開幕!シネフィシでの死闘!!
「イリナさん!魔物が出ました!!」
家で寝転びながら本を読んでいると、村人が息急き切ってドアを勢いよく開ける。
「あらら、予定より1日早いじゃん。それで、どの方角から来たの?」
「それが……その…………」
疲れ切っているせいでうまく声が出ないのだろう。全速力で走って来たに違いない。
「まぁまぁ落ち着いて。どれだけの相手が来ても私が全部倒してあげるからさ。深呼吸が大切なのさー。」
私は村人の息が落ち着くのを待つ間に読んでいた本を棚に戻す。
「イリナさん!全方角です!全方角から魔物が大量に!!」
……
………
…………
「カイ。どんな感じよ現状。」
私は急いで、村の周りで見張りをしていたカイに合流した。
「敵の数は千以上千五百未満。四方向、北、南、西、東から攻撃して来ています。」
ヴォォオアアアアア!!!
最前線まで来ると魔物達の雄叫びがうるさい。何百もの声が重なり大気と人々を震わせる。
「北と東は僕の氷で塞いでいるので魔物が入ってくることはありません。ですが南と西の守りはがら空きです。特に南、敵の数が1番多いですね。多分五百体はいるかと。」
魔物はもう既に村を覆う森を抜け村に入り込もうとしていた。
いままでは数十体しか攻撃に来ていなかったのに、今回は千体以上……多分今回の攻撃で全てを終わらせるつもりだ。
そして、そうであるのなら敵の指揮官、リーダーがここに来ているはず。この戦いで捕まえなくちゃいけないな…………色々と聞かないといけないことがある。
「全部を倒すこと自体は簡単なのですが、村人に危害を与えないとなると……少し、めんどくさいですね。一体だけ高位の魔物が見えますし、南側で侵入を許してしまうかも。」
「オッケー。それじゃあ私は南の方を片付けてくるわ。カイは西ね。終わり次第村の中央で待ち合わせ。」
「はぁ、分かりました。調子こいて怪我だけはしないように。怪我だけはさせないように。」
「調子こいて当たらないっての。当たらせないっての。調子こきは強者の特権よ。」
バチン!!
体から雷が弾けた。
「進め!!進めぇ!!」
魔物の軍団と統率者と思われるものが声を荒らげ周りを鼓舞する。
「我らが王の為に進み続けよ!!破壊し続けよ!!我らは破滅をもたらすもの!!その誇りを胸に掲げ、敵対するもの全てを殺すのだ!!」
一際大きな魔物は右手に持っていた槍を天高く掲げた。
「はっ!!ガルザン様!!」
周りの魔物がガルザンの声に呼応し、更に魔物達のボルテージが上がる。
………しかし、分からぬ。
ガルザンは魔物達を鼓舞しながら、考え事をしていた。
なぜ王はこのような小さな村を襲おうと思ったのであろうか。勇者領から離れておりかつ資源にも乏しい。周辺の村に何かがあるというわけでもない………一体、何を考えておられるのであろうか。なんとも測れぬ。
……だが!
「もうすぐに村だ!!一蹴せよ!!一分もかけてはならんぞ!!尽く蹂躙するのだ!!」
やることは変わらん。たとえ王の考えが私にはわからずとも、私は私の役目を果たすだけ。王の手足となり行動するだけ。
「全ては我らが王の為に!!!」
ドォォオオオンンン!!!
我らの軍隊の前線で巨大な音がし前線一体を覆うほどの土煙が舞う。
なんだ!?爆発か!?
「どうしたのだ!!!」
ヴャアアアア!!!
土煙によって前線が全く見えん!!ただ、同胞の悲鳴が聞こえるだけ。
「おいお前!お前の魔力で前線を見るのだ!一体どうなっている!?」
私は近くの探知の魔力を持つ者に急いで状況を確認させる。
「わ、わ、我らが軍勢がみるみるうちに倒されていきます!十、二十……ダメです!速すぎて計測不能です!!」
なんだと!?まだ五秒も経っていないぞ!?
少しずつ土煙が晴れていく……
「前線の百体がぜ、ぜ、ぜ、全滅!?!?」
そして、完璧に視界が晴れた。
………化け物め。
私は、雷を纏った人間の女が、剣を持ち、同胞の血を全身に浴びながら、空中に浮き上がっている所を目の当たりにした。
僅かな月光を凌駕する輝きが、血の煌めきと共に我が軍を覆っていた。
前線は全滅。私はこのありえない現実を受け入れられずにいた。だが、見ることで理解してしまった。同胞達が2つに切断されていたのだ。頭と体が、上半身と下半身が、縦に、斜めに………それが百体。
「指揮官みーつけた。」
女と目があった。
その瞬間、全身を縛り付けられたみたいに体が硬直した。
「……………と、とめろぉおおお!!!」
女の周りにいた魔物達に指示を出し、一斉に襲わせる!!
