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地底800マイル  作者: 悟飯 粒
怪しみの清流
12/70

子供ってやっぱ可愛いなぁ。

ガヤガヤ………

体育館の中はまだそれほど人は集まっていなかった。それもそのはず、カイのテレポートの魔力を使って放送の後にすぐ飛んで来たからだ。


「山脇さん………」


カイは姫子さんを見つけると、姫子さんの元に向かった。


「来るのが早かったですね。想定よりも5分早いですよ。」


「貴女の方が行動は早いじゃないですか。僕達よりも先に市長の元に行き、僕達よりも先に子供達を1箇所に集めたんですから。」


「仕事ですからね。行動が早くないとやっていけないんですよ。」


「でも早とちりだと思いません?」


カイは姫子さんが座っている席の近くで止まり、姫子さんを見下ろす。


「こんなことしてしまったら、犯人に[自分は疑われている。]と教えるようなものです。危険ですよ。」


「むしろ抑止力になるんじゃないですか?疑われていると分かれば、下手な行動が出来なくなる。」


姫子さんの目には、出会った時のような明るさは存在しなかった。全てを疑い、全てを冷たく見つめる目だけがそこにあった。


「別の人間に罪をなすりつけようと、別の殺人を起こしてしまうかもしれないじゃないですか。その可能性を考えないんですか。」


「考えましたが、大差はないと判断したんですよ。起こりうる確率は変わらない。私が行動を起こそうが起こすまいがね。」


「………はぁ、分かりました。」


カイは引き下がると、町の職員が持っていた書類を貰ってきた。


「はい、イリナさん。この町の子供達の資料です。」


ごっそりと山のような資料が私の両手に置かれる。

………うわ、処理すんのめんどくさ。


「しかし、ああ言えばこう言う……性格悪いですね山脇さん。」


「思いっきりブーメランになっていることを自覚した方がいいよ。」


ドズン!

書類を机の上に載っける。

ドズン!

カイもまた机の上に載っける。


「おや、私を批判したくせにこれには出席するんですか。」


「当たり前じゃないですか。貴女がどんな行動をしようと後の祭り。もう取り返せない。それならこれから有益な情報を見つけ出して早期解決するのが妥当ですよ。実際、この機会を作ってくれたのは嬉しいですからね。タイミングが悪かったってだけで。」


「………そ、素直に負けを認めればいいのに。」


淡々と種類を斜め読みしていくカイ。

カイは戦闘は苦手だが、こういう事務処理や推理、暗記が得意だ。確かに、カイの魔力は戦闘にも向いているけれど、それよりも探査や調査に向いている。建物も氷によって細部まで同じものをより小さく作り出し、建物全体を上から眺めたり出来るし、トリックの解析も多方向からの観察で簡単にやってのける。


「………頭痛くなってきた。」


それに比べて私はこういう類のものが苦手だ。今まで全力で逃げてきたからだ。だってめんどくさいでしょ?ただ黙々と同じことをやっていくなんて退屈。それに眠たくなる。


「事務なんてただの慣れですよ。イリナさんなら多分3ヶ月もあればすぐに慣れます。あ、あと、眠たくなるようなら飴とか舐めるのオススメしますよ。案外これが効果あるんですよ。」


「飴はちょっとなぁ……舐めすぎて上顎がすり減って痛くなる。」


「じゃあチョコでもいいです。でも食べ過ぎは良くないですよ。逆に眠たくなりますから。」


ふーん………今度からやってみようかな。



ギャーー!!ワーー!!退屈ーー!!鬼ごっこしようゼェー!!


