説明は大事
「はぁ、しかしめんどくさい。報告のためにいちいち変態クソジジイの所に行かなきゃいけないなんて。」
私は勇者領の城内を歩いていた。
勇者領とは、勇者の領土………と簡単には言えないが、壁に囲まれた、魔族や魔物が勝手に入ってくることができない領域のこと。中には沢山の住民、貴族が生活していて商売やら何やらが活気的に行われている。多分この世界で最も明るい空間だと思う。
そして、勇者領の中心に巨大なお城がある。今私がいるところね。名前は剣戟の城 ホワイトドリーム。名前に違わず真っ白で美しい城だ。大量の治療スペース、シャワー、レストラン、娯楽施設を完備している。
魔物と魔族って言葉が出てきたからその説明もしようかな。
私達勇者と魔族は、何千年、何万年、何億年……正直、わからないほどの年数を争いを続けてきた。なぜ戦争が始まったのか、いつから始まったのか、分からないのだ。それほどの期間ずっと戦い続けている。
魔族は農民と勇者を大量に殺す危険な種族だ。私も何回か危ない目にあったからね。魔力を持ち、狡猾に作戦をたて襲ってくる。しかもその作戦が大抵非人道的で、最低なのだ。人質をとったり、人間を武器にしたり……本当に酷い。
そして魔物。こいつらは魔族側の勢力ではない。勿論勇者側でもない。彼らは独立した第三勢力だ。ごく一部以外は知能はなく、殺すことと食うことしか考えない醜い種族。魔物は勇者にも魔族にも無差別に襲いかかる。本当に、分別のない化け物だ。体力も高く、切られた程度じゃ死なない。本当に面倒くさい。
まぁ、頭が弱いから魔族よりは対処しやすいんだけどね。
「会う度に交際を求めてくるとか……セクハラでしょ。しかもその文句が酷いっていうんだからさ。」
「まぁ……一応、王様ですからね 。少しぐらい多めに見てあげましょうよ。」
私の愚痴にカイが応える。
カイは私のパートナーだ。私と同じ第2類勇者だ。私よりも賢くて知識豊富で、冷静。魔力ぴったりの性格だ。
彼とは今から2年前に出会い、色々とあって今行動を共にしている。けれど、良いやつなのか性格が悪いやつなのかは未だ判断がついていない。
正直分からないんだよね。私と性格が離れすぎているというか……常人らしさがないというか………
「勇者のトップだろうとなんだろうとセクハラ野郎は死すべし!今度同じことやろうとしたら体に穴を開けてやるわ!」
ヒュヒュヒュ!!
私のパンチが空気を切り裂いて鋭い音を発した。
「イリナさんが言うと全然冗談に聞こえないですね………せめて[引っこ抜いた大腿骨をリコーダーにしてやるわ]ぐらいに抑えてもらわないと」
「可愛らしさの裏に言いようのない狂気を感じるんだけど。」
ほら、こんなこと私なら絶対に思いつかないもん。絶対にカイは変人だ。
………まぁ、なんだかんだ言ってそこらへんが魅力なのかもしれないけど
ギィィ
扉を開いて中に入る
「オッスオッス慶次さん。報告に来たわ。」
慶次さんはワークデスクに腰掛けていた。
「でしょうね。その時ぐらいしか貴方来ないですし。」
慶次さんは机の上の書類をまとめ、隣にいる人に渡しどこかに持って行かせた。
慶次さんは王様の護衛だ。4人いるガーディアンナイツのうちの1人。というかリーダー。
いつもここに腰を下ろして事務仕事を片付けている。多分、王様以上に王様らしいことをしていると思う。いや、もう王様で良いんじゃないだろうか。この人が王様になった方が世界が良い感じになるような気がするんだよね。
「さて、それじゃあ王様も交えて今後のことについて話しましょうか。こちらです。」
慶次さんは王様がいる部屋の扉を開けようとした。
けれど、私はそれを止めた。
「私に任せて。」
ガァアアンンンン!!!
私は思いっきり扉を殴ると、扉は吹き飛んでいった!!
ガツン!!
「ギャアアア!!!」
そして、中から悲鳴が響いた。
「いったぁ!!扉が顔面に………あれ!?へこんでね!?顔へこんでね!?」
中には、扉に押しつぶされて顔面をおさえてうずくまっている老人が1人。
「……チッ、脳天に突き刺さってないか。しぶといジジイだ。」
私達3人は部屋の中に入っていった。
「おっ!?イリナちゃんじゃん!自分から来てくれるなんて、わしがそんなに恋しいのか!!ブッッ!!」
私は慶次さんが持っていた書類を掴み、丸め、ジジイに思いっきり投げつける!!
