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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
赤髪ジャックの襲撃
16/64

決着

 1対1でこんな化物と向き合うことになるとは最悪だぜ……。彩奈が戻ってくるまで3分……いや2分かかるとしても、どうやって時間を稼いだらいいものか。


 ここはビルの屋上だから逃げ場はない。仮に上手く逃げたところで、路上には数千のゾンビ達で溢れかえってる。となるとビルの内部に逃げ込むにしかないが、赤髪が塔屋ごと崩しちゃったので下の階に逃げる方法もない……。


 自分で彩奈に提案しといてなんだが、想像以上に詰んでるぞコレは。とりあえず尻もちをついてる場合じゃないので起き上がった。俺を睨みつけるゾンビの目は血走っているようにみえる。激しく怒っているらしい。まあ当然か。



「彩奈の奴が仲間をアッサリ見捨てるなんてなぁ〜。驚いたぜ俺はぁ〜」



 この怒れる化物が会話してくれるのは、俺にとって好都合ではある……。しかしコイツの口調はいちいち不快で仕方がない……。



「そうだお前。彩奈の最初の仲間のことを知ってるか?今でも残ってる奴らのことじゃねえぞ〜。昔からのダチって奴だ」



 赤髪ジャックは塔屋の瓦礫を踏みつけながらゆっくりとこちらに向かってきた。俺は距離をとるために少し離れる……。



「確か彩奈と同じぐれぇの年のガキだったんだけどよぉ。俺が襲ってやったんだぁ。だけど彩奈の奴がしつこく邪魔してなぁ。結局、食えなかったんだよなぁ〜」



 だから何が言いたいんだよ、この野郎は。



「でもな。ちょっとばかり首を傷つけてやったから、今頃そのガキは死んだかゾンビになっちまってるはずなんだよ……。お前みたいなバカでもこの意味は分かるよなぁ?」



 俺は後ろに下がるのをやめた。なんだか異常にムカついてきたのだ。こうなりゃ戦うまでだ……。俺は足元に転がっていた瓦礫を両手で持ち上げる。奴に壊された右手が半分麻痺している状態なのだが根性で掴み上げた。しかも思ったより重かったがそれでも構わない。



「ぐぬあああああっ。いい加減にしろよお前はぁああ」


「ふ……ふはははは!なんだぁお前は!そりゃこんなバカは彩奈も見捨てるわなぁ〜」


「くらえ!てめぇ!」



 20キロはあっただろうコンクリートブロックを奴に向かって投げつけてやった。だが奴には簡単にかわされてしまう。



 そのままフッと奴の姿は俺の視界から消え失せる。



「な……っ」



 だが一瞬で間合いをつめて俺の前に現れた。そのまま間髪入れず俺の胸に軽く肘打ちを入れる。これだけで肋の骨が折れたんじゃないだろうか……。



「ゲハァッ」



 ふっ飛ばされ宙を舞う俺。しかも気づけば自分が転落防止柵の真上を飛んでるのが分かった。このままでは屋上から外に飛ばされてしまう。



「やばい!落ちる」



 俺は慌てて柵に掴まった。しかし勢いが強すぎて指が離れてしまう。そのまま減速して柵の外側に落下したものの勢いは止まらず、体はビルの外へ出てしまった。



「う……うがぁぁぁっ」



 俺は必死にビルのへりに掴まった。掴まっているのは手すり壁である。どうにか落下せずにすんだが、俺の体を支えているのは左手の指4本のみ……。下を見れば、地上まで50メートルはあろうかという高さが実感できる。それだけで気を失いそうだ。あまりの高さにゾッとする。



