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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京第5コロニー
36/64

乱入者

 パンッパンッと手についた砂を払うと、海王は佐藤さんをさらに挑発した。 



「くくく。なかなかコッチに来ねえなぁ。ビビっちゃったか兄ちゃん?」



 既に庁舎の北側部分(コロニーの南部区域)は壊滅的な状態になっており、大勢の死人が出てしまっている。キングのパワーを前にして、もはや守り抜ける命など何もないと佐藤さんは本能的に感じてしまっている……。



「くそっ!」



 南部区域が破壊されてしまったのと同時に、コロニーを守る南東側の塀までも幅2メートルにわたって部分損壊していた。そのため数百というゾンビ達が人間たちの居住区になだれ込み始めていた……。その上、外にはまだ数万のゾンビ達が興奮状態で塀に押し寄せている。(中には押し寄せるゾンビ達の圧力で、塀に挟まれ潰れてしまうゾンビもいるのだ)これらが全て侵入してしまえばコロニーの壊滅は免れない。


【東京第5コロニー】

挿絵(By みてみん)



 佐藤さんは背広の上着を脱いで投げ捨てた。それは強烈な南風に飛ばされ、空高く舞っていく……。次に彼はシャツの袖をめくりあげ、両手で自分の頬をバシッと叩きつけて気合を入れる。海王に気圧されそうになる自分に活を入れるために。



『ビビってる場合じゃねえ!奴が来るぞ』



 ドシンッという大きな音とともに、海王が庁舎の屋上に現れた!地上から一気に跳躍して、庁舎の屋上に着地したのだ。



「待たせやがって臆病モンがぁ……こっちから来てやったぞ」



 拳をポキポキ鳴らして佐藤さんとの距離を詰めていく。

 


「へへへ。それじゃあ宣言通りにお前の四肢を引きちぎってやるかな」


「やってみやがれ!」



 佐藤さんは構える。だが対峙して感じる海王の威圧感は想像を絶していた。190センチを超える大柄な体躯の佐藤さんも、キングを前にしては小人になったような気分であった。何しろ海王の背丈ときたら佐藤さんの倍以上はある。しかも上半身はより巨大化しているがために、感覚的には7〜8メートル級の怪物のように感じられた。



「そりゃぁぁ!」



 海王はその長い右腕で殴りかかった。奴にすれば軽いストレートパンチだったのであるが、その伸びとスピードに佐藤さんは驚く。



『は……速いぞっ!』



 焦った彼は体を左に反らし、岩のような拳を全力でかわす。だが今度は伸び切ったはずの長い右腕が突然に佐藤さんの方に曲がる。エルボーだ。



『ク……クソッタレ!読んでやがったな!』



 この変化に対応できなかった彼は胸に強烈な肘打ちを食らってしまう。海王の硬い肘の骨が、佐藤さんの胸にめり込むように入った。



「ゲハッ!」



 彼は簡単にふっ飛ばされ、瓦礫の山と化していた庁舎北側のビル跡地に頭から突っ込んでしまう。並の人間なら体の原型すら留めてないほどの衝撃だろう。



 庁舎の屋上から海王が大声で挑発している。



「ダッセぇ野郎だな。まさか、こんな程度でクタばったりしねえだろうなぁ〜?」



 瓦礫の中に上半身を埋めたまま佐藤さんはピクリとも動かない。



「ちっ。意識もねえのかよ。でもまぁ、胴体だけはミチッと潰しておきますか」



 海王は屈伸すると、一気に飛ぶ。高度100メートルまで舞い上がって、瓦礫の中の佐藤さん目掛けてニードロップの態勢に入る。完全に彼を殺す気なのだろう。


 

 しかし地上に到達するその直前、彼は腕の力だけで瓦礫から飛び出し、地面を蹴って横に飛んだ。



「お……おお!?生きてやがったぞ」



 海王は突然のことに態勢を変えられず、そのまま無人の瓦礫の中に突っ込んだ。大型爆弾が炸裂したような轟音とともに、コンクリートの巨大な瓦礫が四方八方に爆散する。粉塵に包まれてあたり一帯は何も見えなくなってしまう。