30分ぐらい経つと体育館が五月蠅くなってきた。そりゃそうか、子供だもんね。こんな時間帯なら遊んでたいよね。


「………しかし、こんな無邪気な子供達の中に殺人鬼がいるんですよね…………世の中ってよく分からないですよね。」


姫子さんは子供達の集団を細い目で見つめながら、悲しそうに呟いた。


「遊んで学ぶのが子供達の仕事じゃないですか。それなのに、力に溺れて殺人に手を染める………間違いだらけですよこの世界は……本当に……………」


「………探偵って普段どんな仕事をしているの?まさか、いつもこんな事件の調査なわけないよね。」


なんか雰囲気が悪い方向に流れそうだったから話を変えることにした。


「………そうですね。そもそも事件の調査なんて稀なんですよ。浮気調査とか、子犬探しとか、たまに人手の足りないお店のお手伝いとかしてますね。そこらへんを歩いている人よりも岡持を持つ姿は様になってるはずです。」


岡持を持って、全速力で走っている姫子さんの姿を思い浮かべた。なんか微笑ましかった。


「探偵なんて基本雑用です。やりたがる人間なんてまずいない。……でも、雑用でもいいから、困っている人の役に立ちたかったんですよ。」


姫子さんが持っていた資料がクシャッて音を立てた。


「ほんの少しでいいから誰かの力になりたかった。」


「………やっぱカイと違って良い人じゃん。」


「………まったく、恐れ入りますね。頭が上がらないとはこのことだ。さっきの非礼、お詫び申し上げます。」


カイは姫子さんに頭を下げた。長く、長く。


「ま、でも、貴女が正しいとは認めませんけどね。」


そして、顔を上げ、真顔でそんなことを言ってくれる。本当何なんだこのひねくれ坊主は。


「……………」


「姫子さん落ち着いて!!こいつ馬鹿なだけだから!!悪気はないんだよ!!悪気しかないような発言だけど!!」


「は、鼻明かしてやりますからね!!覚えとけよこの黒髪野郎!!!」


精一杯の罵倒をし終えた後、姫子さんはプリプリと怒りながら書類にとりかかった。


「………カイ、これ終わったら覚えとけよ。」


久しぶりに腹から重たい声を出した。



一時間後、私達は子供達と1人ずつ事情聴取と言う名の会話をしていた。

といっても一昨々日、一昨日、昨日の真夜中にどこにいたのかを聞くぐらいだけれど。みんな子供だからか要領を得なく、口々に好きな事を話してくれる。みんな明るいから聞いているこっちは元気をもらえるけれど、仕事だということを考えると少しメンドくさく思えてしまう。

それにそもそもこの時間帯に起きている子供の方が珍しい。大抵9時とかに寝ちゃうでしょ。そもそも質問自体がバカらしいって話さ私からすれば。


「………改めて思うとあれだよね。青ローブの件があったから子供達を疑うことが私達はできるけれど、普通は考えつかないよね。あんなことを子供がやるなんて。」


みんな笑顔で、汚れというものを知らない。ひたすらに遊び、ひたすらに物事を楽しんでいる顔だ。………一体、いつからこんな考えを持つようになったのかな私。


「そうですね。普通はあり得ないんですよ。あり得てたまるかって話です。ですが青ローブの魔力はいわば洗脳に近い。例え子供に素質があろうと、ほほまでの凶行は普通できまへんよ。ちょっと、痛い!痛いから!」


カイは子供達に顔を引っ張られ、苦笑いをしながら引っ張る手をのける。


「洗脳ねぇ………いっちゃえば今回の犯人も被害者なのか。」


「そういうことです。罪は償ってもらいますが、出来るだけ軽めにしてもらうように手はずは整えています。悪いのは全て青ローブなのですから。うーん、早く社会復帰してほしいなぁ。」


「おねぇさんさよならー!!」


子供が笑顔で手を振ってくれる。


「さよならー!寄り道しないで帰るんだよー!」


だから私も笑顔で手を振った。


「お兄さんもさよならー!」


「はーい、さよならー。大辞林を読み漁らないようにねー。」


ねぇよんなこと。


「探偵さんもさよならー!」


「さよならだ少年!!二度あることは三度ある、三度目の正直。何が起こるかわからないから気をつけるんだよ!!」


誰だお前は。そして何を言いたいんだ。


子供は何かのモノマネか、効果音を言いながら走って帰っていった。


「………ますます考えられない。」


「そうですね……まっ、仕事ですから。次の人の資料を読んでおきましょう。」


「はぁ、心が荒んでいく。」


辟易しながら、手元にある資料を一枚めくった。

大麦大地君11才か……この子もそこらへんにいること変わらないな。髪を染めめるわけでもないし、めだったことをしているわけでもない。普通の子だ。………ん?これは………


