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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
眩い閃光
7/70

雷って最強だと思う

「ヌゥウンン!!」


ガンン!!!

力の限りに振り下ろされたガルザンの槍は、後ろに飛んだイリナにかわされてしまい、その勢いのまま岩盤を打ち砕く!!!


「まだ終わらぬわ!!」


ビキビキビキ!!!

槍の切っ先が音を立てながら伸び、ただですら奇形な槍がさらに惨たらしくなる。


キキキキキキキンンン!!!

槍と槍が空中でぶつかり合い、しのぎを削り合い、多量の大きな火花が発生する。それは薄っすらと輝く月の光よりも明るく、2人の顔をを照らし出す。

巨大化、変形により凄みを増した化け物と、ほんの少しの汗を垂らしながらも冷静に対処する美女。


………速い。けれど、慶次さんや変態クソジジイほどじゃない。私なら余裕で対処できる。

それに!!


バチ!!

イリナの体が雷となり、ガルザンの槍の下に潜り込む。

このガルザンとやらの槍は長い!!隙をついて懐に潜り込めばやつは槍で私を攻撃できず、私は無防備な体に攻撃できる!!


ドス!!!

ガルザンの胸に、深く握られたイリナの槍が貫通することなく突き刺さる。ガルザンの体は肥大化した為に、イリナの槍の刀身以上に厚くなっていた。

けれど、突き刺さったのには変わらない。気管、気管支、胸筋、胸骨、肺動脈、肺静脈が斬り裂かれているのには違いがない。


ガシガシガシガシ!!

だがガルザンは怯むことなく、懐に飛び込んできたイリナを6本の腕で掴み、抱きかかえるように拘束した!!


「なっ………」


イリナの顔が疑念で歪む。


ニイッ

それを見てガルザンは口角を持ち上げた。


「我が体を巡る血は我が力、我が魔力そのもの!!そして我が魔力は身体の増強と修復!!例えいくら貴様に傷を刻まれようとも、血が我が体を流れ続ける限り死ぬことはない!!!」


突き刺された胸の傷口に血が群がり、まるでミミズの大群みたいに蠢き集い、あっという間に修復してしまった。


ググググッッ………

ガルザンの六つの腕に力が入る。


「このまま、貴様の体をへし折ってくれる!!!」


ビキビキビキ!!!

腕に魔力が働いたのか、腕が膨張しイリナを締め上げる力が更に増す!!!


「くっ………っそ!!」


イリナの腕は六つの腕で完璧に拘束されており、自由に動かせない。どれほどもがいても拘束から逃れることはできなかった。


これやばい!マジでやばい!六本あるせいか私の力でも抜け出せないなんて!早く抜け出さないと本当に体が!!!


グチャッッ!!!

肉と骨が破裂して、混ざり合った音が薄らいだ夜に響いた。



「ふぅ……こっちもこれで終わりでしょうかね。」


汗も出ない冷え切った体を震わせながら、カイは呟いた。

カイの目の前には巨大な氷の渦があった。水で出来た竜巻、海ではないが陸上に発生した渦潮がそのまま凍ったように、荒々しく巻き上げられた氷が天高くそびえ立つ。中には大量の魔物。

西の方角の魔物を早く駆除してしまったカイは、力を持て余していたため東の方角の魔物を掃討していた。


「………やけに遅いですね、イリナさん。いつもなら僕なんかよりも早く終わらせてるのに。」


カイは氷の渦に近づき、チョンと人差し指で押した。


グラ………ガシャアアアンン!!!

絶妙なバランスで立っていた氷はバランスを崩し派手に地面にぶつかる。

その衝撃で氷は砕け散り、魔物諸共粉々になった。


「次は北を片付けようか、それともイリナさんの状況の確認か………いや、村人の安否確認が先ですね。もしかしたら僕の氷の壁をすり抜けて村に侵入している魔物もいるかもしれませんからね。」


カイはすぐさま村に向かった。



「シネフィシのみなさーん。全員無事でしょうか?見当たらない人などいますかー?いたら教えてください。」


ついてすぐに、村の中央に集まっていた村人達にカイは話を聞いていた。

多少不安で陰ってはいたが、村人全員の表情は概ね明るかった。とびきりに強い勇者が守ってくれているという安心感に依るものだろう。


「ゆ、勇者さん!む、む、息子が………いないんです!!」


回っていると、女の人に声をかけられた。


「行方不明ですか………息子さんは魔物が襲ってくる前に一体どこで何をしていたか分かりますか?」


「む、村の外で素振りを………」


今の所、行方不明の報告はこの一件だけだ。ということは魔物が壁を超えて入ってきたって可能性は低そうですね。

それに村の外………今の所子供にはあっていないから、北か南のどちらかにいるのだろうか?それともなんとか逃げ切って、今は村の外のどこか隠れられる場所に隠れているとか?

