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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京少女
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告白

 屋上の真ん中には既に3人の女の子たちが集まっている。このビルまで俺を運んでくれた少女は、時々振り返って手招きする。不思議と彼女だけは俺を歓迎してくれていた。



「こっちよ、こっち!」



 スタンドにかけられたガソリンランタンの光が、救世主の姿をハッキリと照らす。


 暗闇の中でも分かっちゃいたけれど、本当にベビーフェイス。顔だけみたら小学生に見える時もある。肩まで伸びている黒髪は美しく、触覚のある前髪は可愛らしい。長い睫毛まつげの大きな目はキラキラしているが、不思議と柔和な印象を与える。服装は女子高生の夏服そのもので、半袖のシャツの首元からは赤いタイが出ている。グレーのチェック柄をした短いスカートから長い足がスラリと伸びていた。


 ようするに……女子とは縁のない人生を送ってきた(俺の如き)日本男児なら誰だって一目惚れしてしまう容貌だったのだ。


 地面に直接体育座りした彼女は手を伸ばし、俺にも座るように促した。



「そうね。私の隣にでも座ってくださいな。ちょっと地面が固いけど」


「お……おじゃまします」


 

 俺は恐縮しながら、皆が体育座りしている空間に腰を下ろした。

  

 キョロキョロと辺りを見回せば、このビルの屋上には自家発電機やテントや飲料水、その他諸々の生活に必要なもの一式全て揃っているのが分かる。



「そうだ。君達は一体どうしてこんなところにいるんだ?」



 彼女は俺の質問を遮って自己紹介をはじめた。



「垣内彩奈です。以後お見知りおきを!よろしくね」



 というと、彼女は右手を伸ばして握手を求めてきたので、俺は恐る恐る手を伸ばして握手する。さっきまでの険しい表情とはうって変わって微笑んでいる彼女に、少し戸惑ってしまう。目の前にいるホンワカした子と、東京港でゾンビを砕いていた子が同じ人だなんてちょっと信じられないな。



「俺は……石見蒼汰って言うんだ。父島ってところから来たんだ。ちょっと遠いんだけどさ」



 続いて彼女は簡単に他の子達を紹介する。



「一番小さい子が朱雀愛ちゃんで、次に大きな子が杉春香ちゃん。そして眼鏡の子が坂崎澪さん。分かった?」


「えっと……。だいたい」



 子供達が沈黙する中、彼女だけが語り続ける。



「蒼汰さんが父島出身ってことは……父島はやっぱり無事なの?そうよね!?」


「うん。誰も感染してないよ」



 すると彼女はパチンと拝むように手を合わせた。



「じゃあ……お願いだから私達もいつか父島に連れてってください!本当にお願いっ!お願いお願いっ!」


 

 俺は返事に困ってしまった。



「いやぁ……そうしたいけど。船が爆破炎上沈没しちゃったし……無理なんだ」


「それは私だって分かってるもん!でも諦めないもん!漁船と燃料なら私がなんとかするから!だから貴方が父島まで操縦して」


「むりむりむりっ!だいたい父島まで1000キロ以上あるんだよ。GPSも電波航法もできない世界だし……コンパスだけじゃ素人にはとても無理だよ」



 っていうか、よく考えたらそもそも船の操縦なんて俺はできないし!


 無理だと分かると体育座りしていた彼女は、固い地面にゴロンと寝そべって足を組んだ。よほどガッカリしたらしい。駄々をこねる子供のように足をバタつかせていた。



「駄目なの〜っ。もうヤダァこんなの……ヤダヤダ……あ〜ぁ!嫌いっもう」




 ここで俺はふと大事な……そして絶望的なことを思い出した。



「あの……君はゾンビに腕を引っかかれてたよね?傷口は大丈夫なのか」


「あっ!そうだった。忘れちゃってた」


 


 彼女はおもむろに起き上がり二の腕の傷を見つめる。白い皮膚の一部にひっかき傷があり、そこが血が滲んでいた。これってマズくないか……。死を意味する傷なのだが。




「あぁ……。傷跡が残らないといいなあ」



 一番小さな女の子(愛ちゃん)はトトトっと塔屋まで走ると、救急箱を持ってきた。



「彩奈ちゃんこれでいい?」


「ありがとう。絆創膏でも貼っておくよ……」



  メガネの坂崎澪が俺を睨んでるので思わず顔をそむけた。彼女の心の声が聞こえてくるんだ。『なんで役にも立たない阿呆を助けて彩奈さんがゾンビにならなきゃいけないの』と。



「あの……蒼汰さん。絆創膏貼ってくれない?ちょっと見にくい場所なの」


 

 いきなり彼女は眉間に俺に絆創膏を渡してきた。そして眉間に皺を寄せて不機嫌そうに注意する。



「貴重品なんで、絶対に外さないでね。無駄にしたら……道路に降りてもらうから」


「マジ!?」



 荒川に散ったイバリンボウのオジサンが頭に浮かんでる俺に向かって、彼女は悪戯な笑みを浮かべた。



「嘘なんだけどな〜。真に受けちゃうんだ」



 袖をめくり腕を上げて二の腕の傷口を見せてきたので、俺は緊張しながら、そしてちょっとドキドキしながら彼女の腕に絆創膏を張ることにした。



「で……でも君……。傷跡なんかより感染の方が……」


「ご心配なく。私はこれで大丈夫なんです」



 絆創膏を貼り終えると、彼女はフィットしてるか上から触って確かめた。



「私がゾンビになると思ってる?」



 俺は黙って何度も頷いた。



「大丈夫。私はもうゾンビのなりぞこない……だからね」



 ど……どういうことなんだろうか?

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