変わらぬ正義 その4
どうでもいいですけど、イリナって究極の脳筋ですよね。
「っ……ってカイ!?あんたなんでここに!」
カイが私を横から突き飛ばした。
「まぁ色々っど!」
メシィッ!!
両手で作ったカイの防御に、何者かが殴りかかる!
ドシャーーー!!!
力に負けたカイは、そのまま吹き飛び地面を滑る!
「あーー!本当弱いな僕!泣きたくなる!」
カイの嘆きを傍目に、私はカイを殴ったものの方を見ていた。
今の動きによって膨らみ、風にたなびく青の布。虚のように、ただ暗闇のみを映すフードの影。青ローブだ。今まで隠れていたのだろう。
いや、しかしこれが今回の首謀者かどうかわからない。さっきみたいに子供にフードを被せただけかもしれないし………
ポンポン
青ローブは黒焦げになった子供のうちの1人の肩を叩いた。
ブグブグブグ!!!
すると、子供の体が異常に膨張し始める!そして、
グアン!!
まるで上から糸で勢いよく引っ張られたみたいに起き上がった!
筋肉の鎧を纏った甲冑騎士のような身長2メートル程度の魔物の姿態。何か感情があるのかどうかは見た目からじゃ判断がつかない。ただヨダレを垂らしながら、大きな鼻息を荒だてながら、周りをグルグルと見渡す。
私は青ローブを睨みつけた。
今、こいつは子供に力を与えた。見るからにしてきっと子供の魔力が膨張しているだろう。
魔力の付与、魔力の膨張………シネフィシの、ほしてヤーサスの魔力の付与、暴発と同じだ。そう、つまり、こいつが今回の主犯格だ。
「イリナさん……戦えますか?」
カイが土を払いながらこちらに駆け寄ってくる。
「魔力スッカラカン、体ボロボロ、武器使い果たした。」
「…………はい薬草。」
カイに手渡された5枚の薬草。それを私は頬張った。
うん、口に広がる苦虫を噛み砕いたような味。最悪だ。
でも体の気だるさはなくなった気がする。気だるさだけは。……気持ちだねこの差は。
「相手は2人。1人は青ローブで、もう1人は青ローブの仕業で魔力が肥大化した元最高幹部クラスの力を持つ子供。容姿からして魔物に近い性質が組み込まれていそうですから、身体能力は魔物、魔力は魔族だと思っておいたほうがいいかもしれません。流石に魔王クラスまでは行ってないでしょうが、第二類勇者じゃ骨が折れるレベルであるのは間違いない。しかも頼みの綱のイリナさんがボロボロときている………勝てるんですかねこれ。」
「………一回場を立て直すために逃げるっていうのはどうさ。」
「敵の目の前です。僕の魔力は発動しませんよ。」
カイのワープの魔力は敵に見られていると発動しないのだ。カイ曰く「僕の魔力は恥ずかしがり屋だから」だそう。やかましいわ。
「そう言えばなんでこんなとこに来たのよ。住民の避難は?」
「本体が北側で大群引き連れていたので、避難誘導は中止。第二類勇者達が大絶賛迎撃中です。僕は戦いの途中で青ローブを見つける手がかりを見つけたので、その報告のために立ち寄っただけです。」
手がかり………ねぇ。今もう目の前にいるしなぁ。
「ふっ……ふっ………ふっっ!!」
ダン!ダン!ダン!
子供だった筋肉質な魔物は、ボーッとまるで獣みたいに周りを撫でるように見つめていたが、何か思い立ったのか、それとも青ローブの仕業か、ヨダレを撒き散らしながらこちらへと走ってくる!!
あれ?遅い?図体だけ?………これならなんとかなるんじゃ…………
グン!!
剣を構えた瞬間、いきなり私とカイの体が魔物に向かって引き寄せられる!!
「まじっっ………」
グシャ!!!
「か!!」
私はなんとか腕で魔物の攻撃をガードしたが、威力が高すぎる!!左手が粉々にグニャんとひしゃげた!!!
「イリナさん!……っ!!」
バシャン!!!
カイは体を水にして、魔物の攻撃を受け止める。だが攻撃の威力が高すぎて、水が四散する!
