劇薬注意
「すいませーん。お電話いただいた福積軒の者なのですがー。」
私は割烹着姿で城塞の扉を叩いた。
姫子さんの作戦さ。私は民間人にふんして城塞に侵入、カイは下水道を通って侵入、姫子さんは鍵のかかった裏道から侵入するという三方向からのアプローチ。
なんか私、コスプレばっかりしてるな………私の役目を勘違いされたら困るなぁ。
「はいはいはい。えーっと、福積軒さん?」
「はい!」
守衛の人が出てきて、机の上に置かれていた書類を読み始めた。
「福積軒福積軒………んー?そこから出前をとったっていう記録はないなぁ。本当にうちが出前とったの?」
「はい![薬草とお肉たっぷりな塩ラーメン]を30人前、ニラ餃子も同じく30人前……はい!以上のご注文をいただきました!」
まぁそんな注文ないんだけどね。それっぽいことを自信満々に言えば大抵の人間は信じてくれる。
「さっき担当したやつ書き損ねたのか………わかった。それじゃあ料金は勇者領支払いにしておいてくれ。」
「はい!分かりました!」
私は腰につけていた紙に[騙されてやんのー]と、守衛に見えないように書きポケットにねじ込んだ。
「それで、その品はどこにあるんだ?手に持ってないようだが………」
「はい!量が多かったので門の側に置いてあります!門を開けていただければ私が入れておきますよ!」
「おお、気がきくねー。それじゃあ開けておくよ。」
ゴゴゴゴ……バタン!!
門が音を立てて開けられた。
私は福積軒からわざわざ取り寄せたラーメンと餃子達を積んだリアカーを引いて城門に入った。
「はい!確かに注文の品、渡しました!」
「うん、ありがとねー。」
「いえいえ、お客様に食べてもらってこそ商売冥利につきるというものです!あ、一度に4品以上注文していただいたので次回から利用できる割引クーポンをプレゼントしますね!」
私は守衛にクーポン券を手渡した。
「へーー!サービスすごいね!」
「はい!それではまた!」
「うん!こんな可愛い子が来てくれるのなら何度でも利用しちゃうよ!……さて、クーポンとっとかないと………」
守衛がクーポン券を机の引き出しに入れる為に、後ろを向いた。
………ごめんねー
ギュッ
と、私は守衛の首を締め上げた。
「ガッ……はっっ!」
バタバタと守衛が私の腕の中で暴れまわるが、私の腕を振り払えるわけがない。30秒もしないで守衛はおちた。
こういう方法で気絶させるの苦手なんだよなぁ。全力で手加減しないといけないからめんどくさいんだよね。
「さて、第2フェーズだ。」
私は守衛の服を引っぺがしてそれに身を包み、広間へと向かった。
「皆様ー!ラーメンと餃子の差し入れです!」
広間に着くと、顔をフードで隠しながら、私は出来る限りの太い声を発声した。
広間には20人の勇者達………チッ、10人いないか。ここで全員倒すことはできないか。
「ラーメンと餃子………差し入れとは一体誰から?」
「それは私からです!常日頃の平和は皆様、勇者様達によって築かれているという感謝をこめて注文しました!」
「おお、いいこと言うな!そうだ!勇者のおかげで今この平和は保たれているんだ!」
なーにがいいこと言うねだよ。あんたら以外の勇者だよ。あんたらは何もしてないだろうが。ほら、机の上にあるの、絶対トランプでしょ。遊んでたな!
「今在中している勇者様は30人だとの報告がございましたので、丁度30人前注文しておきました。皆様で食べてください。」
私は20人の前に手際よくラーメンと餃子を置いていく。
「それでは皆様、ごゆっくりと味わって下さい。私は部屋を出て仕事に戻りますのでー。」
私は入って来た方の扉とは逆の、ブラドがいる部屋へと続く廊下に出た。本来なら気付くだろうけれど、私によいしょされて美味しい食べ物が目の前にあるんだ。私なんかを気にしてないんだろうね。
私はつけていたマスクを外した。
バタンバタンバタン!!
