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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
魔界に君臨せし姫君
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魔界に君臨せし姫君

東京第5コロニー

挿絵(By みてみん)


 舞台は戦場と化した第5コロニーへと再び戻る。


 大きなダメージを受け、焦点もボヤけ気味になっている俺の目に、庁舎の屋上に立つ華奢な女の姿がぼんやりと映った。海王の予告通り、新手のスーパーゾンビがここに襲来したのだ……。奴こそが羽田空港で彩奈を一方的に襲った憎むべきゾンビだ。だがコイツが彩奈を瀕死の状態に追いやっていたことなど、俺にはまだ知る由もなかった。



「あいつが……クィーン……」



 その体をまだ旋風が取り巻いていた……。旋風は強弱を繰り返しながら、長く伸びた蝋燭の炎のように揺らめいている。


 しかし奴の体を座標軸として回転する風の流れは次第に消失し、クィーン本来の姿がハッキリと浮かび上がってくる。現したその正体は衝撃的な姿をしていた。外見上は生きている女にしか見えやしないのだ。



「あいつ……。あれで死人なのか!?」



 歳はきっと彩奈と同じぐらいだと思う。だがその服装は彼女よりもずっと洗練されていた。風に靡く金色の長い巻き髪と、白いレースカーディガンだけでも、忌まわしきゾンビの姿とは思えない。何も知らずに出会っていれば……年下の生存者だと勘違いしてしまったに違いない。



 庁舎屋上に出現した女に向かって、海王はその巨大な右腕を掲げる。



「ずいぶん早いご到着じゃねえか、姫様」



 だが女は海王の挨拶を無視して、庁舎の屋上の荒れ具合を見回している。彼女の周囲には破損した車と、守備隊員達の無残な死骸が散乱していたのだ。奴は右手を腰に手を当てながら、尊大な態度で地上にいるキングに不満を吐き捨てた。



「ちっ。それにしても汚いところね……何なのよここ?スクラップの車と死骸ばっかじゃない……」


「お〜!わりぃな。芽衣がそこに来るとは思わなくってよぉ」


「邪魔よ……」 



 奴がフィギュアスケーターのように両腕を伸ばしてヒラリと体を一回転させただけで、触れてもいないのに屋上に積み上がっていた車体の数々は四方に吹っ飛ばされていく。



「マジか!」



 塀の外に飛んで職員宿舎に激突する車もあれば、コロニーを囲む塀に突っ込む車もあった。ふっ飛ばされた車は全部で8台にも及んだが、そのうちの1台(白いワゴン車)は俺に向かって矢のようなスピードで接近してくる。



「だぁっ!」



 蹴り返す余力も無かった俺は、これを高く跳躍してかわす。俺の体にかすったが、ワゴン車はそのまま背後の瓦礫の山の中に突っ込んだ……。そこまでは良かったが、地面に着地すると同時に片膝をついてしまっていた。キングとの戦いで自分が想像している以上に体力が失われている。



「ぜぇ……ぜぇ……。とんでもねぇゾンビだな。ちくしょう、こんなタイミングで来やがって」



 どうやらあの金髪女が竜巻の主だってのは嘘じゃないらしい。だが正直言って、大した奴には見えなかった。どうみたって華奢なスタイルだし、力任せに掴んだだけで折れてしまいそうな細長い手足をしている。そもそもあれがゾンビなのかすら怪しく思う。



 気流を支配する術は確かに厄介だろう。だがそこさえ気をつければ、なんとかなりそうな相手だ。やはり問題はキングである。女ゾンビなど単体では物の数ではないだろうが、あの化物を含めて2対1では勝ち目が薄い……。



 見晴らしのよくなった屋上から、クィーンは第5コロニーの惨状を一瞥する。そしてワゴン車をかわした俺以外にそれらしい敵がいないと分かると、苛立った表情で髪をかきあげた。



「待ってよ……。まさかあの雑魚っぽいのが『蒼汰さん』ってんじゃないでしょうね。ちょっとガッカリさせないでよ……」


「雑魚っぽいだぁ!?」



 その態度から、完全に俺を見下しているのが嫌でも伝わってくる。コイツも救いようのない悪党らしい……。


 すぐさまクィーンを睨みつけてやったものの、突然現れたこの女ゾンビが俺の名を知っていたことには驚きしかない。対峙していたキングもこれには俺と同じ感想を抱いている。



「おいおい……なんで俺の姫様はテメーみたいなゴミの名前を知ってんだ?」


「知るか……こっちが聞きてえぞ」


「クックック。ちょっとゴミに嫉妬しちゃったぜぇ。ここは芽衣に良い所見せねえとなぁ……」



 大きな左腕を天に向けて伸ばし、はりきって構えたキングだったが、クィーンは大きな声を張り上げ制止した。



「待てぇ海王!そいつは私が殺るよ。お前は他で遊んでろ……」


「は!?」



 しばらく呆然とした表情を浮かべていたキング。だがすぐにクィーンの指示に従った。



「ちっ。しゃあねえな……姫様がご指名だ。トドメ刺すのは姫に譲るぜ」



 驚いたことに、あのリヴァイアサンの如き怪物が華奢な女に従ってしまった。そのままキングは俺から離れ、腕を組んでこれから起きる出来事を高見の見物しようという体勢になった。



「あ……あの化物が手下みたいに従ってやがるだと……。なんの茶番だよ」


「ウヒヒ。まぁじきに分かるぜテメーにもよ」



 台風は海沿いを北上し、既に東京では風が弱まっていた。しかし時々強烈な風が吹き、背後からゾンビの長い金髪を舞い上げる。そのせいで奴は伝説の怪物メドゥーサのように見えた……。



