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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京第5コロニー
37/64

混乱するコロニー

【時間が前後するがキングの元に向かうまでの経緯について】



 凄まじい咆哮が府中刑務所全体に響き渡り、俺のいた誠心寮の3階も細かく揺れた。この共同室の壁にかかっていた紙垂しでも振動している。



「お……おいおい!スーパーゾンビがマジで現れたのかよ!?」



 正直、ずっと大神子おおみこの話を疑っていたが……。これは本物なのか。あの婆さん凄いな……。



 守備隊長の小杉さんはシュマグを顔から外すと立ち上がった。初めて顕になった彼の顔は、想像よりも厳つかい。その肌は日に焼けて浅黒く、坊主頭に白髭を生やしている。年齢はやはり40代ぐらいだろう。



「大神子様!すぐにかえで様をこちらに呼び戻さねば。体育館よりもこの建物の方が守りも固く安全です」


「あの子にも考えがあってのことじゃろう。必要とあれば戻ってくるはずじゃ……」


「で……ですが楓様になにかあれば、希望は失われてしまいます!」



 誰のことを話してるのか知らないが、スーパーゾンビが迫っているのにずいぶんと悠長な話をしてる。



「アドバイスしていいか。小杉さんはその子の心配をしてる場合じゃないぜ……」



 彼は俺の方をジロリと見る。

 


「ジャックを超える化物が出現した以上……アンタ達は皆、建物の中で息を潜めて隠れてた方がいい。他にできることはないな」



 挑発的だが、真面目なアドバイスだ。まあ案の定、誤解されたけれども。



「ぜ……全員で隠れてろとはどういう了見なのだ!我々に黙って死ねというのか君は!」


「そうじゃない。あんまし乗り気しないが……俺が奴の相手をしてやる。だからもう誰も外に出さん方がいいぜ」



 俺の話を理解するのに小杉さんはしばらく時間を要した。



「石見殿が……力を貸してくれるということか……?」

 


 もっとも快くというわけじゃない。渋々である。だから俺は腕を組んで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。



「アンタ達を助ける義理はまるでないが……。このコロニーが全滅するのを指を咥えて見てるのもシャクだ。俺と佐藤さんが組めばどうにかなんだろう」


「あ……ありがとう!我々の勝手な頼みを……。この恩を私は一生忘れまい」



 涙を浮かべて彼は感謝の意を伝えてくれるが、それは早計というものだ。今は全てが無事に終わることを祈るのみ……。



 扉が勢い良く開くと、守備隊の1人が中に入って彼に報告をはじめた。



「ゾンビの王は庁舎前に出現しました!奴は数万のゾンビを引き連れてコロニーを包囲しております!」


「く……くそっ!まさか正面から攻めて来るとは……。他の部隊から至急、前衛に応援を出せ!」



 死者が増えるかもしれんので、守備隊の連中には引っ込んでてもらいたい。だが小杉さんが言うには、守備隊には逃げ遅れた住民を探し誘導する義務もあるという。


 俺はこれ以上の口は挟むまい……。最後は彼らが決めてしかるべきことだ。



○守備隊に関して○


【今は物資の豊富な世界ではないので、銃を所有できる人間の数は限られている。そのためスーパーゾンビとの戦闘に動員できる兵士は(小杉さんを含めて)僅か39人しかいない。だがどの方角からスーパーゾンビが襲ってくるか分からないので、全ての人員を一箇所に集めるわけにもいかないのである。そのため彼らは少ない人員の配置に往生していた。


