開戦①
「へっ、慣らしにもなりゃしねえな。」
大勢の冒険者達が倒れる中、アガラが身体の調子を確かめるかのようにしながら吐き捨てた。
「しかし本部を攻めるのにたったこれだけとは思えないですぜ?何かの罠でしょうか?」
「いや、俺が襲い掛かった時こいつらはどこか不意を突かれたような動きだった。おそらくこいつらは此処に俺達の本部があると知らずに来たんだろうぜ。ライザー様の早とちりって訳だ。」
その時、離れた場所で一部始終を見ていた男がアガラへと近づいてきた。
「何を言っているアガラ。お前それを知りながらやったんだろう?」
倒した冒険者達が黒天を探索していた事は間違いないだろう。しかし此処に本部があると知りながら送り込まれてやって来る戦力では無い。おそらくは唯の探索班だろうとアガラも容易に推測出来た。
一度は負傷したアガラである。身体を回復する必要があった彼は黒天の本部アジトがあるこの街まで戻りポーションを使い身体を治癒した後、手勢を編成し態勢を整えていた。しかし、それは冒険者ギルドも分かっていた事。一度は負傷したアガラが迎え撃つ場所、それはつまりこの街に黒天の重要な拠点があることを相手に教えるようなものだ。
態勢を整えていたアガラは手下だけで襲い掛かっても十分勝ち目はあるだけの戦力を持っている。しかし、それと知った上でアガラは戦いの場に現れた。その理由は、
「へっ、それこそ何言ってやがる。エディだってもう分かってんだろ?」
「ちっ、面倒な。お前の部下だけで足りるだろう。俺はもう行くぞ。」
それだけ言うとエディアールは姿を消した。
「なんでぇ相変わらず付き合いの悪い奴だ。仕方ねえ、おいお前ら!倒れている奴らは1人残らず殺せ。本部の場所を教える訳にはいかねえからな。」
「「「へいっ!」」」
自分が此処に居ると言う情報を相手に渡す気が無かった、つまりアガラは最初から冒険者達を生かして帰す気など無かった。エディアールはそれを察して戦闘に加わらず、周囲に冒険者達を監視若しくは支援する為の人員が居ないかを探っていたのである。
結果、やって来た冒険者達は本当に彼らだけで動いていたと分かり事後処理をアガラ達に任せエディアールは帰っていった。
彼らに誤算があるとするなら、それは唯一つ。
ルークという冒険者の存在である。しかし、事情すら知らない彼らにとってそれを責めるのは酷と言えよう。
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「むっ、これは!」
グラスフォードの冒険者ギルドの会議室でそれを見ていたノビアが声を上げた。
「どうかしましたかノビア様?」
「ジンとルーク君を呼んでくれ。」
部屋にいた職員に指示を出すノビア。彼が見ていたのはルークから非常時という名目で借り受けた巻物で発動させた世界探索の地図である。
しばらくして部屋へ2人がやって来た。
「すまんな2人とも。ジン、身体の調子はどうだ?」
二つ名持ちのアガラと戦ったBランク冒険者のジン、彼はその戦闘で毒に倒れた。
「もう大丈夫だ。というよりルークから譲って貰ったポーションのおかげだな。あっという間に解毒出来たわ。俺が持っていた毒消しポーションじゃ効かないような強力な毒だったんだが…」
「は、ははは…」
Aランクが世界に数人しか居ない事を考えればBランクと言えば冒険者でもトップクラスと言える。そのジンが持っている毒消しポーションですら効かない猛毒をいとも容易く治癒するポーションを持っているルークにノビアは乾いた笑い声しか出ない。尚、ジンはルークに負けて以降呼び捨てでルークを呼ぶようになった。それはジンがルークを一人前の冒険者として認めたということである。
「まあ二つ名通りと思って戦うと痛い目に合うという良い教訓になったさ。まさか拳を覆うセスタスに毒を仕込んでいるとは思わなかったからな。それでどうかしたのか?」
「ええ、ここを見て下さい。」
「これは街の西にある商業区か?ん、何か反応が一つ出てるな。これがどうしたんだ?」
「実はついさっきまで此処には15人程の冒険者達の反応がありました。それが全て消えたんです。まさかと思い検索条件を変えました。今地図に反応が出ているのは黒天の二つ名持ちです。」
