つまるところ面倒臭い
この都市は最も魔族領に近く勇者や戦士が常駐しており、ここから各地方の村へと派遣させれるのさ。だからここは戦争の重要基地の1つだ。最重要基地は東にある都市なのだけれども、まぁ、それにしたってここを落とされたら勇者領全域が危機に陥るのは間違いなく、ここの責任者の重要性は計り知れない。ここでブラドの話になるのだけれど、彼は聖騎士長だ。平均ぐらい。この都市の指揮権を任せられるほどの階級ではないように思える。だから周りの人間は上との癒着があったからなしえたことなんじゃないか。と噂しているが、指揮権譲渡の最終判断は慶次さんがすることになっている。コネだけでなれるものじゃない。だから勇者領で仕事をしている人間からの評価は[頭がきれて判断能力、情報処理能力が高い優秀な参謀兼統治者]というものだ。結構高く評価されているらしい。
「就任してから10年、彼はそれはそれは役職通りの、いや、それ以上の功績を残してきました。ですがここ最近仕事の報告のし忘れ、仕事の不備が目立つようになってきました。それと先日のこともあって今ここの地方は魔族に押されているというわけです。」
宿屋で3人で作戦会議中。
お風呂から上がったばっかりで鎧を着たくない私はシャツと短パン、姫子さんは律儀に探偵コスで臨んでいる。
「癒着は確かに悪事ではありますが、ちゃんと仕事をして結果を出してくれていれば目を瞑ります。ですが癒着によって得た富でうつつを抜かすようでは目を瞑ってはあげられません。どっちかが現実を見ておかないと大惨事になりますからね。」
癒着ねぇ………まぁ、私には必要ないことかな。そんなことしなくても結果を出せるし、機会だって自分で作れるもん。
「それに子供達のことも気にかかりますね……青ローブの目的が何かは詳しくはよくわかっていませんが、推測することはできます。なぜなら魔力を与えられたもの全てが[破壊すること]を望み、魔物と共闘して勇者を殺そうとしてきているからです。だから、青ローブの目的は勇者の殲滅と勇者領の破壊だと思われます。………もしブラドがその思考に染まり、青ローブに協力していたとしたら………」
「報告ミスと仕事の不備はわざとになるってこと?」
「………そういうことになりますね。」
………ここ一帯が魔族に押され、魔物からの集団攻撃があったがために王様は軍を連れてここに向かう必要があった。……そして、その不在を狙っての、姫子さんを利用した不意打ち。もしこれが狙って仕掛けられたものなら、相手は結構[メンドくさい]人間だとみなさなくちゃいけない。だってそうじゃないか。もし勇者領を破壊するのが目的なら、王様を倒すのが手っ取り早いのに、わざわざ勇者領を掌握することを先にしようとしたのだから。多分敵は、王様を確実に倒すために、絶対安全な砦である勇者領から王様を閉め出し、時間をかけて倒すつもりだったんだ。
短絡的じゃない、計画性をもって確実に目的を遂行しようとしたんだ。こんな人間が[メンドくさく]ないわけがない。
「青ローブの手掛かりを手に入れるチャンスです。絶対にブラドをしょっぴきますよ。」
「と言っても証言があるんでしょ?それならそう気負う必要ないんじゃないの?ねぇ、姫子さん。」
証拠があるのだ。ブラドの元にツッタカターと行って「証拠あるんで捕まりなさい。」って言えば簡単に捕まえられるんじゃないの?
「…………そうとも限らないんじゃないですかね。」
姫子さんは何も火がついてないパイプを右手に持ちながら、ブラドがいる拠点基地を見つめた。
「ブラドは犯行がバレる覚悟があるんじゃないでしょうか?……だってそうでしょ?バレたくないのであれば、わざわざ子供達を雇う必要なんてないんですから。……それなのに雇ったっていうことは、バレた後に戦闘をする覚悟があるって証拠じゃないですか?そして、逃げ果せる腹づもりもあるということでもあるんじゃないですかね。」
私はブラドがいる要塞へと目を向けた。
あそこは防衛においての重要基地だ。分厚い三重の魔力無効の防壁。内部は敵に攻め込まれることを想定して複雑に設計されており、初見じゃ道に迷うことは確実。もし私達が来ることを想定していれば、逃げることは可能だろう。
「いや、ないないない。どんなに城塞が凄かろうが、私達は勇者領からの正式な命令で動いているんだよ?つまり、城塞守っている守衛とか内部の勇者は私達の味方で、敵はブラドと子供2人だけ。どんなに戦う意思があっても、3対他多数で逃げ切れるなんて考えているなんて………楽勝でしょ。」
「………もし、城塞内の勇者全てが敵だったらどうしますか?」
………はい?何を言っているのかなカイ君?