女は魔物達に覆われ、女がいた所には魔物の山ができていた。
数だ!!数で押し切るしかない!!押しつぶすしか!!ない!!!
バチチチチチ!!!!
黄色い稲妻が魔物の山を焼き焦がし、天まで上り詰める。
何十もの同胞が真っ黒になり、血を吐き出しながら空中に吹き飛ばされた。
「ぜ、全員!!あの女を………」「神罰の一撃 (ディヴァインブラスト)セカンド」
「グルァアアアアア!!!!」
バチチチチチチチチ!!!!
ズガガガガガガガ!!!!
「ギャアアアアアア!!!」「ガァァアアアアア!!!!」
黄色の龍が、巨大な稲妻を轟かせながら、周辺全てを粉々に食い尽くし、削り殺し、轢き殺し、燃やし尽くした。悲鳴をあげて死ぬ者。悲鳴をあげる暇もなく死ぬ者。生きているものは私を残して誰もいなかった。
まるで地獄のような光景だった。三十秒にも満たない僅かな時間で、六百もの大群が殺されてしまった。全面真っ赤な血だまり。こげた亡骸の山。ぐちゃぐちゃな真っ黒な断片。血を焦がしたような異臭が立ち込め、ドス黒い煙が沸き立つ。
「……あんたがこの軍の指揮官よね。」
茫然とこの景色を見ていると、女が目の前に来ていた。剣の切っ先がギリギリ届くような距離。多分私の力じゃこの者には太刀打ちできないだろう。
「ここから私の質問タイム。反抗とかしたらその場で殺すから。正直に答えるのが身のためだよ。」
先週以前まではこのような人間はいなかった。……援軍を呼んだのだろうか。
「一つ目。あんたらの目的は何?こんな小さな村になんの用事があったの?」
「………知らん。」
「………あっそ。まっ、これはそこまで重要じゃないからね。次行くよ。」
……この女に、我らに対する同情はない。目が私を見ているようで私を見ていない。何も見ていないのだ。だから、私が抵抗したら私をすぐに殺す。殺せる。必ず殺す。
そう、目が語っている。
「あんたらに知性を授けたのはどいつ?あんたは高位の魔物っぽいから喋れるのはまぁわかる。けれど、下っ端の魔物が喋っているのはあまりにもおかしいでしょ。あいつらバカだから。」
「………知らん。私は王の命でここを攻撃しただけだ。」
「…………ふーーん。そんじゃ最後。これからあんたらはどう行動するのかな?目的がわからないと言っても、村を壊すのは決定事項なんでしょ?司令官のあんたなら絶対に知ってるよね。」
「誰が貴様なぞに教え」「じゃあいい。」
ピュっ
イリナがガルザンの首を切り裂く。
「ガッ……ゴボッ………ガハッ!!」
首を押さえ、血が噴き出るのを止めようとするが、地は止まることなくガルザンは地に膝をつけ倒れ込んだ。
「行動原理が忠誠心のみの敵はさっさと殺すが吉さ。そういう奴にチャンスを与えると喉元に噛み付かれるからね。」
イリナはガルザンの胴体に剣を突き刺し、十秒ほど眺めた後、村の方に視線を向けた。
まだ全ての魔物を倒したというわけではないけれど、1番面倒くさい方角を終わらせたのだからひとまずの安全は確保したといったところかな。カイの方も終わっているだろうから合流してさっさと終わらせよう。
作戦が分からないって所がちょっとした不安材料だけれども、まぁ、なんとかなるでしょ。
「血よ私に力をぉおお!!!」「!?」
ガィインン!!!
「ぐっっ!!」
背後からの重たい一撃を、剣でなんとか防いだが、イリナは3メートルほど吹き飛ばされた!!
「私は七王直近の精鋭部隊グラディウスが1人 鮮血のガルザン!!」
周りに染み渡っている魔物達の血が、ガルザンの開いた喉や口、胴体に流れ込んでいく。
ビキビキビキ!!!
そして、ガルザンの骨格が肥大化していく。
「我が同胞の熱血は我の魔力と共に混ざり合い我が血肉とならん!!」
ガルザンの肥大化に合わせて、彼が手にしている槍がより巨大に、そして刃が増え、うねり、禍々しく変形していく。
「血で繋がりし我が軍の絆!!それは決して途切れることなく我が体を駆け巡っている!!!」
目と腕が6つに増え、背中に羽が出現する。
いつの間にか傷口は修復されピッタリと閉じていた。
「我の今の力はぁああアア!!!!」
ズンンンン!!!!
ガルザンの自重に耐えきれなかった地面が崩れる!!!
「我が同胞500人分だと思い知れ!!!!」
「………へぇ。」
イリナの手にする剣が槍へと変化し、構えた。
「ちゃんと指揮官してんじゃないの。そういう奴、嫌いじゃないよ。」
バチチチ!!
イリナの体から勢い良く雷が弾けた。