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お説教

「ただいま~。」



 森の木漏れ日亭に着いたクラウドは受付に座っているシェリルを見て声を掛けた。



「あっ、やっと帰ってきたぁ!」



 にこやかに挨拶したクラウドを見てシェリルが声を上げる。すると、



「こらシェリル!お客様に向かってなんて口をきくの!」



 シェリルの頭に振り下ろされた拳骨がゴツンと音をたてる。



「いったーい!何するのよお母さん!」



「何するのじゃありません!お客様の前で恥ずかしい真似は止めなさい!


 失礼いたしました、クラウド様、ルーク様、タニア様。私はこの宿で女将をしておりますアニスと申します。実は少しお話がありまして。お時間をいただけますでしょうか?」



「シェリルちゃんの事は気にもしていませんよ。お気遣い頂かずとも大丈夫です。実は皆おなかが空いてまして、食事の後でも良ければ大丈夫ですよ。」



「かしこまりました。それでは直ぐに夕食の準備を致しますのでクラウド様達もいつでも食堂の方にいらして下さい。」



 そう言ってアニスは奥へと入っていった。



「・・・どうしたのシェリルちゃん?何があったんだ?」



「もうっ。お母さんったら自分だってお客様の前で娘を叩くなんて・・・」とブツブツ言いながら未だ頭を擦っているシェリルに尋ねる。



「うん、それがね、昼に頼まれた手紙をロズウェル商会に届けたんだけど・・・」



 そう切り出したシェリルの話しによると、どうやら手紙を渡して帰ってくると既にメイソンが宿に居たという。



「どういうこと?ちょうどメイソンさんもここに何か用事があったのかしら?」



 不思議そうにタニアが呟く。しかしシェリルによるとメイソンが来たのは届けた手紙を見たからだと言ったそうだ。それも見たと同時に商会を飛び出し馬車に乗って来たため歩いて帰っていたシェリルを追い越したらしい。


 既に街のVIPの一人であるメイソン。その彼の行動に驚き理由を尋ねたが何も教えてくれず、ただ「手紙を書いた相手と連絡を取りたい」の一点張りだったという。



「そりゃあ確かに気になるな。アニスさんが時間をくれというのも当然か。よし部屋に寄らず直ぐに食堂に行こう。2人ともそれでも良いか?」



「うん。僕は大丈夫だよ。おなかも空いてるし直ぐにでも食べられるから。」



「私も大丈夫よ。それより早く話しを聞きましょう。何かメイソンさんが困っているなら大変だもの。」



 食堂に行き食事を済ませた後、部屋へと戻った3人のところへアニスが訪ねてきた。今まで食べたことも無い程美味しい料理だったと感激するルークとタニアに感謝を告げながらアニスが要件を切り出す。


 それは簡単に言えばクラウドへ直接ロズウェル商会へ出向いて欲しいというお願いであった。



「お客様へこの様なことを言うのは心苦しいのですが、メイソン様といえばグラスフォードへ来てわずか1年でこの街でも屈指の商会へと成長させた人。そんな方からの希望ともなれば無視する訳にもいきません。」



 アニスは宿泊客であるクラウドへ対し街の名士からの頼み事だからと言って行動を強要することを良しとしていなかった。その気配りに気づいたクラウドは自分が出向くと返答する。

 最もそれは元より自分の希望でもあったのだから「丁度良い」だけの話しでもあるが。



 話しを終えた後2人を部屋へと残してクラウドはメイソンに会うべく出て行く。



「それじゃあちょっと行ってくるわ。なるべく早く帰るから。遅くなりそうなら先に休んでいてくれな。」



 そう告げて出て行ったクラウドを見送りながらルークは不思議に思う。


 ルークが知るメイソンという男は決して自分の都合で人を呼び出すような人間では無かったと。忙しいのは分かるがそれでも何かしっくり来ないのだ。



 しかしそれは仕方が無いことであったろう。金を持てば人が変わるなどいくらでも聞く話しなのだから。





 と言いながら実は今回の一件、その原因はクラウドにあった。メイソンは娘の命を助けてくれた上に自分に上級ポーションと同等の薬効を持つ傷薬の作り方を教えてくれたクラウドへの恩義を忘れた事など唯の一日たりとも無い。連絡を取りたいと思っていたのは他の誰でも無いメイソンの方だったのだ。

 彼は出所を探られて迷惑を掛ける訳にはいかないからとクラウドから譲られたアイテムリングさえ使わずに大切に仕舞い込んでいた。商人であるメイソンからすればこれ以上便利なアイテムは無いというのに。







 にもかかわらず、入っていたのだアイテムリングが。



 届けられた手紙の中に。




 クラウドからしてみれば1年近くも連絡を取っていなかった相手である。万が一自分の事を忘れていた場合でも『これ』を見れば思い出してくれるだろうと考えての事だったのだが。


 そしてそれを見て焦ったのがメイソンである。他人に預ける手紙の封筒にアイテムリングを入れるなど常識では考えられない。しかも書かれていたのは非常に簡単な文章のみ。


『グラスフォードに来たのでなるべく早く会いたい』というもの。


 アイテムリングと言えば以前に自分がクラウドから貰ったもの。それを同封しているという事に何か意味があると考えた結果、自分に向けた何らかのメッセージと思ったのだ(メイソンはそれを緊急性の高いものと読み取った)。

 クラウドが自分で動けないような状態に陥っているのではと心配したメイソン。それを受け取ったメイソンからしてみれば、恩人であるクラウドの一大事に見えても仕方が無かっただろう。


 アニスに理由を聞かれてもアイテムリングの話しなど出来る筈が無い。その結果、一刻も早く連絡を取って会いたいという伝言になったものをアニスが権力者からの呼び出しと受け取ったのである。



 その後、教えられた屋敷にまで出向いたクラウド。久々に会うメイソンを前に旧交を温めようとしたのであるが・・・



 久方ぶりの再会はメイソンのお説教からのスタートとなるのであった。




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