体を引き寄せた………引力を操る能力か?いや、さっき風を使う奴がいたから、それが進化して私の体を風で引っ張ったとか?
どっちにしろ厄介だ。あいつと対峙すると痛い目見るのは必須だ。
「………カイ、あの魔物を子供に戻す方法はなにさ。」
水を集めて人型に戻りつつあるカイに聞く。
「魔力を与えた術者を倒す、もしくは術を解かせればオッケーです。」
「………青ローブを倒すよ。そうじゃないとどうにもならないっぽい。」
「………分かりました。」
グッグッ………
足で地面を整えて、そして、
ダン!!!
私とカイは一斉に走り出した!!
狙いは勿論青ローブ。あいつをひとまず再起不能状態に持っていきたいんだけれど………
グオッ
魔物は腕を振り上げ、私に殴りかかって来た!!
やっぱそうなるよね!!
ガン!!!
私はその攻撃をするりとかわし、その場から離れ、右手の光剣を青ローブに向ける。
ギュオオオン!!
光剣は勢いよく伸び、魔物に向かって突出する!!
グイン!!
するとまた体が引っ張られた!!
くっそ……本当、
私は右手の光剣を手放し、
「邪魔だなぁ!!」
メシィッッッ!!!
魔物の顔面を殴る!!!
メシィッッッ!!!
その時、私は左手が壊れていたからガードすることができず、敵のパンチを顔面でモロに食らった!
ビシッ
魔物の顔面にヒビが入る。
グラッ………バタン。
そして、私は倒れた。魔物は変わらず立ち続けている。
やっば……目眩が………
「イリナさん!?だいじょう……」
ギャリン!!
魔物の攻撃を、カイは剣で弾く!
「本当面倒臭い相手ですね!!」
キンキンキン!!!
カイと魔物の戦いが始まった。剣と魔物の皮膚がぶつかり合う音が響く。
………金属みたいな皮膚だ、磁石みたいなものなのかな。
揺れ動く視界の中で、そんなどうでもいい事がふと頭をよぎった。
金属を引き寄せる要領で、人を引き寄せあう磁石。物体間の引力でも高めているのだろうか。そして体が硬いのは磁石のように金属質だから?………そうだとしても、今の私にはどうしようもない。
魔力は充電中。体は左手が複雑骨折。重度の脳震盪。頭蓋骨に多分ヒビが入ってる。パンチにいつもみたいな重さがない。これじゃあ、どう頑張ってもあいつには…………
私は右手で背中のバッグを弄った。右手がちゃんとバッグの中に入っているのかどうか怪しいけれど、それでもとにかく弄った。
パリン!!
カイの氷を魔物が砕く!!
やはりカイじゃ不利だ。硬い金属を打ち砕くだけの力がないとあれは倒せない。カイはどちらかというとオールラウンダー型。パワー勝負は苦手だ。
私はなんとかしてバッグから目当てのものを取り出した。
………ナイフ。小型のナイフだ。刃渡り13センチメートルほどのやつ。
魔物は今の私にはどうしようもない。苦手なのはわかっているけれど、それでもカイが倒すのを待つだけだ。………でも、あの青ローブの鼻を明かすことぐらいは………
私はヨロヨロと起き上がり、青ローブに狙いを定めた。
………当たって!!
ピュン!!
小ぶりなナイフが青ローブに向かって飛んでいく!!
パシっ
けれど、青ローブはかわすことなくそれを簡単にキャッチした。
あんなのにも今の私の力じゃ簡単に捕られてしまう………でも、だからこそ良いんだ。
パリっ
ナイフに電気が帯びる。
ギュン!!!
そして、私の電気によって生み出された磁力に反応し、ナイフは青ローブの顔面に向かって再度高速で突っ込む!
「っ!?」
ビリイッ
青ローブはなんとかして私のナイフをかわしたけれど、そのかわりフードを引き裂くことができた。
「…………え。」
相手の顔がわかった瞬間、血が沸騰するような、血管に巨大なものを詰まらせたような、身体中から不快感全てを集めた熱そのものがこみ上げて来た。
ありえない、だって、だって、あなたは………!
「………なんで!?姫子さん!!」
森脇姫子さんの目は昔と相も変わらず、何か囚われたように正義に燃えていた。




