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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
クソッカス腎臓程度の悪代官
26/70

おかえり勇者よ、クズだな勇者よ

「ありがとうございます勇者さん!あなた達のお陰で轍の支配から解放されました!」


夜が明け、轍の身柄移譲と戸籍情報の改変を行うため轍を連れて自治会へと向かっている時、村の人々が集まってきて口々に賞賛の言葉を言い続けてきた。


「あーー良いよ良いよそういうの。勇者なんてこんなのが仕事なんだから、褒められることじゃないよ。当たり前さ。」


私は人々に笑いかけた。


「お姉ちゃん!!」


蛍ちゃん達が笑いながら走ってきた。


「なにか分からないけれどありがと!」


ボフッ

蛍ちゃんは姫子さんに向かってダイブした。それを姫子さんは慌てながらもしっかりと受け止めた。


「うわーーいいなぁ!!僕も僕も!!」「あたちも!!」


ボフバフッベフッ

それに兄妹が続き、姫子さんは受け止めきれずに地面に倒れこんだ。


「あはははは!!!」

「……………」


子供達が大きな笑顔で笑い続ける中、姫子さんは苦い笑いをした。嬉しいような、困ったような………


「……姫子さんがいままでしてきた当たり前のことだよ。」

「!!…………」


姫子さんは目をゴシゴシと腕の袖で拭った。そして………


「どういたしまして!勇者として、探偵として当たり前のことをしただけですよ!」


姫子さんは思いっきり笑った。


「………お帰り、姫子さん。」



「さて轍さん、自治会経由で勇者領に身柄を移す前に、聞きたいことがあるんですよ。」


村の人達と別れ自治会へと着き、[「あとは身柄を渡すだけだ、なんて簡単な仕事なんだろう」と思っていた時にカイが轍に話しかけた。


「あなたはなんて勇者と癒着していたんですか?」

「…………言えるわけがないだろ。そんなことしたら殺される。」

「あーー安心して。あんたが殺される前にそいつ殺すから。」


正直な話、私達が動いたのは村の人達を守る為ってことが7割で、癒着している不貞な勇者を捕まえる為が3割だ。といっても私達は行動しない。情報をゲットして勇者領に渡すだけ。だってそんなこと、私達のメインの仕事じゃないでしょ。私達がやるべきなのは地方の人々を助けつつ、青ローブを見つけること。勇者の内部事情に切り込む必要はないのさ。


「内部腐敗は勇者らしくない。だから早急に潰さなきゃいけないんですよ。……勇者に悪は必要ないんです。だから教えてください。正義のためですよ。」

「………勇者っていうのは、やはり一般人の気持ちなんて知らないんだな。」


身体を縄で縛られた轍は、目だけをいからせながら毒づいてきた。


「お前らみたいに強く生まれてきたわけでない私達は、強いやつに生かされるか悪にでも手を染めなきゃいけない。お前らが絶対否定するものにすがらなきゃいけないんだよ。……正義?そんなんでこの世の中を渡り歩けるかって話だ。」

「………つまりどういうことさ。」

「[正義やらなんやらの為に自白して死にたかねーんだよ私は]ってことでしょう。」

「そういうことだ。」

「にゃんだってー!?あんたそんなに拷問受けたいの!?マゾすぎる!!」


驚愕のあまり舌を噛んでしまったよ!


「ご、拷問って一体………」

「拷問というのはですね、口を割らない人間に対して腹を割って話す機会を与える素晴らしいものです。」


拷問という言葉を聞いた瞬間、轍の顔から汗が噴き出した。


「勇者は体が頑丈ですから勇者用のコースというものがありまして、まぁ、一般人にも受けてもらうんですけどね………まず全ての爪を剥がしてから尋問開始なんですよ。痛いですよー。ほんのり桃色をした爪があった場所が真っ赤に染まっているんですから。そこからは1つの質問ごとに四肢を切っていきます。あ、切られたものは生えてきますので安心して切られてくださいね。」

「お、おい……そんなの人権侵害じゃ………」

「そしてここからが本番。もし質問に答えてくれたとしても、勇者の言っちゃえば[良くない部分]を見られてしまったので、そいつを終身禁錮もしくはその場で殺害することになっています。罪人ですからね、死んだところで誰も[あいついまどうしてるんだろう]とか気にしないんですよ。」


カイは轍のことなど御構い無しに勇者の拷問フルコースについて長々と語り続ける。それにあわせて轍の顔は生気あふれる怒りの顔が、死を隣に同居させた生きた屍みたいな表情へとなっていった。


「そういえば最近[勇者領のお偉いさん達がヒドラを捕獲して飼育している]って噂を耳にしましたね。[そいつの食料費がバカにならない]とも………確かヒドラの好物は生きた人間の肉でしたっけ?どうでしたっけイリナさん。」


