曇天のマシュマロ?
ザッザッザッ………
山間部を縫うように少数の部隊が進んでいた。子供3人の大人23人。新人研修にしてはあまりにも大人が年齢をくっていた。
部隊の後方には馬車があり、その中に1人の男が座っていた。全てを理解したように、目を細め行く先を見つめている。
全員が警戒し周りを睨み続けている。細長い隊列のそれは、まるで天敵を前にした時の蛇のように、気を張り詰め続けていた。この山間部は盗賊や魔物がよく出没するから仕方のないこととは言え、一切隙がない。外からくる敵を100メートル先からでも気づいてしまうほどに、研ぎ澄まされている。
ヒュン………
だから、内側にワープしてくる人間に対しては完璧に意識の外だった。
ブワン!!!
内部に侵入したイリナ達が魔力無効の空間を作り出した。
そこからはあっという間だった。馬車前方の人間達を一瞬で取り押さえていく。子供は捕まえ、大人は力で気絶させ拘束魔力で動きを封じた。
チャッ
そして馬車内にいるヘカトンに剣を向ける。
「おとなしく捕まった方が良いんじゃない?」
「…………ピンチが生まれる時というのは大抵、敵が自分達のところに潜り込んでいる時だ。………簡単に言えば、」
フワン
私達の目の前にあった小隊が一瞬で姿を消した!!
「敵が袋の鼠の時に使うものなのだよ。」
突如私達の周りに人が出現した!!分身を囮にして私達を包囲したってわけか!!しかも数が多い!!60人はいるよ!!
ここは山間だ、両端の山に敵に陣取られ攻撃なんて受けたら………
ピュンピュンピュピュン!!!
両方向から魔力の弾丸や光り輝く矢、鉄の塊や巨大な岩石が飛んでくる!!!
「カイ!!」「分かってますよ!!」
パキキキキ………ドゴゴゴゴゴオオオンン!!
氷の障壁を張って、敵の攻撃を受け止めた!!でもこんなのじゃ10秒も持たな………
パリーン!!!
案の定氷の壁は2秒も持たずに崩れ落ち、私達に攻撃が向かってきた!!
ドォオオオンンン!!!
「まったく………激しいなぁ本当!!」
2秒もあれば十分だ。私達は攻撃をかわし、舞い上がる砂煙の中私達は姿を隠した。ここは自然のない裸の山だ。隠れる場所は限られるから、いずれすぐに居場所がバレる。
やはりカイが警戒していた通りに、相手は私達を迎撃するための作戦を用意していた。囮を使った待ち伏せ………シンプルでいて対処されにくい効果のある作戦だ。
だがまぁどんなに相手に作戦があろうと、私達にはそれに相手する為の策を考える時間はないし、また、これを遂行しなくてはいけないという義務がある。つまり今ここで「ちっ、嵌められた!これからどうする!?」なんて言っている暇はないのさ!!
バチバチバチバチバチ!!!!
私の体で雷が弾け飛ぶ!!
「グォオオオオアアアアア!!!!」
そして、私の体から雷を纏った黄金の龍が飛び出ると、私の右側にある山に巻き付いた!!
「そっちがその気なら私達も激しく行くよ!!!」
ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!
巻き付いた龍が山を締め上げ山肌を削り、空から龍に向かって降り落ちる雷によって、龍の光が更に輝きを増していく。
「クラッシュ!!!」
ボゴォオオンン!!!
山が龍の巻きつく力に耐えきれず、粉々に吹き飛んだ!!
バクン!!バクン!!
龍は上空に逃げた敵を1人残らず食べ、
ズゴゴゴゴゴゴ!!!!
そのまま地面に穴を開けながら地中深くへと潜っていった。彼らは私の雷に捕らわれ地中に押し込められた。この戦い中は出てこれないだろう。
「私達って………あんなの出来ないですよ普通の人は。」
左側から飛んでくる高密度の攻撃をかわしながら、カイが私達に接近してきた。
「外側から敵の数を減らして敵を山頂部分に追い詰めましょう!!地道に行きますよ!!」
魔力が無効の障壁を作り出す人を私達の中心に配置し、私達は山を回るように走って登り始めた!!
敵の数を減らしてヘカトンを山頂部に追い詰める作戦だ。
カカカン!!ザシュッ!!
飛んでくる弾幕は拘束系の魔力の人と、カイの魔力無効の剣を持った姫子さんに対処してもらい、
ズガン!!!
敵の頭を掴み、地面に叩きつける!!叩きつけられた敵は痙攣をしながらうつ伏せになったままだ。
近づいてきた敵を私とカイが無効化するという実にスマートな考え。これならまぁまぁなレベルの敵までは対処できる。実際、山の中腹ぐらいまで登ってきたからね。でも………
ゴウッ!!!