「うわわわ……あわわわ。下を見なきゃ良かった」



 恐怖で手が汗で滲む。その汗で指が滑りそうな気がしてさらに恐怖がます。



 赤髪ジャックはゆっくりと近づいてくると、ギィィッと音をさせて転落防止柵を引っこ抜き、ビルから投げ捨てた。



「上出来だよぉ〜。そのまま死んじまったら僕ちゃんのストレスのはけ口なくなっちゃうもんなぁ〜」



 そして屋上のヘリにしゃがみ込み、俺を見下ろした。人体模型のように脳を剥き出しにしたその顔でニヤリと笑う赤髪のジャックは、悪魔にしか見えない……。



 奴は手を伸ばして、持ってきた瓦礫を見せた。コンクリートの欠片で、大きさは外付けのハードディスクぐらいだ。



「このブロックで今からお前の指を一本ずつ潰しまぁ〜す。なるべくちょっとずつ潰していくよう僕も頑張るからぁ、お前も30分ぐらいは楽しませてくれよぉ〜」



 マ……マジか……。



「さぁ、いくよぉ〜!まずは小指の第一関節からぁ」


 

 赤髪ジャックがブロックを振り上げた時だった。



「どっち見てんの馬鹿ゾンビ!」



 女の声が屋上に響く。彩奈の声だ。彼女がようやく戻ってきた!



 ゾンビはすぐ背後に彩奈がいることに気づき、ゆっくりと振り返った。



「おいおい〜。まさか、わざわざ戻ってきてくれたのかぁ〜。最高だねぇ彩奈ちゃん……」



 だがその時、彩奈は消火器を手にしていた。実はこれを手に入れるために真向かいのビルに彼女は突入していたのである。そしてゾンビは消火器のノズルが自分の目の前にあることに気づく。



「な……なんだ?」



 すかさず彩奈は思い切りレバーを引いた。赤髪ジャックの顔に消火剤が全開で噴射される。これにはさすがのスーパーゾンビも動揺を隠せない。



「ぐぁっ!な……なんだ」



 消火器から噴出する白い煙がモウモウとビルの屋上全体を覆っていく。これをまともに顔に食らった赤髪ジャックは完全に視界を奪われていた。



「くっ……。このアマァ!どこまでもふざけやがってぇぇぇ」



 ゾンビは闇雲に腕を振り回していた。その腕や足がビルのパラペットを破壊。伝わる衝撃と振動だけで、俺の指が滑ってしまいそうだ。俺からは何も見えないが、自分の掴まっている手すり壁がどんどん奴の拳で破壊されていくのだけは分かる。この状況は恐怖でしかなかった。



「あわわわ……」



 彩奈は隙を突いて視界を奪われたゾンビの腕を掴む。そのまま背負投げの要領で、ゾンビの体を投げ飛ばした。



「やああっ」



 凄まじい勢いで宙を舞う赤髪ジャックの体。それは北側の方向に飛んでそのままビルの外へと飛び出す。だがその方角にはさきほど爆発炎上したタンクローリーがあり、地上からの火の粉がこの高さまで噴き上がっているのである。



 ここから彩奈は休むことなく加速し、ビルの床を蹴って飛んだ。



「今度こそ……終わりよぉぉぉ!」



 すぐに宙を舞うジャックに追いつくと空中で蹴りを放った。その蹴りはジャックの腹をとらえ、ゾンビの体をタンクローリーの真上に叩き落とした。



「ぐあああっ!」



 赤髪のゾンビはわけもわからず地上に落下。もちろん落下したぐらいでくたばるような奴ではないのだが、視界を奪われたまま爆発炎上中のタンクローリーに巻き込まれては、ただでは済まない。猛烈な炎がスーパーゾンビの体を焼き尽くさんと襲う。



「うぎゃぁぁぁっ!ぐぎゃぁぁぁ」



 彩奈はそのまま向かいのビルの屋上に着地する。もちろん……必死にビル西側の手すり壁のへりに掴まってる最中の俺には、この様子は何も見えてない。だがこれは俺が考えた作戦なのである。



 とはいえ指4本で掴まっているのも限界だった。このままではマズイので麻痺ってる右手でもなんとか掴まろうと体の態勢をずらしたその瞬間、指が手すり壁のヘリから離れてしまった。