「ちっ。あの野郎……どこに逃げやがった……見えやしねえ」



 台風による強風で舞い上がる粉塵はすぐに消えていく。その時、海王の目の前に現れたのは弾丸のように突き進む佐藤だった。



「なっ!」


「うおおおおおおおお!砕けちまえゾンビ野郎がぁ!」



 加速に加速を重ねて新幹線の最高速度すら超えていた佐藤さんは、海王の顔面に思い切り飛び蹴りを食らわせた。



「ぐっ!」



 海王の巨大な体は宙に飛ばされ、まだ建物の形を留めていた西側収容棟の2階の壁に、背中から激突する。



「はぁ……はぁ……。相変わらず硬い野郎だな……足の方が痛えぞ」



 佐藤さんの顔から垂れ落ちる多量の血。息苦しそうな彼は震える手でネクタイを緩めた。彼の受けたダメージは既に相当なものだったのだ。大観覧車での戦いでは恐るべきタフさを見せつけた佐藤さんだが、海王の放った一発の肘打ちで失神寸前である。



「よっと」



 立っているのもやっとな彼を尻目に、キングは地面に着地すると軽々と柔軟をした。ヤツは顔も膝も背中も、どこもダメージを受けていないようだ。



「フヒヒ。しぶとい野郎だな〜。俺はそういう奴は嫌いじゃないぞ〜」


『おいおい……平気かよ。なんて野郎だ。これじゃあ俺に全く勝ち目がないぜ』



 佐藤さんの顔は青ざめていく。



「よっしゃぁ。そんじゃあトドメといきますか」



 海王は走り出し、あっという間に猛烈なスピードに加速した。その速さは先程の佐藤さんを上回る。



「くっ……」



 構えた佐藤さんだったが、もう目の焦点も合っていない。海王は超スピードに達すると、一気に佐藤さんの顔を目掛けてドロップキックを入れた。



「ぐああああああっ!」



 凄まじいスピードでふっ飛ばされた彼は、瓦礫の山の中に再度突っ込む。しかし今度はそれを突き抜けてしまった。そのまま遥か遠く、東側の塀に激突すると弾き返されて地面にうつ伏せに倒れ込んだ。



「が……がはぁ……」



 コロニー内に侵入してきたゾンビ達が倒れた佐藤さんに気づく。



「ヴ……ヴヴヴ……ゴウ……」



 血肉に飢えたゾンビ達が周囲に集まってきたにも関わらず、全身に強烈なダメージを受けた彼はもう立ち上がることすらできない……。



 ただ体を仰向けの態勢にすることだけはできた。



「くくっ……。こ……こいつは死ぬなチクショー……。こんなことなら北海道で冬を越せば良かったぜ……」



 そこに海王がやってきた。奴は集まってきたゾンビ達を邪魔だと判断し、適当に潰して蹴散らしてしまう。



「いよ〜。兄ちゃん、もう終いかぁ?」



 血だらけとなった佐藤さんは体を半分だけ起こすと海王を睨みつけた。

 


「ハァ……ハァ……。誰が終いだ!?ちょっと待ってろよ……すぐに相手してやる」



 すると海王は起き上がろうとした佐藤さんの足を踏みつける。ゆっくりと体重をかけて彼の骨を折ろうとしはじめたから堪らない。佐藤さんは叫び、必死に海王の足をどけようとするが、その巨大な足は微動だにしない。



