破滅の気色
「……ねぇ、なんかこう、もっとカッコいい色のやつないの?」
洞窟の前に立ち、自分が羽織っている茶色のローブをバタバタさせながらカイにきいた。
「茶色とかカッコいいじゃないですか。土っぽくて強そうですし。」
「土ってそんな強いイメージないんだよねぇ。地面這ってる感じがして。卑屈な感じがやだ。」
カイは自分のイメージカラーに合わせて青色のローブを羽織っている。腹立つことに似合っている。だから私の茶色が気に入らないんだ。黄色にしようよ。
「黄色は、ここの組織では最上級の1つ下を表す色ですからね。そんなの羽織ったら目立ち過ぎてしょうがないでしょう。諦めてください。」
「ええーーそういう青もヤバくない?青ローブと同じ色じゃん。」
「青はかなり低めの階級を表すんですよ。青ローブの男が特別なだけです。」
「ふーーん………じゃあ茶色はどれくらいの階級さ。」
「1番下です。その2つ上が青色です。」
「なんで私よりも上にいんのよ!!」
私は思いっきり右手を振り抜いたがカイは水に体を変えてかわしやがった。
なにさ!イメージカラーを着れなかったんだから、そこは気を利かせて私の方が階級高めにしてよ!かわいそうでしょ!?
「そんなくだらないことは忘れましょう。いいですか、僕達はこれから敵のアジトに潜入するんですよ?ふざけている暇はありません。」
「でも茶色は許されない!」
「いいじゃないですか茶色。くすんだ黄色みたいで。」
「だから嫌なんだよ!」
「とにかく、気をつけてくださいよ。なにがあるかわからないんですから。」
私のパンチを水になってかわしながら、カイは親みたいにぐちぐちと注意を垂れる。わかってるわそんなこと!
「青ローブ………さっさと捕まえないといけないですからね。」
「………わかってるって。絶対捕まえるんだから。」
私は茶色のローブを羽織り、青色のローブを羽織ったらカイの後を追って洞窟の中に入って行った。
「……………なにこれ。」
意気込んで入ったはいいものの、洞窟の内部には地獄絵図が広がっていた。
色々なローブを羽織ったデブどもが、みんな腹に穴を開けて死んでいたのだ。60………100?かなり大きな大宴会場の人間全てが死んでいる。血と胃液と食べ物が合わさった最高に不快な臭い………自然と口に手が伸びる。
「この死に方って………」
「同じですねぇ。同じ人間がやったんでしょう。」
カイは鼻を押さえながら、近くにある死体の観察を始めた。
「それじゃあ私たちの目の前で死んだ人は、この状況から逃げ延びた人ってこと?」
ここに向かう途中に死んだ見ず知らずの人を思い出す。
「…………ではないでしょう。状況からしてこの人達は宴会の途中で、お腹の中には大量のご飯と酒が詰まっている。いや、詰まっていたか。そして道端の死体は胃が空っぽ状態。別のタイプの人間です。死因は同じですけどね。」
ふむふむ………つまり?
「つまり何があったかはわかりません。道端の人間が先か、ここの人達が先に殺されたのかどうかも。ただ、この近辺にこれをやった人間がいるのは間違いないでしょう。」
「………警戒しなきゃいけないってわけだね。」
「ゴホゴホッ。」
「!?」
私は急いで声がした方向に目を向けると、そこには、私に向かって飛んでくる物体が………
「つっ!」
「警戒したって意味ねーよ。」
バチィン!!!
物体に接触する直前雷で焼き払い一瞬で距離をとる!
なんだ!?何を投げてきたんだあいつ!?……人?
ズサァ!!
そして着地し急いで飛び出し……っっ!?
なんっこの……違和感!?身体の中から急激に何かが湧き上がるような……なんだ!?
「人は死からは逃げられない。」
よくわからないけれどこのままじゃ確実に!!!
バチィンン!!!!バチバチバチバチバチンン!!!!
