真理系魔法少女
「応援者に笑顔と喜びを押しつけるよ!幸福無限のマイトリー!」
右手にハートやリボンが装飾された可愛らしいステッキを持った緑色の髪の女の子が、私から見てブラドの左前に立った。
「応援者どもから悲しみと苦痛を奪い去るよ!悲壮久遠のカルナー!」
今度は左手にさっきの女の子が持っていたステッキを持った紫色の髪の女の子が、私から見てブラドの右前に立った。
「みんなが羨む観念真理の体現者!2人合わせてー………」
2人で手を繋ぎ、彼女たちは2本のスティックで空中に大きなハートを描いた。
「魔法少女・夢幻泡影シスターズ!!」
「…………」
決めポーズを決めた2人を見て私は口を開けながら驚き、固まっていた。
この子達……暴走してない!?いや、ある意味暴走しているような気もするけれど、そこじゃない。この子達は自分の意思でこの場に立っている!青ローブに魔力を与えられたはずなのに!………まさか、普通に魔力が発現した子供達なのか!?それにしては若すぎると思うんだけど………
「いやーー最近BLマンガというものにハマってるんですよカルナーさん。」
「ほーーこれまた大胆な告白だねマイトリーさん。そんなにそそるの?」
「そりゃあそそらないわけがないでしょ。サッパリとした酸味によって引き立つお肉が凄い描写能力で表現されてるんですよ。」
「……え?ビーフアンドレモン?そそるって食欲の方?」
「フライパンの上で加熱する肉とレモンの汁のかけあい!」
「おいやめろ。」
そして私を無視していきなり漫才を始めた2人。魔法少女なのかアイドルなのか芸人なのかはっきりしてほしい。どこを目指しているんだ。やっぱりこの子達暴走してる。私見てらんないよ………ん?
コソコソ………
その隙に扉から逃げ出そうとするブラド。
おーっと、さすがにそれは見逃せないよ!
ダン!!
私はブラドを捕まえるために思いっきり跳んだ!!
「ミラクル☆ビーム!!」
ゴン!!!
マイトリーが振り下ろしたステッキは、先端にかなりの重りがついているかのような鈍い音を響かせながら地面を吹き飛ばす!!!
なんという物理!!せめて高い音を出して!!
「ダメだよお姉さん!!アイドル兼魔法少女兼お笑い芸人である私達の爆笑必至な漫才を見ないなんて認めないよ!!」
「そうだよおばさん………私達が売れるための端女になって………」
「はぁあ!?ちょっ、何言ってんのあんた!!まだ大人にすらなってないんですけど!?!?」
ゴンッ!!!
横からふり抜かれた私の蹴りがマイトリーのステッキに直撃する!!
ドォオオン!!!
そして吹き飛び壁にめり込む!!
さすがに頑丈な城塞だ。私の蹴りによって吹き飛ばされた子が激突しても貫通しないんだから。
私はすぐにブラドの元に走り出した!
マイトリーとやらの速さは魔族にしては異常だった。すごく驚いた。けれどカルナーとかいう失礼小娘が同じ速度で動けるわけがない!つまり私の動きを止められる人間は今この場にはいないのさ!だったらこんな奴らを気にせずにブラドを追いかけるのが筋というもんでしょ?
てかカルナー暗いな!!出だしの元気はなんだったのさ!?空元気!営業元気だったの!?
「マジカル♡スパーク!!」「!?」
ゴン!!!
私めがけてふり抜かれたステッキを私は右手で受け止めた!!
うっは!!いったぁあ!!何キロの重りつけてんのよ本当!!
てかカルナー!?あんたまで速く動けんの!?
ピシャアアアン!!
私は左手から大量の雷をブラドに放つ!!!
今ここで逃すわけにはいかない!なぜならこの2人がめんどくさいから倒すのに時間がかかってしまう!
カン!!
ブラドの前に鏡の盾が出現し私の雷を跳ね返した!!
なんで!?
ピシャアアアン!!
私はそれをモロに正面からくらった!
「なんではね返せてん!?」
今度は背後から蹴り飛ばされ顔面から地面に激突した!!
あばばばば!!!目がチカチカする!!てか誰さ私を蹴ったのは!!
「うわぁああん!!!痛いよー!!!腕が折れたぁああ!!!」
私を蹴ってきたマイトリーが私の蹴りをガードしたせいで折れた右手を抱え泣きながらカルナーの元に駆け寄る。
「おーよしよし………おばさんもひどいことするよね。」
キュイイインン…………
カルナーがマイトリーの腕をさすると一瞬で骨折が治った。変な方向に向いていたのにあっという間にまっすぐだ。
………ブラドはこの部屋からもう出てしまった。いますぐにでも追いたいのだけれどこの2人が邪魔だ……邪魔すぎる。身体能力だけを見ると第一類勇者並みだし、何よりも1人が回復の魔力を持っている。これがめんどくさい。
「もう、怒ったよお姉さん!!魔法少女である私達に楯突くなんて、よっぽど天誅をうけたいようだね!!」
「おばさん………マイトリーを泣かせるのは許せないよ………」
2人が私の前に立ち塞がってくる。
「だからおばさんじゃないって言ってんでしょうが!!」
私は剣を引き抜いて斬りかかった!!
最悪な展開だ………
姫子さんの元に瞬間移動しこの光景を見た瞬間、僕はそう思った。右のほうに目を向けた。
「…………」
聖騎士長クラスの勇者が4人、剣を抜いて構えている。予想通りブラドは報告書に記すことなく勇者をこの場に隠していたようだ。
今度は左の方を見た。
「…………」
紫と黒の分厚い鎧をつけたものが2人立っていた。勇者と違って防御に重きを置いた鎧………魔族だ、間違いない。
2人の奥に穴が空いているから、そこを破壊して乗り込んできたのだろう。
三つ巴………なんともやりぬくい状況だ。あの魔族は今後の被害を考えるとなんとしてもこの場で倒しておきたいし、この4人の勇者も眠らせている勇者を起こす可能性があるからなんとかしてこの場で倒しておきたい。でも難しいよなぁ同時に倒すの…………
僕はチラッと後ろにいる姫子さんに視線を向けた。
何よりも姫子さんがいるせいで大きく動けない。なんとかしてこの場から逃がさないと………
………ニッ
魔族の1人がこっちを見て笑った。
ダッ!!
すると2人が分かれて1人が僕達の方に走ってくる!!
全部まとめて倒すってことか!!やってくれるなぁ!!
ブンブン!!
魔族が振り回す剣をかわす。結構いいスジだ。魔族のくせに剣術を学んでいるようだ。
この身体能力……幹部クラスですね。このクラスまで来ると魔力が侮れない……でも!!
「姫子さん!!すぐにこの場から逃げてください!!」
僕は後ろにいる姫子さんに大声で叫ぶ!
これはチャンスだ!この状況なら彼女が逃げ出すのは簡単!だって僕が1人を止めるだけでいいんだから!!
後ろを振り返れないけれど、走り去る音が聞こえた。ちゃんと理解してくれたのだろう。やっぱり年長者は違うなぁ………
「それじゃあ僕も魔族の皆さんにならって…………」
僕は魔力を全開にした!!守るべき姫子さんがもういない!!つまりどんなに大規模な攻撃だろうと僕には損害がないということだ!!
「全員相手にしてやりますよ!!!」
ガガガガガガ!!!!
部屋1個分ぐらいの氷を出現させ、目の前の全てを吹き飛ばした!!
ボン!!!
それと同時に、僕の右腕が内側から爆発して吹き飛んだ。
これぐらい完璧なidleが現実に欲しいなぁと思うこの頃。




