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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
赤き血潮の大悪党
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大義名分

作戦会議終了後私達はすぐに作戦へと移行した。

魔力無効の結界を張る人間は6人、子供達と戦い無力化する人間は12人、拘束系の魔力を保持し子供を勇者領まで運ぶ人間が24人の計42人の少数精鋭での遂行ではあったけれど、思いの外すんなりとことは進んだ。

確かに相手は警戒して各グループに探知系の魔力を配置していたけれど、そのグループの引率者が軒並みカイと接触があったから、探知される前に敵の懐に侵入することができた。それに、子供が全員暴走していないってところも大きかった。暴走していなければ常識がある。そして彼らは戦闘経験が少ない。だから新人研修なんてものを受けているのだけれど、とにかく彼らは戦い慣れしておらず、無差別に人を殺すこともしない。つまり私達レベルの人間に奇襲をかけられたらひとたまりもなく潰れるのは当たり前だということ。

そんなこんなで20あったグループの内16個を拘束して残るは4グループにまでなっていた。


「正直ここまで簡単だとは思ってなかったなー。このままスムーズにいけばあと1時間ぐらいで終わるんじゃない?」


今は4グループのほぼ中央にあたる村に集まり、全員の状況と最終作戦を確認中である。

ここからはヘカトンがいるチームにもアタックをかけなくちゃいけなく、いままでのようにはいかないだろうからね。準備は念入りにさ。


「………そうなのですが、どうにも腑に落ちませんね。すんなりと行き過ぎてます。」


カイは地図を睨みながら呟いた。


「ヘカトンほどの人間ならもっと綿密に計画を立てているはずです。こうもずさんな守りを展開するはずがない。………何か意図があるのでしょうか…………」

「………まぁ、そのヘカトンとやらがどんなに頭良いからってさ、全てできるわけじゃない。人間には限界ってのがあるからね。子供達までは守りきれなかったんじゃない?自分を守るので精一杯だったとかさ。」

「…… そうだとしても、やはり奇妙ですねぇ。何か裏があるようにしか思えない………」


カイがここまで警戒するなんて初めてだ……それほどの敵だってことか。確かに相手は慶次さんと同じ地位を、その状況判断能力と計画能力のみで勝ち取った男なのだからね。用心に用心を重ねて、ワンモア用心を重ねるぐらいじゃないといけないのかもしれない。用心の三段重?なんか御節みたい。幸福を願いたいものだね。


「まっ、警戒は大切さ。それでも考えすぎてがんじがらめになって行動できなくなっちゃ意味ないでしょ。程々でやめとくのが吉さ。」

「………そうですね。分からないことを考えても仕方ないですね。」

「そうそう、最悪だけ考えとけば何とかなるものさ。そしてもしそうなったら私が何とかするしさ。」


トン

カイの胸を拳で叩いた。


「ふっ……期待してますよ。」

トン

カイが私の胸を拳で叩いた。


ゴン!!

思いっきり頭を殴った。


「いててて………す、すいません……男と間違えました。」


ガン!!

肘で思いっきり頭を殴った。


「ジャッジャジャーン!!真理系魔法アイドルただいま参上!!」「じょう!!」


カルナーとマイトリー達が部屋に入ってきた。


「いつも思うけど本当元気だなぁ………それで、応援は望めそうなの?」


これから捕まえる人間は単身では戦闘的な危険度は低いが、この状況はきっと相手に予測されている。だから敵は自分の守りを固めるはずなのだ。それに色々なことを考慮して、色んな対策を立てて迎撃してくるはず……そうなるといくら奇襲とはいえ作戦が失敗するかもしれないし、逃げられてしまうかもしれない。その可能性を減らすために慶次さんに増援を頼んだということさ。


「えーっと………無理っぽいです。城内にどれだけ裏切り者がいるか分からないから、守備を固めないといけないんだって。」


……うーん、妥当だ。あのクソジジイも一応は王様だもんなぁ、守らないといけないんだよね。はぁ、自分の身ぐらい自分で守れって話だよ。あんた勇者の中で1番強いんでしょうが。


「ふふっ、安心してくださいイリナさん。私達がガッチリと守ってやりますよええ。後輩として、崇拝する先輩を守るのは当然です!」

「いや、だからアイドルもやってないし魔法少女もやってないんだけど………」


かっこよくポージングしてくる2人を前に首をもたげる。ああ……誤解されたくないなぁこういうところ。私はアイドルじゃないの、他よりも顔が良くて誰よりも強いってだけで………意識してないから本当に。


「とにかく、これ以上の援軍は見込めないとわかったので計画通りに実行します。」


カイは部屋に置いてあるボードに字を書きながら説明を始めた。


「僕達が今動かせる42人を4等分します。つまり10人の部隊を2つ、11人の部隊も2つ作るというわけですね。ただし、ヘカトンを対処する部隊には僕とイリナさん、姫子さんを配属します。」