「いままでのカルコルンの勇者の戦場派遣の報告書をあらいなおしてみたのですが、面白いことに一度も戦場に出ていない勇者が30人ほどいるんですよ。全員聖騎士長なんですがね。それで、さらに面白いことがありまして、一昨日にそれら以外の常駐が全員地方に派遣されてしまいました。つまり、あの城塞にいるのは聖騎士長31人と子供2人だけです。」
………え?なに?その30人にはブラドの息がかかっているとでも言いたいのかな?
もしそうならブラドを捕まえるのって結構メンドくさくなるの?
「更に面白いことがありましてですね、3日前の王様からの報告だと倒し損ねた魔族がカルコルンに向かって来ているそうです。王様が倒し損ねるぐらいですから、まぁまぁ強いんでしょうね。でも所詮は魔族です。ここに到達するには3日かかるでしょう。」
「………今日なんだけど。」
わぁーーお!面白いなぁ!なんかもう、色々と嫌なことが波のように押し寄せて来るよ!
「と言うわけでね、本腰入れてブラドを捕まえましょう。気を抜いていたら絶対に捕まえられませんからね。」
というわけで私は鎧に着替えて作戦会議に参加した。
「作戦はこうです。まず城塞内にバレないように侵入して、ブラドを捕獲します。そしたらすぐに城塞から抜け出し、余裕があったら他の勇者も捕獲します。そして僕が勇者領から見繕ってきたブラドの後釜を担当勇者に据えます。彼は慶次さんの元で教育を受けてきた人間性も知性をも持ち合わせたエリートです。カルコルン内部がどんなに混乱しようとも、彼なら平定できるでしょう。」
彼はいまこの場にいないが、まぁ、多分勇者領にでもいるんでしょ。仕事が終わり次第カイが連れて来るんじゃないかな。
「そして襲ってきた魔族も退治して終わり!いやーー完璧な作戦ですよ!僕の給料が鰻登り間違いなしですよ!プラモ買えますねこれ!」
「本当だね!これなら簡単に仕事が終わりそう!」
私とカイはハイタッチをして喜び合う。正直完璧な流れだ。穴がないもの。
「えーっと、その、侵入っていうのは一体どこからするんですか?」
「え?そりゃ………まぁ、行って確認すればいいんじゃない?」
「………じゃ、じゃあブラドは一体どこにいるんですか?」
「………どこにいるのさカイ。」
「………分からないので、そこはアドリブですね。」
「子供がブラドを守っていた時はどうするんですか?」
「……………そ、それは、気付かれないように気絶させるとか?」「アドリブですね。」
「アドリブが多すぎますよ!!!」
バチコーン!!
姫子さんが思いっきりカイをぶっ叩いた!!
「え?……え?」
「あなた達、自分の強さに甘えて作戦が雑になってません!?[俺練習しなくても本番でうまくいくから]みたいなこと言って本番に失敗する中学生みたいなことになってますよ!?」
………ひ、否定はできない。ぶっちゃけどんなピンチも力でなんとでもなってたからね。作戦考えるのが途中から馬鹿らしくなってた。
「アドリブっていうのは完璧なプロットがある上で初めて真価を発揮します!最初っからアドリブに頼ってちゃ毎回失敗しますよ!特にカイさん!毎回給料減りますよ!それでもいいんですか!」
「い、いや………それは勘弁してください。」
うわーカイがへこへこ頭を下げてる!滅多にないよこんなの!
「いいですか!まずカイさんは勇者領に行って城塞の設計図を持ってきてください!そこから私が作戦を考えます!いいですね!」
「は、はい!」
カイは急いで勇者領へと飛んでいった。
姫子さんは火の何もついていないパイプを咥えながら、城塞の方をカイが来るまで見続けた。
そのやる気に満ちた表情や仕草を見て、姫子さんの完全復活を改めて感じた。




