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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
知らぬ間に死んで知らぬ間に生き返った男
21/64

ミス

 戦いは激しさを増していく。すでにホテルの屋上は俺たちが戦闘するには狭すぎて主戦場にはなっていない。周辺ビルの屋上を移動しながら殴り合いは続く。日が沈む前に勝負を決めねば……再び有耶無耶になっていしまうだろう。


 何度か戦いの場所が変わったが、今は首都高近くのビルの屋上で激突している。



「死ねぇ!クソガキがぁ」



 ジャックの拳が俺の顔面をマトモに捉える。まったく……泣きたくなるほどクソ痛いパンチだ。だがこんな痛い思いを彩奈にさせたのだと思うと、さらに頭に血が上ってくる。殴られた勢いでビルの屋上から転落しそうになったが、死にものぐるいで踏ん張った。



「痛えなぁこのボケ」


「こ……このゴミ……。踏みとどまりやがったっ!」



 想像よりずっと早く俺が態勢を立て直したことに、赤髪は怯んだ。俺は加速して奴の懐に入る。

 


「痛かっただろうがぁ!彩奈がよ!」



  ゾンビの腹を全力で殴った。



「ぐぎぃぃぃっ」

  



 水平にふっ飛んだ赤髪は、別のビルの塔屋看板に突っ込み、そのまま突き抜けて路上に落下した。そして落下の衝撃で亀裂が入ったコンクリート道路の上で、ジャックは大の字になって倒れている。


 勝負あったか。



 しかし奴はすぐに起き上がってしまった。コンクリートに激しく叩きつけられているにも関わらず、ダメージを全く受けていない。痛みすら感じていないようだ。これでは長期戦になれば、どんどん俺の方が不利になっていくかもしれない……。



 ただ精神的に赤髪はイラだっていた。



「ど……どうなってやがる……。こいつは口だけのゴミカス野郎だったはずだ。たった2週間で何があったんだ」



 ジャックは怒りを爆発させた。



「くそぉぉぉぉぉ!餌の分際でぇぇぇぇ」



 高さ10メートルはあるだろう街灯の鉄柱に八つ当たりで蹴りを入れると、それは根本から折れてしまう。赤髪ジャックは折れた鉄柱を両手で持つと、それをジャイアントスイングの要領で回しはじめる。そして追いかけてビルから飛び降りてきた俺に目掛けて投げつけた。



「寄るんじゃねえぇぇ!」


「うおっ」



 頭を下げてかわしたが、高速回転する街灯は背後の雑居ビルに激突。建物は大きく損傷し、窓ガラスの破片が飛び散った。


 俺が着地するのと同時に赤髪は後ろに下がった。


 そのまま奴は飛び上がって路上の案内標識柱の上にのる。すぐさま案内標識をもぎ取ると、それも手裏剣のように投げつける。1平方メートルはあろうかという四角い鉄板は猛スピードで俺に接近してきた。こんなの食らったら体が切断されちまうぞ。



「あぶねぇだろ!」



 とっさに鉄板を蹴り上げてかわした。回転する標識はそのまま背後にあった首都高の橋桁に激突して突き刺さった。後ろを振り返ってその威力に驚いた。



「ふうっ……あのゾンビ野郎め。まだそんな力あんのか」



 だがこの一瞬の隙をつかれてしまう。気づくと目の前には飛び蹴りの態勢に入った赤髪がいたのだ。



「オラァッ!よそ見してんじゃねえ」


「ちっ」



 すぐに俺は跳躍して蹴りをかわす。すると赤髪ゾンビはそのまま隣のビルに突っ込み柱を砕いた。そのビルは少し傾き始める。



「どこ蹴ってんだボケゾンビ!」



 すぐさま奴に回し蹴りを食らわすと、ジャックは背中から路上に倒れ、そのまま50メートルは転がっていった。だがクルッと倒立すると、あっさり起き上がってしまう。やはり体そのものを破壊してしまわない限り、死人には決定的なダメージを与えられないようだ。だからゾンビは嫌いなんだよ……。



 だが肉体的なダメージとは別に、赤髪のジャックの心の内にはずいぶんと変化が起きているようだ。




「おいおい……冗談だろこのガキ!今のを全部かわしやがったぞ……」



 その体はワナワナと震えている。



「こ……この凄まじい動きは海王クラス……いやそれ以上だ。下手すりゃ竜巻女レベルだぞ……」


「な……なんだそりゃ?竜巻女?」



 竜巻女ってなんなんだ。誰のことを言ってる。


 おそらく彩奈のことではないだろう。だととすると……他のスーパーゾンビの事だと思われる。確かジャック以外にも東京には危険なゾンビが4体もいるはずなんだ。名前はキング、クィーン、エース……そしてジョーカー。



「分かったぞ。竜巻女ってのはクィーンって奴のことだな?お前、そうとうビビってんなソイツに」


「へへ……ふざけやがって。もう俺様に勝った気でいやがるのかこのガキ」


「まあな。頭が半壊してるゾンビなんかには負けねえよ」



 一瞬赤髪の目が血走る。そのまま頭に血を登らせてくれれば助かったが、すぐに冷静さを取り戻した。



「ふひひ……。こんなハエみてえなすばしっこい奴と広い場所でやんのは得策じゃねえなぁ〜」



 赤髪は憎たらしい笑みを浮かべてみせた。だがこいつの性格はだいたい分かってる。きっと今の笑みも直接俺に向けられたものじゃない。何かロクでもないことを考えてやがるんだ。



「そろそろアイツらが心配になってきただろぉ〜?僕ちゃんよ」


「はぁ?なんのことを言ってやがる……あっ……!」



 し……しまった!俺のバカ。いくらなんでも少し熱くなりすぎていた。



 俺は赤髪の言葉の意味を悟る。



 そうだよ。ゾンビだらけの屋上に彩奈達を置き去りにしたままなんだ……。勢いにまかせて致命的なミスをおかしていたことにようやく気づいた。



「あのゾンビどもはよ〜。生きた女を食べたくて仕方がない奴らなんだよ〜。俺様がいねえとすぐ勝手に動き出しちゃうかもなぁ。サービスで俺が戻ってやろうか?」



 確かにあのゾンビ達には赤髪ジャックによる制御が効いているようだが……放置しておくにはあまりにも危険すぎる。しかも赤髪まであの場所に戻る気でいるらしい。だがコイツが戻ったら、それこそ彩奈達に何をしだすか分からんぞ。



「バカなお前でも意味が分かったらしいなぁ。最初からお前なんかに勝ち目はねえんだよ。ちょっと腕をあげたぐらいで勘違いしやがってよ〜」



 俺は彩奈達のいるホテルの屋上へと移動をはじめた。ここでコイツに勝つよりも、4人の命の方がずっと大事だ。



「くそっ」


「待てやぁ〜!うはははは」



 赤髪が俺を追ってくる……。おそらく先に俺が到着するだろう。だがその後は!?

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