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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
赤き血潮の大悪党
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魔力のお話

たとえば、人は空気を吸っている。空気というのは何もないように思えるが、沢山の物質を含んでいたりするわけである。埃とかカビとか金属とか、人体に有害なものも沢山ある。なのに人はそんな空気を吸ってもケロッとした顔で生きているわけである。身体の中で分解したり、吸収しないでそのまま出したりするかららなわけで……人間の体というのは改めて考えてみると凄いものだ。

さて、なぜこんな話をしたのか?説明をすれば簡単だ。その空気に乗って人間を完璧に破壊する魔力の説明をするためだ。最初に言っとくが、これは魔法世界の話と物理世界の話がごちゃ混ぜになっているから、「違うだろ、そこはタンパク質系のなんちゃらの作用で〜」とか、「生体物理化学的に考えてその発生エネルギーは〜」とか、「なんでそんなに体積増えるんだよ、バイ○ハザードじゃあるまいし……」みたいな野次は控えていただこう。

[崩界(ほうかい)]の魔力は、魔力保持者からよくわからない魔力が放出され、空気中をフワフワと漂う。それは目に見えず、もしかしたら放射線のように波動かもしれない。またどこまで漂うかも検証がされていない。いや、検証はしたが、結果の統計が取れなかったというのが最適だろうか。しかも驚くなかれ、その放出を術者が止めることはできないのだ。魔力が覚醒した時から、魔力は小川のように永遠と垂れ流されているのだ。

そして本題。この魔力が他人に触れてしまうとどうなるか?それは魔力がウィルスのように他人の細胞を乗っ取り、細胞の核を魔力の核に変換させ、その人間が持つ魔力をエネルギーとして急激に増殖する。こうして細胞の全てを破壊し、人を死に至らしめる。感覚と肉体、精神、心。人間という存在の範疇となる十八界を悉く破壊し蹂躙する。

ただ、これだけならまだ優しかったのだ。周りにいる人間だけを殺すのなら何も………この魔力は、人に感染してからが極悪。

最初に人に感染した魔力は、まだ[細胞を魔力に変換するのに慣れていない]状態だ、これをAとしよう。しかも、その状態の魔力が増殖しても[慣れていない魔力]が生まれるだけ。Aによって生み出された[慣れていない魔力]をBとする。この場合、飛躍的に感染スピードが上がるわけではない。しかし、Aは一度Bを作るとその宿主から離れ、新たな宿主を探しに行くのだ。そして、新たな塩基配列を見つけた途端、Aは凄まじい速度で[慣れている魔力]を増産する。これをCとなづけよう。そしてAは[更に慣れた魔力]となり、新たな標的を探し、見つけるとまた今まで以上の早さで増殖…………そう、[学習するウィルス]なのである。しかもこれ、Aだけじゃなく、BやCもまた、一度魔力をD、Eを増殖すると、新たな宿主を求めて外に出て行くのである。つまり、一度人がこの魔力の毒牙にかかった途端、その感染力は爆発的に増加していき、[一番最後にウィルスにかかった人が、一番早く死ぬ]ことになるわけである。これが意味することは、特別な方法を用いない限り、感染源は必ず発見されることはなく、対処不能な速度で感染して行くということだ。人が集まった場所……社会環境でもしこの魔力が発動したら………社会は間違いなく消える。………1つの社会で済めば良いのだが……………


[崩界(ほうかい)]の魔力の持ち主は、イリナさんに人間を投げた。多分、一番最初にあの場所で感染した人でしょう。それはオリジナルであるAの塩基配列を持っていた為、BやCやDやEのウィルスに感染してても、増殖することがなく、しかし、Aの塩基配列を持たないイリナさんに感染した途端、異常な速度で増殖をした。とすれば筋が通る。…………また、信じられないことですが、貴方はそれを、細胞レベルで感知し、自らの体を焼くことで感染源を完璧に潰したのです。魔力の詳細を知らない貴方は、本能でそれを理解して対処したのです。狂ってますよ。」

