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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
赤髪ジャックの襲撃
14/64

彩奈の敗北

 あれから5分は経過しただろうか。俺たちのいるビルの屋上では、彩奈の振り回す鉄パイプによって至るところが破壊されている。柵は折れ曲がり、貯水槽は倒れて、古くなった水を屋上全体にぶちまけている。だがダメージを受けているのはビルの設備と彩奈だけだった……。


 彩奈は掌から垂れる血を、制服の白い上着で拭いた。(これは赤髪野郎の恐るべき速さのパンチを左手で受け止めた時にできた傷だ。受け止めた際に破裂音がして、彼女の掌の皮膚が一部裂けたのである。)



「汚れちゃったじゃないの……」


 

 彩奈は赤髪ジャックを睨みつけた。しかし今の彩奈は童顔も相まって、本当に子供のようにみえる。弱々しいのだ。

 


 正直俺は、赤髪ジャックと彼女との間に、ここまで力の差があるとは思わなかった……。彩奈は休まず猛攻をかけているのに、一発も当たらない。まるで子供扱いだ。鬼神のような強さを見せ続けた彩奈が……全く信じられない。


 しかし実力差はあっても、彼女は諦めずに果敢に立ち向かうのである。その姿はあまりにも痛々しいかった。



「はぁ……。はぁ……。よけるんじゃ……ないわよぉぉぉっ」



 ガシャーンッ



 彩奈の振り回す鉄パイプは、赤髪ジャックを狙ったものの、またしても避けられる。その代わりにもの凄い音をさせて室外機を破壊し、武器は中にめり込んでしまった。



 それは中々抜けないらしく取り出すのに彼女は手間取ってしまう。その瞬間を見逃さずに赤髪のジャックは彩奈に顔を近づける。その人体模型のような不気味な顔を。



「ふはは。さっきは貯水槽の架台に当てたんだっけぇ?マジで上手だよぉ彩奈ちゃん」


「くっそ!」



 力任せに鉄パイプを引き抜き、傍にいた赤髪のジャックに向けて全力で鉄パイプを振るが、全く当たらない。たて続け手に蹴りを放ってもゾンビ野郎には軽くかわされてしまっている。あの稲妻のような素早い彩奈の蹴りが当たらないとは驚異的な速さだ……。本当にゾンビなのかあの野郎は。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ。なんて奴なの……」


「さぁ〜て。そろそろ本格的にイジメちゃうとするかなぁ〜」


 

 勝ち目がないと分かっていても、彩奈はジャックを睨みつけ続ける。幼い顔の彩奈じゃ迫力が足らないだろうから、俺も塔屋の影に隠れながら奴を睨みつけてるが……。その前に耳から流れる血がまだ止まらない。くそ……。



 その時だった。ビルがゆっくりと揺れだしたのは。



「なんだ……?また地震か」



 俺はこれがビルの揺れなのか、ちょっとした酔いのようなものなのかよく分からない。だが赤髪野郎と彩奈も、周囲を見渡して少し戸惑っている。そこから察するにやはり地震のようだ。朝に引き続きということか。


 じゃあこれは単なる地震なのか?それとも……。



「ま……まさか。またあの背広野郎が暴れてるんじゃないだろうな……」



 赤髪ジャックの謎めいた発言のあと、朝と同じ地響きが聞こえてきた。すると赤髪野郎は後ろに飛んで彩奈と距離を置き、東京のビル群の方に注意を向けた。



 このビルの屋上は見通しがよく東京の全景がみえる。俺の方からも、西新宿でもうもうと土煙が上がっているのが見えた。これは……例のジョーカーなる怪物が暴れてるのだろうか?そして赤髪野郎もジョーカーを知っているのか?だとしたらスーパーゾンビ同士は仲間じゃないのか。



 だがこのバケモンがここまで怯えるとは……。ジョーカーの強さとはどれほどなんだ……。全く頭が痛くなりそうだ。



 地響きが続く間は、ニヤニヤしていた赤髪のジャックから笑みが消えている。



「ちっ。あの野郎……まだ都心にいやがるのか。早くどっかに消えやがれ!」




 彩奈はその一瞬の隙を見逃さなかった。



「死ねっ!」



 一瞬で間をつめると、ゾンビの頭を狙って鉄パイプを全力で振り下ろした。



「こ……このアマッ……」



 ジャックは間一髪でかわしたものの、鉄パイプは奴の肩に当たり、そのまま肩の骨を砕き肩ごと右腕を切断した。右腕は奴の肩をつけたまま地面に落ちて、それ自体が生き物のように動き回る。



「ぐ……ぐぁぁぁ俺の右腕がぁっ」



 ゾンビは後ろにジャンプして距離を取ろうとするが、彩奈もジャンプして追いかけ距離を取らせない。そして間髪入れずに次の一撃を決める。



「もう……消えてぇぇぇっ!」



 鉄パイプは、奴の剥き出しの脳に突き刺さり、そのまま中から外へと頭蓋骨を突き抜ける。



「ぐ……ぐぎゃぁあああああああ……」



 鉄パイプには奴の冷たい血が伝ってポタポタと落ちていく。こいつは勝負あった。彩奈の勝ちだ!さすがだ……。



「はぁ……はぁ……。やった……」



 赤髪野郎は残った手で頭を押さえて苦しむ。



「こ……こんなはずではぁ……。この俺が……こんな無様な……最期を……」



 しかし……次の瞬間、赤髪ジャックから不気味な笑みがこぼれ、その左手が彩奈の細い手首を掴んで捕えてしまった。



「って嘘だよぉ〜ん。苦しそうに見えたかぁい?ゾンビだっての僕ちゃんわぁ〜」


「あっ!」



 赤髪野郎は舌なめずりをする。



「彩奈ちゃんは随分強くなったと思うねぇ〜。ウハハハハハッ」



 奴の握力は凄まじいらしく、彩奈の手首の骨からはミシミシと軋む音がする。彼女の顔はどんどん青ざめていく。そして本当に幼子のような弱々しい表情を浮かべた。



「いたっ……痛い……」



 そしてついに鉄パイプから手を離してしまう。彩奈は左足で蹴りを放ち、それは奴の横っ腹にマトモに決まったものの、ゾンビにはまるで効いていない。



「うひひ。なんだか俺は興奮してきたぞぉ。ようやく彩奈ちゃんを痛ぶれるんだから……な!」



 今度は逆に、頭に鉄パイプを突き刺したままの赤髪ジャックが彼女の腹に膝蹴りをいれた。それはマトモに決まってしまう。



「がぁ……がふっ」



 猛烈にふっ飛ばされた彩奈は、危うくそのままビルから転落するところだった。しかし運良く転落防止柵にぶつかり、そのまま地面にうつ伏せで倒れこむ。そして彼女は起き上がることもできず床に倒れ込んだまま、腹を押さえて苦しそうに咳き込んだ。まるで病院のベットで苦しそうにしている子供のように。



「ゲホッ……ゲホッ……」



 しかし赤髪のジャックはすぐには彩奈のそばに向かわない。まずは切断された自身の右腕を拾う。そして右肩の傷口にねじ込むように入れると……なんとその右腕は普通に機能しだした。これには俺も仰天した。



「な……なんだそりゃ」


 

 傷口から再生して結合したのか?一体なんなんだ……。ゾンビの癖に全然死んでねえじゃねえか。反則だろ……。

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