世界の建築物プラモデル100選
「あーーもぉ!!イリナさんは本当に色々と派手な人ですね!!こんな時ぐらい人に見つからないでおけないんですか!?」
「出待ちくらったんだよ!やはりあれだね、どんなに禁止にしても出待ちされるのはアイドルの受難だね!」
私とカイは一緒になって屋敷の中を駆けずり回っていた。カイとは私が走って逃げている時に遭遇してしまったのさ。それで一緒に逃走中。
本当は全速力で走って逃げたいんだけれど、そんなことしたら踏み込みの衝撃で床が傷ついてしまい器物破損が私達の違法侵入という罪に追加されてしまう。
後ろから追って来る使用人の人々は19〜25人ぐらいいると思う。しかもこいつら聖騎士クラスだ。私達のセーブした走力にもついてくる。数えている暇がないね!
「ああ、軽めとは言え罪は罪だ!絶対減給される!今月こそは[世界の建築物プラモデル百選]をまとめ買いしようと思ってたのにー!!」
走りながら頭をかき乱すカイ。……うっわ、こんな姿見たことない。どれだけ思い入れがあるのさそのプラモデルに!
「こ、こうなったらこの家の金目のものを……」
「ふぁ!?ストップ!!さすがにそれはダメでしょ!!目的が変わってるよ!!私達が探しているのは証拠でしょ!?」
「知ってますよ!だからわざわざ分身作り出して別方向で探索してるんですからね!でもその時宝石が目に入っちゃうので、1個ぐらい盗んでもバレないかなーとか思っちゃうんですよ!」
「宝石なんか見てないでもっと集中して書類を探しな!!あんた本当使えるんだか使えないんだか分からないね!!」
「見つかった人間が言えることじゃございませんけど!?」
ガチャン!
後ろから何か音がしたので振り返ると、そこには大きな銃が置かれていた。ハンドルをクルクル回して弾飛ばすやつ。ガトリングガンって言うのかな?ちょっとわからないけれど、うん、弾が大量に出そうだね!
「ここあんたらの家なんだけれど!?」
ダダダダダダダダ!!!!
自分の家とか他人の家とか、そんなの彼らには関係ないようだ。ガトリングガンを精一杯回して私達に大量の弾丸を放ってくる!!
ズァァアア!!!ガンガンガンガンガン!!!
通路を塞ぐように氷の壁が出現し、その壁に弾丸全てが阻まれる!!
「ああ、器物破損追加しちゃったじゃないですか!!お給料がぁああ!!」
「うるさいよ!!氷で通路塞がれてるんだからさっさと物証探すんだよ!!」
ガガガガガガ!!!
弾丸で氷が景気よく割れる音が聞こえてくる。
「なんで壊れてんの!?そんなに銃の威力高いの!?」
「違いますよ!わざと柔らかくしてるんですよ!跳弾で怪我しちゃったらどうするんですか傷害罪追加ですよ!?給料が消えちゃう!!」
「本当使えないなあんた!!!」
私はカイを罵倒しながら周辺の棚とか机を物色するが、何も見つからない。
えー!?私達、轍の部屋も調べたのに全然見つからないんだけど!どこに隠してんのさ!
パリーーン!!
うわぁああ!!氷壊された!!氷壊されちゃったんだけれど!!
壊れた場所から使用人達がゾロゾロと入ってくる。
「ど、どうすんのさ……正当防衛とかでなんとか手を出せないの?」
「出せてたら苦労しないんですよ!いいですか?僕達の身体能力じゃ、あんなガトリングガンも使用人達も、なんも脅威じゃないんです。怪我とか一切しないですからね!そもそも規約として勇者は正当防衛認められてないですからね!どんな状況だろうと一般市民に暴力禁止!難癖つけられないんですよ!」
まじか!!強すぎるのもまた悩みものだね!!てか勇者肩身狭すぎでしょ!!体張って頑張ってるんだからもうちょっと優遇してくれてもいいんだよ!?
てかここ家の端だし!逃げ場がないんだけれどどうするの!?どうしたらいいの!?
「か、壁ぶっ壊して一旦逃げよう!」
「住居損壊ー!!余罪がぁぁあ!!!」
無謀だったぁあ!!今回の本当、無謀だったぁああ!!!