もし北にいまだいるのなら………


「………分かりました。それじゃあ名前と外見の特徴を教えてください。早急に探してきますので。」


北の方はイリナさんと合流してからで良いと思ってたけれど、こうなってしまったのなら悠長に待っている暇はない。すぐに魔物を倒さなくては………


「ありがとうございます!!」


女の人に頭を下げられる。

困ったなぁ。年上の人に頭を下げられるのとか苦手なんだよなぁ。


「頭を上げてください。僕は勇者として当然のことをするだけですよ。……それで名前は?」


「は、はい!!名前は………」


パリーーン!!!!

聞いている途中に、北の方から氷が割れる音が聞こえた。

な!?聞こえたってえ!?壊れた!?壊れたってこと!?僕の氷が!?……あり得ない!!氷の壁の強度は第一類勇者以上じゃないと壊せないぐらいに設定している!!そして北の方角にはそれらしき魔物もいなかった。あれを壊すなんて不可能なはずなのに………な どうなっているんだ一体!!


「………み、南に避難してください!!とにかく南へ!!僕が食い止めている間に!!」


カイは腰に据え付けている真っ黒な剣を引き抜く。

少なくとも一体、桁違いに強い奴が紛れ込んでいる。それと数百体の魔物………さすがに全ての敵を、村人の安全を保障して倒しきるのは難しい。

………まさか、イリナさんの方にもこれぐらい強い奴がいたのか?あの指揮官?………ぬかったな。これなら魔力の使用限界の、氷の壁三つを出して、二人で同時に行動するべきだった。


「ウォォオオオオ!!!!」「壊せ!!!壊せ!!!」「破壊だぁぁああ!!!」


魔物達が雄叫びをあげながら、村の中央に流れ込んでくる。ドタドタと要領の悪そうな足音が、実にやかましい。

………違う、こいつらじゃない。せいぜい騎士、聖騎士程度の力だ。もっと化け物じみたやつが…………


「………魔族のお方でしたか。これはめんどくさいことになってきましたね。」


魔物の大群の上空に、青色のローブを羽織った人間が浮いていた。人間の周りには細かな岩が複数の輪を描いて浮いている。フードを深く被っているせいか、それともローブの魔力か、フードに闇が立ち込めて人間の顔は見えない。ただ、背が低いということは分かる。150センチメートル……あるかないかといったところか。


ズズズズ…………

カイの周りに水が湧き上がる。

パキキキ…………

そして、氷柱状の氷が数十本出現し水とその姿を残したまま融解していく。形のある水。それが光を反射しながら敵に標準を合わせる。さながら背丈十メートルの折り重なる大量の大蛇。獲物を噛み殺さんとギラギラと牙を光らせているようだ。


………さて、勇者としての務めをどれだけ果たせるか試してみるか。


水の発射と同時に、カイは大群へと走り出した。




グチャッッ!!!


「ぐうっっ!?!?」


イリナの右足の蹴りがガルザンの左脚の大腿骨をへし折り、筋肉が破裂した。


ズシャアア!!

そして、ガルザンは足の踏ん張りがなくなり前のめりに倒れてしまった。


「はぁ……はぁ………骨が残さず欠片になるとこだった。あっぶな!」


ペイッ

イリナは腕についていた野太いガルザンの腕を取り、そこらへんに放り捨てた。

イリナはガルザンの腕の力が緩んだ瞬間、ガルザンの腕を三本ほどねじ切り拘束から逃げ出していたのだ。


「ぐうっ、倒し損ねたか………だが!それでも貴様が我を倒すことが出来ぬことには変わらん!!!」


へし折れた脚と千切れた腕がみるみるうちに修復されていき、完治したガルザンはすぐに立ち上がった。


「確かに魔物五百体分の力とその回復力は侮れないよね。腕が私の三倍あるとはいえ、力で私の動きを封じて、あわよくば体を粉々にしようとしてくる余力すらもある。それでいて槍で貫かれてもすぐに回復する。千切れた腕も再生する。うん、超強い。あんたを先に倒すべきだった。倒す順番を間違えた感が半端じゃないよ。」


ピュンピュンピュンピュン

イリナの槍が双剣へと変形し、目まぐるしい速度で振り回される。


「でもさ、魔力を発動する前は第二類勇者に劣る力しかなかったわけじゃない?あんたさ。魔力で無理矢理そこまでの力を手に入れただけなのだから。だったら魔力も無制限なわけがないよね。何かしらの制限があるわけだよね。」


ピュッッ

雷をまとった刃が、ガルザンの胴体を真っ二つにする。


「がはっ……だが!!」


ビジュルルル!!

