前というのに。

 驚きながらも案内について行くとそこには宰相だけでは無く国王までが居たこと。そして聞いた話しはまさに信じられないものだったとロズワルドは話した。



 曰く、たった一人で数千のアンデッドを蹂躙する。


 曰く、国落としと呼ばれる魔物をものともしない。


 曰く、聞いた事さえ無いような妖魔さえ討伐した。


 曰く、誰も知らないような魔法を自在に操る。


 曰く、従えている手下さえ一匹で国を亡ぼせる程の化け物達。


 曰く、一たび家族が害されようとすれば烈火の如く怒り狂う etc



「そ、それはどこまでが本当の事なので?」



 冷や汗を浮かべながらノビアが聞き返す。



「それは俺も思ったがな。残念ながら全て本当だ。国王自らが言っていた。クラウドという男を怒らすと国が滅ぶと。それ程の力を持っているとな。…お前聖十字国の法王の噂を知ってるか?」



「ええ、確か最近大病を患い寝たきりだとか…」



「おかしいと思わなかったか?治癒魔法の使い手が集まるあの国でそのトップである法王の病が治らないなんて。」



「あ…。それは確かに変ですね。ですが難病と言われ治癒が困難な病もありますし。ですがそれがどう関係が?」



「他言無用だぞ?俺も国王に口止めされてんだ。」



 その言葉に頷いたノビアを見てロズワルドは溜息を吐いてから話しだした。


 それによるとユーテリア王国へ侵攻してきた聖十字国がルークの祖母が眠る墓を荒らしたらしい。そしてそれに怒ったクラウドが法王ユリウスへの仕置として仲間を2人向かわせたと。



「は、はぁ…」



 何と無謀なと思いながらも話しの前後に辻褄が合わない違和感を感じノビアは要領を得ないと首を傾げた。




「それで法王の寝所に忍び込んだ2人が法王を半死半生にしたあげく、見たことも無い魔導具を使い帰って行ったんだと。」



「み、見たことも無い魔導具ですか?」



「ああ、そいつを使われた法王の身体には不思議な紋様が浮かび上がっていてな。それ以降、どんな治癒魔法をかけようとも無効化される様になったんだと。お陰で奴は今も大怪我をしたまま床に伏せているらしい。」



「…やけに詳しく知ってる様ですが一体国王は何処からその情報を?」



「クラウドって奴から直接話しを聞いて諜報員を向かわせて裏を取ったらしいぞ?何より王家がクラウドって奴に相当気を使っているのは間違い無い。なんせ…、いやまぁこれはいいか。忘れてくれ。」



「…とてもでは無いですが信じられませんね。王家から聞いたと言われなければ笑って終わりでしたが。つまり今回ロズ様を呼び出したのは…」



「ああ、問題児が引っ越して来た事に対する王家直々の注意喚起だな。」



「………」



 とてもでは無いが今直ぐ信じる事など出来る筈もないような話しを聞いたノビアの呆れるような声が部屋に響いた。


◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


 クラウド達が宿泊している森の木漏れ日亭は今日も賑やかであった。利用にある程度金が掛かるこの宿はグラスフォードの街でも高級と言われるため稼ぎが悪い冒険者達が利用する事は無い。そのためチンピラの様なガラの悪い利用客はおらず、この宿を利用しているクラウドはタニアが平穏に生活出来ていることに非常に満足していた。



「ねえクラウド、今日も何処かに行くの?」



「いや今日は宿に居るよ。昨日メイソンさんから連絡があってね。頼んでいた家のことで話しがあるって言われてるんだ。目ぼしい物件から絞り込んでもらってるから時間があれば一緒に見に行こうってさ。タニアちゃんも一緒に行こうよ。」



「え、本当?行きたいわ、すっごい楽しそう!」



「ほう、クラウド殿が家を買われるので?それは目出度いですな。是非私からも祝いの品を用意しましょう。」



 これから暮らす家を見に行くとあってタニアがウキウキとしている。部屋で談笑していると、窓際のベッドに座っていたクラウドが庭を歩いて宿へと向かってくるルークに気づいた。どうやら一連の問題も片付いて匿われていたギルドから宿へと戻ってきたようだ。


 しばらくすると部屋にノックの音が響いた。



「クラウド居る~?」



「どうしたのルーク?いつもはノックなんてせずに入ってくるのに。」



「どうやら客が居るようだ。」



 クラウドが窓から見た時、ルークは見慣れない3人と連れ立って歩いていた。



「入るよー。」



 カチャッと音を鳴らしながらドアノブを捻りルークが部屋へと入ってきた。



「昨日はどうも。」



 ルークに続いて入って来た2人。一人はルークとともに戦ったBランク冒険者ジン、その後ろには隠れるように一人の少女が立っている。にこやかに笑顔で挨拶するクラウド。しかしそれとは逆に入って来た3人の動きは止まった。


 見知らぬ人物が居るのを見て来客中かと考えたケイトに対しジンは高ランク冒険者ということもありその人物に見覚えがあった。以前王国に襲い掛かった魔物の群れ、その魔物氾濫スタンピートの討伐作戦の折に挨拶を交わしている。


 ケイトが出直しを申し出ようとする横で固まって動けないジン。そんな2人よりも早くルークがその人物の名を呼んだ。



「エリック様?どうしてこんなところに?」



「何でもこの街から人を呼んでたらしいぜ。それでその人を送るついでにここに挨拶に来たんだと。宰相ってのは結構暇なのかいエリックさん?」



 はははと笑いながら話すクラウドであるが、その話相手はユーテリア王国のNo2である。



「何を言いますかクラウド殿。リリー殿下やエドワード殿下達が、引いては我が王国が受けた恩義。それを考えれば近くに皆様が居ると分かれば挨拶に来るなど当然ですぞ。」



 さもギルドマスターを送ったついでに挨拶に来たような物の言いであるが当然違う。彼はクラウド達に会う為に態々此処までやって来たのだ。


 より正確に言うならタニアに会いにであるが。


 以前クラウドが怒りの矛先をユーテリア王国に向けようとした時、それを止めたのはタニアであった。そしてそれ以降、エリックは何かと理由をつけてはタニアに会いに来るようになった。


 タニアと友誼を結ぶこと。それは国王アンドリューからエリックへと指示された最優先事項なのである。




 最もそんな事など知る由も無いクラウドは宰相は暇な仕事と割と本気で思っていたりするのであった。

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