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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
赤髪ジャックの襲撃
17/64

最期の時

 赤髪のジャックとの対決から1週間が経過した。あれから俺の体調はあれよあれよと悪化してしまう。どうやら赤髪ゾンビの指でエグられてしまった右腕を通して、ガッツリと恐怖のウィルスに感染してしまったらしい……。



「頭いてぇ……。体熱い……。ううん……腕がもげそうだ……」



 現在、俺はビル最上階のとある部屋のベッドの上で唸っている。思い切り感染者となってしまったので皆と一緒に屋上で生活することもできないのだ。そこで隔離されているのである。


 幸いこのビルはホテルだったので、立派な寝室が用意されいた。俺が寝ているのもダブルベッド。と言ってもずっと停電なので、真夏でもエアコンも使えない。お陰で部屋の気温は常時30℃超え。その上、電灯つかないので昼でも暗い。


 それにしても右腕の痛みで全く眠れないのには往生する。辛すぎて昨晩も眠れなかったし。明け方15分ほど眠ったみたいだが、クソみたいな悪夢に苦しめられたし。あれじゃ寝てる内に入らないな。



「せめてちゃんとした麻酔でもあれば……。鎮痛剤じゃあ、まるで効きゃしねえし……」


 

 不幸なのは世界が大崩壊しちゃっているので医者なんかいないことだ。致死率100%と言われる病を患ってしまったにも関わらず、誰も治療なんてしてくれないんだ。これじゃ最期を迎える野良猫状態である。



「くそ……。右腕はもう腐ってるじゃないか……」



 彩奈の巻いてくれた包帯の隙間から、自分の真っ黒になった右腕が見える。異臭を放っていて全く嫌になる。



 こんな部屋で1人でじっとしてても絶望的な気分になるのは当然だろう。だからと言って起き上がろうとするだけで息切れがするんだよね……。するとドアをノックする音が聞こえた。



「お〜い。入りますよ〜。蒼汰さん」



 この部屋を訪れるのはウィルスに対する免疫のある彩奈だけだ。彼女が水や食料を運んできてくれる。その上に看病までしてくれた。ありがたいのだけど、感謝する余裕もない。



「体温は……まあまあね。ちょっと下がってきてる。良かったじゃん」



 俺の脇に挟んだ体温計を手にとって見た彼女は嘘をついた。チラっと見えたから俺は分かってる。40℃あったぞ。



「水は?もういいの」


「うん……」



 色々と考えることはあるが、病についての詳しい情報もないのは怖かった。恐ろしい想像ばかり膨らんでしまうんだ。だから仕方がないので覚悟して尋ねてみることにした。


 

「ねえ彩奈。俺はこれからどうなるんだろう?ゾンビになっちゃうのか、それとも……」


「それは……私だってそんなに詳しくはないし」



 彼女は困ったように顔を逸す。やはり答えにくいようだ。



「でも……君はずっとそういう人を見てきたんだろ?」



 俺の額の上の濡れタオルを取り替えた後で、俺の方を見ずに彼女は答えた。



「4割は多臓器不全でそのまま死亡。6割は心停止後にゾンビ化がはじまる」



 多臓器不全か……。頭が真っ白になってしまった。こんな心が弱ってる状態で聞いて良い言葉じゃなかったな。やっぱり聞かなきゃ良かったよ。ショックを受けた俺は目を閉じた。



「悪かったよ。無理言って食料調達に同行して。いたく後悔してる……」


「もう寝なよ。あんまり暗い事を考えないでさ」


「寝れない……」



 俺はもう彼女を困らすようなことしか言えなかった。困り果てた彼女は黙って部屋から出ていった。すると廊下から話し声が聞こえてくる。



「どうなんですか。石見さんは……」



 相手は眼鏡の坂崎さんか。



「澪ちゃん。話は上でしよっか。ここじゃ蒼汰さんに迷惑だから」


「でも私の父親は1週間持たなかった……」


「澪ちゃん!上に行くよ」



 こっら眼鏡……。聞こえてるってのバカたれめ……。だがあんな奴でも俺を心配してくれてんだろうか。そうポジティブに思わないとやってられないぜ。



「そろそろ俺は死ぬって言いたいのかアイツ……。そんあこたぁ、なんとなく分かっちゃいるけど人に言われるとメチャクチャ怖いもんだ……」



 俺は体を横にして時計を見る。(ベッド側にあるサイドテーブルには、夜用の電池式ランタンと小さなデジタル時計が置かれている)



「まだ午後の2時35分じゃないか……」



 ああ全身が辛い。今日の夜も眠れないんだろうな。暗闇の中で絶望的な気分で唸ってるんだろう。そして明日は今日よりも辛い1日になるんだろうな。でもって明後日は明日よりも辛い1日になるのだ。それは俺が死ぬまで続く……。



