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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
赤き血潮の大悪党
48/70

千手(せんじゅ) 対 百手(もものて)

へし折ってやる!あの巨躯を無理矢理にでも!


ブンッ!!

パァアンンッ!!!

突っ込んでくる複数の腕を殴り飛ばす!


フラッ……

すると、私はバランスを崩した。

……それもそうだ。もはや感覚がない。上とか下とか、前を向いているのかどうかすらも今じゃ確信を持てない。この激痛を我慢するためか、それとも、シンプルに脳がいかれたか………わからない。


ダンッ!!!

私は左足で思いっきり踏ん張った!!


だったらもっといかれてやる!まだ足りないのなら!もっともっともっと!!ぶっ飛んでやる!!


ダダダダ!!!

ふらつく体を無理矢理筋肉で押さえつけ、ガムシャラに走る!


パンッ!!!

そして私は思いっきり跳躍した!


サンサンサンッ!!!

そして私をはたき落とそうと振り下ろされた腕達は、ジジイの大剣によって両断された!


ッパァアンン!!!!

ズザザザザッッッ!!!

胴体に叩き込まれた一撃によって、ヘカトンは後方へと滑る!そして今の攻撃によって損傷した部分を回復………


パンッ!!!

自分の攻撃の衝撃によって吹っ飛ばされた私は、地面に不時着したと同時に起き上がり突っ走っていた!

削るっ!削るっ!削るっ!回復するんなら、その回復を上回る勢いで!削るっ!


ッパァアンン!!!!

ドッパァアンン!!!!

ッッッパァアンン!!!!


何発も叩き込まれる私の殴打!その度ヘカトンの体は後退し、私は血を流しながら進む!


そして……


ガッ!


空中で両腕を固く結んだ私は……


ッッッパァアンン!!!!!


思いっきりダブルスレッジハンマーを叩き込んだ!!

ぐぅぅうう!!!痛みで目の前がチカチカする!!


ボキンッ!!!

しかし、私の腕を犠牲にしただけの威力はあった!ヘカトンの胴体がボッキリと叩き割れた!!

地面に横たえさえすれば、本体部分に連打を浴びせられる!そうすれば……つっ!!


ズニュルルルルル!!!

しかし、甘かった。奴が取り込んだ不死身な魔物の修復能力が、奴の上半分が上空にいる間に、しっかりと体同士をくっつけてしまった。


「……………」


唖然としてしまった。

嘘でしょ………胴体へし折っても意味ないとか、どうすれば……

本格的に目の前が真っ白になり始めていた。絶望と、衝撃と、痛みによって。

バチバチッ……バチッ

両腕の輝きが不鮮明になり始めた。

どうする……何をすれば良いの?あの本体部分に攻撃を叩き込める作戦なんて……


ズァァァアアア!!!!!


呆然と立ち尽くしていると、上空を覆い尽くすように巨大な剣が出現した。


「1回しか使えん!!この機会を逃すな!!」


ジジイか?なんか言ってるけど……表情からして、きっと厳しめな一言だろう。………あれ使って、ヘカトンの本体に攻撃しかければ良いんでしょ!?


バチバチバチッッ!!!

私の両腕が再度激しく光り始める!!


やるしかない!!


バシャバシャッッ

剣が飛ぶ前に、ヘカトンの頭上から大量の水が落ちてくる!!

バチャンバチャンッ!!

それを払おうとしたヘカトンの腕達。しかし、その大量の腕の隙間から流れ落ちた大量の液体が、ヘカトンの3つの顔を覆い隠した。


「勝てそうだったので来ました。」


カイが何食わぬ顔で立っていた。

ああああ!!こういうタイミングにはキッチリ来るから腹が立つ!!批判しづらくなるじゃない!!


「グッジョーブ!!!」


ジジイが身体を後ろに傾け……


ブン!!!

思いっきり腕を前に振った。


サンサンサンサンサンッッ!!!!


