王的な何か
ヘカトンが死んでから3ヶ月。事態は緩やかに収束へと向かいつつあった。
青ローブの男から魔力を渡された子供達は、精神コントロール系の魔力によって暴走を抑えることで、むしろ勇者領側の戦力として反乱分子の沈静化に貢献している。また、反乱分子である魔物や魔族達がそもそも行動に出ること自体が少なくなり、中〜上役の勇者領所属勇者が処罰されたとはいえ、一時の平和が勇者領内部に流れていた。
「なのになーんで私達は勇者領本陣から結構離れた場所を歩いているのかな?」
そんな中、私とカイは木々が生い茂った森をノソノソと歩いている。
「ハイキングだったっけ?」
「左遷ですよ。」
バチャーン!!
私がカイの頭を叩くと、カイは水に変化して辺りに水をまき散らした。
「いままで壊してきた重要建築物の数は20に上りますからね……頃合いを見計らって島流しにあうのも仕方のないことです。」
「陸地歩いてるんだけど。」
「プレートは流れのように動いてますからね、流刑と言ってもあながち間違いではない……」
「間違いでしょ。」
「間違いではない。」
「しらたきと間違えてハンドバッグを鍋に入れるぐらいの間違いでしょ。」
「知らないんですか?最近のバッグはヴィーガンが餓死しない為に食べられるようになっているんですよ。」
「嘘でしょ。」
「全くもってその通りです。」
私に殴られるのを警戒してか、カイは水のまま蠢きながら私の後をついてくる。
なぜ私達がこんな辺鄙で退屈な場所を歩いているかと言うと、
「………奇怪極まりない宗教団体を相手にしなきゃいけないんですよ。左遷もいいとこじゃないですか。」
そう。私達はイマイチ実態の掴めていない宗教団体に潜り込み、それをどうにかしないといけないんだ。これには深そうで浅い理由があって………
「王を崇拝する団体………正式名称も、さらには活動内容も知られていません。本来なら王様を崇拝しているとして目をつけることはないんですがね、状況が変わったせいで警戒しなきゃいけなくなった。」
…………勇者領の最高の権力と実力を持った王様。実に癪だけれど、あのクソジジイは尊敬され讃えられるに値する地位を持っている。宗教ができようが何もおかしくないのだけれど、なんと
「敵が信奉しているという7人の王………今僕たちは彼らがいそうな可能性を1つずつ潰していかなきゃならないんです。」
……………あのさぁ、私に説明させてくれても良いんじゃない?
「正直さ……王様が7人いるっておかしくない?」
森を抜け、丘を歩きながら私はカイに聞いた。
王ってのは1人いれば統治するには十分でしょ?それなのに7人もいたら、むしろ混乱して統治なんてできないはずだもん。7人は多すぎる。
「ふむ……まぁ、確かにおかしいですよ。でも複数いたって別に良いんじゃないですか?2人いたら王と玉と名付けるじゃあないですか。」
「ごめん、ちょっと意味がわからない。」
「3人いたら王と玉と主てきな。」
「本当に何言ってるか分からないんだけど。」
「4人いたら王と玉と主と圭とか。」
「一本増えてんだけど。そこは妥協しちゃいけないでしょ。」
「なんだ、やっぱり分かってるじゃないですか。そんな賢いあなたに大辞林を贈呈しちゃいましょう。」
「ごめん、やっぱり分かんないや。」
こいつ本当何考えてるか分からないな。
カイについていきながら、私はずっと考え事をする。
「大辞林じゃ不満ですか?それじゃあ大百科を……」
なんのだよ。
………カイって普段何をしてるんだろう。それこそ大辞林とか読んでるのかな?大百科は……分からないな。でも読んでそうな気がする。確信はないけれどそんな気がしてならない。
「5人だと日とか。」
まだやってるのか………
……多分、変な人間だろう。ずっと1人でよく分からないことを言って、でも、なぜか人に認められる。変人ではなくて天才だと見られる……そんな感じ。
「6人だと国かな?」
…………
少し気になる。現実で会ってみたい。どんな生活を送っているのか、どんな人に育てられたのか、どんな性格なのか…………知ってみたいな。
「そして7人だと……世。ふふふっ、ちょっと無理矢理すぎたかな?もう少しすんなり受け入れられそうな漢字を探してみるかな。」
やっぱ頭おかしいよこいつ。
「………3人の王の話は聞かないんですか?」
一通り考えて満足したのか、カイは私に話を振ってきた。王の話をしたから、3人の王……魔族の王の話でも私がするのだと思っていたのだろう。
「んー……別に良いかな。魔王なんてここ何千、何万年も勇者領に攻め込んできてないんでしょ?そんなのを知ったところで私に利益があるかどうか………」
「どんなに自分に関係ないことでも、知らないでおくのは勿体無いですよ。何かを知るということは自分に深みを与えてくれますからね。」
「私、あんたから深みを感じたことがないんだけど。」
「そりゃあイリナさんが浅はかすぎるだけですよ。」
「あんた爪楊枝サイズまで圧縮されたいの?」
「水になれる僕にその脅し文句は馬鹿馬鹿しいですね。豚に真珠渡すぐらい馬鹿馬鹿しいです。」
「そこは馬の耳に念仏でしょ。」
「おお、そんな賢いあなたに大辞林を」
「天丼やめろ。」
バシャーン!!!
カイの頭を吹き飛ばしても、水が集まってまたカイの頭を作り出した。
「………実際、知っておいたほうがいいですよ。」
歪んでいたカイの顔が戻り、澄み切った青色の目が私の目を捉えた。
「イリナさんは特別ですからね。……きっと、いずれ、彼らと対峙することになる。」
「………私が特別ってことはわかるけど、なんで魔王と対峙するのかは全然分からないよね。」
超絶美貌と才能を併せ持った私が特別なのは当然だよね。
「[双極の光は二つの世界を一つに重ねる]………1番最初の王様の言葉です。」
1番最初の王様?………何年前の話なんだろう。
「彼がどこまで、なにを予見していたかは分かりませんが………きっとこの双極の光はイリナさんと炎帝のことを指しているのでしょう。」
「炎帝ってことは炎?確かに光は出してるけど……」
なんというかおかしくない?雷と炎って双極?てか双極ってそういう意味だっけ?
「多分対極的な意味ですよ。彼はそういうのを雰囲気で話す……人だったらしいので。」
ふーん。それにしたって対極じゃないと思うけどなぁ。あっ、それもまた雰囲気?
「イリナさんはいままでのどの勇者よりも特別だ。希望に満ち溢れ、全ての人を救い出すことができる。歴代最高、天才の名を欲しいままにできる才覚がある。……だから、炎帝とは出会うことになる。戦うことになるのか、はたまた手を取り合うことになるのかは分かりませんがね。」
「ふーん………そんなに炎帝ってのは強いの?」
「…………」
私が顎を撫でながら聞くと、カイはキョトンとした顔でこっちを見てきた。
「………まさか戦う気ですか?」
「情報による。」
「基本、勇者が手を出していい相手じゃないですね。他の魔王ならまだしも炎帝は………」
うーん?なんで同じ魔王同士なのに実力差があるんだ?第ニ類勇者はそこまでの差がないのに………
「………これは一から説明した方がいいですかねぇ。」
私の微妙な雰囲気を感じとり、いつもの説明口調なカイが姿を現した。
「魔王とはなんなのか。そもそも、この世界とはなんなのか………とある伝説を使って説明しましょう。」
今年中に終わらせるつもりだったのに……