部屋から出て数秒して、部屋から何人もが一気に倒れる音が聞こえた。
あのラーメンと餃子には粘膜から作用する睡眠薬が仕込まれている。目と鼻からではそこまでの効果はないけれど、胃と腸から吸収されたら効率よく吸収されてしまい一瞬で眠りに落ちてしまうのさ。しかも各体の器官が弛緩してしまい、放置すれば3時間で死ぬ代物だ。まぁ、さっさと終わらせて回復してあげるからさ、我慢してな。
「いやーー下水道って臭いきついですね。鼻が曲がりそうになりましたよ。」
廊下の左奥からカイが、勇者10人を引きずりながら歩いて来た。それに伴ってかかってくるドブのような臭い。水が腐っているやばい臭いだ。
「………本当、臭いね。鼻が閉じそうだよ。ラーメンの匂いでも浴びてその匂い消してくれない?」
「あんなラーメンの匂いを嗅ぎ続けたら僕使い物にならなくなるんですが………」
カイはポイッと10人をラーメンがある部屋に投げ込んだ。
「しかし姫子さんの作戦通りにしたらスムースにいったね。いままであんなにドタバタしていた私達はなんなんだろうね。」
隠密作戦なんて基本正体バレてからゴリ押ししてたからね。完璧な脳筋だよね。
「探偵事務所を一から立ち上げて全国区まで押し上げた敏腕は伊達じゃないですね。緻密に作り上げる計画性と、それを支える経験………ああいう大人になりたいものですね。」
「………本当だね。私達の周りって見本にならない大人ばっかりだもんね。」
………しかし、当の姫子さんはどこだ?ここで落ち合う予定なんだけれど…………
「………姫子さんどうしたんですかね。」
カイもそれが少しひっかかっていたようだ。
敵はさっき全て倒した。なんら脅威となるような所はないとおもうんだけれど………
「まぁ、作戦通り、遅れた姫子さんは無視してブラドの所へ向かおう。他の守衛に気づかれる前にね。」
守衛は3人いるのだけれど、1人しか無力化できてない。定期巡回の時間にはまだ時間があるけれど、イレギュラーってやつがあるからね。急がないといけないのさ。
まっ、どうせ、ブラドの犯行を決定づける証拠でも見つけたんでしょ。姫子さんの探偵の嗅覚は凄いからね。
私達は音が出ないように気を配りながらブラドがいる部屋へと走った。
ドォオオオンン!!!
すると、いきなり下の階から大きな爆発音みたいなのが響いた!
その衝撃で城塞が少し揺れた!
な、え、は!?なんで爆発したの!?
「な、な……何今の………」
「………姫子さんがヘマした可能性がありますね。」
「なぁ!?いやいや、ヘマするも何も………こんな爆発が起きるようなヘマって何さ!」
「例えば敵と鉢合わせたとか……」
「ええ!?いや、ないでしょ!!30人全員捕まえたでしょ私達!!」
「………本当に30人だけだったんですかね。」
………えぇえ
「彼はいままで報告書を上手い感じに偽ってきました。そんな人間が、このように捕まる危険性があるときに本当のことを書きますかね?」
「………つまり、30人以上の人間をここに潜伏させてたってこと?」
カイは首を縦に振った。
「それか、魔族が攻め込んできただけかもしれません。姫子さんとは関係なしに、ただ突っ込んできただけかもしれません。………まぁ、どちらにしろ非常事態であることは間違いありません。」
「ど、どうすんのさ……」
「僕が姫子さんの所に行って状況確認をしてきます。その間にイリナさんはブラドの所に行ってください。今の衝撃でブラドが逃げようとしているかもしれません。」
なるほど………確かにそうだね。姫子さんの階級は聖騎士長。ここに滞在している人間は全員聖騎士長だから、戦うとなるとちょっと心許ないね。それならカイが行けば問題解決だし、何もなかったら私の元にワープですぐに戻ってこれる。最高の判断だ。
「分かった、すぐに戻ってきてね。」
「………できればの話ですがね。」
カイが姫子さんの元へと飛んでいった。
私もそれを見てブラドの元へと走った。
バターーン!!
私は勢い良くブラドがいる部屋の扉を押し開けた!!
中にはブラドと2人の子供が、別の扉から逃げ出そうとしていた。
………ニッ
「さて、お縄につこうかなブラドさん。痛い目見る前にさ。」