「話が難しくて食らいつくので精一杯だったけれど………つまりあれでしょ?ネズミ講みたいなもんでしょ?よくわからないけれど。」


私はこめかみを机にくっつけ、ヒンヤリとした触感で頭の知恵熱を抑えていた。

あーむじゅーい。何言ってるかわきゃんなーい。


「ネズミ講と違って、運が良ければ終焉するんですよ。感染の最後の方は、[感染したと同時に死ぬ]からですね。死んだ時に周りに人間がいなければ、感染することはない。………まぁ、初期感染者とか第二次感染者が気づかずに隣町とか、コミュニティに接触してたらその限りではないですけどね。というか、この魔力の危険性はそこですから。[どこで・誰が・いつ感染したのか分からないところ]がヤバいんです。」

「じゃあ、あの魔力を持った子を探し出すのは難しい?」

「いや、大体の範囲はわかりますよ。」


カイは地図を取り出すと、ベッドの上に置いた。

何個もの赤い丸が地図上に重なるように書き込まれている。………まさか、


「ここ二日間での感染による死者をピックアップして地図に書き込みました。円状の部分で死者が集中しているので、アバウトに追うだけなら可能です。」

「…………これ、どれだけの死者が出てるの?」


かなり大きな地図の大部分が赤色に塗られている。とても嫌な予感がした。


「村は最低でも100は潰れてますよ。途中で数えるのが面倒くさくなったので、そこまでしかわかりませんがね。」


目眩がした。

なんだこれ、どういうことだ一体。地図を見ればわかる。何かしたわけじゃない、歩いているだけじゃないかこれは。それなのにこれ………


「………これ、ここ近辺の人達に伝えた?」

「無理ですよ。伝えたら一斉に中央に避難しちゃうじゃないですか。………そうなったらどうなると思います?」

「……………」


ガンっ!!

私は思いっきりベッドを殴りつけた。

もし万が一感染している人がいて、それが中央に避難したら………勇者領の中枢は全滅する。だから避難勧告がだせずにいる。わかっていながら、知らずに這い寄ってくる死に、ここら辺の人達を晒しているんだ。こんなの……見殺しだ。

でも私は何も言えない。なぜならこの選択は正しいから。……正しいけれど、なんというか、腹が立つ。このどこに向けて良いのか分からない怒りを私はベッドにはらした。


「…………さっさと助けに行くよ。」

「それはつまり?」

「魔力の持ち主を倒す。」

「………それは無理じゃないですかねぇ。イリナさんは相手に対して何もせずに死んでるんですよ?」

「あんなの初見殺しだもん。魔力さえ理解できれば突破口はある。」


私は布団から抜け出し、軽く準備運動をする。

2日間寝ていたから体がなまって仕方がない。入念に凝りを解さないと。


「初見殺しっていうのは、分かれば対処できるのと、分かっても対処できないのに大別されるんですよ。あれは後者です。人間がなんとかできる代物じゃないですよ。」

「それでもやるのっ。人間が相手なんだもん、人間が対処できないわけがない。………それに、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。私が寝てる間に増えていたのなら尚更ね。」

「………はぁーー。困ったなぁ。ああいう危険には近づけさせたくなかったんだけどなぁ。」


カイはがっくりと首を落とした。

いつもはこんな姿を見せないのに……珍しい。


「イリナさんがこうなったら止まらないですからねぇ。仕方ない、唯一無二のマジキチ対処法を教えましょうか。」

「………なんだ、あんじゃん。」

「最初に言っときますけど、地獄ですからね。あなたが挑戦しようとしていることは。」

「良いよ別に。天国に行けるとも最初から思ってないし。」


イリナさんは間違いなく天国ですよ。

カイはそう言いながら、出口へと歩き始めた。


「あっ、あとさ。」


私は準備体操を終え、カイの後をついていく。


「さんづけやめてよ。イリナと呼んでよ。パートナーでしょ?」

「…………それは無理な相談ですね、イリナさん。」


カイは表情を崩すことなく、颯爽と歩いていく。

………次断ったら感電死させたる。仏の顔も三度3度までだ。


「あーでもそうだ、この仕事が終わったら呼び捨てにしてあげても良いですよ。」

「………いいね!それじゃさっさと助けに行くよ!」


私とカイは、カイの魔力で近くの村にテレポートした。

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