「し、失礼します………」


大地君が私達がいる部屋へと入ってきた。

少しオドオドした様子。まぁ、勇者に事情聴取をされるんだ。こうなるもんでしょ。


「いやーーよくきてくれたね大地君。ささ、遠慮しないで座って座って。自治会の会議室からかっぱらってきた椅子だからフワフワだよ。」


「あ、はい………」


大地君は椅子に腰掛けた。


「それじゃあね、大地君。質問するから嘘つかないで答えてね。私達も君も、さっさとこんなの終わらせたいでしょ?」


私はカイと姫子さんの方を一瞥した後、質問を開始した。


「一昨々日、一昨日、昨日の夜、何してた?」


「夜って……何時以降からですか?」


「うーんと、11時以降。」


「そ、それじゃあ寝てました。」


「それを証明できる人は?」


「さ、さぁ?自分の部屋で寝てましたし……」


「まぁそうだよね。その年で親と一緒に寝てるわけないもんね。それじゃあ10時は?」


「その時間は……起きてました。学校の宿題が……あった………ので…………」


大地君は目をそらした。


「………オッケ、わかった。それじゃあ質問は終わり!どうでもいい時間取らせちゃってゴメンね!!」


「いや、い、いいですよ!全然!暇なので!」


大地君は手をブンブン振って否定した。


「へーそうなんだ。それじゃあね!」


「御機嫌よう。」


「また後で!」


私達の指し示してもいないのに生まれる流れるような連携。それを見て大地君は目をパチクリさせ、そして歩いて帰っていった。


「………怪しいね。」


私は完全に大地君が周りからいなくなったのを見計らって、カイに話しかけた。


「挙動が少しおかしいですね。まぁ、シャイなのかもしれないじゃないですか。僕の周りにも沢山いますよああいう方。」


「まぁね。シャイかもしれない。でもそれ以上に……」


「最初の事件の被害者と接点があったことでしょう!!」


ビッッ

姫子さんが人差し指を資料にキレよく向けた。


「大地君は3才年上の被害者からイジメを受けていた………うーん、動機が出来てしまいましたね。」


動機……こんなことでもなりうるのか。


「まっ、14才のイジメっ子なんてイジメの食指をいたるところに伸ばしているものですから、彼だけがイジメられているなんておかしなことですよ。」


「………もしかしたら、イジメられていたから塞ぎ込んであんな言動になってしまったのかもしれませんね。」


………ありえるなぁ。


その後、いろいろな子供達から話を聞いていくと、第1の事件の被害者からイジメを受けていた子供が約10人ほど出てきた。被害者は結構な数の人間をイジメの標的にしていたようだ。


「うわ……絞り込めたのか絞り込めなかったのかよくわからないなこれ!」


ビリビリビリ!!

私は手元にあった資料を、ストレス全てをぶつけるように破り捨てた。

全ての子供から話を聞き終わるのに費やした時間は8時間以上。終わったのは、つまりは今なのだけれど、夜の9時を超えていた。


「10人に絞り込めたと言っていいのかどうか怪しいものですね………明確な動機があるのは一応この10人ですけれど、アリバイがない人は100人以上いますから。」


カイは資料の全てを懐に放り込んだ。


「仕方ないですが、最初はこの10人に的を絞るしかないですね。アリバイは順次自治会の人に調査を頼むとして………第2の事件現場に行きますか。」


「うげぇ………まだやるのか。よくやるね。」


「イリナさんも一緒に決まってるでしょ。色んな角度から現場を見たいですからね。……なんなら姫子さんも一緒にどうですか?いまからでも見に行きません?」


「ああ、私はいいですよ。もう全ての事件現場を見てきたので。それに急用が入ってきてそっちを片付けなくちゃいけなくなったんですよ。」


姫子さんは資料をカバンの中に急いで放り込みながら答えてくれる。


「急用ってなにさ。まさか彼氏とか?」


「そんなわけないじゃないですか。各地で起こってる襲撃事件の調査の指示を行わなくちゃいけなくなったんです。実は私の探偵事務所、結構大規模でして、勇者領の周囲2000キロまでの範囲に支社を大量に置いてるんですよ。」