突如激しい閃光が私の体を貫いた!!
えっ!?何やってんの私!?
その思考を最後に私は気を失った。
私の直感は簡単に私を傷つける。
勿論、直感は私の最大の武器でもあるのだけれど……弱点でもあるのだ。直感が常に最適解を見つけ出し、私はそれに無意識で従うだけ。たとえそれが自分を殺すようなことであっても………
「お目覚めですか。」
目覚めると私の傍でカイが座っていた。
…………ベッドかここは。
私は上半身だけ起こし、カイの顔をジッと見た。いつも通りの顔だ。いやでも、どこか焦りのようなものが………
「………何日ぐらい寝てた?」
「2日間です。」
マジか………今までこんなに寝たことなんてないんだけど。それだけ重症だったってことか。
「正確には身体の大部分が欠損した仮死状態が1日半続き、残りの半日寝ていたって感じですね。正直あと1日は寝てるものと思っていたので驚いてますよ。」
「仮死状態って……なんで?」
「身体の細胞のほぼ全てが壊死したからですね。大変だったんですよ蘇生させるの。第一類勇者10人体制で魔力供給と身体組織の組み立てを行なって………」
細胞のほぼ全てが壊死!?え?私ってそんなに、文字通り相手に完膚なきまでにやられたっけ!?記憶ないんだけど………あれ?ん?自分でやったんだっけ!?
「自分を雷で殺した時は驚きましたよ。いや、そもそもその雷の規模が大きすぎて僕も殺されかけましたからね。いやー本当大変。見ます?あなたの一撃のせいで洞窟全壊ですよ。」
「いやいい………見たら気が滅入りそう。」
かなりのレベルの攻撃を無意識に自分に叩き込んだという事実はかなり精神的にこたえる。その規模を直視したらもっと酷い苦痛が私に浴びせられることだろうから、私は目を閉じてそっぽを向いた。
「………………」
「…………」
「……………………」
「……なんで自傷したか気になってるんでしょう。」
「…………かなり。自分でやったこととはいえ見当がつかない。」
いままで私は反射で自分を殺そうとしたことがないんだ。いやまぁ、他の人もそんな衝動的に自分に手をかけ、まして実行する人は少ないだろうけれど私からは間違いなくかけ離れた行動。なぜ私はそんなことをしたのだろうか?気になってしょうがない。
「自己防衛本能ですよ。」
「自己防衛本能?………自分を殺したのに?」
「スズメバチに刺された時と同じですよ。外敵を殺そうとして、自分を殺してしまったんです。」
にわかには信じられませんが……そう言って、カイは話し始めた。
「あの洞窟の惨状を生み出した魔力。あれは………人間社会を破滅させることしかできないものです。」
「………破滅?いやいや、人間1人がそんな大層な…………」
「[恩を仇で返す魔力]……覚えてますよね?」
「……………」
私は途端に声を失った。その魔力の名を聞いただけで、あの光景が頭に浮かんだからだ。1人の子供が、街中の人間諸共血の海に沈んだあの光景を………
「あれの派生系です。といっても、相手から恩を受けなければ発動しない、ギブアンドテイクな発動条件ではありません。……そんな生温いものじゃない。」
あれで生温いって……1つの街の人間の半分以上が死んでるんだけど。
どんどん口の中に苦味が広がっていく。本能が警鐘を鳴らしているんだ。
「トリガーはなし。ただいるだけ。ただ[生きている]だけで、見境なく人を、社会を、秩序を……殺す。それ以外に存在価値はなし。」
生きているだけ、で………それは…………
「その魔力の名は[崩界]。魔力の質だけでいえば魔王すらも退けます。」
…………今回は中々骨が折れそうだ。
私は心の中で台風並みの勢いのため息を吐いた。
最近、やる気のむらっけが激しい。特にこの小説に向かってる時はやばい。つまらないジョークを挟めないっていうのは心的にきつい。




