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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京を目指せ!
3/64

事故

 7月某日。時刻は午前10時半。我々を乗せた貨客船は無事に東京港フェリーターミナルに到達。接岸し係留に成功した。決死隊のメンバーはデッキの手すりの前に並び、緊張の面持ちでフェリーターミナルの様子を見つめる。隣にいた岩井が呟いた。



「静かだねえ………。東京ってこんなに静かなんだねえ……」



 何かに気づいた岩井が俺の肩を叩いて、コンテナのあたりを指差す。



「おいっ。今なんかあそこで人影が動かなかったか?あれがゾンビか?」


「え!どこだよ。見えなかった」



 すかさず先頭のリーダーから激が飛んだ。



「お前らくれぐれもゾンビに噛まれんじゃないぞ。島でゾンビになられても困るからな。噛まれた奴はここに置いてくぞ」



 『冗談だろ!最悪だな』と皆が思っている。はっきり言って今の激で相当メンバーのモチベーションは下がっただろう。でもそれが現実だから仕方がない。


 

 決死隊のリーダーを任されたのは小山和夫という漁師だ。これはメンバー全員で決めたことである。彼がリーダーであることに誰も異論はない。最年長だし、漁師として海の修羅場をくぐってきた経験が頼もしい人なのだ。


 彼は双眼鏡を覗き込んでターミナルが安全かどうかを確認した。



「ちっ。チラホラいやがるねぇ……。死人どもが」



 この目で直接見るまでは未だに信じられない部分はあるのだが……。やはりゾンビというものは実在しているらしい。リーダーの額が汗で滲んでいるのが見える。暑いからではなく冷や汗のようだ。彼は双眼鏡をカバンにしまった。



「搭乗口付近にはいないから安心しろ。しかし駐車場に1匹だけゾンビが確認できたから気をつけろよ。そいつを見つけたらすぐに潰せ。安全を確保した上でトラックを拝借せねばならん」



 リーダーを先頭にして、我々は注意深くタラップを降りることになった。リーダーは階段を降りると振り返る。

 


「気をつけろよ……。ただの死体とゾンビの区別がつきにくいぞ。倒れてる奴にも注意しろ」



 

 船から降りてようやく分かったが、道端のそこかしこに死体が転がっているのだ。世界がほぼ滅亡しているということが真実であるとようやく実感できた。大きく欠損している遺体も多数あり、それは人食いゾンビの犠牲者であるらしい。遺体を目にした我々全員が息を呑んだ……。



「ひでぇ臭いだぜ。銃で両手が塞がってるから鼻もつまめねえや」



 リーダーは長銃を構えて用心深く進んでいく。決死隊員のうち8名は長銃を所持している。(その長銃は抜け殻となった父島の自衛隊基地から拝借したもの)


 残る俺の武器は金属バット、岩井は刺又である。特に金属バットは頼りない……。しかし俺は前を進む岩井に向かって小声でボヤくしかないのだ。



「金属バットて……。全然リーチないぞ。やっぱり交換してくれよ岩井」


「お前がじゃんけんで負けたんだろ。文句言うなよ」


「ちぇっ。刺又2本ぐらい用意しておいてほしいよな……」



 ボヤいてる内に、俺たちは駐車場に到達できた。ここには持ち主のいなくなった車両がたくさん放置されている。その中には我々が必要とするトラックも残されていた。



 リーダーが銃床で軽トラックの窓ガラスを叩き割り、運転席に乗り込む。そして○○な怪しい方法でエンジンをかけた。この人は車の窃盗経験あるんじゃないだろうな……?


 

「7人はそちらの大型トラックに乗れ。石見、岩井!お前らは俺と一緒に来い。荷台に乗れ」



 リーダーの命に従って、俺たちがトラックの荷台に回った時のことだった。突然、岩井が俺の袖を掴んだまま固まってしまったのだ。



「い……石見。あれ……あそこ……」


「な……なんだよ。離せよ」



 恐る恐る岩井が指差した先をみると、10メートルほど先にある大型トラックの陰から、全身真っ黒なゾンビが一匹現れた……。それはゆっくりとこちらに向かってくる。けれどノッペラボウみたいなんだ。



「な……なんでアイツは顔がないんだ?」



 そう言って岩井は俺の体を揺すったが、そんなの知るかってんだ。顔をライオンにでも食われちまったようなゾンビの事なんぞ考えたくもない。



 顔のないゾンビはまっすぐこっちに近づいてくる。そのズタボロの服から察するに、元は俺たちと同世代の男だったらしい。



「岩井!刺又で押さえろ」


「お……おお!」



 岩井が刺又を奴の胴体に押し当てた。所詮はゾンビだ。素早い動きなどできはしない。それでも腐った腕を振って前進を続ける顔無しゾンビ。全く悪夢だ。



「石見ぃぃぃ。早くっ、早く」


「ずあああっ!」



 俺は渾身の力で金属バットを振り下ろす。グシャッという音がして、奴の頭部は裂けて2つに割れる。次に水平にスウィングすると奴の頭部は首から千切れて、皮一枚つながった状態で背中側に落ちていく。



