ルークの思い
「ちっ、何て数だよ!」
そう吐き捨てるのは黒天のアジトにいるメンバーの1人。グラスフォードの南部一帯のアジトを制圧された黒天のメンバーたちは少しずつではあるが確実に追い詰められていた。
そして今、更には西部にあるアジトまで冒険者達の手が伸びている。とあるアジトで隠れている者達を捕らえるため周囲は冒険者達に囲まれている。その様子を窓から見て悪態をついているようだ。
「ふん、まあそう焦るな。このバカ騒ぎももうすぐケリがつくさ。」
「え?本当ですかいアガラ様?」
黒天のメンバー達はそれぞれ得意とする専門分野がある。アガラと呼ばれた男は黒天の中でも荒事を引き受けることで稼いできた。その腕は黒天でも5本の指に入る程である。
「ああ。それじゃあまずはこいつらをぶっ倒すとしようぜ。せっかく騒ぎが終わっても自分達が捕まった後なんて冗談にもなりゃしねえからな。」
「ははは!間違いないっすね!」
そう言うと自身満々でアジトから出ていく面々。その数はおよそ15人。
アジトを囲む30人の冒険者達はそれを見て一斉に襲い掛かってきた。
「おりゃぁぁ!」
走り込んできて剣を振りかぶった冒険者が気合を込めて剣を振り下ろした。
「ふん!」
ズドッ!!
すいっと半身になりそれを躱したアガラが拳を腹に叩きつける。
「ぐうぇ!?」
ドッと音を立て地に膝を付いた冒険者の顔は苦悶の表情に歪んでいた。
「な、何だアイツ!剣相手に素手で?」
「まずいぞ、あれは鉄拳のアガラだ!こんなところに大物がいやがった!応援を呼んで来い!」
「あれが二つ名持ちの…。倍の人数程度じゃあヤバいかもな…」
冒険者達が俄かに騒ぎ出す。
「けっ、馬鹿が!名前を聞いたくらいでびびるような奴らが、だいそれた真似してんじゃあねーぞ!」
「うおおー、アガラ様に続けーー!」
「ちぃっ!持ち堪えろーー!応援が来るまで逃がすなー!」
「少しだけ耐えてくれ!魔法で打ち崩す!」
「よっしゃあ!前線は任せろやー!」
西部のアジト周辺で血生臭い戦闘の火蓋が切って落とされた。
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「な、なんだ…これは…?」
冒険者ギルドで文字通り言葉も出ない程に驚いているのは当ギルドのサブマスターを務めるノビアである。
事の起こりはルークの言い分であった。
当初ギルドへと連れてこられたルークを見て一先ず保護出来たと安心したのもつかの間、ルークはケイトを救けに行くと言い出した。勿論あまりに危険だと断ったノビアであるが、どうしても行くと言って譲らなかったルーク。そんな彼を諦めさせる為にノビアはある条件を出した。
それが『裏ギルド屈指の勢力である黒天を相手にしても助け出す事が出来る力があると認めさせる事』である。
冒険者ギルドに登録したての新人には到底無理な話しであり、仮にそこそこの実力を見せたところでノビアが認めなければ済む話し
……の筈だった。
「す、凄い…」
一部始終を見ていたイリアが呆けたような表情でそう呟く。そこにはグラスフォードの冒険者ギルドの中でも指折りの実力者であるBランク冒険者を相手に余力を残して勝ってみせたルークの姿があった。
「これで認めて貰えますね?」
「うっ…」
そう言ってにこやかに笑うルークを見て、イリアは顔を赤く染める。
それも当然だろう。ルークは最初Dランクの冒険者との対戦を言い渡された。そしてそれに勝てば次のランクの相手を指名される。
それを繰り返し何と3連戦した上でBランクを打ち負かしたのだ。
ノビアが今回の件に備えて呼び出した最高戦力、それを倒してしまったルークに対し力が足りないなどと言える筈が無い。
「し、仕方ありません…。今南部のアジト制圧が終わり西部に人を集めています。そろそろ幹部も出てくるかもしれません。ルーク君もそちらに回って下さい。」
「待って下さい!僕はあくまでケイトさんを助けに行きたいんです。他のアジトなんかに行く気はありません!」
「は!?し、しかし、肝心のケイト君が何処に居るかが分からないんです。アジトを一つずつ潰していくしか無いでしょう?」
「いえ、場所なら分かります!これを使えば…。」
そう言ってアイテムリングから取り出したのは一つの巻物であった。
