流動する暗黒
轟音と共に迸る閃光。
屈折し、ヘドロのように歪む闇。這うように進みながら、闇に包まれた魔物は……いや、生物というよりかは液体のように蠢き変形する様は、魔物の形をした闇と形容した方がいいだろう。
ブワァッ!!
鬱積した闇が、光を押しつぶしながら高波のように襲いかかってくる!
ササササンッ!!
しかし私はすれ違いざまに闇を細切れにしながら、高速で駆け抜ける!そして後ろに陣取っていた男に剣を振り抜く!
キィンッ!!!
私の剣と男の短剣の側面がぶつかり、眩い火花と共に男が吹っ飛んだ!その殺しきれるチャンスを私は見逃さない!思いっきり踏み込み男の元に
ブチュンブチュンバチャンッ!!!
背後から襲いかかってきた闇塗れの液体の攻撃をかわし、私は急いで距離を取る!
ベチャンっ!………ベチャン!!
攻撃してきた闇は水を滴らせながら、握りつぶしたスライムが元の形に戻るように魔物へと変形していく。
「……厄介な魔力と魔物が組み合わさりましたね。」
いつのまにか私の背後に回っていたカイが口を開いた。
「何回殺しても死なない魔物と、感染したものを殺す魔力。そして得体の知れない液体状の体質………今、あの魔物達は死に続けながら攻撃してきている。」
「………じゃあ何度も殺すまで。それ以外の選択肢ないでしょ。」
「………了解です。」
私は光剣を双剣に変えると闇を斬り伏せていく!
前と同じなら500回ぐらい殺せば完璧に死ぬはずだ!それまで何度も殺すのみ!
光り輝く二振りの剣が、闇の隙間を駆け抜けながら闇を払いのけていく。千切れ、飛び散り、闇がドンドン霧散し………
ズニュルルルルッ!!!
突如飛び散っていた液体達が集合し巨大な水の塊となって私の周りを覆った!濃く濁った闇が光を閉じ込めようとしている!
なん……これはもう魔物じゃない!液体だ!細胞出てきた流動体!
ピシャァアアンンッッ!!!
雷を爆発させ水の塊を吹き飛ばすと、私はそこから急いで離れる!!
ズァアアッ!!!
弾け飛んだ液体達が私に向かって波のように押し寄せてくる!!地面にぶつかった時にとぐろを巻き、荒々しい水飛沫を上げながら!!
タタタンッ!!!
部屋全てを使い縦横無尽に追いかけるも、液体達は荒々しく、しかし正確に押し寄せてくる!!
最悪だ!!感染経路が動きの固い生物だったからまだ対処のしようがあったんだ!!それが液体になんかなってしまったら、どんな行動にも柔軟に対応され、否が応にも身体に触れてしまう!!
バシャァアンン!!!
闇の塊のような液体と、津波のような水がぶつかり合い、水飛沫が飛んだ!
「援護します!イリナは男をなんとかして倒してください!」
カイの水の魔力!!確かにこの魔力さえあればあの魔物の集合体はなんとかなる!……けど!
バシャァアンン!!!バシャァアンン!!!ドチャァアアンンン!!!
勢いよく飛び出すのと同時に、闇が追いかけてくる!それとぶつかり吹き上がる液体!すると唐突に闇が方向転換し回り込むように私に襲いかかる!
これってもしかして……っ!!
急いで飛び上がると、背後から迫ってきていた水が闇とぶつかり跳ね上がる!!そして空中にいる私に向かって雪崩れ込む闇!!それと相殺する水!!私を中心に闇と水が環状の戦いを繰り広げ、激しい渦を巻き起こしている!!
どうやってここから抜け出すのさ!!
「僕が………」
雷と一体化することで空中で軌道を変え闇から逃げた瞬間、水と闇がぶつかる!……と思ったら水は勢いよくぶつかることはなく、闇を優しく包み込むと
「なんとかします!」
ピシンッ!!!
水が急激に凍りつき、闇を氷の中に閉じ込めた!
「ナァアイス!!!」
この隙を無駄にする訳にはいかない!!私はありったけの魔力を注ぎ込み、空中を駆け抜ける!!
「ぬぉおおおおおお!!!!」
ガッ!!!
氷漬けになっていた不定形な闇が、突如魔物の形になり……
ガシャアン!!!
氷をぶち割った!
津波となって私に押し寄せる闇!!魔物の形を保ちながら、しかし流れを止めることなく素早く、高速で流動する!!そしてその巨大な右手を私に向かって振り下ろす!!
マジかフザケンナ!!
バチバチバチバチバチッッ!!!
「グォォオオオオオアアアアッッ!!!!」
雷の龍がとおぼえと共に現れ闇に食らいつく!!
タンッ!!
「そんなに近づきたきゃ来てやるよ!」
この大技をぶっ放した一瞬の隙!この一瞬を男は見逃さなかった!空中にいる私にその短剣を突き刺そうと飛びかかってくる!
「首ひねって!!」
「!?」
カイの言葉に反応して首をひねった瞬間、いや、首をひねる前からもう既に……
ザシュッ!!!
天井から水が氷柱のように高速で伸び、私の頭があった場所を通過して男に襲いかかった!男はそれをかわすと、またあちこちに散らばった闇の中に姿を隠した。
バチィンッ!!!
龍が液体の腕によって首を引きちぎられ弾け飛んだ!
そして魔物はまた不定形の液体となると私に襲いかかってくる!
混合液だから電気がよく流れでしまうんだ!龍も決め手に欠けるし、氷でも閉じ込めきれない!逃げ続けるのにも限界がある!それになにより……あの男を放ったらかしにしてるのがヤバイ!私達の行動を制限している男が自由だなんて悪いことしか考え付かない!
「なんか良い案ないの!?このままだとジリ貧なんだけど!」
「いえ!そんなはずありません!完璧に不死身なんてことはあり得ません!こんなに何回も殺してるんです!そろそろ………」
ザブゥウンッ!!
いきなり闇が、勢いなく床に叩きつけられた。そして、そこから闇は床の上を垂れるように流れていく。
「……限界を迎えましたね。」
「……焦ったぁ。それじゃあ」
ズニュルルルル…………
部屋の至る所から液体が滲み出てくる。
「………我は懸濁のニアムズ。グラディウスで最も死が遠い者。」
液体が床の上を這っていた液体と合流し、混ざりあっていく。
「我が同胞と血肉を共にすることで、命を無限に増やし続ける。………さぁ、潰し合おうではないか。」
流動する死の闇が、私達に再度襲いかかってきた。




