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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京第5コロニー
41/64

ジョーカーとクィーン

 八王子の高層ビルの窓を叩く風は、強弱を繰り返しつつピークを迎えようとしていた。



「今日は全く風が酷いですねえ」



 高層ビルの最上階で、男は呟いた。背広を身に着けたその男は、2メートル近い背丈を持つ巨躯の男だ。高級そうな丸メガネをかけ、白髪の彼は鼻の下にヒゲを蓄えている。年齢は50歳ぐらいである。一見、柔和な顔つきに見えるが、眼鏡の奥の眼光は鋭い。



 分厚い雲で太陽光が遮られ、東京の街は昼でも薄暗い。しかしこの部屋では明かりが灯っており、彼はゆうゆうと机の上の書類に目を通すことができる。


 全ての書類に目を通し終えると、おもむろに立ち上がりソファーに移動する。レコードの奏でる音楽を聞きながら、ローテーブルの上に置かれた昼食に手を伸ばす。



 彼は皿の上の骨付きの肉をかじる。だがそれは人間の肉であった……。



 ドアをノックする音がする。



「はい。なんですか木下君。食事中ですよ?」



 1人の男がドアを開けて部屋の中へと入ってきた。彼は小柄で、その背丈は160センチに満たない。耳にイヤーモニターを取り付けており、外部と無線で交信しているようだ。彼もまた背広を着用している。


 丸眼鏡の男の前に立つと、彼は一礼した。



「お食事中のところ申し訳ありません天原様。ご報告させていただきます。府中に海王が出現した模様です」


「海王が?ああ……さきほど吼えてしましたからねぇ……それで?」


「第五コロニー監視部隊からの緊急シグナルを傍受いたしましたところ……。海王は10万を超えるゾンビを率いてコロニーを包囲。既に前衛を突破し、侵攻中とのことです」


「フフフ、そうですか。彼もなかなか私の惣無事令に従ってくれませんねぇ……。八王子にさえ手を出さなければ私が怒らないとでも思ってるのでしょうか?」


 

 木下という部下は府中の方に目を向ける。(この部屋からは、東京が一望できる)



「それでは第5コロニーの救援に向かわれるのですか?」



 天原と呼ばれた男は首を横に振った。



「まさか……。あのような小コロニー如きはどうなっても構いません。第一私に従う気配もありませんでしたしね」



 天原は再び骨付きの肉を食らう。しばらく味わった後で、ハンカチで口の周りの血を拭う。



「だだし……停戦命令に従わない海王の動きも目に余りますね。奴がコロニーを殲滅させた後で、私が少しばかり懲らしめにいくとしましょうか。貴方も来なさい」


「はっ」



 木下はイヤーモニターに手を当てる。



「続報が入りました。海王は変異体とみられる2体と交戦している模様です。1体を撃破し、今現在、もう1体と激戦中とのことです!」


「これは驚きました。変異体ですか……それでは垣内彩奈が現れたのですか?」



 木下は少し困惑している。



「い……いいえ。どちらも男とみられます」


「なるほど新しい変異体ですね。まあ……所詮はゴミでしょう」



 そう言うと天原という男は、グラスに入った赤い液体を飲み干した……。もちろんこれは人間の血だった。


 

 結論から言えば「ジョーカー」とは彼のことである。彩奈はこの男に襲われ、奴を『ジョーカー』と名付けたのである。この天原こそが全世界で最強のスーパーゾンビなのだ。



 スーパーゾンビが何故に人間たちと共にいるのか?それは後々説明したい……。



○○○



東京第5コロニー

挿絵(By みてみん)


 この頃、府中の方では風は少し弱まっていた。時々、無風に近い瞬間すらある。


 

「B隊撃てえ!」



 小杉さんは射撃命令を出したが、現場の隊員達は誰も反応しない。すると庁舎周辺の瓦礫の陰から一斉にキングに向かって銃弾が発射される。B隊とやらは瓦礫の後ろに隠れていたのだ。



「おお……すげぇ……」



 彼は部隊を2つに分けていたようである。全体数から考えるに、周辺のゾンビの監視や住民たちの防衛を断念して、ほぼ全ての兵力を対キングに投入しているのだろう。



 キングは銃撃方向に顔を向ける。



「そうかぁ。まだ隠れていやがったのかぁ」



 奴がこちらに背を向けた瞬間、再び小杉さんは号令を発した。



「A隊撃てぇ!」



 次なる小杉さんの号令とともに、南(俺のそば)に展開していた守備隊が同時にキングに向かって攻撃をはじめる。驚いたことに1人は110mm個人携帯対戦車弾を使用している。どっから調達したのか知らんが、この兵器は強烈だった。おそらくこれが東京第5コロニー守備隊の最大の武器にして、最後の切り札であろう。


 発射された弾頭は轟音とともに加速し、巨大な化物の背中にマトモにめり込むと、大爆発を起こした。その衝撃波は凄まじく、俺も腕で顔を守る必要があるほどだ。



「こ……こりゃもう戦争だな……」




 周辺は黒い煙に覆われ、奴がどうなったか確認できない。皆、固唾を飲んで煙が晴れるのを待っていた……。


 しかし黒煙の中から突然、何かが飛んでくる。それは単なる瓦礫であった。縦横50センチメートルほどのコンクリートのブロック片に過ぎない。しかしその移動速度はあまりにも速かった。



「や……やばいぞ!よけろ!」



 だが俺がその言葉を言い終える前に、ブロック片は小杉さんの隣で構えていた無反動砲擲弾手の頭を破裂させ、真っ直ぐ東の空へと消えていく。頭部を失った胴体は力なく倒れてしまう。