「マ、マジックポーチ!?貴方はそんな貴重なアイテムを一体何処で!?それに今取り出したのは一体何ですか?まさか魔導具じゃあ…?」
「ええ、そうです。これは魔法が込められた巻物です。」
そう言うとルークはその巻物をひょいっと空中に投げた。
「【世界探索】。」
ルークの声に反応し巻物が一瞬で広がったかと思うとそこに魔法陣が浮かび上がった。そしてその後、ルークの前にはその場の誰もが見た事も無いほどに詳細な半透明な地図が広がっていた。1m四方程度の大きさの地図が空中に浮かんでいるのを見たところでノビアの冒頭のセリフへと戻る。
「な、なんだ…これは…?」
驚くノビアがゆっくりとルークへと近づいてくる。足元で倒れていた対戦相手もようやく身体を起こし、その異常な光景に言葉を失っていた。
「これは世界探索っていう魔法が込められた巻物です。一般的な地図魔法と違って地図上に色々と条件を付けて相手を表示させる事が出来るんですよ。」
そう言うとノビアへ向けていた顔を地図へと向けた。
「ケイトさんを出して。」
「…?何も起こらないぞ…?」
ノビアが不思議そうに首を傾げる。
「今映っている範囲に居ないみたいです。地図縮小して。もう一度ケイトさんを探して。」
その言葉に反応し瞬時に縮尺が変わった。冒険者ギルドの周辺が映っていた地図は一瞬にしてグラスフォード全域が映る程の縮尺へと切り替わる。そして、
「居たっ!ここだ!」
地図の中に一か所赤く光る点が映し出された。
「な、なんて事だ…。この魔導具の性能は尋常じゃない……」
悪用されればどうなるか?あらゆる人物の行動は筒抜けになり、誘拐・襲撃が横行するだろう。本来なら情報を掴むことさえ困難な筈の王族さえもがその対象となる。その可能性を察したノビアがその危険性にガクガクと震えている。
その一方で地図を見ていたルークはケイトの場所がいまいち掴めていなかった。詳細な地図ではあるが何処に何があるかまでは分からない。透けて見える一色の航空写真のようなもので建物や道の形は映っているが自分が行った事が無い場所では映っているのが何の建物かが分からなかったのだ。
「これは西部にある馬借の店だな。」
ようやく身体を起こして地図を見ていた男がそう話す。
「ジンさん、大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな。しかし君のような少年にこうまで見事にやられるとはな、驚いたよ。」
「す、すいません。ジンさんの動きが早くて、どうしても当てなくっちゃと思うと力が入っちゃって…」
「ははは、そんな事気にする事じゃ無いよ!だけど落ち着いたら君とは一度ゆっくり話してみたいな!」
「はい、喜んで!それでジンさんはこの場所を知ってるんですか?」
「ああ、簡単に言えばここは遠出する者を相手に馬を貸してくれるところだ。確か老夫婦が2人でやってる店だった筈だが。」
「すぐ助けに行きます!」
「よし、俺も同行しよう!情けない話しだが、君が手加減してくれたおかげで動く分には問題なさそうだからな。」
そう言うとパチリと片目を瞑った。しかしそれを聞いたノビアが慌ててそれを止める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ジンはここに居てくれなきゃ困る!今やってる制圧任務の切り札として呼び寄せたんだからな。」
ノビアがそう言った時、訓練場の扉が開き職員が走って来た。
「ノビア様、大変です!西のアジトに向かった30人がやられました!どうやら敵に鉄拳のアガラが居たようです!」
「なっ!?アガラだと!…ジン!」
二つ名を持つ敵の主力の1人の名前が出ては仕方が無い。ジンはそれを聞きコクリと頷いた。
「すまんルーク。援護は出来そうもないようだ。」
「大丈夫です!ようやく少し自分の腕に自信が付きました。他にも魔導具はありますし、何とかして見せます!」
そう言って笑顔を見せるルーク。
「おいおい、Bランク冒険者より強いってのに今まで自信無かったのかよ…」
「あれの他にも魔導具だって!?一体どんな物を持ってるっていうんだ…」
「そ、その笑顔に弱いのよね…。全くルーク君ったらもうっ…」
それを見た3人の反応は三者三様であったという・・・