けれどすぐに胴体はくっついた。まるで何事もなかったかのように。ピッタリと、あっという間にくっついた。


「胴体もくっつくってことは回復力に制限があるわけでもない。回復速度に制限があるわけでもない。あっという間に回復しているからね。………だったらさ、制限があるとしたらさ、回数しかないよねぇ。」


ピタッ

剣を振っていたイリナの手が止まる。


「血が魔力の拠り所………そして五百体分の血…………五百回ぐらい殺せば死ぬのかな?」


ニィッ

イリナの顔が酷く歪む。


ザシュッッッ!!!

ガルザンの胴体が袈裟に斬れる!!

ブシュッッッ!!!

再生したガルザンの胴体が今度は真っ二つに切り裂かれる!!


再生すればその途端にガルザンの体は真っ二つに切り裂かれていく。まるでミキサーにかけられたニンジンだ。どう頑張っても、細断される未来しかないと、その刃が無情に語っているかのように。


「ウォォオオオオ!!!」


サン!!!

ガルザンの槍が宙を切り裂いた。


そして目にも留まらぬ速さで動き続けるイリナ。どんなにガルザンが迎撃しようとも、その攻撃は一撃も当たることはない。

ガルザンの体に滴った真っ赤な血が、空中に撒き散らされ綺麗な弧を描くだけだった。


五十回ほどガルザンを斬り続けると、二人の周りに血の池が広がっていた。そして、ガルザンの身体は元の体に戻っていた。ガルザンの体から血が抜け出たせいでだろう。


「ガ……ァァアアア!!!!」


ガルザンの薙ぎ払いは、またも空を切った。イリナが距離をとったからだ。


ブアッ………ピュンピュンピュン!!!


足元に出来た血溜まりから、血の塊が弾丸のようにイリナに向かって発射される!!


「あら、今までしなかったねこんなの。体に取り入れないのかな?」


ベチャベチャベチャ!!!

どれほど速かろうが、血の弾丸は全てイリナにさばかれ、空中で弾け飛ぶ。


「……まだだ!!!まだ終わらん!!!」


ガルザンは離れているイリナに向かって突撃した!!!


プシュッ

ガルザンはイリナが振り抜いた剣を、耳を切られながらかわす。


プシュッ

かわした先に待ち受けていたもう片方の剣がガルザンの右肩を削る。

それでもガルザンの突進は止まらない。どんなに切り刻まれようとも彼は進み続ける。どれほど血を流そうとも、血で傷を回復することには変わらない。


「我が名はガルザン!!鮮血のガルザン!!終わらぬ!!終われぬ!!我が同胞の血潮にかけて!!我が熱血の誇りにかけて!!!」


ガルザンは幾千の刃の嵐を、血に塗れながらも突き進み続ける。痛みも介さず、恐怖も介さず、猛然と突き進み続ける。仲間の血を力の糧にし、鮮血に塗れ、血を撒き散らしながらも攻撃し続けるその勇猛な姿は、鮮血のガルザンの名に違わず鬼気迫る迫力であった。


………だが、それでも、


「あんたは強い。力と再生能力だけなら第二類勇者にもひけをとらないと思うよ。」


バチチチ!!!

鋭い電撃が、ガルザンの体を切り裂いていく!


「でも運が悪かった。本当に悪かった。私と対峙してしまったのだから。………あんたじゃどう頑張っても」


ガルザンに向けた人差し指から、一際明るい光が発する。


「私には届かない。」


カッッゴロゴロゴロゴロ!!!ピシャアアアアンンン!!!!


巨大な稲妻が、ガルザンを貫く!!

ボロッボロと、夜風に当てられ真っ黒になった体が朽ち果てていく。


能力によって無理矢理に性能を引き上げられた細胞は度重なる破壊と修復によって深く傷ついていた。そしてイリナの雷でトドメを刺された。もはや修復不能。結合能力すらも失い、崩れ去る砂楼のようにゆっくりと消え去っていく。


瓦解していく細胞。それが空へと黒い飛沫のごとく消え行くのを見送った後、イリナは村へと戻っていった。

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