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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
白髭のエース
24/64

陽気なピクニック

 赤髪のジャック襲来の後始末は本当に大変だった。皆の生活空間がゾンビ達に荒らされてしまったので、免疫のない子供達のために俺は死ぬほど奮闘するはめになったのだ。しかしここでは割愛する。言うべきことは2つだけ。3人は感染することもなく、彩奈は徐々に回復していった。それだけ。


 そしてあの日から1週間が経ち8月もう後半に入った。この頃になると彩奈の体もすっかり治っていた。



「蒼汰さん。はい醤油」


「ねえねえ。俺、本当に死んでたの?嘘でしょ」



 魚の形のたれびんを俺に渡すと、彩奈は目玉焼きをペロっと口に頬張った。そして自分で作ったツナマヨのサンドイッチをパクリと食べる。



「ムグムグ。本当よ。ちゃんと確認したもん。あの日の夕方に様子を見に行ったら、蒼汰さんは呼吸をしてなかった。それに脈拍もなかったし、体も冷たくなってたの」


「うむう。確かに死んでるなそれは……」



 今、俺たちはどこにいるのかというと、スカイツリーの天望回廊である。そこでレジャーシートを敷き、ホテルから持参した弁当を食べている。今日は実に天気がよくて眺めがいい。しかし俺たちはここでピクニックをしているわけじゃない。俺が西の方角でみた「人の生きてる形跡」を2人で確認しにきているのだ。でも目的忘れそうだ。



「それで俺は荒川に埋葬されちゃったのか。最初は真っ暗で地獄に来たと思ったぞ」


「まさか生き返るなんて思わないから……せめて眺めの良い場所に埋めてあげようと思ったの……ごめんなさいね」



 埋葬されてたお陰で、生き返って早々に死にかけたけれど仕方ないか。それで彩奈を責めるのは筋違いだ。




「いや、ありがとう。火葬されてなくてマジで良かった」



 ちなみに眼鏡(坂崎澪)はちゃんと火葬してあげるべきだと主張していたという。それが実行されていればこの世にいなかったな……。



 とりあえず俺は彩奈お手製のたまごサンドを頬張る。本当に美味しいな。全くスカイツリーで食べるサンドイッチは最高だ。



 でも疑問は一つ残ってた。同じく感染したはずの彩奈は死んでないのに、なんで俺は一度死んでしまったんだ……。でも待てよ?そう言えば感染した彩奈がどうなっていたのかは誰も確認してないんだ。



「ムグムグ。ちょっと待った。彩奈は感染した時ずっと1人でいたんだよな」


「うん。ホテルの屋上に隠れてたよ」


「ってことは……もし死んじゃってても誰にも気づかれない……」


「なに?どういうこと蒼汰さん」


「あ、いや。な……なんでもない」



 そうか。なんとなく分かっちゃったぞ……。



 きっと彼女も感染で苦しんだ果てに「死」を迎えてしまったはずなんだ。そして俺と同じく数日で復活してしまう……。だけど彼女は1人でいたから、そのことに気づいていない。そりゃそうだ。生物たるもの「己の死」を認識できるわけないんだ。だって死んでるから!



 考え込む俺を、首を傾げて彼女はみつめている。



「サンドイッチの味。変?」


「ちがうちがう!これは凄く美味しい。店で売ってたら買うね俺は」


「あはは!ほんと蒼汰さんって大袈裟なんだから」



 小さな子供のように、彩奈は無邪気に笑った。



 結局、俺たちは彩奈の言うとおり『ゾンビのなりぞこない』という言葉がぴったりくる存在なのだろう。感染後に死してゾンビに生まれ変わるんじゃなくて、別の何者かに生まれ変わってしまったような……。それが何なのかは分からないが。


 まあいいや。これ以上深く考えるのはよそう。とりあえず彩奈のサンドイッチは美味いんだから俺は幸せなんだ。



 オレンジジュースの入ったペットボトルを口に咥えていた彩奈が、急に立ち上がった。



「あそこ!あそこじゃない?」


 

 持ってきた双眼鏡を彼女は覗き込んだ。



「やっぱり煙が出てる……。蒼汰さんの言った通り、東京にも生きてる人たちがいるんだわ!すごい」



 彩奈は嬉しそうに叫ぶ。ずっと孤独だったから喜びもひとしおなんだろうな。



「だろ?だから言ったじゃん!全滅なんてしてないんだよ」



 嬉しくなった俺も立ち上がり、彩奈と両手でパチンとハイタッチ。リュックサックから地図出した彩奈はそれをレジャーシートの上に広げ、煙の上がっている場所を確かめる。



「府中の方かしら。結構遠い感じする」


「あれは学校か……もしくは刑務所っぽくないか?なんとなく公共の施設っぽい感じするんだ……」



 彩奈はコンパスで方角を測り、地図を指でなぞると、目星をつけた場所に赤鉛筆で印をつけた。



「たぶん刑務所……。相当な人数が生き残ってるのね」


「囚人だろうか。でもそういう感じもしないんだよな〜」



 まあここでは結論は出ない。答えを出すには、府中の方に2人で向かうしかないだろう。まあ、とりあえずスカイツリーでの用事は済んだわけだ。少しだけ希望が持ててきたぞ。



「よっし!今日の仕事終わり。じゃあ地上に戻るか」


 