「はぁえーすごいなぁ。」


あの向こう見ずな性格だから全然儲かってないと思っていたけれど、真逆だったのか。むしろあれほどの情熱があるから儲かったのか。


「探偵業はいわば情報戦!!いたるところにアンテナを張ってなければなにも出来ないんですよ!!……おっと?さすがにこれ以上は時間が待ってくれそうにないですね!!」


姫子さんはカバンを重そうに持ち上げ、私に笑いかけた。


「それではまた明日会いましょう!!そしてカイさん!!明日こそは顔面に泥を塗り返してやりますよ!!因果応報に塞翁が馬!!明日が楽しみですね!!!」


そう言うと、姫子さんは全速力で走り去っていった。


「………本当、あの人はなにが言いたいのかわからないね。」


「全くですね。……それじゃあ僕達も行きましょうか。」


「むぐう………メンドくさい。」


「メンドくさいといってもこれは義務です。やらなければならないことです。」


「………絶対にやらなきゃ…………ダメ?」


精一杯目を輝かせ、上目遣いでカイを見つめる。


「別にやらなくてもいいですけど、慶次さんにちくりますからね。」


「ちぇーー。わかったよ。やればいいんでしょやれば。」


私達は部屋から出て、体育館の出口へと向かった。


「イリナだーー!!イリナだーー!!」「カイだーー!!仏頂面だーー!!」


そうすると、出口で出待ちしていた子供達が大量に押し寄せてきた。


「どうしたどうした!?」


「あのイリナだーー!!カイだーー!!モンスターをボッコボコに倒しちゃうんだぜ!!!」

「うひゃーーそんなに強いのか!!!」

「さっきは座ってたから分かんなかったけど背たけー!!脚なげーー!!」

「ズビシューン!!ドカーーン!!」


子供達は口々に思い思いのことを言うから、もう、なにがなんだか分からない!!


「あ、あの……イリナさん。」


私とカイが対応に困っていると、この大量の子供の保護者と思われる大人がオズオズとやってきて説明してくれた。


「実はこの子、貴方がたのファンでして………いつも新聞に載る活躍をかじりついて見てるんですよ。あ、昨日も凄かったですね。みんなわいわい大騒ぎでした。」


ああ、なるほどね。


「ふっふっふっ……そうさ!!私はイリナさ!!最強の勇者さ!!」


「うおーー!!やっぱスゲーー!!」


「私の前ではぁ?どんな敵もぉ?1発さ!!」


ビュン!!

宙にパンチを繰り出す!!


「いえや!!1発さ!!」


そして、それに合わせて子供達もパンチをする。


「みんな私のために集まってくれてありがとうね!!私とっても嬉しいよ!!」


「えへへー!!どういたしまして!!」


子供達の明るい声が返ってくる。


「だけどこんな時間まで外にいるのは感心しないな!!子供は早寝早起きが大切なんだよ!!私ね、心を鬼にして言っちゃう!!」


「えーー………」


「えーーじゃない!!そうしないと私のように強くなれないよ!!」


「そ、それをすれば強くなれるの!?」


「ああともさ!!!」


「わかったーー!!それじゃあ今日から早寝早起きするよ!!」


「うん!!それがいいよ!!それじゃあ私は用事があるからまたねーー!!会えてよかったよーー!!」


「じゃあねーー!!イリナーー!!カイーー!!」


私達は手を振りながら、体育館を後にした。

………この笑顔を狂気に変える青ローブはやはり許せないな。

私は、込み上がる怒りを抑え込み続けた。

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