すると、一本10メートルぐらいの大剣達が空を駆け抜け、まるで弾け飛ぶ火花のようにヘカトンの体に突き刺さった!切断されて吹き飛ぶ腕や、貫通することなく剣が突き刺さる胴体。真っ赤な血が激しく噴き出る。剣と腕と血が、真っ黒な世界に、まるで星々のように煌めいていた。


「………」


私はヘカトンの本体付近に立っていた。胴体部分に突き刺さっている剣達を足場として急いでここまで登って来たんだ。

消えかかっている視界に映る、大きな学校の壁面みたいにのぺっとした顔。その額中央に黒色の剣が突き刺さっていた。あそこ周辺にヘカトン本体がいるわけで……あそこを壊せば私達の勝ちだ。

そろそろ回復するかもしれないヘカトンの視界。回復途中の腕。………やるなら今しかない。


パンッ!!!

剣の側面を蹴飛ばし、私は駆け出す!

バンバンパンパンっっ!!!

そんな私を、上横前後から手が挟み込んだ!おにぎりを握りつぶすみたいに張り出した掌底部分をぶつけあい、私を圧殺しようとしてくる!

……ぁぁああああ!!!!


パァァアンンンッッ!!!!

私は両腕を力の限り振り回し、張り付いて来た腕の全てを粉々に吹き飛ばした!

痛みによって明滅を繰り返す視界、縮小と拡大を繰り返す瞳孔。その雷のような眼光が、剣の上を走り抜ける。


バチバチバチンッ!!!!

脚にまで現れた鎧の一部。それが剣を蹴飛ばした瞬間、衝動的な欲求のような、瞬間的な加速感が身体中を駆け巡った!

カンカンカンカンカン!!!!

私を叩き潰そうとする手は、動きを捉えきれていない。私が走り抜けた後に手を振り下ろし、剣をグラグラと揺らすだけだ。


腕が痛い!体が痛い!脚が痛い!全てがはちきれそうなほど……いや、もう、はちきれている!!決壊した組織から、身体中から血を撒き散らしながら、私はとにかく走る!!

この腕を振り抜けば勝てる!!勝てるんだけど!!振りたくない!!もう頭が危険信号を出しているんだ!!「これ以上やったら終わってしまう」って、私の身体を止めようとしてくる!!

痛みによって潰れそうな視界、立ち止まろうとする両脚、動きたくないと脱力しきった両腕。止めどなく流れてくる「痛い」という信号。それが私の心を止めようとしてくる。


「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」「痛い」


痛い?……気に入らない。私はそう言うのが気に入らない。


「痛い!」「痛い!」「痛い!」「痛い!」「痛い!」「痛い!」


とことんまで気に入らない。為すべきことが目の前にあるのに、私の使命が目の前にあるのに、ハッキリとした正義が目前にあるのに!自分の為だけに立ち止まろうとする、下卑た感情が気に入らない!


「痛い!!」「痛い!!」「痛い!!」「痛い!!」「痛い!!」「痛い!!」


ピクピクピクッと痙攣する瞼。

知るか!!……腕を振るだけでしょ!!頭を使うわけじゃない!!私にはこれしか出来ないのに、止まろうとしてるんじゃない!!


「痛い!!!」

「出来ない方が…………」


ジャリッ!

左足に巨大な力がかかり、激しく砂煙を巻き上げた。

グッ………

全体重と速度をそのまま乗っけるように、身体ごとぶつかるように、左足のつま先が対象に向けられる。そしてその速度が乗ったまま、身体が前傾する。

バチバチバチッッ!!

空を駆け抜ける稲妻。黄金色の軌跡が、ヘカトン本体まで伸びた。


「もっと痛いんだよ!!!!」


ッッッパァアンン!!!!!


耳ごと身体を貫くような鋭利な轟音が鳴り響いた!

爆発的に膨らんだ衝撃が、空間を穿つように破裂した。周辺を巻き込んで爆発する、どこまでも我を貫いたような、突き抜けた破壊。陶器のような質感の身体を粉々に砕きながら、粉塵が舞い上がった。


ズズズズズ………


「嘘でしょ………」


………間に合わないのなら、先回りすれば良い。全ては釈迦の手のひらの上のように……

ヘカトンの残りの腕が本体部分の前に何重にも張り巡らされ、完璧な盾を作り出していた。イリナの一撃によって全てが吹っ飛んだとはいえその盾が攻撃を防ぎきり、本体は全くの無傷だ。


どうなってんだこいつの修復能力!!!