 などと絶望的な未来を想像している間に、俺は寝てしまっていた。いや正確には意識を失ったと言ったほうがよい。



 次に目を覚ました時には、俺は闇の中だった。



○○○



 闇。


 それも死を思わせるような闇だった。「ここはあの世という場所で、俺は永遠の闇の中に閉じ込められたのか」なんてネガティブな事を想像させるほどの闇。



『まさかね……』



 だがそれも馬鹿馬鹿しい考えに思えてくる。


 簡単な話で、もう夜になっちまったんだろう。この部屋は電灯つかないし。それにしても眠れたのは良かったよ。72時間近くほぼ睡眠取れてなかったもんな。



 俺はサイドテーブルに手を伸ばし、電池式ランタンのスイッチを入れようとする。だが腕は全く動かない。それどころか足も首も動かない。



『お……おいおい。体が動かないぞ。全身麻痺してるのか』



 時々は「睡眠麻痺」……いわゆる金縛り状態になっちゃうことのある俺。だが今の状態はちょっと感覚的に違う。というか体全体にかかる圧迫感が凄いんだな。恐怖が徐々に増してくる。



『や……やっぱりここはあの世なのか』



 そしてだんだんと息苦しくなってきた。



『やばい……死ぬ』




 あの世ってのは聞いていた以上に恐ろしい場所だ。死んだ俺を再び窒息死させるなんて。何度殺す気なんだ。これじゃあ永遠の拷問でないか。


 もしや地獄なのか?


 ってことは、俺は地獄に落とされたのか?そんなの嫌だ!

 


『彩奈、助けてくれぇ!』



 恐怖のままに俺は手足をバタつかせる。すると妙な感触を得た。



『あれ……。これって』



 だんだん、俺を押しつぶそうとしている物体の正体が掴めてきたぞ。



 土だ!


 俺は土に埋まってるんだ。



 死にたくない一心で、足掻きまくると、徐々にスペースが生まれて手足が動かせるようになってきた。あと一息……。



「だりゃぁぁっ!」



 全力で体を起こすと闇が消え失せ、強烈な太陽光が目に入った。



「プハァッ!ゲホッゲホッ。なんだこりゃあ……」



 ホワイトアウトした俺の目に、徐々に綺麗な青空が映ってくる。視線を下ろせば雑草に覆われた広い土地が見える。わけもわからぬままに俺は立ち上がってみた。




「河川敷じゃないか……。なんで俺はこんなところに」




 改めて足元をみると、そこだけ掘り起こされた跡が残った地面がある。どうやら俺はこの中に埋められていたようだ。



「どこの誰だよ俺を埋めやがったのは……。江戸時代のフグ中毒患者じゃあるまいし。殺す気か」


 

 とにかく意味が分からない。重症の患者だった俺はベッドで寝てたはずなんだ。なのになんで俺は生き埋めにされてたんだ。病人に対して酷すぎる仕打ちじゃないかコレ。



 もはや完全に殺人事件だぞ……。



 もう一度、足元を見ると茂みの側に何段にも積まれた石が見える。賽の河原にありそな石の塔なんだが、これは明らかに人の手で置かれたもの。そしてその側には枯れた花が添えられていた。



「え?ここってお墓だったのか。誰の墓?」



 その花の下には1封の封筒が置かれていた。誰あてのものか知らないが、とりあえず封筒を破ってみた。プライバシーもくそもないのだ。


 すると中から1通の手紙が現れる。読めば、それはいかにも女子って感じの細くて丸い文字で書かれている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 蒼汰さんと過ごせた時間は本当に短かった。


 でも貴方に出会えたのは神様の思し召しなのだと思う。


 最期の会話があんなことになったのは後悔しています。なんでもっと上手く言えなかったんだろう私。



 あれから皆は寂しがって泣いばかりいるよ。


 私だって……皆の前じゃ泣かないけれど。悲しくて寂しくて仕方がないのが本音なの。


 でもまた会えるよね。


 いつの日か、こんな辛い世界を離れて再び蒼汰さんと出会えますように……。神様に祈ります。



 蒼汰さんの名誉ある最後の友達。垣内彩奈



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 手紙を読んだ俺の目に涙が浮かんだ。


 実に泣ける手紙だった。この世にいない相手を想う書き手の気持ちが辛いほど伝わる。悲しすぎる話じゃないか。それにしても全く彩奈がこんな事を思ってたなんて……。ありがとう彩奈。



 ただ問題は……俺が生きてることなんだよ。これはどう考えたらいいの。



 俺は照りつける太陽の下で地面の上に胡座をかいて考え込んだ。俺は自分が生きてると思ってるだけで、本当は死んでるのだろうか?じゃあ今の俺ってゴースト的な……。



 体を叩いてみるが、普通に存在しているので幽霊ではないらしい。!落ち着け石見蒼汰。この世界で考えるんだ。


 

 となると……まさかゾンビなのか俺?

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