ライト ライト ライト
やりきれない想いっていうのがあって、いつもそれに心を引っ張られる。それに、しがらみつくような憎悪が更に加勢して、心はますます重たくなる。
なんでだろう。
ザザザン!!
伸ばした刀剣が周囲の敵をまとめてなぎ払った。
「くそっ……きざぁっっ」ベギン!!
切り傷を回復中だった敵の首を右手で軽くへし折り、空中に投げていた光剣を双剣に変形させそのまま敵の塊に斬りかかる。
私めがけて飛んでくる大量のパンチやキック。風をきって鈍い音を立てるそれは、ただそれだけ。空気を切るだけ。雷のように姿を変え合間を縫う私には当たらない。
ブシャァアアっっ
そして、私をかすめる攻撃は、通過した後真っ赤な血しぶきをあげて空中を舞う。たまにかわしきれずに何発か攻撃がかすめ皮膚から血が出るが、関係ない。動ければそれで良い。
………倒しても倒しても、悪は絶対に潰えない。私がどんなに倒しても、必ず新たな敵が現れる。今までずっとそうだった。世の中って不思議で、存在しなくなるってことがない。だから腹が立って心が重たくなる。吐き気がする。………この魔物達はそれを象徴しているようで更に腹が立つ。
私は人差し指と親指を引いた。引いたといっても、側から見たら速すぎて指の動きなんて一切見えてないのだろうけれど。
グルグルグルグルっっビンン!!!
糸が張って魔物達の体をミチミチと縛り上げる。糸を動きながら地面に垂らしていたんだ。だから糸は絡み合い、複雑に彼らを縛りつけている。
「王様、任せた。」「分かってる。」
ダァアンン!!!
上空から魔物の塊を潰すように巨大な剣が突き刺さった。この剣が降ってきた衝撃で山が真っ二つだ。剣の隙間から見える真っ黒な溝に赤と皮膚の色が舞う。
ダァアンンダァアンンダァアンン!!!!
そして何回も何回も、体が元どおりになる前に巨大な剣が振り下ろされ魔物達の体が満遍なくカスとなっていく。
……どれだけ回復できるか知らないけれど、この状態になったらもう終わりだ。逃げることもできず、ただ死ぬだけ。
「………カイ達の方に行ってくる。」
私は悲惨な現状から目を背けるように、山の頂上を見つめた。
「うむ………殺すなよ。」
「大丈夫、殺すよりも酷い目に合わせるから。」
私の力だけじゃ、この世界は平和にならない。そんなことは良く理解している。でもそれは世の中全てを良くしようとするから上手くいかないってだけで、自分の周りだけを幸せにするのは、私なら結構簡単だ。
………だから、悪をばらまくあいつを許せない。全力で潰す。
パァアンン!!!
私は地面を吹っ飛ばしながら駆け出した。
「はぁ……はぁ…………ようやくたどり着いた。」
流れる汗を拭い、疲れによって震える足を叩きながら僕達は山頂に足を乗っけた。
湧き出てくる不死身に近い魔物を蹴散らし、山の外に投げ飛ばしながらなんとか!1人も欠けることなく、なんとかここに辿り着く事が出来た。
「………君達が最初とは予想が外れたな。」
ヘカトンは人力車に似た乗り物に乗りながら、無表情で呟いた。
「おめでとう。」
「………えらく余裕じゃないですか。こっちには拘束係がたんまりいて、さらに第二類勇者までいるんですよ。1人で歩く事が出来ない貴方に、その態度は相応しくないんじゃないですか。」
一応ヘカトンの前に子供が2人いるが、こっちにはそれ以上の数と経験がある。彼らだけでこの現状を突破できるなんていうのは、ぱっと見不可能に近い。
「……どうですか、暴れる事なく、大人しく捕まってくれるのなら罪を軽減してあげても良いんですよ?30年ぐらい。」
「30年減ったところでどうせ300年ぐらいは残っているだろうし、どう頑張ってもこの歳では完璧に獄中死だ。遠慮しとくよ。」
「………そうですか…………」
なんなんだ………なんでこんなに余裕をかませるんだ。何か策があるのか?……グラディウスとやらの大半はイリナさんが相手をしているからナイとして、子供達のほとんどは捕縛もしくは無力化している。………本当にわからないな。ただの時間稼ぎか?いや、それにしたって稼ぐ意味があるとも思えないし………
「………良いでしょう。自ら首を差し出さないというのなら、僕達が重い腰を上げるしかない。後悔しないでくださいよ。」
「後悔するぐらいなら、最初からこんなことしてないさ。」
パチンっ
ヘカトンは指を擦り合わせて乾いた音を鳴らした。
「あっぐぅぅうう!!!」
するといきなり2人の子供達が苦しみだした!
どうやらヘカトンは精神安定の魔力を解除して2人を暴走状態に持っていったようだ。
確かにこの状態は見境や加減がなくなり、平常時よりも対処が困難になる。それでもし相手の魔力が強かったらむしろ追い詰められるかもしれない。けれど………
僕は懐に手を入れながら敵に向かって走りだした。
そして懐から剣を引き抜き、
ピュピュン!!!
目にも留まらぬ早業で、2人の胸に剣を突き刺した!
光すらも吸収する、漆黒という名が相応しい僕の黒色の剣は他の魔力を認めない、[魔力無効]の剣だ。それで子供達の魔族側の魔力を突き刺し傷つけ破壊した。
少しってかかなり荒っぽいけれど、応急処置を施してすぐにベッドに持っていけば命に別状はないし、こうすることで簡単に無力化できる。
後は………っ!?
ヘカトンがいるはずの場所を見ると、ヘカトンの足だけが見えた。長年使ってこなかったのだろう、痩せ細りひ弱だ。そして目でヘカトンの姿を追うと、あいつは空に浮いていた。
ジャンプしたとでも言うのか?………いや、
ピシャン!!
僕は安全をとって手から水をだしヘカトンの下側に水をぶつけた。
すると水が空中で弾けた。
透明人間!こいつを隠して逃げる隙を伺っていたのか!?くそっ、このままじゃ山の外に逃げられ………
バチン!!!
僕の頰を掠めて雷が通り抜けていった。それは一瞬でヘカトンとの間合いを詰めると、人の姿に戻っていく。
「これで終わり!!!」「ふむ、そろそろだな。」
カッッ
頭上がいきなり光った。一等星というにはあまりにも輝き過ぎていて、まるで最高彩度のスポットライトを何十本も束ねたような激しい一点の光。ただその光があるだけで、輝きだけで僕達の姿をかき消した。
ズブン!!
しかし、光が全てを隠す一瞬、イリナさんのパンチがヘカトンの体を貫いたのが見えた。完璧に胸を貫いていた。
ブワァッ
そして、ヘカトンの体が霧散したのも………
ズダァァアアアアンンンン!!!
直後、巨大な光のエネルギーが、僕達めがけて落とされた。