「ま……前田ぁぁ!」



 小杉さんが倒れた擲弾手の体を必死にさするがピクリともしない。ただただ首から大量の血を流して地面に横たわっている。



 黒煙が風で飛ばされ、キングが姿を現した。



「こんなオモチャで俺に敵うと思ってるのが笑えるよな……」




 信じがたいことに110mm個人携帯対戦車弾ですらキングの体に傷をつけることができなかった。



「こ……こいつマジかよ……」



 さきほどキングを蹴った感覚で、奴の恐ろしさは分かっちゃいたが、これは尋常じゃない。佐藤さんがこんなバケモンと戦っていたのかと思うと胸が締め付けられる……。そりゃ負けるぜ。



「くくく。血だるまショー第二幕をはじめますかぁ」



 キングは屈んで足下の細長いコンクリート片(長さは1メートルほど)を拾うと、サイドスロー気味に投げる。スナップが効いているらしく、想像以上にそれは加速していた。


 砲弾のように高速回転しながら飛んでいったコンクリート片は、A隊(つまり南側に展開している)守備隊員の胴体に当たると、彼の胴体を水風船のように破裂させ、そのまま遥か遠方へと消えていく。彼は首は無事だったがために最後の断末魔の声を絞り出すことができたらしい……。



「う……うぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 小杉さんの顔に大量の血がかかる。隊員は胴体を失い、もはや悲鳴を上げることもできない首だけが地べたに転がった。



 この惨状を前にして、小杉さんを含めたA隊の皆が言葉を失い絶句している。しかし庁舎付近に展開していたB隊はまだ諦めない。必死にキングの背中に向かって銃撃を続ける。




「そう言えば向こうにもハエがいるんだったなぁ。次はそっちだ。いくぞぉ〜」


 


 銃撃をものともせず、巨大なコンクリート片を立て続けに投げるキング。今度は北側B隊の銃撃者達が身を隠していた瓦礫の山ごとふっ飛ばしてしまう。瓦礫の山の背後にいた8名の守備隊員の体が豆腐のように砕けて宙を舞っているのが見えた。



 もはや守備隊は崩壊寸前だった。連中が逃げずに踏みとどまってることすら奇跡であろう。



「く……くそ!何やってんだ。もういいから早く連中を撤退させろ」



 俺は茫然自失している小杉さんに詰め寄った。



「し……しかしこれでは隊員達を無駄死にさせただけだ……」


「これ以上無駄死にさせる気か!」



 口論している我々に向かって、キングは巨大なブロックを投げ飛ばす。




「そらよ!まとめて死ね」


「!」



 1メートルを超える岩のようなコンクリートブロックが、一瞬で我々の目の前に迫っていた。



「くそっ……だりゃあああああ!」



 とっさに俺はこれを反射的に肘で砕く。砕けたブロックは角度を変えて上昇し、遠く北側の塀の外へと落下していった。


 

「いつつつ……痺れたぁぁ……」



 右肘が骨折したかと思うほど痛かった。今のはちょっと無理してしまったようだ。右腕を押さえる俺に小杉さんが駆け寄った。




「す……すまぬ石見殿。腕は大丈夫か……」


「もうやめろ。生きてる奴らを連れて下がれ。アンタらは体育館と寮の防衛に回るんだ」



 彼は顔を俯けた。ようやく限界を認めたようだ。



「くっ……。結局、足を引っ張っただけだったな。もはや君に任せるしかないのか。分かった……言う通りにしよう」




 小杉さんはやむなく撤退を意味するサインを出すと、僅かな部下を連れて北側へ撤退をはじめる……。



 幸いキングは彼らに全く興味を示さず、俺の方に向かってゆっくりと歩きだした。



「次はお前だ。さあ来いやぁ。楽に死なせないから楽しみにしな〜」


「クク。どっからそんな自信が湧くんだよ。さっきで分かんなかったか?身の程を知らねえゾンビだな」



 キングは不敵な笑みを浮かべる。



「それじゃぁ〜そろそろマジになってやるかな〜。芽衣めいがここに来る前にテメェを八つ裂きにしとかないとダセェからなぁ」


「な……なんだと!?」



 キングの言葉に俺の顔が青ざめた。ま……まさかソイツは……。



「お……おいおい。ちょっと待てよ……お前は1人じゃねえのかよ。芽衣ってアンタ……数が増えてんじゃんか」


「フヒヒ。俺にも勝てねえ雑魚が芽衣の到来を気にしてどうする。テメェ如きが芽衣のことを気にする必要はねぇんだよ……」



 この展開は……!奴の話ぶりじゃあ芽衣めいって奴は完全にクィーンじゃねえかよ。こんなハードな勝負だなんて聞いてねえぞ。嘘だろっこれ!



「お……お前らは単独で動いてるんじゃねえのか!?なんでゾンビ風情がつるんでんだよ」


「はぁ?死にてえぇのかバカ。逆になんで俺が1人で動いてると思ってんだよ……ククク」



 くっ……この野郎。そういうことは先に言いやがれってんだ。ちょっと大神子!話が違いすぎるんだけど。これってもしかして……「日ノ本で3本の指に入るゾンビの王」の内の2体がここに来るってことなんじゃ……。いくらなんでも反則だろそれ!



「おっと。こんなカスと話してる時間はねぇな。芽衣が来ちまったら、俺より先にコイツを殺しちまう。アイツ、マジで手が速いんだよなぁ〜」



 お……おいおい冗談じゃねえぞ!やっぱりそいつはクィーンじゃねえか。


 こんな化物級のスーパーゾンビ相手に2対1になったら、いくら俺でも即死もんだぞ!



 奴はハッタリをかましている……そう思った。いや、そう考えたかった。しかしすぐにこれが間違いだったことを思い知らされることになる……。

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