震える左手を無理矢理固め、私は再度腕を振り抜いた!


ッパァアンン!!!!


轟音と大量の腕ともに、私は空中に投げ出されていた。肩に激痛を感じるから、そこを攻撃されたのだろう。

残り一本………ギリギリまで耐えられてしまった。ヘカトンめ……意識はないとはいえ、あの計算能力は抜きんでていたんだね。私の攻撃を最小本数で止められるように、計算してたんだ。私の最初の一撃を浴びてから。

どうするのよこれ………あと数秒もしないでヘカトンの腕の大半は回復してしまうし、私はその間に落下していく。両腕も使えないし……なんかめっちゃくちゃ脚痛いし。

なんとかするんだ……考えろ考えてよ。あーっつ、頭がグチャグチャで何が何だかわからない!なんか、とにかくなんか!なんかやんなきゃ!


ババババッ

その時、月夜に複数の人影が踊った。


パリンパリンパリーン!!!

そしてそれは、ヘカトンの一刀によって悉く割れた。輝くカケラが、月光を乱反射して星空を彩った。


シャッ!!

人影が飛び出した!私を覆うように、月光に照らし出されて!ヘカトンの本体めがけて!ひたすらに一直線に!


ブンッ!!!

それに気づいたヘカトンが、撃墜しようと腕を振った!!

しかし、遅い。それはそうだ。氷で作られた人型は、ヘカトンの攻撃をギリギリまで、ヘカトンが通常じゃ反応しない無害圏内までその手が伸びたのだから。


いつのまにか治っていた両脚で空を駆け抜け、散りばめられた輝きの世界でカイの眼光が鋭くヘカトンを射抜いていた。


行ける!行ける!あれなら絶対に!これを逃したらもう!


「いけぇぇえええ!!!!」


パァアンン!!!!


カイが、長いストロークをもって、十分な速度に達したヘカトンの手に叩かれて吹っ飛んだ。

へ?……は?………嘘……あの距離でも無理なんて…………


「良いんですよこれで。僕は主役になれませんから。」


カイがちらっと、一方を見た。

だから私も目だけで追った。


ヒュゥゥ………


氷塊だ。巨大な氷塊。それが上から落っこちてきていた。


「……………」


その一番下に、張り付くように、姫子さんが無言で膝立ちになっていた。逆さまのせいで下に垂れた前髪が、両目を隠して表情が見えない。

グッ………

姫子さんが両脚に力を込めた。

ビュッ………

そして、それに反応したヘカトンが再度腕を振る。

………きっとこれが最後のチャンスだ。でも、いけるの?氷の人形とカイによって、ヘカトンの腕の速度は最大にまで高まり、もう一度方向転換するのに時間がかかる。とはいえ、それは第二類勇者クラス相手の場合に隙につながるという話であって、聖騎士長の動きじゃ無理だ!


私の精神は今、姫子さんとヘカトンの腕に釘付けだ。とてもゆっくりと2人の動きが見える。


ああ、なんとか……頑張って姫子さん!


「イリナさん!」


ボスッ


その時、私の身体を誰かが抱きとめた。


「私達が来たからにはもう大丈夫です!」

「なんてったってアイドルですから!」


カルナとマイトリーだ。2人が私を空中でキャッチしてくれたようだ。

………あっ、そっかぁ。2人がいればダメージも回復できて、身体能力も上がるのか。受けたダメージはエネルギーにも変換できるし……てことは………つまり…………


ビキッ……パァンン!!!


姫子さんが氷塊を蹴った瞬間、氷に大量のヒビが入り、砕け散った。


ビュン!!!

重力加速によって、姫子さんの身体がドンドン加速していく。闇夜を貫く一筋の光みたいに………そして…………

グルッ

身体が空中で一回転し………

ガイン!!!

黒色の剣にかかと落としが決まった。

何もない空中を叩くヘカトンの長く巨大な手を尻目に、ヘカトンの巨大な額が縦に切り裂かれた。

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