 前に訪れた時に割ったガラス窓から外に飛び降りようとした俺の姿をみて、彩奈は仰天した。



「うそ!ここから飛びおりるの!?」


「う……うん。でも直接じゃないよ。あのビルの屋上を着地台にすんだ。見えるだろイーストタワーっていうビルが。高低差300メートルぐらいだから」



 彩奈はガラスに手を当てて、下を覗き込む。



「ちょっと無理無理っ。私、300メートルも飛べないよ!」


「大丈夫。できるって彩奈も。いつもホテルから飛び降りてるじゃないか」



 俺は彩奈の手をとった。すると彼女は目を瞑り、深呼吸してコクリと頷く。



「じゃあ私もやってみる。蒼汰さんを信じる」


「いくよ。せーのっ!」



 スカイツリーの地上450メートル地点から、2人で手をつないで、せーので飛び降りた。実に楽しいスカイダイビングだった……。しかし、まさかあんなことになろうとは……。



「だ……大丈夫!?蒼汰さん!」



 なんと俺の方が風に煽られて着地失敗。頭からヘリポートに突っ込み顔面強打。おかげで死にかけた。



「ぬぐおお……。鼻から血が出てる……」


「良かった生きてて!」



 意識が朦朧とする中で、彩奈に抱きしめられる……。この無様な失敗で、こないだの頑張りが全て帳消しになった気がする……。



 ○○○


 ホテルに戻る前に、俺達は荒川の土手を散歩することにした。(父島出身の俺は東京の地理を学習も兼ねて、地図を片手に歩く)するとちょうど俺が埋葬されてしまった辺りに出てきた。



「あん時はマジでビビったよ。そこのグラウンドで骸骨が歩いてるんだもん。死んでた俺が言うのもなんだけど、あれは怖いな」


「ちょっとやめてよ。笑っちゃうじゃないっ」



 笑いながら彩奈はパンパンと俺の肩を叩く。



 談笑しながら俺だけ土手を降りグラウンドに立ち、グーッと背伸びをしてみる。



「良い天気だな〜。澪達もここに連れてこれたら良かったのにな〜」



 土手の草むらに腰を下ろして彼女は返事をした。



「そうね。あの子達ずっと屋上にいないといけないから可哀想」



 俺は草むらの方向に向かってグラウンドの中を進んだ。今日はゾンビ達はいない。やはりこれだけ好天だと出ないんだな。だけど曇るとすぐに出てくるんだよアイツら……。



「ほ〜。驚きじゃな。こんな都心にまだ人が生きておったんか」



 突然に老人の声がしたので驚いた俺は辺りを見渡した。しかし誰もいない。生存者がこの辺りにいるのか!?どこだ!



「ここじゃ。ここ。分からんかこのアホ」



 よくよく耳を澄ませると、伸び放題になった草むらの中から声がする。そこで恐る恐る藪をかき分けてみると……なんと老人の生首が横向きに置かれていたのだ。だがこれ真新しい死体だし……。ところは生首は目をパチリと開くと、突然に喋りはじめる。



「ようっ。お前はなんでこんなところを彷徨いとるんじゃ?ゾンビに襲われんのか」


「ゲ……ゲエッ!」



 俺は喋り出した生首爺に腰を抜かし、尻もちをついた。



「ど……どうしたの蒼汰さん!」



 心配した彼女は土手から大きくジャンプして、俺の横にスタッと降り立った。



「あ……あ……彩奈。こ、こ、こ、これを……みろ……」



 草むらの中を俺が指さすと、彼女は口を手で押さえて驚いた。



「お……お前は……」


「こ、こりゃ〜驚いたな。お嬢ちゃんも一緒だったか」



 な……なんだと!?この生首は彩奈のことを知っているのか?



 彩奈は生首に向かって語りかける。



「エース……。どうしてお前がこんな姿に」



 そう。彩奈は確かに『エース』と呟いた。それは5体いるはずのスーパーゾンビの名前のはずだ。



「エースって……。この生首爺があのエースなのか?」



 彩奈は頷いた。



「そう。彼が恐怖のスーパーゾンビの1人、白髭のエースよ」



 バカな……。だって生首になってるじゃん。

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