変わらぬ正義 その2
「………ちょっと行ってくる。」
私は城の外に向かって駆け出した。
「だーー!!ちょっ、イリナさん!!ストップ!!ストーップ!!」
だけれどカイが私の肩を掴んで動きを止めてくる。
「ちょっとカイ!邪魔なんだけど!!」
「でしょうね!邪魔してますもん!じゃなくて無闇矢鱈に突っ込むのはなし!本当なしです!」
「はぁ!?私なら全部を一瞬で片付けることができるもん!!闇雲じゃないよ!!」
「イリナさんの力は十分承知です!多分外の敵をすぐに倒せるでしょう!でも効率が悪い!僕達には時間がないんですよ!」
「だから!!今から私がすぐに………」
「僕達の今の目的はなんだ!?怒りに任せて目の前の敵を倒すことか!?」
カイが鬼気迫る表情で怒鳴ってくる。
「違うでしょ!?僕達の主の目的は攻勢に出るための場を整えることだ!!外にいる敵を倒すのは賛成ですが、全てを片付けるのは無理だ!時間が許さない!今ここで話し合って、倒す折り合いをつけて、時期を見計らって各地に飛ばなきゃいけないんですよ!!ここにかまけている暇は僕達にはない!!」
ドゴォオオンンン!!!
さらなる爆発が壁を襲った。空気が振動しているのがわかる。
窓から見える煙、燻る炎。外では混戦が起こっていることは容易に思い浮かぶ。
「………でも、やらなきゃいけないんだよ。」
私は、肩を掴むカイの腕を払った。
ここは最後の希望だ。この勇者領の中に全ての住民が逃げ込んでくるのだから。ここの壁を壊されるわけにはいかない。一ミリたりとも欠かさせるわけにはいかない。
どちらかを優先させなければならない。どちらも助けたいけれど、私にその力はないのだから。
「………仕方ないですね。ここは僕が一肌脱ぎましょうか。」
ハァ。
カイはため息をついた。
「イリナさん。別れて行動しましょう。ここの防衛は貴女、住民の避難は僕。と、役振りましょう。」
カイは身体中から水を吐き出す。
それは地面に着くと、ウゾウゾと蠢き出し、人の形へと整形されていき、約50人のカイが生み出された。
「僕の魔力は凝固、形成、自律操作に優れています。性能は量を増やすほどに劣化しますが、そこは本体である僕が動き回ることでカバーします。慶次さん」
「「「ゲート」」を下さい。」
50人がゲートという言葉を一斉に、一寸も違わず同時に言った。
「「「……こういうプログラムなんです」」」
…………うるさ。
「それじゃあ行ってきますね。」
カイ達は慶次さんから一個ずつゲートをもらい、各々バラバラにワープし地方へと散って行った。
「………それじゃあ私もさっさと倒してくるね!慶次さんはそこらへんでお茶でもしてな!」
私は今度こそ走り……
「ストーップイリナさん。大事なことを言い忘れてました。」
ズザーー!!
慶次さんが止まるように声をかけてきた。あまりにも急だったから、私はそれはもう変な格好で静止した。
「カイさんのさっきの魔力………あれ、無理してますよ。魔力の制限量を超過してます。大幅に。」
あれって……さっきの分身か。
「あれを長い時間続けると、使い終わった後に最低1日は動けなくなりますね。……貴女のわがままに応えるためだけに。」
……………
「さっきは大義名分を語っていらっしゃいましたが、そんなバカなことを。勇者領で抱えている勇者は強者だらけ。敵を退けるぐらいならなんとでもなるんですよ。………でも貴女は良しとしなかった。なぜなら、たとえ少量でも勇者が死ぬのを見たくなかったからだ。」
………慶次さんの魔力は全てを見透かす目。私の心も簡単に見透かされる。
「誰も傷つけたくない………それはそれはとても素晴らしいことですが、貴重な戦力である第二類勇者を一日でもお荷物にした罪は重たいですよ。」
「分かってるよ。全部きっちり倒してくるから。なんならここ周辺の魔物全てを狩り尽くしてきてあげようか?……それとさらにサービスしちゃう。迎撃に向かわせてる勇者全部下げていいよ。邪魔なんだよね。」
「………わかりました。」
「はっはっはっはっ!!!勇者達が退いていくぞ!!!今だ!!今が攻めど」
グチャ!!!
敵の指揮官と思われる豚みたいな魔物に上空から落ち、叩き潰す!
「さってっと………」
私はカバンから巻物を出す。
ガチャンガチャン!