 今は南の前衛に10名を割いているので、東・西・北東・北西にある計4つのやぐらにそれぞれ7人の兵士が守りに当たっている状況なのである。


 小杉さんは、各部隊の約半数……3名、計12人を庁舎に送るよう指示する。残りは数万という数のゾンビが万が一にも侵入しないよう見張りを続けるのである。】




 薄暗い部屋で必死に祈祷をしている大神子に向かって、小杉さんは頭を下げた。



「それでは大神子様。私も前衛の方に加わります!」


「さらばじゃ小杉……。お主はよくやってくれた。再び常世で会おうぞ……」




 彼らは永訣する覚悟のようである。全く縁起でもねえけど……。



 激しい銃声が聞こえてくる。ゾンビの王と庁舎に陣取る前衛との戦闘がはじまったのだ。音から察するに相当の銃弾が発射されているとみえる。まるで戦争映画だよ。



「はじまったな……。そんじゃ俺も行くわ」



 彼らに背を向け共同室から出ていこうとすると、大神子は頭を下げた……。



「石見殿のご武運をここで祈っております」


 

 俺は背を向けたまま右手を上げる。続いて小杉さんも急いで靴を履き、廊下に通じるドアを開ける。



「では石見殿。私についてきてくれ。前衛の方に案内する」



 俺は首を横に振った。


 

「必要ない。ようするにさっきの庁舎の屋上に行きゃいいんだろ?廊下の窓から飛び出した方がはやい」


「な……なんと!そこから出ていくと言われるか。しかし鉄格子が……」



 廊下の窓を開けると、囚人の脱走を防ぐための鉄格子が行く手を塞ぐ。しかし蹴り一発で鉄格子を凹まし外にふっ飛ばした。



「おお……さすがだ」



 身を乗り出すと、外から猛烈な風が部屋の中に吹き込んでくる。台風接近中に窓を開けるのは常識ハズレだったかな。俺の行動に小杉さんは唖然とするばかりだ。


 一方、共同室で祈祷中の大神子の額から冷や汗がタラリと流れ落ち、畳の上に落ちる。



「つ……強い。まるで噴火する山じゃ……」



 彼女は現れたゾンビの強烈なフォースを感じ取っていたらしい。



【東京第5コロニー】

挿絵(By みてみん)



 その時、轟音とともに俺たちのいる誠心寮の3階が大きく揺れる。彼はその原因が分からず混乱してしまう。



「な……なんだ!?誠心寮に爆弾でも落ちたのか」


「違う!運動場だ。よく見ろ!」



 この廊下の窓からは、音の発信源である運動場の様子がよく見える。向こうにいた人々はパニック状態である。密集しているテント群の一部が車体に押しつぶされ、周囲に車の残骸が散らばっているのだ。恐らく10人以上は死者が出ているだろう……。彼は尋ねた。



「な……なにがあったのだ……。まさか強風で車が運動場まで飛ばされたとでもいうのか!?」



 だが俺は問いかけを無視する。答える余裕がなかったのだ。なんてこった。どうやら俺の体は震えているらしい……。

 


「な……投げやがったのか!あれを……」


「分かるのか……石見殿には」



 一瞬であったが俺にはハッキリと見えていた。車は放物線ではなく直線的に運動場に落下していたことが。こんなのは風の為せる技ではない。



「い……いかんぞ!化物の仕業ならば前衛が心配だ」



 外に出ようとした守備隊長の肩を掴んで制止した。



「待て!今は建物の外に出るな。アンタも死ぬぞ」



 車は次々と……それも複数の車が同時にコロニーに向かって落下していた。それらは流星のように軌跡を描き、コロニーのあちらこちらを破壊していく。その度に衝撃でビルが揺れるのだ。なすすべもない状況に守備隊長は頭を抱えた。



「ま……まるでソドムとゴモラじゃないか……。ずっと頑張ってきたのに……あっさりと……」



 飛来物は全てキングが前衛部隊を潰すために投げ込んだ車である。しかし強烈な南風の影響で、庁舎に落下するはずの軌道が大きくそれてコロニー内部に向かっているのである。運動場に落ちた1台は出火してしまうが、大勢が消火活動に当たったので鎮火した……。この風だ。消火に失敗すればコロニーはあっさり焼き尽くされてしまうところだったろう。危ないところだ。