それはジジイの顔面に見事当たり、ジジイは倒れる。
このクソジジイは王様だ。勇者の中で1番強く、また、勇者の最高権力者……のはず。多分。確証はないけど多分そう。
さてさて、丁度いいからここで階級のお話をしようかな。下から騎士、聖騎士、上位聖騎士、聖騎士長、第1類勇者、第2類勇者、王様となっている。階級が上がるにつれて魔力と身体能力が上がっていくのさ。
慶次さんは第2類勇者で、ここには9人しかいない第2類勇者のうち3人も集まっているのだ。しかも王様らしき変態もいるので、一応これは上層部の超重要な機密会議の部類に入る。らしい。カイが言ってた。正直そういう話はわからない。興味がないからだ。
「仕方なく来たのよ。本当は全部カイに任せておきたかったんだから………」
「もう!そんなこと言っちゃって!分かってるんじゃよ?本当はわしに会いたくて会いたくて仕方がないってこどっっ!!」
ガン!!
私は落ちていた扉を拾って、それをジジイの背中に叩きつける!!
けれど、こいつ死なない!「ぬぉぉおお」とか言いながら蠢くだけだ!
くそっ……耐久力がゴキブリ以上だ!やっぱりこいつ王様なのか!
「まぁまぁイリナさん。王様の態度なんていつも通りじゃないですか。ここは少し落ち着いて。」
私が何回も扉でジジイを叩いていると、慶次さんが止めにかかる。きっと、このままじゃ話が進まないと思ってのことだろう。
「イタタタ………ギックリ腰が加速しそうだわ。」
ドッコイショと言いながら倒れていた玉座を直し、王様はそれに深く腰を落とす。
「喧嘩するほど仲がいいとは言うが、さすがにこれは過激すぎない?イリナちゃん。わしの身が保たんよ。」
「喧嘩?ちょっと待ってね、今から一方的虐殺に切り替えてあげるから。覚悟しろよ。」
メシイッ
私の指の骨がありえない音を出した。私でもビックリだ。
「ちょっと待った!イリナさん!落ち着いて!とにかく落ち着いて!王様の話になんていちいち耳を貸さなくていいですから!!」
カイと慶次さんが私の進行を食い止める!
それはもう、私の1つの腕に1人が抱きつくみたいな感じで。
「止めるな!!あの刺激で身の上を理解できないなら強烈な一発を叩き込んであげるしかないでしょうが!!」
私は2人の制止を気にとめることもなく、王様に近づいていく!
ビシッビシッと床が凹んでいく。
あれ?おかしいな。ここの床って10トンまで耐えれるって聞いてたんだけど……おかしいなぁ。カイと慶次さんはそんなに重たいのかな?
「イリナさんの強烈な一撃は真面目にやばいですから!!下手したら死ぬんですよ!!落ち着いて!!本当に落ち着いて!!」
そして、2人が全力で食い止める!!
そして、クソジジイはニコニコと笑顔で私の方を見ていた。
ブチィッ
それがさらに、私の怒りを加速させた?