ふむ………それじゃあ私達の部隊は残り7人か。


「後は魔法無効の人間を1人、そして拘束系が6人です。最優先事項はヘカトンを捕まえることです。ついでに子供達を確保できればグッドです。まぁそこまでは高望みしませんがね。」


ふむふむ………ヘカトンチームに関しては子供は二の次なのか………まぁ、子供から彼を引き離すのが目的だもんね。普通そうなるわ。


「他の部隊は今までと同じように子供達を最優先に捕獲してください。油断しないように。」


41人にハキハキと作戦を伝えるカイ。知的なキャラは、やっぱりこういう参謀的なのが似合うね。

他の人達が作戦を再度確認してイメージトレーニングしている中、姫子さんだけが難しい顔をして下を見つめていた。


「姫子さん、頑張っていこうね!」


私は姫子さんの肩に腕を絡め、話しかけた。


「………そうですね。」


下を向いたまま、静かに応える姫子さん。

…………


「………殺すのはなしだからね。彼には聞かなきゃいけないことが沢山あるんだから。」

「……………大丈夫です。もう昔の私じゃないですからね、殺そうだなんて思っちゃいませんよ。」


顔をあげて私にゆっくりと笑いかける。いつも通りに目尻をあげ、口角を持ち上げ、首を傾ける。いつも通りだ。

でもなにか、普通じゃない気配を感じた。煮詰めたシロップのようにドロっとした、透明なのか不透明なのか分からない、奇妙な何か。


「………私思うんだけどさ、大義名分って怖いよね。どんな行動でも正当化されちゃう。………例え人として許されることじゃなくても。」


クリスチャンな私がこんなことを言うのはなんだけど、宗教はその性格を帯びやすい。いや、本当ね?批判するわけじゃないよ。宗教はいいものよ?弱い人の心の支えになる。オタクの[嫁]みたいなものさ。崇拝し、どんなに貢いでも苦にならない完璧なアイドル。でも少し違うところがあるとすれば、そこに[神の名]があるかどうか。宗教は[神の名の下]になんでも許される。糾弾、差別、人殺し、戦争………なんでもだ。でも後者は違う。[我が嫁の下に]なんて言って同じことをしたら完璧に牢獄送りだ。正当性なんて微塵も存在しない。

神や宗教を否定するわけじゃない。[大義名分]という人間が作り出した正当化を、私は否定しているのさ。


「そういうの使ってなんかやる人間ってさ、必死こいて生きる為に悪事をやってきた奴なんかよりもよっぽどクズだと思うんだよね。………姫子さんにはそうなってほしくない。」


「…………分かってますよ。私も、そこまで心を汚したくありません。」


姫子さんは壁に寄っ掛かり天井を見上げた。


「捕まえて、生かしたまま、今までやってきたことを反省させます。いや、後悔させてやります。[お前のしてきたことは間違っている]と、指差してやりますよ、ヘカトンに。………それが、多分、1番の復讐になるから……………」

「……そうだね。それが1番だよ。死ぬよりもよっぽど辛いよ。」


私は窓から夜空を見つめた。

22時をまわった世界はペンキで塗りつぶされたキャンパスに、白色のインクをつけた歯ブラシをグリグリやったみたいに星が散らばっていた。疎と密がハッキリと別れ、銀河を想起せずにはいられない。

[人が死ぬと星になる]なんかそんな言葉を聞いたことがあるが、もしそうなら、なぜ星の瞬きに差があるのだろうか。全てが不平等なこの世界。のし上がる為に、生き残る為に、一体どれほどの命を踏み台にしなくてはいけないのだろうか。

出撃準備が完了するまで、姫子さんに同情しながら、ただこの世界の不均衡を見つめ続けた。

宗教のお話ですが、ISのことを言っているわけじゃないです。彼らはイスラム教徒でもなんでもありませんからね。彼らは名前を勝手に使って戦争しているだけの人間です。

実際、教えに反して預言者が大量に出現してますよね。[俺が、俺達が、預言者だ!]とでも言うつもりでしょうか。

あとオタクの話、あれも気分を害された方がいるかもしれませんが、私はその2つは同じようなものだとハッキリと今ここで言っておきます。

ただ[嫁]は崇高です。オタクは偉大です。神や世間に迎合することなく自分の好きなことを、信念を、貫いているのですから。むしろ教徒なんかよりもよっぽど神聖ですよ。やつら大きな庇護の元で好き放題やってますからね。ヤクザまがいの人間を連れたチンピラみたいなもんです。

[神は死んだ。]死んだじゃなくて死ぬべきなんですよね。神の名を使うバカが出てくる限り。

なんか言いたいことがあったらバンバン言ってください。上のもどうせ私一個人の考えですから。

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