 ふと気づけば地上のゾンビ達は俺の周囲から消えている。奴らは2体のスーパーゾンビのどちらかに力によってコントロールされいるのは間違いない。おそらく戦いの舞台に侵入しないよう制御されているのだろう。まったく底知れない怪物どもだ……。



「ねぇ、そこのクズさん?お名前は『蒼汰さん』で間違いないよね?」



 何故クィーンが俺の名を知ってるのか?この時は見当もつかなかった。



「俺の名はブライアンだ。親父がウェールズ出身なもんでね。誰だよ蒼汰って?知らないなぁ……」


 

 名前を知られているのは不利に思えたので思い切りシラをきったが、こんなクダらん嘘が通じる相手ではない。



「アハハハ!豪快にスベってますわよ血だらけ蒼汰さん。アンタ痛い奴なんだねぇ〜」



 拳を握る力が増す。キングだけでも胸糞が悪くなる野郎だってのにコイツも最悪だ……。全くゾンビにはロクな奴がいない。



「ちっ……なんだお前。なんで俺の名前を知ってやがる」


「やった♪心配してたんだよ〜。貴方が海王に殺されてるんじゃないかって……そうなってたら私は一体誰を殺したらいいの?教えてよ」



 奴の言葉の意味を、俺はまだ理解できなかった。



「知るかよ……。とにかくお前がクィーンなんだな。じゃあまとめて相手してやる。キングと一緒にかかってこい……」



 もちろん形勢は圧倒的に不利だが……こうなったら2体と戦うしかない。弱気は見せられない。



「そりゃお強い蒼汰さんですからぁ〜私達ゾンビなんかには負けるわけないもんねぇ?フヒヒ。こんな狂った強がり方する奴も珍しいよね」



 そこに海王が野次った。



「おーい。そのバカもそう言ってるぜぇ!俺と姫でこいつ殺そうぜ」


「駄目よ。お前が混ざったら〜蒼汰さんがすぐ死んじゃうでしょ?そうなったらお前に八つ当たりしちゃうから」


「マジかよ!じゃあ姫に譲るわ」



 なにを……言ってんだアイツら?サシでやるってのか?



 2対1を覚悟していたが、向こうはあくまで1対1でやる気のようだ。とは言えその気になればいつでも2体で襲ってくるだろう。とても楽観はできる状況じゃない。


 とは言え幸いにしてクィーンそのものは大して強くなさそうだ……。1対1なら恐らく勝てるだろう。だが……。




「ではぁ。か弱いゾンビの芽衣ちゃんが1人で君の相手をしてさしあげます♪さぁ蒼汰ちゃんカモ〜ン」



 こんな窮地で考えることじゃないが、アイツは生きてるバカ女にしか見えねえ……。確かに凄まじい術を使うようだが……あんなのを殴るってのもさすがに抵抗あるな。



「ちっ……。まずはキングだ。奴を片付けたらお前の相手してやるよ」



 芽衣は左手に嵌めていた壊れた腕時計を見つめて呟く。



「お前に選択肢などない。サービスタイムは残り10秒だ。それを越えたら、海王と私でお前を引き裂いて殺すだけ。それでもいいわけ?」


「そうしようぜ姫。それがいいわ」



 言うじゃねえかあの女……。となれば確かに選択肢はない。



「だあああっ」



 全力で跳んで、庁舎の屋上に着地するも、自分の膝がガクガクと笑ってるのを感じる。



「はぁ……はぁ……。仕方ねえな。相手して……やる」



俺と新手のゾンビは 20メートルほど離れた位置で向かい合っている。クィーンは腕を組んで、軽口を叩いた。




「フフフ……。こんなダサい奴を殺るのに、どれだけ時間かけてんのかしら。でもお陰でストレス解消ができるから良しとしましょう♪」


「はぁ……はぁ……。テメェは一体何者だ……。ただのゾンビじゃないらしいな」



 近くで見ると改めて、そのゾンビとは思えぬ美しさに驚く。首に大きく傷がついている以外には、損傷らしい損傷がないのだ。


 不意に奴はスカートをめくりホルスターから自動拳銃を取り出す。一瞬でスライドを引くと、そのまま自分のこめかみに銃口を突きつけて一発発砲してしまった。



「なっ!なんだ……そりゃ」



 弾と薬莢が地面におちる。だが俺にはクィーンの頭に傷一つついていないのが分かった。つまりキングに匹敵する鋼鉄の如き肉体を持っているらしい。



「こ……こいつもかよ……」


「じゃあ〜次はお前の番ね。これで死んだらマジで笑っちゃうけど♪」



 クィーンは俺に向けて一発だけ発砲した。



「だりゃあ!」



 俺は接近する銃弾にとっさに内回し踵蹴りをくらわせる。靴の踵で弾を蹴って軌道を変えたのだ。弾は瓦礫の山に当たって消えた……。



「見た海王!?アクロバティックな避け方するじゃん!なにコイツ」


「クククク。姫様が楽しそうで何より」



 クィーンは残りの弾を、近くに残っていた死体の頭部に全弾撃ち込んだ後で、銃を投げ捨てた。



「死にかけのクズでも、彩奈よりかは腕が立つみたいねぇ。赤髪をやっただけあるよ」


「なっ……!?なんでお前が彩奈の名前まで……」



 確かに白髭も赤髪も彩奈の名を知ってはいた。だがコイツは、会ったばかりの俺が彩奈の知り合いであることを見抜いている様子だ。どうにも胸騒ぎがしてならない……。



 何か凄く悪いことが起こっている……。

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