「うええぇぇぇっ。おえええぇっ」




 俺は反射的に戻してしまった。頭蓋骨を潰してしまった感触に耐えられないのだ。そのまま岩井は全力で刺又を押して首なしゾンビを倒すと、すぐに軽トラの荷台に上がって逃げてしまった。



「ひゃああっ!」



 首なしゾンビは倒れながらもがいている。なんという生命力……。ゾンビってのはもう頭脳すら必要ないようだ……。ソンビの腕が俺の足を掴もうとしたので、バットで叩き潰した。滅多打ちにしたと思う……。



 俺は口元を袖で拭くと、急いで荷台に飛び乗った。



「リーダー!リーダーッ!はやく車を出してくれ。ゾンビが来やがった」


 

 だが俺は気づいていなかった。それでもまだゾンビにトドメをさせていなかったことに……。




○○○


 首無しゾンビは地べたを猛烈に這いずり回って、こちらに向かってくる。あれだけ体を損傷しても、生者を襲うために進む。しかしトラックはなかなか発進してくれない。


 

 俺たちは軽トラのリアガラスをドンドンッと叩いた。



「早く!来てますよ」



 ようやく軽トラックは出発したものの、5メートルも進まない内に軽トラは何度もエンストしてしまう。3ヶ月ほど放置されていたが故に、上手くエンジンがかからないようだ。その度にリーダーは謎のやり方でエンジンをかけ直していたようだ。



「まだですか!」


「くそっ!クラッチの加減が……。俺はマニュアル車なんて久しぶりなんだよ!」



 4度めのトライでようやくエンストは起きなくなった。リーダーは勘を取り戻したようだ。



「いくぞぉぉ!掴まってろよ」



 リーダーは軽トラを急発進させた。危うく荷台から落とされそうになるほどの加速だった。軽トラは青海コンテナ埠頭に向かい、そこで俺たちは医療品その他生活必需品を探しだすことになる……はずだった。しかし突然、リアガラス越しにリーダーの叫びが聞こえてきた。



「うわっ……。ハンドルが……なんでだ!」



 その瞬間に軽トラックは2キロほど進むと突然に激しく横転し、1回転してそのまま電柱に激突した。天と地がひっくり返った瞬間以降、俺に記憶はない……。



 気づけば俺は路傍に大の字になって横たわっていた。目を開けた瞬間に、紫がかった空と赤く染まった雲が見えた。どうやらもう夕方になってしまったらしい。



「う……いててて」



 ゆっくりと体を起こしてみると、すぐに電柱に突っ込んだ軽トラが見えた。



「事故ったのか」



 左肩が少し痛んだのでさすってみる。だが他はどこも痛くない……。足を動かしてみるが問題ない。どうやら俺は大した怪我をしていないらしい。車から投げ出されたにもかかわらず、幸運であった。



「ふうっ……」



 俺は立ち上がり、腕を回し足を屈伸させた。この感じなら動ける。



「リーダー。岩井。どこだ……」



 ヨロヨロと軽トラに近づいて、中のようすを確認してみる。窓ガラス越しに、ハンドルを握ったまま俯き加減で動かなくなっている男の姿が見える。それはリーダーだった……。



「リーダー!大丈夫ですか」



 ドアが開かないので窓を割ってリーダーの体を引っ張りだす。そして道路の上で彼の体を起こしてみたが、干からびた血に塗れたその体は恐ろしく冷たく、まるで力が入っていない。頭部も事故の衝撃で変形しているようだ……。ワナワナと震えてくる。



「し……死んじまってる……。こんなばかな……」



 リーダーの生存は絶望的だ。俺は彼の体をそのまま道路に置き、次に岩井を探すことにした。しかし軽トラの荷台には誰もいなかったはずだ。



「岩井……。岩井どこだ!返事してくれよ」



 だが岩井の姿はどこにも見当たらない……。苦し紛れに軽トラの助手席側に回ってみると、後輪の下でなにやら黒いものがモゾモゾと動いている。



「ま……まさか岩井か……」



 俺はすぐに屈んで車体の下を確認した。だがその正体は岩井ではなく、俺が滅多打ちにしたはずの首なしゾンビであった。



「な……なにっ」



 奴はシャーシにしがみつく態勢でいた。だがゾンビの右足が軽トラックの後輪に巻き込まれて動けなくなっている。こいつが事故の原因だったようだ。



「車の下に潜り込んでたのか……。いつの間に……だよ……」



 再び運転席側に回った俺は、身を乗り出して中からリーダーの長銃を取り出した。安全装置は外されている。



「くそっ!」



 俺はもう何も考えず、車体の下のゾンビに向かって銃を撃ちまくった。弾がなくなるまで……。だが全弾撃ち込んでもゾンビは動き続けている。



「なんだよ!銃なんか役に立たねえじゃねえか!」



 俺は銃を道路に投げ捨てた。もうここに留まることはできない。俺も船に戻らねば。俺が軽トラに背を向けると、車は炎上しはじめる……。首無ゾンビがどうなったのか、俺はもう知らない。


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