「おやおや………騒がしいと思いましたら昨日の勇者様達ですか。」
使用人達の後方から轍の声が聞こえてきた。
「勝手に人の家に入ってきたりして……こんな時間に何か用ですか?」
「い、いやーーこの村を探索していたらいつの間にかこんな大きなお屋敷に迷い込んでいたんですよ。はぁ、方向音痴って恐ろしい………それじゃあ、これ以上皆様にご迷惑おかけしないよう、僕達はお暇しますね。」
ジャキン!
カイが歩いて帰ろうと一歩踏み出すと、使用人達が銃を一斉にこちらへと向けた。
それを見てカイは仕方なく一歩下がった。
「まぁまぁ、そう言わずに。迷ったとはいえうちに来てくださったのですから、夕飯でも一緒にどうですかな?」
うわーー鉛玉一杯食らわされそう。
「………まったく、私達は勇者よ?さっさとどけろと言っているのよ。私達が本気出してボコボコにされる前にね。」
仕方ない……脅迫でもしてどけてもらおう。私達第二類勇者だからね。その称号だけで人々は恐れおののくのさ!
「騎士ごときが何を言っているんでございましょうかねぇー。」
………そういえばそんなことをカイが言ってたな…………
「たとえ勇者であろうとも、私は貴方達を殺すことができる………もういっそ殺しましょうか。タラタラしていたら逃げる算段を思いつかれ逃げられるかもしれませんからね。」
私達に向けられていた銃が鈍く輝く。
どうしたものか!もういっそ減給なんて御構い無しに轍を人質にとって証拠品を盗んでしまおうか?
「………!!!」
カイが無言で私を睨みつけてくる。
………本当つかえないねこいつ。分身もまだ証拠品を見つけられてないみたいだし。
なんだか私はイラついてきた。私が1割ぐらいの力を出せばこんなの5分で解決出来るのに、勇者の規則やらカイのワガママやらで無駄に時間がかかってしまっているからだ。
やるよ!やるよ私!轍も使用人も全員気絶させて資料もらっちゃうからね!
グッ
引き金を引く指に力が入る。
引き金を引いた瞬間、私の行動開始だ。
ググっ
………今だ!!
ダンン!!
「ちょーーっと待ったーー!!」
私が思いっきり踏み込んだのと、前方で誰かが叫んだのは同時だった。
「その無意味な争い!この森脇姫子が……ちょっ、イリ!!」
ドシーン!!
私と姫子さんが衝突する!
空中にいたから止まらなかったのさ。私の一歩の距離って大きいんだよね。
「姫子さん!なんでここにいるの!?」
私は驚いてすぐに起き上がり、姫子さんの目を見つめた。
「いてて………やるべきことをやるためですよ。」
姫子さんもすぐに立ち上がり、ポケットの中から書類を取り出した。
「本当に大事な物を隠す時、人間というのは物を自分の身に極度に近づけるか、極度に離すかの両極端なんです。」
ヒーラヒーラと紙の束をチラつかせる姫子さん。それを見て轍の顔が青ざめていく。
「近い時は大抵身につけるんですよ。……でもねぇ、書類なんて身につけられないですよね?まさか折りたたんで汗が溢れる体のどこかに隠すなんていう、失効させるようなことはするわけないでしょうから。」
「は、早くそれを奪い取れ!!」
カンカンカンカンカン!!!
氷の弾丸が使用人達のピストルを全て弾き、壊した!!
「そうなると隠す場所は自分からうんと離れたところ。それでいて安全で、誰も[ここにあるだろ]って思わないところ………いやーー恐ろしいですよ。まさか自治会の貸金庫にあるなんて思ってもみませんでしたよ。」
自治会の貸金庫!!大事な物をそんなところに隠してたの!?バカじゃないの!?
「……使用人達早く行け!!どうせ相手は騎士2人とよく分からんやつらだ!!力づくで奪い返すことができる!!」
ドサドサドサドサ…………
使用人全員が一斉に倒れた。私とカイでさっさと気絶させたのだ。
戦闘許可さえ出れば私達の独壇場さ。あんなやつら1分もいらない。
「ふっふっふっ……絶体絶命の起死回生ってやつですね。観念して捕まるのが身のためですよ轍さん。」
「………お、お前は一体なんなんだ。」
轍は指をプルプル震わせながら、姫子さんに聞いてきた。
それを見て、姫子さんはそれ見たことかと言わんばかりに笑った。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私の名前は森脇姫子。反省と罪滅ぼし、それと野望に燃えるいずれ世界を救う探偵さ。」
ハットを深くかぶり直し、轍に笑い返した姫子さん。その瞳には出会った頃となんら変わらない、正義に燃える熱い意志が宿っていた。




