膨らむ衝動
たまに、時たまに、全てをぶっ壊したくなる時がある。人間関係とか、環境とか、世界とか、なんかもうとにかく全て。そしてめっちゃくちゃ叫んで転がりたくなる時もある。
精神不安定すぎるだろおい。
「……………」
あーくそっ、やってらんねぇなぁマジで。本当なんでこの世界って存在するんだろう。全てが理不尽すぎんだろ。
俺は空を眺めながら寝転がっていた。くっだらない全てが消えることを祈りながら。
「…………ムカムカすんなクソが。」
1度目を閉じ心の中を覗いた後、澱んだ暗闇を払うために再度目を開けて立ち上がり、そして走り出す。
僅かな月夜に照らされた森。草を足がかき分けていくサワサワ音だけが聞こえる。
祈るだけじゃ意味がねぇ。俺が出来ることはこれだけだろ。
「………ん?こんな時間にな」
「八つ当たりだ。」
スパッ
「に……を………」
近くの都市に辿り着き、歩いていた男の顔を手刀で斜めに切り裂いた。
「キャァアアアアア!!!!」
俺が人を殺した瞬間を見たやつが悲鳴をあげた。
俺はそれを聴きながら目を閉じて空を見上げた。瞼の上から感じる月光。
………俺は生きているのか?
「貴様何をしていっ!!」グシャッ!!!
悲鳴を聞きつけ飛んできた見回りの顔面に膝蹴りを叩き込み、倒れた所に更に蹴りを加えて頭を吹っ飛ばした。
グチャッ
飛んで行った頭が家の壁にぶつかり脳漿と血をぶちまけた。
自分以外の生を意味もなく奪うことができる。でも俺は生きているのか?全ての命を握った、いわば生態系の頂点にいるはずの俺は………生きていると言えるのだろうか。
増援がゾロゾロと駆けつけてくる。10〜20か。全員が聖騎士以上の実力は持っている感じか。
「死にたきゃこい。問答無用で殺してやる。」
俺の胸に溜まったこの重り、熱、喉と肺を焼き焦がすように這い上がってくる言いようのない不安。それを吐き出しながら俺は笑った。
ダンッ!!!
3人が一斉に飛びかかってきた。
グチャゴシャッ!!
俺はそのうちの右側の人間の顔面に内回し蹴りを叩き込み、すぐさま重心を下げながら脚を地面に下ろす。そして真ん中側の人間の下に潜り込み、左肘を腹部にねじ込んだ。そのまま残った敵の攻撃をかわしながら、左脚の外回し蹴りを………
ベギィッ!!!
延髄付近に決め、その近辺の脊柱を完璧に砕く。
人を殺しても満たされない。俺の唯一の生まれた意味のはずなのに、なぜこうも無意味に感じるのだろうか。俺は一体何のために生まれ、何のために死んでいく?俺は………生きているのか?
「………………」
ドゴォンッ!!!
肘打ちを決められた男が俺に寄りかかってきやがったから、俺はそいつの首を掴みながら地面に叩きつけた。その時飛んで頰に付着した血は温かく、しかし、夜の風によってすぐに冷えていった。
「…………はっはっはっはっはっはっはっ!!!はっはっはっはっはっはっはっ!!!はーっはっはっはっ!!!」
無意味しすぎて笑えるわクソがっ。
俺は高笑いしながら、並み居る敵を全て叩きつけ、引き裂き、すり潰す。真っ赤な血液が新月の夜を鮮やかに彩っていく。あっという間に消えていく音、温もり、光。感じる全てが時と共に過ぎ去っていった。
「はっはっはっはっはっ!!!…………ははっ…………フッ。」
どれだけ時間が経っただろうか?命と共に消えた時間に思い馳せながら、今さっき俺の手で潰れた都市の中心で立ち止まっていた。
「なんなんだ俺は。」
俺が生きている意味はあるのか?………あるはずがない。殺すことしかできない俺は、今俺が殺したこの名もない一般人と同じで意味がない。
俺は冷めていく血の温度しか感じることができないのか?………それ以上を求める必要がない。
…………くっだらないほどに、俺に意味はないらしい。
「………でも、」
…………でも、死ぬ気にはなれない。俺はまだ満足していない。全てを壊してもまだ足りない。この叫びたくなるような心のモヤは、血や死ごときでは贖えない。もっとだ……もっとっ!
「…………ひとまずあの2人だな。次は全力で殺す。」
ボロっ
手に付着した血が壊死し、その組織をボロボロに崩壊した。




