暗躍する者達③
裏ギルド黒天の拠点の一室では今まさに元締めのライザーにルーク発見の報告がなされていた。その部屋は3階にあるにも関わらず、その外で屋根に立って壁に背をつけるようにして聞き耳を澄ます人影が2つあった。
「…おい、あまり壁にくっつくな。気づかれてもつまらん。」
「む…」
「聞きたい話しは聞けた。いくぞヒュウガ。」
「ちっ…」
舌打ちをした男はあっという間に軽やかな足取りで屋根から飛び降り街並みに姿を消した。
「やれやれ…」
ヒュウガに話しかけた男もまた同様にあっという間にその姿を消したのであった。
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翌日グラスフォードの街は喧騒に包まれていた。街のあちこちで黒天の構成員と冒険者達が衝突しているためだ。
きっかけは昨日の夜に起こった。
ルークを匿った冒険者ギルドに対する報復として黒天の構成員数名が独断でギルド職員を襲ったのである。そして襲撃を受けた職員の中に冒険者達に大人気の受付嬢ミアがいたことが冒険者達を激怒させた。
帰り道に偶然を装い声を掛けようとしていた冒険者がおり、ミアが襲われている現場に居合わせる事が出来たのは運が良かったと言える。しかし命が助かりはしたものの襲撃者に殴られ顔に大きな痣を作るはめになり仕事を休まざるを得なくなった事を知った彼女のファン達が怒りのままに黒天襲撃の依頼をこぞって受けたのだ。
「なんだか今日は街が騒がしいねクラウド?」
「ああ、何だかそこら中で喧嘩してるみたいだ。まあタニアちゃんが気にすることは無いさ。」
現在はロズウェル商会のメイソンに家を探して貰っているクラウド達。良い物件が見つかるまでは宿暮らしである。そのため特にやる事が無い2人は観光やショッピングで時間を潰していた。
「けっ、おい兄ちゃんよ!俺達冒険者が身体を張ってるからこそこの程度の騒ぎで済んでるっていうのに、女連れで買い物とは良い身分だな、あぁ?」
対黒天のために街に配属された治安維持の依頼を受けた冒険者であるが、あまりに気の抜けたクラウド達の会話にイラついたようだ。
「おい、聞いてるの「黙れ」」
ズバンッ!
タニアの肩を掴もうと伸ばした腕であったが、肩を掴むより早く飛んできた拳が顔面に命中した。
「ごぶっ!?」
ごろごろと転がる冒険者を見て殴った男が溜息をついた。
「タニア殿に感謝するが良い。むやみやたらに命を奪う事を良しとせぬお方ぞ。」
タニアの影から現れたのは小柄で中性的な顔立ちをした少年のような見た目である。
「リックン!ありがとう!」
「この程度、何ということもありません!」
2人の会話を聞きながらクラウドは溜息をつく。
タニアが会話をしている相手はかつて自分が追い払った筈の相手。強い希望を受け、とあるお使いを条件として護衛に復帰した男。
それがリックンと呼ばれた男である。その正体は人化の魔導具で人の姿になった神獣『麒麟』である。タニアが麒麟のキリくんと呼び出した事でいつの間にか定着していたあだ名であるリックン(使うのはタニアのみ。その為麒麟にはタニア以外の人間が使う名前として『リック』という名が付いている。)
「おいリック。いきなり相手を殴るんじゃない、後が面倒だろ?」
「何を言われますか、タニア殿に危害を加えようとした者に配慮など無用!本来なら一人残らずぶち殺すのが当たり前です。」
物騒な物言いであるが大筋では同意出来るクラウドがそれに反対することは無い。
「それで、もう1人の問題児は何処にいるんだ?」
「あ奴なら宿に籠っております。全く困った奴ですなタニア殿?」
「ん、でもルークの事で心を痛めてくれてるんだもの。あまり悪く言わないでねリックン。」
「何とお優しい!かしこまりましたタニア殿!」
満面の笑みを浮かべる麒麟。
「ったく、仕方ない奴だ。お前からも会ったらもう一度言っておいてくれよ。冒険者という仕事を選んだのはルーク本人なんだ。危険を承知で飛び込んだ世界だ、保護者面して要らん横やりを入れるなとな。それはルークの覚悟を侮辱する行為だとな。」
「…分かりました。伝えておきます。」
「…お前、どうでもいいけどタニアちゃんと話す時とそれ以外の奴と話す時の落差が酷いな…」
「おいっ、そこの奴ら!お前らまさか冒険者じゃな「黙れ」」
ズバンッ!
人相の悪い男がごろごろと道に転がる。
「…やれやれ今日はもう宿に帰るか。これじゃ散歩も出来やしないな。」
街はそれ以降、更なる混迷を見せる。
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一方、冒険者ギルドでは黒天襲撃の結果が次々に報告されていた。
「ノビアさん、南第二支部のアジトは制圧が完了したそうです!」
「よし、そこを拠点にして西部ブロックにあるアジトから攻撃しろ。まずは西・南を一掃して後顧の憂いを無くしてから、最も大きい北部を制圧するぞ。」
「は、分かりました!ではそのように手配いたします。」
報告書を持って来ていた職員が新しい指示を受けて部屋を出て行った。現在冒険者ギルドの最奥にあるギルドマスターの部屋にて運営の全てを代行しているサブマスターのノビアがそう呟く。
「…ふう、全く。まさかロズ様が居ない時にこのような大事になるなんてね。」
「そういえばギルドマスターは一体どちらに行かれたのですか?」
普段は受付嬢として働いているイリアが多忙を極めるノビアの助手として力を貸している。同じ部屋でノビアのひとり言を聞いたイリアがふと疑問に思いそう尋ねた。
「さて?いつもブラブラとしている方ですが、今回は何処に姿を消したのやら…」
困ったものだとでも言いたげに首を傾げたノビアであるが、ギルドマスターが自分が受け持つギルドから無断で姿を消す筈が無い。ノビアは勿論彼の所在を把握している。しかし、だからと言って呼び戻す事は出来ない事情があった。
「(やれやれ。恨みますよ全く…)」
溜息と共に愚痴を吐き出しそうになるが何とか心に中だけで抑える事が出来たノビア。彼が忙殺される程の仕事量から解放されるのはまだまだ先のようである。