「何っ!ってことは!」
「ええ、さっきまではもう一つ反応がありました。つまり二つ名持ちが集まっている場所、まず間違いなくこの周辺に敵の本部があります!現在可能な限り戦力を集めています。数が揃い次第攻撃を仕掛けようかと思っているのですが…」
そこまで言うとノビアは口籠った。その理由は敵戦力にあった。
黒天に二つ名持ちが5人居るというのは知られた話しである。
身体一つで敵を叩き伏せる『鉄拳』のアガラ。
構えた双剣がまるで別々の生き物のように相手に襲い掛かる『双頭蛇』のエディアール。
女好きでよくトラブルを起こす四天王きっての凄腕の剣士、『好色』のブルーム。
策略を好み滅多に姿を見せる事が無い策士、『指揮者』のバジル。
そして一癖も二癖もある構成員たちを1人で纏め上げる、黒天の元締め『羅刹』のライザー。
もし全員が一か所に集まっているなら今の戦力では決して敵わないだろうだけの相手である。ノビアは当初、いくら二つ名持ちであろうと現役のBランク冒険者ジンであれば各個撃破なら十分勝ち目はあると考えていた。
それが蓋を開けてみれば、実際の敵は予想以上に手強かった。勝利を最優先に動いたジンでさえ引き分けるのがようやくだった程に。ノビアにとっては不本意ながら、どうしてもルークという戦力が必要になった。
すまないと言葉を添えてからノビアはルークに協力を頼む。いわばギルドの勢力争いとも言える戦いに冒険者に成りたてのルークを巻き込んだ事を申し訳ないと思いながら。
しかしルークにしても今回のことはそもそもの話しとして黒天のメンバーを自分が倒した事で起こったことである。事件解決に向けて力を貸すことは当然と答えた。
「あ、それとなんですけど…」
話しも終わり攻撃の準備に入ろうとしたノビアやジンが席を立つが、ルークの言葉に再度腰を降ろした。
「どうしたんだルーク。もし譲ってもらった治癒のポーションが気になるなら先に代価を払っておこうか?」
恐らくはルークが持つ回復アイテムの中でも指折りに違いない貴重なアイテムを譲ってもらったジン。最初は気にしていないと言われたものの、やはりその代価を気にしているのではと考えた。あれだけの貴重なアイテムなら手持ちの金だけでは足りないが、幸いにも今いるのは冒険者ギルドだ。ギルドに預けてある自分の金が自由に引き出せる。
「むっ、そういう事ならやはりこちらが先でしょう!譲ってもらった世界探索の巻物がどれ程優秀であったか。」
即座に代金を計算し始めるノビアとジンを見てルークは慌てて続きを話した。
「ち、違いますよ!アイテムの事は本当に気にしてませんから!ただ、今回の戦いの事ですが多分大丈夫って事を伝えようと思っただけで…」
「何!?それは一体どういう事だルーク?」
その言葉にジンが首を傾げる。
「あはは、まぁ詳しくは僕も分かりませんが…」
そう笑いながらルークは説明に困った。ルークが持つ通信用の魔導具にクラウドから連絡が来たのは昨夜のこと。帰れない事情を説明した時、クラウドは謝った。
曰く、「ルークの邪魔をする気は無かったが、こっちにも事情があるから。」と。
ルーク達はそっちで勝手にやってくれれば良いからなと告げたクラウド。それだけで付き合いの長いルークはクラウドが何を言いたいかを大体であるが察していた。
「(どうやってかは分からないけどクラウドは僕が黒天と揉めていることを知ってたんだ。そしてクラウドも何かの理由で黒天と揉めたんだ。僕の邪魔をする気は無かったって言うのは多分、クラウドが相手をしようとしてる人が僕の揉め事に関係してたんだろうな)」
更に言うならクラウドが「ルークは勝手に戦って良い」と言ったという事は、裏を返せばルークが死ぬような危険な戦いでは無いと他ならぬクラウドが考えているということを意味する。
しかし、いくら自分が信用しているクラウドの言葉といえどそれをノビア達に説明するのは難しい。何せクラウドの事など何一つ知らないノビアとジンがその言葉を盲目的に信じてくれるとは思えないからだ。結局、クラウドにも言われていた通り魔導具で敵戦力を調べた結果だとだけルークは説明するに留めるのであった。
そしてその日、遂に冒険者ギルドと黒天は衝突する。