これは嘘だ。勇者がそんな、獰猛な怪物を殺さずに飼育するなんてありえないことさ。


「ああ、そうだね。丸々太った人間の脂ぎった肉が好物だとは聞いたね。私は脂身が嫌いだけれど、ヒドラちゃんみたいに栄養がたんまり必要な子は好きなんだろうねぇ。」


でもまぁ、面白いからのっかっちゃおう。


「あ、あ…………」


轍の顔がシワシワになった。もう目なんて開いてないよほとんど。


「ですがねぇ、僕達に早めに情報を提供してくれたら拷問は一切なしで良いんですよ。しかもお布団と1日3回の食事が与えられます。さらにさらに!捜査協力として罪まで軽くなっちゃうんですよ!勇者は悪以外は傷つけない。反省したものは傷つけないのです。」


「…………そ、そうだそうだ勇者様!実は私、癒着していた人間についての情報を持っているんですよ!お聞きになりますか!?」


わーお。シワッシワの顔で無理矢理笑顔を作ってカイにすり寄ってきたぞこのおっさん。


「えーーでも、正義なんかのために命ははれないんですよね?無理する必要ありませんよ?」

「いやいや何を言うんですか!私は勇者領で保護され、勇者領に住居を置いていますから勇者みたいなものなんです!正義を遂行するために自らリスクを冒すなんていうのは、勇者からすれば当たり前でございませんか!なにとぞ!正義のために情報を提供させてくださいお願いします!」


轍はガッツリと土下座をした。


「まぁまぁ、頭を上げてください。同じ勇者として、あなたの情報提供に心からのお礼を申し上げます。」


カイは轍の肩に手を置いて、ニッコリと笑いかけた。

多分あの表情の裏には「いよっしゃあ!情報聞き出したから給料の損失分を補えるー!プラモ買えるー!」って感情があるに違いない。


「………カイさんって結構エグいことするんですね。」

「うん。あいつ無表情で簡単にゲスいことをやるクズだからね。」

顔をしかめながら耳打ちしてきた姫子さんに、私も顔をしかめながら耳打ちをした。


「私と癒着していた勇者は、この村から北に300キロメートル離れた地方都市の防衛を任されているブラド・メルナシュというものです。年齢は41歳で男、階級は聖騎士長です。」


300キロメートル先の地方都市……なんだっけな、名前忘れちゃったな。地理とか地形って得意じゃないからこういう名前を覚えるの苦手なんだよね。確か……メ、メルボルン?


「カルコルンの防衛を任されている人間ですか………まぁ、並の人間ですね。それで、そいつがやって来たことはなんですか?」

「は、はい!自治会上層部との癒着、租税の横領、土地の不法買収、違法紛いの取り立てと………数え上げたらキリがないです。」


………お前がやってたことと変わらないじゃん。


「ふーーん…………分かりました。それじゃあ他に良い情報はありませんか?さらに罪が軽くなりますよ?」


かっかっかっかっ

カイが轍から情報を引き出す傍ら、水がペンを持って轍の情報をメモ帳に書き込むという異質な光景………本当に異質だ。なぜ水でメモ帳が濡れないのだろうか。


「ほ、他と言われましても………そういえば、下らないかもしれませんがこんな情報を耳に挟みました。」


轍は首を傾げながら言葉を紡いだ。


「ここ最近、子供の傭兵を2人ほど雇ったとか………10〜12才ぐらいの子供なんですがね、若すぎますよね。私にはこれが一体何を意味するのかよく分からないんです。」


………子供!これはまさか、思いもよらない収穫があったか?

姫子さんの方を伺ってみると、眉間にしわを寄せて地面を見続けていた。


「………分かりました。それじゃあこれから僕が直接貴方を勇者領に送り届けます。ブラドが自治会と接点を持っているのなら、貴方を自治会に預けるのは危険ですからね………イリナさん。」


カイは轍を立たせながら、私にこう言った。


「次に行く場所はカルコルンです。僕は入所手続きや事務報告をしますので遅れますから、走って向かってください。300キロメートルですからすぐに着くでしょう。」

「オッケー。それじゃあ入り口で待ってるから。」

「宿屋で手続きしてくれていた方が嬉しいですね。それではまた。」


ピュン!

カイは勇者領へと飛んで行った。


「………さっ、行こうか染島さん。子供達を守るために。」

「…………」


染島さんは北の遙先を睨み付け、そして、


「そうですね、行きましょうイリナさん。救わなきゃいけない命を救うために。」


パチーン!!

自分の両頬を思いっきり叩き、目を輝かせた。

これから新章です。イリナ達がどんどん勇者の内部組織へと潜り込んで行きます。ネタ要員の姫子さんが増えたことにより話が書きやすくなって嬉しいです。

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