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蜘蛛の糸

更新遅れて申し訳ありません。理由は後書きで。

 シレストの丘に2人の男が残っている。


 一人はトント村で暮らす魔法使いクラウド。もう一人は聖十字国のレンブラント・バルデック大司教。


 そのレンブラントは目の前で起こった事が信じられずに座り込んでいた。何しろつい先ほどまで居た筈の兵士や魔術師達は一人も居ないのだ。それどころか自分の眼下にはまるで新雪でも降り積もったかの様に真っ白な世界が広がっている。






 但しそれらは全て人骨であるが。




 自分を守るために遣わされた一大戦力であったワイバーンさえもが一匹たりとも生きていない。流石に人と違って白骨化するまでにはまだ時間がかかりそうではあるが、現時点ですでに身体中の水分は乾ききったようでその死体はミイラ化している。



「あ・・・あ・・あ・・・・」



 既に言葉にもならず呆けることしか出来ない。レンブラントは出陣の際にフェロー枢機卿より授けられた魔導具に感謝していた。彼が装備しているのは発掘された魔導具の中でも屈指の一品。神の祝福を受けたと考えられる脅威の防具である。実験では火・風・土・水とあらゆる魔法を防いでみせたそれは『祝福の法衣』と名付けられた。



「(いかなる魔法も防ぐこの防具が無ければ、自分も間違い無く死んでいたわけか・・・)」



 そんな事を考えていた時だった。唯一人生き残った男に向かってクラウドが近づいていく。



「き、貴様は一体・・・。だ、だが残念だったな!おそらくは大儀式を用いた一か八かの手段か秘蔵の魔導具の効果だったのであろうが、私が身に纏う法衣は神の守護を受けている!どのような魔法だろうと効きはせんのだ!」



「なっ!?そのようなものが存在するというのか!?」



 話しを聞いていたエリックが驚きを隠せない。



「【石化ストーン】」



 レンブラントの身体がビクンと跳ね上がった。



「なっ、何をした!?い、いや、私に魔法は効かぬはず・・・」



 過剰とも言える反応でレンブラントが声を荒げる。しかしクラウドの表情は何の変化も見せなかった。



「自分の行いが招いた結果だ。悔いながら逝け。」



「何を・・・?」



 それだけ告げると踵を返しアンドリュー達が映っているスクリーンに向け戻っていく。祝福の法衣を見て精霊魔法は防ぐ事が出来るが上位魔法への耐性が無いことを知ったクラウドは世界の終焉の効力範囲から意図的に彼一人を外したようだ。


 他の者達は一瞬で死んだ。しかし責任者は自分達がしたことを後悔しながら死んでいくべきだと考えたからである。



「見かけない奴らだ。こいつらが何処の奴らか知ってるな?」



 敬語もへったくれも無い口調で問いただすクラウド。その怒りの深さを知ったエドワードが慌てて答えた。



「こっ、こ奴らは聖十字国の者達です!我がユーテリアとは一切関係はありません!」


「馬鹿者!実際にこの国に住むクラウド殿にこれ程の迷惑を掛けておきながら国を統治する我らに関係が無いなどとどうして言える!下がっておれ!」



 余計な口を挟むなと言わんばかりにエドワードを叱責するアンドリュー。



「クラウド殿すまなかった。そ奴らは現在我が国に侵攻してきている聖十字国の者達です。トント村に居る我が愚息達を人質にするべく動いていたようでした。」



 申し訳ないとアンドリューが頭を下げた。周囲の貴族達がその行動を驚きながら見ている。中には王が頭を下げるなどと声を潜めながら話し合っている者達もいるようだ。



 王族を人質に取る


 戦争相手にそれが出来れば大きなアドバンテージになるのは間違い無い。しかしそのためにはヘンリー達が居るトント村を襲撃する必要がある。


 アンドリューの言葉を聞きマーサ婆さんの墓どころかルークやタニアさえもが危険に晒されていたことを知ったクラウド。


 そもそもクラウドはトント村周辺には索敵結界を敷いているため敵の襲撃は未然に対応出来ただろう。しかし村は守れるからと言って攻めてくる者達を許せるかと言えばそれはまた別の話しである。


 クラウドはマーサ婆さんの墓所を荒らす者達がシレストの丘で集まっていた事を察知出来なかった事を悔やんでいた。更にそれだけでは無くルークとタニアにさえ危害を及ぼすつもりだったという。


 それを知ったクラドの顔には普段の温厚な雰囲気など微塵も無い。かつて古代の高度魔法文明期に生きたクラウドは当時の貴族に楯突いた事で家族を全員殺されている。家族を失う事に強いトラウマがあるのだ。



「うぐっ、はあぁあぁあぁっ・・・、たっ、助けて!助けてくれぇっ!」



 後ろで立っていたレンブラントの声が響く。足先から石化が始まっているようだ。石化は瞬時に石へと変える魔法であるが、クラウドは効果を調節しその石化速度を可能な限り遅くした。本来ならその間に石化解除の魔法やアイテムを使用されてしまうが、現代の魔法では古代魔法への対応など出来る筈も無い。