それを開くと中から大量の剣が出現する。この巻物は剣に関してならば無制限に収納することがてきる。空間魔法がなんたらかんたら……とかカイが説明していたけれど、そんなことはどうでもいい。覚えてないよそんなもの。
私の周りには数百体の魔物。それがこの勇者領の壁全てを囲うように存在しているわけだ。いつも通り処理していたら時間がかかってしまう。
「君達には恨みしかないんで、さっさと死んでね。」
パリッ
地面に落ちた剣が電気を浴びた。そして空中に漂う。
数十本……もしかしたら数百本の剣が空を飛んでいる。全て私の自慢のコレクションさ。
ギザギザしているものもあれば、トゲトゲしているものも。血のように真っ赤で、寂れたように朱色で、氷のように透明で、悠久の自然のように翡翠。全ての色が私の周りを覆い尽くしている。
バチバチバチバチ!!!
私の体で帯電し、電撃が漏れ出す。
スッ
私は右手を前に出した。
「舞え。」
ピュンピュンピュンピュン!!!!
全ての剣が一斉に全方位へと飛んでいく!
ズピュ!!ザクっ!!ブシャァああ!!!
剣が魔物達の体を貫き、体の各部位を粉々に吹き飛ばしながら、まっすぐ一直線に高速で進み続ける!
電気を通し、全てを私の体から反発させた。私の最高の電気を流したから、こいつらは超高速で、止まることなく進み続ける、
ダッッ
私は自分の前を飛んで言った剣を追うように走り出す!!
私は背中に抜刀していた光剣を引き抜き、巨大な鎌へと変化させる。
さーーて、
私は目の前に飛びかかる
「邪魔だ!!」
「………しかし、気になる部分がありますね…………」
五十人のカイの位置を把握しながら、カイは北北東の村に向かい走っていた。
「なぜこれほどの数の敵が急に出現したのか………」
ここ一、二週間で急激に魔力を与えられた子供や知性を持った魔物が増えている。1ヶ月、1年ならともかくたった2週間でだ。いきなりすぎる。あまりにも突然。
勇者領全域は勇者領を中心とし、放射状に広約2000キロメートル広がっている。
勇者領から1500キロメートル以上離れたシネフィシやヤーサスで子供が魔力を貰ったのを皮切りに、そこから全域で同じ事例が多発。ネズミですら顔真っ青な速度での増殖だ。犯人は直線距離で結ぶと何千キロとある距離を、恐ろしい速度で飛び回っていることになる。イリナさんでもキツイんじゃないかなこのペースは。犯人が数人いるのかもしれないが………あんな珍しい魔力がそうポンポンと同時に大量に発現するわけが無い。
いや、うん、確かに僕ならそれぐらいの芸当をこなすことができる。分身できるし、ワープの能力も持っている。3年かけて全ての場所に行ったから簡単に全ての地域にワープできる。
だが相手は僕と違い魔力を2つ所持できないはずだ。もし僕と同じ一族だとしても、こんな馬鹿げた破壊行為をするわけがない。だって一族の意志に反しているのだから。
それに犯人そのものが見つからないのも奇妙だ。全国に散らばっている森脇探偵事務所の職員をフル動員して捜査しているのに、影も形も捉えることができていない。………まるで、犯人そのものが存在していないかのように…………ん?
ズザーー!!!
僕達は急停止し、物陰に隠れた。
巨大な魔物と魔力を持った子供達の大群が目に入ったからだ。数万………いや、数十万はいるかもしれない。僕の目は良い方だから、開けた平地だと数キロ先まで見える。だから先に気づくことができたが………
耳を凝らしてみると、微かに足音が聞こえてきた。どんどんこちらへと向かってきているようだ。
シネフィシでの戦い方に似ている。南に大群を置き、北に主戦力を集中させ一気に中心を叩く………王様の軍隊と戦っているのはただの囮だ。
どうしたものか………王様の軍隊に主戦力を割きすぎたから、勇者領には聖騎士長クラスの人間と十数人の第一類勇者ぐらいしかいない。
…………仕方ないか。
僕は腰にぶら下げた剣を引き抜いた。真っ黒な剣が昼間の陽光を吸収し、揺らめき呼吸するように艶を出す。
誠に残念だけれど、周辺住民の救助は中止。これから敵主戦力の迎撃へと移行する。
ピュン!!
6人のカイがワープで飛んで行った。
けれど僕1人でこれを倒しきるのは無理。奇跡が起きても無理。だから………
ピュンピュンピュンピュン!!!!
そして、すぐに6人の僕は戻ってきた。全員、隣に誰かを連れて。
「勇者の最高戦力。第二類勇者計7人で挑みます。あ、全責任は僕が負いますんで、皆さんは気兼ねなく戦ってください。」
バシャ!!
分身達が全て水に戻った。
8人の勇者が横に並び、敵の軍隊へと狙いを定める。
「それじゃ始めましょうか。」