姫子さんたちじゃ対処しきれない巨大な竜巻の魔力が飛んできた!!!
子供達の魔力相手じゃ近づけない!!!
ザクッ!!!!ピュルルルル…………
カイが巨大な氷の柱を竜巻に叩きつけ、竜巻を壊した!!
あのレベルの魔力となると、無闇に近づけない。この作戦の要である魔力無効の人間に怪我をさせるわけにはいかないからだ。
ザクザクザク!!!ピシャアアアン!!
前と後ろから飛んでくる高威力の大規模魔力を氷と雷で対処し続ける。
だからといって立ち止まってたら挟み撃ちにされて終わりだ。魔力障壁の長さは20メートル、対して1番近い敵との距離は40メートルほど!!………どうにかして近づかなくちゃ!!
「………私だけでいい!!!」
パーン!!!
私は勢い良く地面を蹴飛ばし、敵の前まで飛んだ!!!
「………え?」
私の動きが速すぎて、目では捉えきれなかったのだろう。子供から言葉が漏れた。
ガッ!!
足払いをされた子供は両脚を上空に投げ出すように体勢を崩した。
「ごめん!!」
ガシッ
私は子供の足首を掴み思いっきり体を捻り、
「我慢して!!」
ブン!!!
思いっきり外に投げ飛ばした!!子供が高速でこの場から飛び去っていく。ここの高さは約20メートルだ。………まぁ、死なないでしょ。数十カ所骨が折れる程度で済むはず……
「カイ!!あんたらは別周りで敵を倒して!!私はここから1人で行く!!」
「ちゃっ、マジですか!?」
カイの言葉を無視して私は近くの敵に向かって走り出した!!
山なんかに逃げ込んだせいで、敵が孤立してしまい各個撃破が楽になった。こうなったら私の独壇場だ。1方向からの攻撃なんて簡単にかわせる!
ボウン!!!
前方から飛んでくる爆弾のような火炎を飛んでかわし、子供の肩にかかと落としを浴びせた。でも大丈夫、手加減をしたから脱臼した程度だ。
そしてガシッと腕を抑える子を掴んで、ブン!!と思いっきり外に投げ飛ばす!!
パット見この山には30人ほどいて、今ので18人無力化した。
さぁさぁさぁ!!残りの敵もあと少しだ!!奇襲なんてしたことを後悔して待ってるんだねヘカトン!!
ドズン!!!
私が目の前の敵を無力化しようと突っ込もうとした時、子供の前に巨大な体躯が塞がった。………魔物だ。すごく嫌な予感がする………
私は立ち止
メシャッッッ!!!
更に加速して回し蹴りを顔面に叩き込んだ!!!骨が砕け、陥没する感触がした!!これなら死ん………
ガシッ
魔物は私の脚を掴んだ!!
なっ………こいつピンピンしてる!?
「効かぬわぁあああ!!!!」
ブォン!!!
そして私を振り回し、思いっきり投げ飛ばしてきた!!
ガツン!!!
そして山肌に背中を勢いよくぶつけた!!
いったぁ!!!なんて怪力してるんだ!!!
「我が名は[激昂のクレヌス]!!七王の名の下に、我ら[グラディウス]はヘカトンの援助に参った!!邪魔立てするものは容赦せん!!」
………我ら?はっ!!
ボゴォオン!!!
その場から飛んで逃げるのと、後ろの岩が吹き飛ぶのは同時だった!!
「今のをかわすとは………褒めてやろう。我が名は[曇天のマシュハラ]。この名を冥土の土産にくれてやる。」
ザッザッザッ…………
二体の魔物に数十体の魔物が集まってきた。まるで軍隊のようにキチンと整列し、私の方を睨みつけてくる。
「それでは………行けぇえ!!!」
ウォオオオオオ!!!
数十体の魔物達が私に向かって雄叫びをあげながら走ってきた!!
どうする!?こいつらは並みの魔物じゃない!全部を処理すると怪我を負うのは不可避だ。しかも下手をすれば………それにあの激昂のなんたらは私の一撃を喰らってもケロッとしていた。ここはまともにやり合わず、少しずつ数を減らしたほうが良さそうだ。
「んーーイリナちゃんにしてはらしくないねぇ、その考え方。」
ピュピュピュン!!!
無数の剣が魔物達を突き刺し、そのまま遠くへと魔物を連れたまま飛んで行った。
ザッ
私の後ろから王様が歩いてきた。一本の剣を持ち、悠々と………全てを楽しむように。
「楽しもうぜ?この熱い夜を。」