「ぐ……ぐあああっ!こんの野郎……」



 キングは尋問を……いや拷問をはじめた……。



「なあ兄ちゃんよ。最近、赤髪と白髭しろひげの2匹を見なくなったんだけどよ〜。奴らのことを何か知ってるだろ?絶対に知ってるよなぁ」


「はあ!?何の話だよ。尋ね人なら警察に行け!」



 佐藤さんの大腿骨の骨が軋む。とっくに想像を超えた苦痛を味わっている彼に対して、海王は踏みつける力を強めていく。



「まさか……お前みたいなゴミがアイツらを片付けたんじゃないだろうな?」



 痛みで失神寸前の佐藤さん。だがキングは消えたスーパーゾンビ達の情報を得られないことに苛立ちを募らせていく。



「おい。早く答えろってんだよ。知ってるのか知らねえのか聞いてんだよ!」


「や……やめやがれ……。ぐああああっ」


「ちっ。話にならねえ弱虫だな。とっとと足を折って殺すか」



 それは絶望的な宣告だった。


 だが仰向けに倒れていた佐藤さんには見えている。はるか上空からミサイルのように何者かが急降下しているのを。



「や……やっときやがった……」


「ああ?なんだ?」



 次の瞬間、突然に脳天から真っ二つに裂けたキングの頭。頭蓋骨の中身が晒され、奴のどす黒い血が四方に飛び散る。



「ご……ごれば……俺の頭がばれだ……だでだ……!?」



 いきなり「Yの字型」に頭が割れてしまい、海王は混乱している。その裂け目は喉元まで達しており、実におぞましい姿である。


 頭が裂けたゾンビが振り返ると、血まみれの斧を持った乱入者が後ろに立っていた。この男が海王の頭を斧で叩き割ったのである。



「デメエバ……バビボノダ……」



 乱入者は海王の問いかけを無視して進み、倒れていた佐藤さんの手をとって起こそうとした。



「いや〜悪ぃ佐藤さん。大神子様の話が長くなっちまってさ。でも結構元気そうじゃんか」



 まあ……この斧を持った乱入者ってのは要するに俺のことだ。ようやく主役が登場したわけだ。



「まったく1人で戦うかねアンタ。でもあの化物を結構ぶん殴ってやったんだろ?」


「はぁっ……はぁっ……。見りゃ分かるだろ。惨敗だよ俺は」



 口から血を流しながら、佐藤さんは少しだけ体を起こす。だが車にはねられたような酷い怪我だと分かったので、しばらく寝ているよう言った。



「ゲ……ゲホッゲホ。き……気をつけろよ石見くん。キングは凄まじく強いぞ……」



 その表情が俺に危険を伝えてくれる。だが今の一撃で十分に分かってるさ……。奴がとんでもねえスーパーゾンビてことぐらいな……。なにしろ……斧の方が持たなかった。


 摩擦のせいなのか分からないがヘッドの鉄部分が溶けて半分もなくなり、柄も折れかかっている。斧はもう使えない状態だったので投げ捨てた。



「な……なにをしている。やめとけ……俺の二の舞いになるぞ……」


「ヘッ。喋らなくていいから。心配すんなよ、俺が奴を一瞬で片付けてやらあ」



 もともと斧なんて使ったことないから、むしろ素手の方がずっと戦いやすい。そう俺は判断した……。まあ斧は最初の不意打ちに使えたので、これで十分だ。



 そして予想通り、こんなもんでクタバる程スーパーゾンビは甘くはない。



 海王は左右のこめかみに両手の人差し指を当てると、ゆっくりと中央に押し戻していく。すると「Yの字型」に割れていた頭は簡単に元に戻ってしまった。ただし顔の中央部にはまだ亀裂が走っている。



「フヒヒ。さては赤髪達を殺ったのはオメエだなぁ〜?会えて嬉しいぜぇ」



 海王は俺を見下ろして笑っている。



「おいおい〜どうした?いいんだぞ〜さっきの斧を使っても。不意打ちであの程度じゃあ、お前の力もタカが知れてるからなあ」


「お前がキングか……。確かに大神子の話は嘘じゃないらしいな」



 俺はまだコイツの本当の恐ろしさを知らない……。

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