 そもそもレンブラント自身は魔法を使えないのであるが。


 既に膝下までが石へと変わっている。祝福の法衣を着ていながら何故魔法が効いたのかなど考える余裕も無く足元から迫りくる石化の恐怖に我を忘れている。



 その様を見ながらアンドリュー達までもが恐怖に駆られていた。一たび敵対すれば自分達が同じ目に遭うのである。ユーテリア王国の面々が誰もが明日は我が身であった。

 助けを請うレンブラントであったが無論助けなどある筈も無い。少しづつであるが確実に石化していく自身の身体を見て既に正気は無くしたようだ。



「いっ、嫌だぁ!こんな、こんな最後なんてぇっ!」



 石へと変わった身体を引っかきながら少しでも抵抗しようとしていたようだが、それも僅かな時間だけであった。遂には胸が、首が石へと変わり最後に頭部が石へと変貌を遂げた。苦悶の表情を浮かべた一つの石像が出来上がった。



「聖十字国・・」



 そうクラウドが呟いた時であった。



「クラウドッ!」



 怒った表情でやって来たのはタニアである。魔物の領域も何のそのでシレストの丘へとやって来た彼女の両脇には2体の魔法生命体が立っていた。騎士ナイト守護騎士ガーディアンナイトである。彼女は騎士の肩に腰かけて移動しながら魔物の相手を守護騎士が行うことでここまでやって来たのである。



「タニアちゃん・・・」



 辛そうな顔で声を掛けたクラウド。彼は自分の管理が行き届かなかったためにマーサ婆さんの墓所が荒らされたことでタニアが心を痛めると思っていた。しかし、



「一体此処で何をしたのクラウド!」



「え!?」



 必死の形相でずんずんと進んでくる。転がる人骨も何のその。一度感情が高まれば周囲の事など目もくれず行動する。ルークならば良く知る彼女の一面である。


 彼女は異常とも言える光景を目にした時、十中八九はクラウドの仕業だと考えた。




 しかしもしそれが違っていたら?




 その時はクラウドですら対応出来ない程の危険な事態であった可能性がある。タニアはそれが怖かった。何をしたのかと怒鳴ってはいるが、本心では何があったのかと心配しているのだ。マーサに続きクラウドまで失えば一体どうなるのか?クラウドを心配する気持ちや残された自分とルークの今後の不安が彼女の心で爆発したのだ。



「タ、タニアちゃん・・・?一体何をそんなに怒ってるのかな・・・」



 怒りに染まっていた筈のクラウドであるが既に彼の表情は変わっている。般若の如く吊り上がった目は丸くなり、眉間に寄った深い皺は残ってさえいない。への字になっていた口も心持ちにこやかといえるそれになっている。


 クラウドは気づいたのだ。彼女の怒りが自分に向けられているということに。そして迫って来る女性は祖母マーサをして激情家と言わせたタニアである。



「何をじゃないわよっっ!!」



 周囲に響く怒号にクラウドの肩がビクッと跳ねた。



「一体何をすればこんな事になるのよ!おばあちゃんも居なくなっちゃったっていうのにこれ以上私達を心配させないでよ!!」



「い、いやそれは違っ・・・。俺はあくまでマーサさんのお墓を荒らした奴らを懲らしめてただけでタニアちゃんに心配を掛けるようなことは・・・」


「言い訳しない!!!」



「はいぃっ!!」



 自然と直立不動の態勢に姿勢を正すクラウド。こうなった彼女に反抗するのは愚の骨頂であることをルークとクラウドは知っているのだ。



「おばあちゃんに言われたでしょう!私達の自慢の兄になってくれるんでしょう?違うの?」



「違いません!」



「ならこんな不安にさせないでよ!クラウドまで何かあったら・・・。ルークだって悲しむわ!違うっ?驚いたんだから!クラウドの周りは骨だらけだし!!私がどれだけ怖かったか分かってるの!?」



 怒っていたタニアであるがいつの間にかその目には涙が浮かんでいる。ちなみにタニアは周りの骨を魔物のものと勘違いしている。



「ご、ごめんよタニアちゃん・・・。でも俺はどうしても両方に落とし前をつけ「でもじゃないわ!!」」



 確かに墓所は荒らされた。しかしだからと言って悲しみに暮れるタニアを置いて復讐するために家を空けるなど出来るクラウドでは無い。また、不穏な気配を感じたタニアがみすみすクラウドを行かせる筈も無かった。



「私泣いちゃった!泣いちゃったじゃない!強く生きなきゃダメなのに!クラウドのせいよ!どこかに行こうとするから!・・・ずっと傍に居てよぅ!」



 遂にはわんわんと泣き出してしまう。一生懸命生きてきたタニアは家族として頼れる相手が自分達を置いて何処かに行こうとしていると感じた。決して生涯の別れでは無いと信じてはいる。しかし不安はあったようだ。



「・・・うん。ごめんねタニアちゃん。本当ならこれからユーテリアと聖十字国に落とし前を付けさせに行きたかったんだけど。一緒に家まで帰ろう。」



「うん。」



 そう言って手を繋ぎ2人は帰っていった。


 落とし前を付けさせたかったと言われ震え上がっているユーテリア王国の面々には目もくれずに。



「・・・エリック?」



 アンドリューが震えながら声を出した。



「承知しております。先ほどの謝罪の件は必ず速やかに。」



「その時はお前もトント村まで行ってくれ。」



「無論にございます!何としてもタニア殿と友誼を結んで参ります!」



「・・・うむ。それが分かっておれば良い。頼んだぞ。マーサ殿亡き後タニア殿のみが我らに残された蜘蛛の糸じゃ・・・」



 その言葉に異議を唱える者はその場には誰一人として居なかったのであった。



魔法の名前が決まりませんでしたw←大マヂ

石化ストーンも取りあえず仮です(笑)。使い勝手が良さそうな魔法だったんですが、正式呼称が決まるまで出番は無いかと思います。悔しー!

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