私を見ろよ
ダン!!!
一歩目はあまりにも重たかった。踏み砕くように、押し潰すように、一歩目が地面を貫いた。
ダン!!!
そして……更に一歩。流れるような重たい一歩。遅延も淀みもない、重たくも流麗な二歩目。
ダンダンダンダン!!!
そこから始まる力強い歩行。空気が押し出され、威圧的ですらあるただの歩行が地面を震わせる。
ダン!!!!
更に速く、更に重たくなる歩行。
フゥーーーッッ!!!
はち切れんばかりに怒張し鋼のように硬くなった、元はとても柔らかかった太腿と脹脛!身体中を駆け巡る血液が沸騰するように加熱していく!吐き出される呼吸は激しく渦を巻き、蒸気のごとく熱を吹く!
ダンッッ!!!!!
そして、最も重たい一歩が踏み出された瞬間!イリナの身体を稲妻のような衝撃が走り抜け、エネルギーの全てが下半身から上半身へと移動する!
腰、背中、肩と伝播する力にひねりを加えられ、最後の到達点である拳で………
ッッパァアンン!!!!!
全てが破裂した!!
ブンブンブン!!!
その拳と衝突したヘカトンの腕が一本、上空を直線的に飛んで行った!!
ダァアン!!!ダァアン!!!ダァアン!!!
しかし、300本の腕があるヘカトンには関係ない。なくなっていない他多数の腕を振り回し、イリナに向かって叩き続ける!!
ズニュルルッ!!
そして、嘘でしょ!?はぁっ!?吹っ飛ばした腕がもう生えてる!!そんな、えぇ!?……あの不死身どもの影響かぁあ!!
「すまん、これは想定外だった。」
ザンザン!!!
襲いかかってくる腕達を、ジジイは切り捨てて私の前に立った。
「ワシも参加しなきゃいけないみたいだ。」
「………確かに、流石の私でもこれは……」
再生しないのであれば、地道に全ての腕を引っこ抜いても良かったんだ。それなのに再生するとなると………
「きつい!!」
パァン!!!
パァン!!!
私とジジイは同時に飛び出し、ヘカトンが対称点となるように彼の周りを2人で走る!!
全力の拳で腕が壊れた!!つまり、姫子さんの時ほど耐久力は高くないってことになる!!だったら!!
サンサンサン!!!
襲いかかってきた数本の腕どもを、私は綺麗に斬り捨てた!
襲いかかってくる腕をかいくぐり、胴体を両断するまでさ!
ダンダンダンダン!!!!
上からの掌底を走りながらかわし、かわしきれないものは斬り払う!
サンサンッササササン!!!
身をひねり、飛んでくる土塊を腕で払い、ヘカトンへと近づいていく!過激を増す攻撃だろうと、私は全てを斬り払う!
ダンッ!!!
そして、私の捕捉可能距離。大体50メートルぐらいまで近づいた瞬間!私は思いっきり踏み込んだ!!
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!!!!
すると途端に、いままでの比ではないぐらいの数の腕が私に向かって飛んできた!!……いや、私に向かってじゃない!!私がいる方向全体を叩き壊したいのだろう、満遍なく手が飛んでくる!!
なんて速さ!なんて密度!目で追えないし、隙間がない!!
ガンガンガンガンガンガン!!!!
私は光剣の側面をヘカトンに向け、右手の前腕部を剣に押し付け、ひたすらに攻撃を受け続ける!!
ビキンッ
ヘカトンの攻撃の衝撃と、前進しようとする私の意思との板挟みにあった太腿と二の腕が悲鳴を上げ始めた!!
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!
私の周辺が衝撃で揺れまくり、壮絶な破壊力によって削られていく!!
このままじゃ!!このままじゃ!!……つっ!!!
ベコォッ!!!!
「グェッ!!!」
私の横っ腹をなぐように飛んできた手刀を、私は受けきることができなかった!モロに腹にくらい、血を吐き出しながら私は吹き飛ばされる!
……こんの!!
あばらの痛みをおさえつけながら、私は電撃を放つ………
プスン
………魔力切れ!?
ドォオオンンン!!!!
無抵抗のまま、私は、戦場から遠く離れた山にめり込んだ。
「………そっか、長期戦になっちゃったもんね。魔力切れはしゃあないか。」
いや、しゃあなくないんだけどさ。この状況でそれは猛烈にしゃあなくないんだけどさ。私は自分を信じ込ませるように納得してから、山から体を引き剥がした。
あー………骨折れた。ダメだ、超痛い。呼吸がメッチャクチャ辛い。呼吸するだけで吐きそうになる。這い上がってくる鋭利な痛みが……本当に、気持ち悪い。
ドン!!!
私の隣に、今度は王様がめり込んだ。
「………やばい。」
「………やばいなあれ。」
それだけ言うと王様も体を引っこ抜き、私と同じように立ちながらヘカトンの輪郭を眺め始めた。
「どうやら、ヘカトンに近づけば近づくほど、攻撃の速さと手数の多さが増すみたいじゃな。」
「………らしいね。」
「そして、腕は超高速で無限に生えるわけじゃん?」
「………ぽいね。」
「………」
「………」
「………やばい。」
「それしか言えない。」
私と王様は頭をかいた。
ついでに私は薬草をすり潰し、折れた箇所に満遍なく塗る。メチャクチャ痛い。涙が止まらないよ。
「………なんか、弱点とかないかな。」
「一応、考えられる部分はあるぞ。」
「どこよ、早く言ってよね。」
「剣が突き刺さってる付近。あそこに、ヘカトン本体が集中しているはずじゃからな。」
………つまり、あそこらへんを切り抜けば良いわけか。
「………ここから狙撃とかできる?」
「無理じゃろ。ほんの少し顔に近づきかけたイリナちゃんをはたき落とす程の速さの手刀が300本あるんだからさ。顔面付近とか鉄壁でしょ。」
………だよねぇ。
「………どうする?」
「………わからん。あの変身が解けるまで待ってみても良いかもしれん。」
………まぁ、確かに、私達が近づこうとしなければ攻撃しないわけだし。それでも良いかも………ん?
ズズズズ………
ヘカトンの腕達が、一方行を向き始めた。
……なんだ?援軍でも来たの……か………いや、待て。完璧に忘れている人間が…………
「おい、姫子ちゃんが……」
ジジイが横を振り向いた時には、私はすぐに飛び出していた。
「………ふっ、だからイリナちゃんは良い。誰よりも先に飛び出し、だから、誰よりも輝けるんだから。」
ブオンブオンブオン!!!!
ヘカトンが50本の腕を姫子に高速で叩きつける!!!
パァアンン!!!!
壁と錯覚するような、威圧感のある突風が吹き荒んだ。ただですら荒れ果てた地がさらにめくれ上がる。
ボドン!!ボドン!!
そして50本の腕が、地面に勢い良く打ち付けられ、消滅していく。
「………私を見ろよ馬鹿野郎。」
パリパリっ……
私の右手が金色に光り輝く。
光剣第七の舞 千手
パリッ
そして、もう片手にも籠手を装備した私は……
ッパァアン!!!
もう一度腕を振り抜いた。