「あっ……。うわぁぁぁ」



 ガシッという音がして、屋上から彩奈が俺の手を掴む。



「ふうっ。間に合った……」


「彩奈!」


「怖かったじゃないっ。もうちょっと頑張ってよ!」



 彼女に引き上げられ、俺は無事に屋上へと戻る。そして手すり壁に寄りかかって座り込んだ。



「た……助かった〜」



 座り込んだ俺にいきなり彩奈は抱きついてきた。



「良かった……無事で。もう死んじゃったかと思った……」



 何も言えなかった。


 ただあまり疲れてたので、しばらく彼女に抱きつかれたままにしていた。不思議な時間が過ぎていく。こんなに密着しながらお互い黙ってるなんて……変かな。でもお互い疲れ切ってたんだ。



 しかし途中で赤髪ジャックの死を確認していないことに気づく。



「そうだ。アイツは……」



 俺は起き上がり、北側のビルのヘリに立った。彼女も俺のそばで下の様子を見た。


 しばらく見ていると、炎の中から何かが飛び出してきた。炎に包まれた物体が移動をはじめている。



「なんだあれ」


「ジャックよ。私からは見える」


「え!」



 その炎えさかる物体は飛び上がり、ビルの壁を蹴って幹線道路を南に向かって消えていった。あっという間であった。



「逃げたか……。しぶとい奴だなぁ」



 残念ながら赤髪のジャックにトドメを刺すことはできなかったようだ。しかし強烈なダメージを与えて、退散させることには成功した……といったところか。



 俺と彩奈は改めて見つめ合った。


 時々、地上のタンクローリーから火の粉がこの高さまで舞ってくるんだが、もう2人には関係ない。ただただ俺たちは見つめ合った。

 

 彩奈のことは小学生のようなベビーフェイスな少女だと思ってたけど、今は何故か違ってみれる。包み込むような優しさを彼女から感じるからだろうか。



「蒼汰さん……」



 なんかこのまま2人で自然にキスを交わしそうな雰囲気に思えてきたが、よくよく考えるとそんな状況では全くなかった。



「手を見せて……痛い?」



 心配した彼女は俺の腕を触った。やっぱり激痛が走る。



「いたたたたっ……」



 彩奈は屋上の床に打ち捨てていたリュックサックからペットボトルを取り出して、血まみれになっていた俺の腕を洗った。染みるったらありゃしないが、気合で耐える。



「ねえ、蒼汰さん……」


「何?」



 しかし彩奈はすぐに俺から顔を背けた。



「ごめん。なんでもない……」




 彼女はあの時一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、本当に悲しそうな表情をみせたんだ。これが何を意味するのか、今の俺には分かっていなかった……。



 それにしても……初めての外出は散々だったなぁ。当分はあのビルから外には出たくないね……。食料調達はやはり彩奈に任せた方がいいようだ……。後悔先に立たずか。



○○○



 我々が拠点としているビルに戻ったのは夕方になったからのことである。屋外階段を上がって屋上に入ると、例によって彩奈の帰りを待ちわびていた子供達が駆け寄ってきた。



「遅いから心配したよ!大丈夫だったの彩奈ちゃん!」


「ごめんなさいね。みんなを待たせて」



 一番小さな愛ちゃんが彩奈の胸に抱きつく。あの子にすれば彩奈は母親代わりなのだ。このように……子どもから慕われているのである彩奈は。


 しかし俺はさほど歓迎されていなかった。例によってあのズバズバ物を言う前髪パッツン女子が俺の前に現れた。彼女は俺は心の中で勝手に「眼鏡」と呼んでいる中1の女子だ。


 眼鏡は俺のズタズタになっている右手を見るなり、口を手で押さえるようにして叫んだ。



「ちょっ……。なにこれ!もう駄目じゃん」


「へ?駄目。何がだよ」


「完全にやられてるよ。これマズイよ」



 そのありえないほどにストレートな言葉が、俺に最悪の事実を気づかせる。赤髪ジャックとの戦いが激しすぎて全く気づいていなかったが、確かにそうだった……。


 感染だよ……。


 こりゃ腕を通してゾンビのウィルスが感染してもうてるかもしれん。赤髪ゾンビから。なんてこった。

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