真理は混ざりゆく
手加減してやってたらいい気になりやがって………そんなに私の本気をくらいたいのか!!
ベコォオ!!!
私のパンチがマイトリーのステッキをへし折り、ステッキごと胴体を殴り彼女はそのまま吹き飛び城砦の幾重もの壁を突き破って外へ吹っ飛んでいった。
「………え?」
ガシッッ!!!
私はそのまま、私の動きを目で捉えきれなかったのか、それとも威力の違いに驚いたのかはわからないけれど、呆けているマイトリーの肩をへし折れるぐらいの力で握った。
「あんた………回復できるんだよね?」
それじゃあつまり、どんなにがんばっても死ぬ一撃を食らってもなんとか生き延びることができるってわけでしょ?
バチバチバチバチ!!!!
私の拳に電気が溜まっていく。
「歯食いしばりな。」
バチバチバチバチボンンンン!!!!
私のパンチによってカルナーは吹き飛ばされ、一直線上に伸びる雷と一緒に、この城砦にまた1つ大きな穴を開けながら外へと飛んで行った。
「………まぁ、大丈夫でしょ。彼女達頑丈だし……」
やりすぎた感は否めないが、まぁ、丁度いいお灸になるんじゃない?熱すぎるぐらいがいんだよ。
「ま、待った………」
ブラドを追いかけるために部屋を出ようとした時、2人を吹き飛ばした方から声が聞こえた。
振り返って見ると案の定ボロボロの2人がいた。カルナーの一度の回復じゃ回復しきれなかったのだろう。それにしたって凄まじい回復速度だ。最高幹部クラスの魔力は侮れないね。
「あんたらまーだ立ちはだかるの?やめなやめな、役不足だよ。」
「うるさい!正義の味方は………負けないんだよ!
バチバチバチバチ!!!
カルナーが弾ける高エネルギーの弾丸を飛ばしてきた。さっきの私の一撃の回復分でしょ。
…………
「ふん!!」
パァアアンンン!!!
私の振り下ろされた拳によって、エネルギー弾は弾けて消えた。
「ダメダメこんなんじゃ。あんたらが致命傷だと思っているダメージは、私の本気の一撃の一部、片鱗にすぎない。もし私の攻撃よりも強いダメージを出したいなら100発は殴られな。」
私のパンチはガードをしなければ確実に命を持っていく。ガードをしてもほとんど命を持っていく。力量が違う。
「……な、なにそれ………ズルイ…………」
「ズルイ?ズルイって言ったの今?あっはっはっはっ!!そうだよその通りだよ!!私はズルイよ!!生まれた時からあんたらとは大きな差があるからね。………まっ、それでもあんたらはバカすぎる。」
攻撃を止められたことによってすっかり落ち込む2人を傍目に、私は笑った。
「この世界での階級の差ってのは致命的でね。1つ違うだけでまるでものが違う。ネコと歴戦のライオンぐらいに差が開いてる。………なんでブラドがあんたらを残して逃げたか教えてあげようか?」
「………?それは私達を信頼して……」
「信頼してたら一緒に戦うでしょ。マイトリー、あんたの魔力があるならなおさらさ。言ってしまえば第一類勇者が3人いるのと変わりがないんだからね。実際、ブラドだって[これなら捕まえようとしてくる勇者を返り討ちにできる]とでも思ってたんじゃないの?腹の底では。」
第一類勇者3人、さらに城塞内にいる30人の聖騎士長がいれば大抵の敵は倒せる。でも彼は逃げた。私を見て逃げた。
「でもね、それでも[第二類勇者は敵にしたくない]んだよ。いや、これじゃ間違えだ。[格上相手とは戦いたくない]んだよ。たとえ数がいようと、1つ階級が上の人間と戦えば負ける可能性がついてくるんだ。倒せるという確証は消え、敗北という文字が濃厚になる。だからあいつは、あんたらを捨て駒にしたんだよ。そっちの方が戦うよりも確実に逃げ切れると思ったんだろうね。実際その通りだよ。私の力の前じゃ3人いようが変わらないもん。」
「そ、そんなの……ありえない………だって力をくれた人の仲間だって…………」
「あんたはこんな奴がまだ正義の味方だとでも思うの?あんたらを捨て駒にするような奴が。」
そして何よりもこの子達は格上に対して策がなさすぎる。正面から正々堂々倒そうとしている。バカだ。そんなことしたらどう頑張っても勝機は見いだせない。ズルさがなければ弱者は生きていけない。そしてこの子達は子供だからまだ分かっていない。それを大人に利用されてしまったのだ。
「ガキは家帰ってネタでも考えてな。」
私はそのままブラドを追うことにした。
この子達と戦うのは無駄だ。さっさとブラドを捕まえて彼が罪人であることを見せつけなくてはならない。戦って傷つけるべきじゃない。
「………認めない。」
「………だからぁ、認めないとかじゃなくてね?私がその気になれば……」
「認めない認めない認めない!!お姉さんみたいな奴がいつもそうやって私達をバカにしてくる!![弱いから]って私達の全てを否定しようとしてくる!!」
「いや、全ては否定してないでしょ………」
ボコボコボコ………!!!
2人の体が異常な膨張を始めた。
………姫子さんの時に似てるなおい!!
「まって2人とも!!ごめん悪かった!!私が悪かったから!!」
「ダメダメダメダメ認メないユるセナイ!!コんなシンジツぶっコワシテやル!!!」
2人の体が1つに混ざり合っていく。
メシッゴキィ!!バコン!!
「ワタシタチがしンじツをツクリダす。」
2人は紺色の髪を携えた、高身長の女へと姿を変えた。15世紀西洋の女性がつけていたようなスカートに、日傘をさしていた。
「ぜッたイシンリしょウジョ」
女はこっちを見て無表情で呟いた。
「ヨラクバック。シンジツヲハカイスル」
そして、その女性の後頭部から声がした。後頭部から舌のようなヨダレのようなものが垂れていた………どうやら後頭部に口があるようだ。
「………ちっ。なんでこう…………はぁ、やっぱり子供だなぁ。」
スパァアンン!!!
私は一瞬で間をつめて、ヨラクバックとやらの顔面を蹴り飛ばした。
本当はもう傷つけたくなかったが、こうなったら話は別だ。完璧に自我が飛んでこの周辺の地域に被害が拡大してしまうからだ。この子達だけの問題ではない。
ズドォオオオオンンン!!!
私の蹴りであっさりとヨラクバックは吹き飛び城砦の外へと飛んでいった。
………あれ?姫子さんの時と違うのかな?
ズズズズズゥウウウンン!!!
城砦が勢いよく揺れた!!私が壁を壊したせいで重さを耐えきれなくなったの!?………いや、そんなわけがない!!ここの城砦がそんなんで揺れ動くなんて………
「イタミヲチカラニ、カナシミモチカラニ(痛みを力に、悲しみも力に)」
大きな瞳が壁の穴からこちらを覗いていた。さらに別の穴からは大きな手のようなものが城砦を上から掴んでいるのも見えた。
どうやらヨラクバックとやらは私のダメージを吸収して巨大化したようだ。
あーーーこれやばい奴だ。
「ワタシタチノイタミヲシレ」
ズゴォオオオンンン!!!
私がいる部分がヨラクバックの押し付けに耐えきれず、豪快な音を立てて崩れ落ちた。