 絶句している小杉さんを尻目に俺は窓枠に足を乗せて思い切り跳躍。



「どりゃああ!」



 そして暴風の中を外へと飛び出し、5区衛生工場の屋根に着地する。だが風で軌道を変えたワゴン車が俺を目掛けて落下してきたので、隣の工場の屋根に飛び移った。



「くっ!」



 このワゴン車は屋根を突き破って先の工場の内部へと落ちていく。幸い中に人はいなかった……。



「危ねえ!風がランダムすぎて軌道が読めねえぞ」


 

 ヒヤリとした次の瞬間、隕石のようなものが、ここから少し離れた体育館の屋根に衝突したのが見えてしまった。俺は『体育館に住民の大半が避難している』という小杉さんの言葉を思い出した。



「マ……マジかよ……。今、大型トラックが落ちなかったか!?」



 体育館からかなり離れていた俺の場所まで悲鳴が聞こえてくる。やはり大勢の住民が今の一発で犠牲になってしまったらしい。




「いやぁあああああああ!ママぁあああ!」


「どけ!はやく皆でどけるんだ!」


「怪我人を運び出せ!重症者からだ。軽症者は講堂の方に連れ出せ」


「おいおい、守備隊の連中は一体何をやってるんだよっ」




 それはどれも悲痛な叫びだった。しかし彼らは気づいていない。高度300メートルの高さから、再び体育館を破壊すべくダンプカーが真っ逆さまに落下中だということを……。この事態に気づいているのは……不幸なことに全世界で俺だけだ。



「く……くそ!なんだってんだよ一体!」



 工場の屋根を飛び移り、俺は全力で飛び上がった。そして上空でタイミングをうまく合わせて、落下しているダンプカーの車体に猛烈な蹴りを食らわせる。



「どらあああっ!向こうに行け!」



 ダンプカーは軌道を変えて、塀の外の地面に激突する。そして爆発炎上した。一方、俺は蹴りの反作用によって200メートル近く後方にまでふっ飛ばされてしまう。空中で回転して態勢を立て直すと、着地点はちょうどコロニーの北側を守る塀の上だった。



「ちっ。北側にきちまった。早く庁舎にいかないとアイツらが……!」



 背後から海鳴りのようなゾンビ達の声が聞こえてくる。こ……これはとんでもない数がいるぞ。



「ゲシャァァァッ!ジュゴヴァラァ!」



 振り返って塀の外に目をやれば、道路を埋め尽くしている凄まじい数のゾンビどもが見える。もはや府中の街全体がゾンビで溢れている。こりゃ10万体ぐらいいるんじゃないだろうか。いくらなんでもヤバい……。



 どうやら敵は本気でこのコロニーを殲滅するつもりらしい……。自ら人間を食うのが目的じゃなく、あくまでも殲滅が目的なのか?狂った野郎だ。



「だりゃぁっ!」

 


 俺は塀を蹴って大跳躍すると工場の屋根に着地。すぐに庁舎を目指すかどうかで迷ったが、体育館から聞こえてくる悲鳴があまりに凄まじくて放っておけなかった。車の飛来が一服したのを見計らい、体育館の屋根の上に飛び乗る。


 屋根は大きな穴が空いている。鉄筋コンクリートの収容棟なら無事だったかもしれないが……。大勢の住民が避難してしまったのが体育館だったのは運が悪かったとしかいえない。まさかスーパーゾンビがあんな攻撃してくるとは誰も思わなかったのだ。


 大勢の人々がダンプカーの下敷きになっているようで、中の住民たちは大パニックとなっている。阿鼻叫喚の地獄というやつだ。



 中でも女性の絶叫が、俺の心に突き刺さった。



「七海ちゃん死んじゃだめぇぇぇ!誰かこの車をどけてぇぇぇぇ!」



 母親らしき人物の叫び声から察するに、子供が下敷きになってしまっているようだ。やむを得ず俺は下に降りることにした……。

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