まぁ、そんなやりとりが3分ほどあったね。
うん、なぜか分からないけど部屋とカイと慶次さんがボロボロになってた。
「……さてさて、それじゃあ慶次君。今回の概要を大まかに説明しちゃって。」
私達はフカフカな椅子に、クソジジイと対面するように座った。
「はい。……今朝、イリナさんとカイさんが、北東1200キロメートルにある村アルヒの依頼をこなしている時に、魔物と盗賊が手を組んでいる所を目撃しました。」
ゴーヤサイダーだっけ………ゴマサラダ?覚えてないけど、そんな感じの名前だった。
「そして、その魔物の話からすると、その魔物は更に上級の魔物からの命令で動いているようだったようです。」
「そうね。情報を引き出すためにテキトウな事を言ったんだけど、いい感じに引っかかってくれたわ。[待ち合わせをしている]だとかをノータイムで答えてた。多分嘘じゃないと思う。」
あいつバカそうだからそう簡単に嘘なんてつけないでしょ。
「報告を受けた私は追跡用の人員を配備し、その待ち合わせ場所で待機していたのですが………魔物は現れませんでした。」
そう、その後カイに城にすぐに行かせて、慶次さんに報告させたのだ。私は結婚式の出席とホットミルクを飲むのに忙しかったからね。報告には参加できなかった。
………しかしカリーナさんのウェディングドレス美しかったなーー。私もいつかああいうのを着たいものだね。
「魔物は途中で気づいたんですかね………僕達が待ち伏せしていることに」
カイは腕を組んで考える。
「さぁ、それは私にも分かりません。もしかしたらあの、えーっと、ゴーヤサイダーとやらの嘘だった可能性も一応はありますし。」
「いや、嘘じゃないと思うよ。ほとんど確実に。あそこに収容されていた人達が[手強い魔物が複数いる]って言ってたんだ。でも私はゴーヤサイダー以外の魔物とは一度もあってないんだよ。……カイもそうでしょ?」
「そうですね。盗賊しか見なかったですね……」
「つまり、あそこに複数の魔物が出入りしていたのは確実なんだよ。」
あの木の下で本当に約束していたかどうかは正直分からない。嘘ではないと思うが、ゴーヤサイダーが実は嘘が上手で、私に気づかれることなく騙している可能性がないわけではないからね。
上級の魔物がいることは確実。そこに疑問が介入する余地はない。
「なるほどですね。つまり、魔物が徒党を組んで、何かしらの計画を実行しているってわけですか………」
「計画的にねぇ………そういやここ十数年そんなことなかったよなぁ。」
王様は頬杖をつきながらため息をついた。
「もしかしたら、イリナちゃん達が倒した魔物のトップの後釜が見つかったのかもねぇ。」
あのシワシワゴリラの後釜か………
私達は勇者になる時、もとい魔力を得る時、洗礼の儀というものがあり、ひときわ強力な魔物と闘わなくてはならない。その時私はこの世界の魔物を統べる七頭の魔物のうちの一頭と闘った。仮面をつけていて、腕が長くて足が短い化け物。パンチは血を穿ち、口から放たれるビームは空を貫いた。まぁなんだかんだあってそいつを倒すことができたのだが……かなり辛かった。魔力も何も発動してない状況であんなのと対峙しなきゃいけなかったからね。本当、あの時カイがいなかったら私死んでたかもしれない。そこに関しては感謝だね。
「トップが全員揃ったから魔物が派手に動き始めた………なくはない推理ですね。」
「むしろ、何も情報がない今この時においては最有力説じゃないですかね。僕的にはもう少し深い部分があるように感じますが……」
「……そうね。魔物が密造酒を作っていたってところがどうも怪しい。魔物らしくないっていうか、なんていうか……」
「知的に、理的に何かを画策しているわけだ……うーん、これは早急に対処した方が良いかもな。」
「それならば私達が捜査した方が良いね。私達超速いから。」
「いや、ダメだろ。」
「………なぜ?」
「なぜってお前………イリナちゃんがコソコソと情報収集なんて出来るわけないじゃん。忍耐強くないもん。それに目立つし。可愛いからね。イリナちゃんは勇者の中で結構有名な部類だからな?」
ぐうっ………クソジジイに言われるとムカつくが、本当のことだから否定できない!
「そういうのはプロに任せればいいんだよ。イリナちゃんはいつも通り自分達の仕事をしていればいい。あ、でも掃討戦の時には呼んであげるから。」
「でも………私関わっちゃったしなぁ。この件に。」
「関わったからって、良い結果を生み出せるとは限らんだろ。感情だけで物事判断したら出来るものも失敗するんだぞ………イリナちゃんが村人のために何かしてやりたいっていうその優しい気持ちは理解しているつもりだがな。」
「………いや、私そこまでお人好しじゃ……」
「否定してるところも可愛いなぁ………なぁ、イリナちゃん。わしとほど走る愛を紡がないかい?」
「変態死すべし!!」
ドムッッ!!
パリーーン!!!
私の蹴りでクソジジイは吹き飛び、窓を割って場外へと飛び出る。
……チッ、やはりしぶとい。これでも死なないか。
「さて、それじゃあカイ。次の村に行こうか。」
私はすぐに振り返り、歩き出す。
「そうですね。次は南南西1900キロメートルの村シネフィシです。」
カイは私の後を歩く。まるで何事もなかったかのように。
「それではご武運を。」
慶次さんは私達に礼をした。
まるで、これが日常であるかのように。
カイとイリナの馴れ初めはレイニーデイ〜雷雲は涙する〜の1話目に書かれています。もし暇潰しのタネも尽きて、どうしようもなく暇な時に見てみるのも良いかもしれません。ちなみに、[Face of the Surface]を読んだことがない人、これが初めての人はレイニーデイの3話目以降は読まない方がいいです。ネタバレになります。