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南部統括都市グラスフォード

「あれがそうなのね。本当に大きいわねぇ・・・」



 馬車の窓から顔を出してタニアがそう呟いた。現在ルークとタニアとクラウドの3人が乗っている乗合馬車からは南部統括都市グラスフォードが遠目に見えていた。


 当初トント村から出てミルトアで暮らそうと考えていたクラウドであったが、ルークとタニアから「色々な街が見てみたい」と言われた事で急きょ予定を変更したのであった。

 バダックに相談した結果、自分が面識ある貴族の中では比較的まともという理由に加えて、治める都市も王都に次ぐ大きさを誇るという南部統括都市グラスフォードを勧められたのである。


「バダックさんがそう勧めるなら」とクラウドが了承したことで3人で向かう新天地として採用されたのであった。


 もっともバダックは数か月前にクラウドから転居を考えていると聞いて以来、自身が治めるミルトアの街へ移り住むものと思い込み3人のために家まで探していたのであるがその苦労は空振りとなっている。それならばといつでも会えるようミルトアから近い場所を推薦したというのが彼の本音である。勿論グラスフォードを治めるジェフリーが爵位を笠に着て好き勝手するような貴族では無い事も本当のことであるが。



「う~んやれやれ、ようやく着いたか~。」



 馬車の中で身体を伸ばしてクラウドが言う。



「ふふふ、クラウドはいつもは馬車なんかに乗らないから身体が痛いんじゃない?」



 これからは都会とも言えるグラスフォードで暮らすこともあり変に目立つ事は避けた方が良いというクラウドの主張によって一行はグラスフォードまでの旅路を乗合馬車で移動している。ミルトアから出発し数か所の街や村を経由してようやく到着したのであった。



「しかし退屈な旅だったな。」



「トラブルなんか起こらない方が良いじゃない。」



 クラウドの言葉にタニアが返す。その言葉通り移動中は特に大きなトラブルも無かった。


 最もそれはクラウドが家族を連れて移動すると聞いたアンドリューがエリックに命じて街道周辺の魔物狩りを行った結果であることを彼らは知る由も無い。もし何かの間違いでルークやタニアが傷つこうものなら怒りに燃える保護者がどう行動するか分かったものではない。


 1年前にマーサ婆さんの墓を荒らされ怒りに狂ったクラウドを見たアンドリュー達。タニアがクラウドをなだめるのが少しでも遅れればその矛先はユーテリア王国にも向いていた事を知る彼らである、王国の危機とも言える事態に国王の懐刀であるエリックの動きは早かった。



 国の予算から特別予算を割り振り王国の騎士団、魔術師団をほとんどを動員、訓練の名目で南部の魔物掃討・盗賊の殲滅に動いたのである。また、王都とグラスフォードの冒険者ギルドにも国からの特別依頼として魔物の討伐依頼が出されまくった。しかも通常よりも成功時の報酬、魔物の買取価格が共に1.5倍、盗賊の討伐にも追加報酬が出るという大盤振る舞いである。


 これに飛びついたのは勿論冒険者達であった。王都やグラスフォードだけで無く周辺からも噂を聞きつけた冒険者が集まり南部の冒険者達は好景気に沸いていた。


 そしてそれもまたエリックの計画通りである。どんな人間も懐が温まれば生活に余裕が生まれるというもの。グラスフォードに集まる冒険者に余裕が生まれればそれだけ揉め事も起こりにくくなる。クラウド達がトラブルに巻き込まれる可能性も下がるだろう。


 この考えを聞いたアンドリューは何とかしてグラスフォードの都市のみ常時この価格で魔物討伐依頼が出せないか真剣に検討したがエリックから「バレた場合に自分達を特別扱いしたとクラウド殿から不興を買う恐れがある」と忠告されやむを得ず断念している。



「はっはっは。兄ちゃん達馬車は初めてかい?随分と疲れてるようだが。」



 乗合馬車は10人弱が乗れる程度の大きさである。隣に座っていた壮年の男が話しかけてきた。



「ええ。馬車で・・・の長旅は初めてでしてね。少し疲れてしまいました。」



「そりゃあ大変だったな。でもな兄ちゃん達は良い時に来たもんだよ。聖十字国との戦争の話しは知ってるだろう?あいつら魔物を引き連れて攻めてきやがったからな。この辺り一帯は特に荒れてたらしくてな。ここ数か月の間冒険者達が総がかりで魔物を狩ってたんだよ。だから途中は安全だったろう?」



「なるほど、それでか。旅の間中一度も襲われないから不思議だなと思ってたんですよ。」



 不思議に思っていた理由を知り「なるほど」と納得する。そんなクラウドを見てルークとタニアが久しぶりに見るクラウドの外面の良さに笑いを堪えている。



 ようやく馬車が城門へと到着する。乗客たちはその場で自身を証明する物を提示し各々が街へと入って行く。


 クラウド達が提示したのは身元の証明書。それもミルトアの街を治める領主であるバダック・スタドール子爵直々に書かれた証明書であったため荷物検査さえ受けずに入れる事となる。



「簡単に入れたね。これからどうするの?」



 呆気なかったやり取りを思い出しながらルークが尋ねる。



「ああ、取りあえず宿を取ろう。それからメイソンさんを探すよ。」



「メイソンさん?前に家に来てたおじさんよね?」



 タニアがそう言って首を傾げた。



「ああ。来てくれた時は王都に行ってて会えなかったけどね。初めてミルトアへ行った時、途中で会ったおじさんだよ。娘のアイリスって娘がオークに襲われて大怪我してな。それを治療した時に知り合ったんだ。ロズウェル商会って店をしているらしいんだが、その店がこの街にあるんだと。」



「うん。前に聞いたから覚えてるわよ。それでその人がどうしたの?」



 尚、当時ロズウェル商会はミルトアの街に店を構えていたのだが、その後クラウドから聞いた傷薬の精製方法を基に作り出したポーション『九死一生』が大ヒット商品となり商会は大きく急成長していた。その結果、ミルトアよりも大きな都市であるグラスフォードへと本店を移していたのである。


 尚、タニアがメイソンに会ったのは移転の際にクラウド達へ挨拶しようとトント村をメイソンとアイリスが訪ねたからである。



「ああ、折角知り合いがこの街に住んでいるんだ。色々教えて貰えるだろう?」



 そう言いながら宿を目指す3人。トント村という田舎から出ていくなどとは思ってもみなかったルークとタニア。新しい暮らしに不安はあれど期待に胸が弾むのであった。




 ようやくトント村を出てきました。今になって思いましたが、もっと上京後に絡む予定の人達の話しを書いておけば良かったです…。昔過ぎて筆者さえ当時の話しを忘れていたというw

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