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超ゾンビバスター  作者: ぺんぺん草
東京少女
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7月のゴーストタウン

 信じられないことが起きた。


 東京タワーは傾きを増すと、ついに倒壊してしまったのである。土煙でタワー付近は何も見えなくなってしまっている……。彼女は俺にしがみつきながら震える声で訴えた。



「きっと遊びのつもりなの。アイツにとっては、これもちょっとした暇つぶし……」



 もう言葉が出てこない。なんて化物が彷徨いてやがるんだよ……。



○○○


 9時になった。太陽は高度を上げ日差しは強さを増していく。さすがにこうなると屋上は灼熱地帯だ。小さな愛ちゃんと春香ちゃんは、にっくき眼鏡に付き添われて下に降りていく。唯一、感染者が止まってない部屋があるので、そこで涼むんだそうだ。


 子どもたちが下の階に移った頃、彩奈は屋上のテントの中で女子校の制服に着替えていた。(その格好が一番、外で活動しやすいんだそうだ)テントから出てくると、彼女は足を伸ばして柔軟体操をはじめる。



「よいしょっと。今日は暑いなぁ……」



 俺は恐る恐る尋ねた。

 


「君。まさか今から外に出る気なのか?あんな化物が彷徨ってるんだぞ。やめとけって」


「だ〜め。水と食料を調達できるのは私だけだから。行かないとね」



 そう言うと彩奈は大きなリュックを背負った。そして転落防止柵を跨ぐと、その外側に出てしまった。そしてこちらを振り返って笑う。



「私がいなくて寂しい?でも大人しく待っててね蒼汰さん」


「ちょっ……。まさか君は飛び降りる気なのか?ここ10階建てビルの屋上だぜ!」


「まあね」


「考え直せ。君はまだ若い!自殺なんて……」

 


 ここで俺は余計な発言をしてしまうことになる。なんであんな事を言ったのか不思議だ。ヒモと思われたくない一心だったのかもしれない。



「よし。ま……待て!俺も手伝う!いいだろ?」



 彩奈は俺と顔を合わせずに答えた。



「本当に?蒼汰さん、1人で階段も降りられないのに。私は手伝えないよ?」


「そんなの……なんとかする。ロープと武器ぐらいあるよな、ここに」


「じゃあ……下で待ってる」



 そう言うと彼女はビルから飛び降りてしまった。



「彩奈!」



 俺は慌てて柵から身を乗り出した。彩奈は道路に放置されたトラックのコンテナの上に着地すると、ピョンと飛び降りて路上をスタスタと歩き出した。そしてビルを見上げて叫んだ。



「早くしてね〜」



 信じられん。全く平気じゃん彩奈は……。とりあえず俺は大急ぎで屋上に置かれていた用具入れから、ロープと武器になるような鉄パイプを手にする。そして余ってたリュックサックを担いで昨日登ってきた屋外階段を降りていく。



 しかし7階と8階の間には階段はない。俺は手すりにロープをしばりつけて、恐る恐る降りていった。ここから先はゾンビがいてもおかしくないが、幸いにしてゾンビに出くわすことはなかった。下の道路で待ってる彩奈のもとに駆け寄ると、彼女は街路樹の木陰で休んでいた。



「遅い〜」


「はぁ……はぁ……。おまたせ」


 

 不機嫌そうに腕時計をみる彩奈。



「待たせすぎ。15分も待ったよ」


「ちょっと厳しくない?見てたでしょ俺の苦闘を」


「まあね。本当は合格。じゃあ行こっか蒼汰さん」




 心なしか彼女は嬉しそうだった。その姿をみて何故か俺も嬉しくなった。ここはゾンビが徘徊する地獄の世界だと言うのに。



 彩奈は少し先を進む。俺はとりあえずついていくだけだ。道端に干からびた死体が転がってたりするものの、ゾンビは見当たらない。たくさんのカラスが死体を突っついているのは、ちょっと見ててギョッとするけれど。



「真夏のこの時間。外は結構安全なの。死人達も太陽の光を避けてるんだと思う」


「干からびちゃうからかな?でもフェリーターミナルの時みたいに突然、大群に出くわすかもしんないな」


「そうね。油断はできないね」




 外の世界は想像していた通り、荒廃していた。幹線道路の車道で車が何百台も列をなして止まっている。まるで大渋滞のまま、時が止まってしまったかのようだ。彩奈は時々振り返って状況を説明してくれた。



「どこの道路も放置された車のせいで道は塞がってるの。だから車で移動はできないわ。こうして自分の足で進むしかないの」


「不便だなあ。あ、そうだ。俺、一応免許は持ってるんだぜ。原付きだけど」


「惜しいっ。なんか色々と蒼汰さんは惜しいっ」



 鍵がかかったままの車を結構目にするのに使えないのは勿体無いなあ。まあ……運転席に白骨化した死体があったりするけど。

 


「ゾンビが襲ってきた時も道は渋滞してたんだろうな……」


「本当に時が止まってるみたいでしょ?」




 もう7月だから蝉の鳴く声がする。




「蝉の鳴き声だけは父島とあんまし変わらないな……」


「いいな父島。私も早くここを出て、父島に行ってみたいな」



 無人の大都会に蝉の鳴き声が木霊しているのが、なんとも寂しい限り。胸が締め付けられる。しかし拍子抜けなほどゾンビと遭遇しない。鉄パイプをブンブン振り回して威嚇しているんだが。奴らはどこに消えたんだろう。



「奴らは死人なんだから気にせずに、じゃんじゃん外に出て干からびちまえばいいのにな。何を微妙に生存本能働かせてるんだっての……」


「ちょっと笑わせないで蒼汰さん。やめてよ、変なの想像しちゃったじゃない!あはははは……」



 彩奈は笑いながら俺の肩をバンバン叩いてくる。こんな阿呆な雑談してる内に俺達はスーパーマーケットの前までやってきた。ここで食料を調達するんだという。



「うわっ……凄い異臭だな」


「中の食品が腐ってるの。だから外まで強烈な臭いが漏れてくるんだ」



 スーパーの中は真っ暗なようだ。彼女は懐中電灯を持ち、俺は彼女から渡されたヘッドライトを頭に装着した。



「この中にはゾンビ達がいるよ。それでもいいの?」


「もちろん。そのために来たんだから」



 なんて言ってみたけれど。正直言うと、1人で彩奈の帰りを待つのが怖くなってしまっただけだったりする。

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